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13-"いつも"の終わりとユリウスの災難

始雨

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 とりあえず部隊指揮の負担は3分の2になった、落ち着いて失踪の原因を考える。
 格納庫の小部屋を開けてみると中は仮眠室、特に変わった様子は無く、掛け布団をめくってみても妙な写真が数枚出てくるだけだった。うんうん唸りつつヘリポートまで出ると、周辺警戒する兵士の数が明らかにさっきより少ない、丁度よく居合わせた寄せ集めのグループだったので当人達は気付いておらず、指摘しても行き先は不明。
 何かが忍び込んでいる、それは間違いないが、AI兵器にしてはおかしい、死体が残らない。自然獣ビーストに丸呑みされたという訳でもなかろう、そんな巨大な生物が入ってきたらすぐわかる。

「やっぱり一番考えやすいのはバトルドール……うおっ……」

 シェルター広場をぐるぐる回って悩んでいると、いつの間にか目の前に20ftコンテナがあった。ゴルフカートに似た小型牽引車で引かれていて、座席には少女。ティーを認めるや車を停め、黄色い髪を翻しつつ降りる。

「なんだか大変な事になってますねぇ」

「えっと…何してるの?」

「工場行きの荷物を運んでたんですけど、受け渡しができなくて」

「ああ、ごめんね、すぐ済ませるから」

 珍しく笑っていない鈴蘭は走り回る兵士達を見ながら言った、そういえば荷物運びをすると言っていたか。運ぶべき荷物はティーが閉め出してしまったので、そのコンテナも出戻りだろう。

「敵は何なんです?」

「わからない、誰にも姿を見られたくない恥ずかしがり屋なのは判明してるけど。キミもあんまり出歩かないようにね、いや、というよりは1人にならないようにか」

「1人になると?」

「しまっちゃうおじさんが来る」

「きゃーー!」

 なんて、冗談飛ばすと鈴蘭は笑顔に戻って運転席へ、また手を振って走り去った。そしたらまたシンキングタイムだ、敵は何者か、次はどこを狙うか。

『こちら地下工場、誰か応答して、誰か』

「フェイ? どうかした?」

『閉じ込められた』

「えぇ……」

 ガラにもなく、ヘリの操縦席でもないのに焦った声出してると思ったら本気で焦るべき事案だった、いや失踪していないだけマシではあるが。彼女の現在地は真下、工場の一部を改装したロボット研究所だ、今ティーがいる地上からはエレベーターに乗るか階段を降りる必要がある。丁度良く階段の建屋が近かったので、鍵束から合う鍵を探しつつ、さっきの20ftコンテナより小さな建物まで歩み寄る。

「えっ何コレ」

 しかしその階段に繋がる格子の扉、カンヌキに見慣れぬ南京錠が3つばかし付いていた。元からある鍵を外しても当然扉は開かず、閉じ込められたというフェイを救出するのはここからは難しい。

「誰か、エレベーターを確認しておくれ」

『大小共に動きません』

「だよね……」

 相手の技量はこちらの遥か上を行っている、それは間違いない、何せ誰も姿を見ていないのだ。この場にいる全員の捜索をかいくぐり、今のところ総隊本部を機能停止にしてヘリポートを制圧、工場を武器庫ごと孤立させられた。

 オーケー、そろそろなりふり構うのをやめよう。死体を見ていないから実感が無いが、まったく無事というのは考えにくい。生きていたとしても、1分1秒でも早く救出せねば。

「フェイ、そちらの状況を詳しく」

『室内には私を含めて5人、メインの廊下に繋がる扉が外側からロックされてて開かない』

「外側から?」

『非常用の緊急システム、これが作動すると内側からは開かない。解除するにはデータセンターか司令部に生体認証登録された人がアクセスする必要がある、んだけど……その人は今、廊下で寝てる』

「寝て…?」

『伸びてるっていうのが正しいかも、すごい寝返り打ってるから生きてはいると思う』

 えー、では?
 フェイ達の閉じ込めは二重だ、工場内から出られなくなっており、ひとつ扉を挟んだ廊下にそれを解除できる人物。そして彼とティーの間には厳重にロックされた格子があって、エレベーターは動かない、緊急システムとやらの関連だろう。
 とりあえず腰の鞘からコンバットソードを引き抜く、片手で構えて少し集中すればパチパチと鳴り始め、振り降ろすと閃光を発した。甲高い音が接触と同時に起き、南京錠本体に数mmの傷を残す。恐ろしい硬さの錠前だ、並みの金属なら切断できるのだが。

「金属カッター無いかな……」

『ある』

「どこ?」

『私の手元』

「…………爆破しよう、誰かここにC4を持てーぃ!」
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