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対局美(番外編)
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[この番外編は、対極美(表)、対極美(裏)を読んでから読んでください。]
対極美を、読んでくださりありがとうございました。
この番外編では、対極美(表)、(裏)の2人の主人公の立場を逆転したらどうなるのかというIFストーリーを書きたいと思います。そこで、この2人の共通点、類似点を少しでも見つけていただくためのヒントとなればと思います。
それでは本編です。
いつ以来だろうか。朝、こんなにも爽快で、ハッキリと目覚め、体が軽いのは。
私が、目を開けるとそこには鮮やかな緑が広がっており、風が吹き抜け、爽やかで、いつもの光景とは、全く違っていた。
「、、夢なのかな」
あまりにも今までの生活とのギャップがありすぎたので、私はこれが夢だと思った。しかし、頬を抓ってみても、痛かったし、これは現実だった。
私はここでの生活を潜在的に理解していた。元いた世界では、有害な排気ガスが流れ、空気が悪く、酸性雨が降り続く状況の中、姉が1人にすべての負担をかけ、罪悪感を感じながら、不自由でとても息苦しい毎日を送ってきた。
しかしここは違う。空気は美味しく、天気は晴れやかで、金もあるし、食物や家畜も備わっている。自給自足で好きなものが食べれて、自由で楽しい生活を送ることができる。私からしたら、地獄から急に天国へ来たようなものだ。聞こえる音も、誰かの悲鳴や、叫び声ではなく、鳥のせせらぎと木々を揺らす風の音。
私はこれに満足していた。しかしあることに気づく。いや、等の最初に気づいていた。私の大切な家族。姉が居ないのだ。私は彼女がいなければ、今この瞬間生きていなかったと思う。それくらいかけがえのない存在だった。
私は、姉を探すことにした。私は起き上がり、辺り周辺を見渡す。私が寝ていた草原、そして辺りの丘一面は、緑一色で、人の気配はなかった。私は丘を駆け下りていく。すると、丘の麓に、家が一軒あり、羊の家畜や、畑などが見えた。あそこだと思った。私の潜在的な記憶にもあそこでの情景が残っていた。姉はきっとそこにいるに違いない。私は足早に、歩みを進める。これだけ大地を力強く駈けたのは、初めてといってもいいほど、新鮮で、初めて味わう清々しい感覚だった。
家の前について、私は扉をノックする。返事はない。聞こえなかったのかもしれない。私はもう一度、、今度は少し強めにノックした。しかし、やはり返事が帰ってくることは無かった。少し気は引けたが、人がいる気配がしなかったので、私は無断で家に入ることにした。
「お邪魔します。誰かいますか」
私の小声が家中に響き渡るものの、返事は返ってこない。家は照明が着いておらず、暗く、シーンとしていて、静寂に包まれていた。
もちろんそこに姉の姿もなかった。二階建ての木で作られた家で、2階にも上がり部屋を1つづつ見ていくが、誰もいなかった。そこにも姉の姿はなかった。しかし、この家には、誰かがいたことは分かる。最近まで誰かがいたと思う。そう思わせるような生活感があり、物などは埃が被っておらず、蜘蛛の巣も張っていない。最近まで使われていのだ。
私は考えた。この辺りの知識は全く持っていない。つい先程、ここに来たばかりなのだ。分かるはずもない。しかし、此処で待っていても姉が来る保証はない。誰かが居た痕跡はあるものの、これが姉が居たという根拠にはならない。他の人の家だとして、その家主からしたら私は、素性も知らない、突然家に帰ってきたら居たという不法侵入者だ。警戒されて家を追い出されるなんてことに過ぎず、殺されるかもしれない。そう悲観的な思考を巡らせるものの、私は家に留まるという判断に至った。
なぜなら、またしても私がここで暮らしていたという潜在的な記憶が残っていたからだ。もしかしたら外で姉を探したら、潜在的な記憶がまた呼び起こされるかもしれない。しかしもうすぐ、日は落ちるので今日は辞めることにした。私は家にある食料で1度もやったことがなく、いつも姉任せだった料理をした。せっかくの良い食材が台無しになってしまう出来の料理だったが、初めてだったので仕方ないと思ったし、自分自身が作ったからか味の割には、すごく美味しく感じられた。私は翌日も、その次の日も家で過ごした。食料や暮らしには困らなかった。寂然とした毎日は、心悲しく、寂寥感があったが、繰り返すうちにその暮らしに慣れてしまっていた。この家に来た目的は、姉を探すことだった。それなのに私はその目的を忘れ、今の暮らしに甘んじていたのだ。前の暮らしと今の暮らしは、大きく違う。前は、住む家もなく、食べ物は残飯もしくは余り物、風が吹き抜け寒いところでモーフ1枚包まりながら寝る。辺りはゴミだらけで、有害ガスで溢れる場所でそこに癒しはなく、争いごとが絶えない。しかし今は、ちゃんと住む家があって、十分な食べ物があり、暖かなベットがある。外を出れば家畜と戯れることもできるし、豊かな自然を味わうことも出来る。とても満足していたし、初めて心穏やかに過ごせてとても癒されていた。けれど、これほど、生活が変わったのに私自身はちっとも変わってすらいなかった。前の生活では、衣食住全てのことを姉任せにして、自分は被害者気取りで、この状況を変えたいと願っているだけで何も行動しなかった。今は、衣食住は自分でやるようになったし、自由に自分自身で生きている。しかしそれでも、私自身の目的の為には生きられていない。私は姉と共に生きたいと思いつつ、ここの暮らしになれ、外の世界は分からないからと理由をつけて、行動しなかったのだ。
私は結局、自分に甘く、そして、弱い人間であり、そこでようやく初めて変われない人間なのだと気づく。その事が、骨身に応え、私の身体を蝕んでいった。私は、このような前の生活とは比べ物にならないほど良い生活で暮らしていけているのに、心の状態は前よりも不安定で、今にも触れればボロボロと崩れて無くなりそうなほど、情緒は欠落し、心は穴だらけだった。
「死に至る病は絶望のことである」と哲学者キルケゴールは言った。
私は、今まさにこの死に至る病を患っている。自分自身に絶望し、何も、生きる活力さえ失っていたのだ。
その後、私は姉を探すことを諦めた。私は、姉を探すことよりもまず、自分自身を探さなければならなかった。これから私の生活はどうなるかは分からない。このまま何も起こらず、何も感じずに、生きながら死んでいるように過ごしていくのか。それとも何かが起こり、私は変われるのか。
一つだけ分かっていたことといえば、私自身では何もかも変えられないことであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私が目覚めるとそこは、妖精たちの話に出てきた私と同じ歳の女の子が暮らしていたスラム街に近い場所だった。なぜこんな所に私は住んでいるのだろう。
「アルヴィナ、起きたのかい。」
私の後ろで優しい声がした。それは、私が幼い頃、別れてしまった両親だった。
「パパ、ママ?」
私は驚いた顔で両親を見つめた。
「どうしたんだい、そんな狐につままれたような顔をして。」
「私たちの顔になにか着いているかしら。」
「いや、なんでもないよママ、パパ」
私はそう言って涙ぐみながらママとパパにハグした。
夢のようだった。
私は、一生、両親の顔を見ずに、家族のことも知らずに、生きそして死んでいくものだと思っていたからである。私は、両親がいるならば何もいらなかった。その思いは元の世界から持ち越して来たものだ。なぜ、私が妖精達の話で聞いた、私に似たもう1人の少女が暮らしていた街と同じような街にいるのか、そして、両親が私と暮らしているのかは分からなかったが元の暮らしより、今の暮らしの方が断然マシだと思っていた。私はそれほど本当の家族を求めていた。
この世界の暮らしは話に聞いていた通り、本当に酷いものだった。食事は食料がない時は、ゴミ箱の残飯であったり、廃材売りのために出た廃棄ガスが辺りに充満して、肺がやられたりなどもした。元いた世界とまさに、環境面では真逆であった。しかし、私はそんなことは特に気にならなかった。なぜなら、私には本当の家族の愛があり、それだけでも生きていけるからである。
でも、突如としてそれは打ち破られることになる。
ある日のこと、私は目覚めいつものように廃材集めに行く。その恒例行事に最初は抵抗があったがすっかりもう慣れていた。そして私は、その道の途中で、畑や果樹林などがあり、私は目を光らせるようになっていた。そう、盗みである。このような田舎の辺境地には、もちろん監視カメラもない。誰も見ていない。見ていたとしても、廃材集めの仲間たちだけだ。私はいつの日からか、何も柵のない畑で、野菜を取っていた。人参、ネギ、カブ、一般的なものから、ロマネスコ、フェンネル、マンゴルト、コールラビ、シュッピッツコール。
色々な種類の新鮮な野菜を私は、くすねていた。あんな食事はもう御免だ。
そして今日も、私は適当に、見つからないように廃材集めの列から、自然に外れ、畑へと足を運んでいた。
太陽が沈みかかり、夕方から、夜へと移り変わるそんな時、いつもこの辺りの畑は閑散としていて人っ子一人もここに住んでいないのではないか。そんなように感じさせるほどの静けさだった。
それでも警戒は怠らず、私はそっと畑の中へと侵入した。恐らくだが、記憶ではこの畑には、1度も入ったことがなかった。足跡を付かせないために、私は四つん這いとなり、砂泥だらけになりながら畑の中を這った。そこには、ヴァイサー シュパーゲル、俗に言う白アスパラガスがあった。見るのは初めてで、興奮したが焦らずゆっくりと採集し、廃材を詰めていた籠に放りこんだ。そして、踵を返して私は畑から出て、服に着いた砂や泥を取り払う。スラム街での暮らしだ。多少汚れていてもおかしくはないだろう。廃材集めでも汚れることはあるからだ。
しかし、人間の目を欺けても、動物の目は欺けなかった。野良犬だろうか、それもと飼い犬?目の前に犬がいて鬼のような形相で、尖った歯と歯茎をむき出しにして唸っていた。私はこれまでの慎重さとはうって変わってその犬から逃げるために走り出した。最初、出鼻をくじかれ、足がもたつきそうになる。それでも踏ん張って何とか体勢を立て直し、また走り出す。犬の方を振り返ると、物凄いスピードでまだ追いかけている。離れていた距離は、みるみる詰められてきた。
しかし、私は、追いつかれる既のところで、近くにある森の茂みの中に入り込み、転がるように落ちていった。犬は多分そこで諦めたと思う。逃げることに、夢中になって転がりながらなので確認はできなかった。落ち葉などがクッションとなり、ケガは木の枝などに引っかかったときに擦った擦り傷、転がる時に石などにぶつかったうちみ、擦り傷程度で、軽傷ではあった。
一呼吸着いた後、私は自力で生えているツタをロープ代わりにして、落ちてきたところを駆け上がった。
日が完全に暮れかける前に、戻ってこられたのは幸いであった。
「おかえりなさい。」
家へ戻ると両親は暖かく出迎えてくれた。
「遅かったじゃないか…どうしたんだいその傷や汚れは、何かあったのかい?」
「まあ、大変。今手当するからね。」
私の姿を見るやいなや、両親は心配そうに私にそう言った。
「大丈夫だよ、ただの擦り傷だから、それより、見てよこれ。」
私は、心配する両親を制して、廃材入れの袋から盗ってきた野菜と廃材を机の上に出し広げた。
「どう?すごいでしょ?このヴァイサーシュパーゲルは、白アスパラガスで甘みがあって美味しいんだよ!」
「すごいけど、、、大丈夫だったかい?その傷や汚れはその時おったんだろう?
」
「そうよ。すごいと思うけど、心配よ。私たちはこんな野菜より、、あなたの事が」
「私の心配はいいから、さ、早く食べよう?」
私は、この新鮮な野菜を食べた時とても心が落ち着き、安心し、穏やかになる感覚を覚えた。私は、元の世界の生活を思い出していた。地産地消で、新鮮で美味しい食卓に毎日にありつけることができる。 アンドリュー叔父さんの作ってくれた暖かみのある料理は、とても愛情を込もっていて、すごく美味しかった。それがどれだけ有難いことであったかを痛感した。そして、私は気づかないうちに涙を流していた。彼の料理を思い出し、恋しくなったからだ。私はあの生活がとても恵まれていて、愛もあり、安らぎもある、素敵な環境だったのだと気づき、しみじみと感傷に浸っていた。
「大丈夫かい?」
「私たちがついてるから、ほら泣かないで。」
そんな惨めな私を、両親は暖かい抱擁で、慰めてくれた。今は両親の存在が私にとっての唯一の心の支えとなっていた。
しかしこの生活は変わらない。そんな現実にむしゃくしゃして、嫌気がさしていた。
しかし、それ以上に悪いことが、翌日起きてしまった。
私はいつも通りの憂鬱な朝を迎え、両親に挨拶しようとするも、2人がいない。
テントの中から出ようとした瞬間、怒号のような声が、外から聞こえてきた。
「おい、どういうことなんだ、言ってみろ」
「すみません...すみません。」
「すみませんじゃわかんねぇだろ?」
「これは、お前らがやったんだ、どう落とし前つけてくれるんだよ。」
「私たちが悪かったです、許してください。乱暴は、、」
「うるせぇ!!!」
ドシャッという、大きな音が聞こえて、私の両親は、地面に倒れ込んでいた。
私は、何が起こっているのか、状況を理解出来ていなかった。いや、理解したくなかったのだ。両親が私のせいでこのように地に伏せられ、罵られ、暴力を振るわれていることを。
私は、動けなかった。両親が今まさに、奴らから暴力を受けようとしているのに、恐怖で、固まってしまった。彼らは私が農作物を盗んだせいで、両親に八つ当たりしているのだ。悪いのは私だ。それなのに、両親を助けようと出来ない。むしろ助けないための理由を頭の中で考えて、どうせ私が割って入っても、両親を助けられない。犠牲が増えるだけ、なんて思考に至ってしまっている。
元の世界では、こんなことは起こるはずもなかった。外界とは接点がなく、接する人がアンドリュー叔父さんだけだったからか平和ボケしていた私は、外がどれだけ怖いものなのか知らなかったのだ。むしろ私は、自由を求めていたし、外界の刺激が欲しいとすら、思っていて、、そして家族を求めていた。それさえあれば何も要らないとまで言った。でもそれは浅はかな考えだった。ある程度の自由があったとしても、自分たちの立場、人々との関わりあいでは、行動が制限されてしまう。その考えに至れていなかったことなどの未熟さを知り、心底自分を見損なった。そして、家族を守れなかった自分に、、絶望した。
本当に大切な物、大切な人、大切な生活は、いつもの変わらない日常に隠されている。それに気づけない私たちは、一生前に進むことが出来ず、どんなきっかけがあろうとも変われないのである。
対極美を、読んでくださりありがとうございました。
この番外編では、対極美(表)、(裏)の2人の主人公の立場を逆転したらどうなるのかというIFストーリーを書きたいと思います。そこで、この2人の共通点、類似点を少しでも見つけていただくためのヒントとなればと思います。
それでは本編です。
いつ以来だろうか。朝、こんなにも爽快で、ハッキリと目覚め、体が軽いのは。
私が、目を開けるとそこには鮮やかな緑が広がっており、風が吹き抜け、爽やかで、いつもの光景とは、全く違っていた。
「、、夢なのかな」
あまりにも今までの生活とのギャップがありすぎたので、私はこれが夢だと思った。しかし、頬を抓ってみても、痛かったし、これは現実だった。
私はここでの生活を潜在的に理解していた。元いた世界では、有害な排気ガスが流れ、空気が悪く、酸性雨が降り続く状況の中、姉が1人にすべての負担をかけ、罪悪感を感じながら、不自由でとても息苦しい毎日を送ってきた。
しかしここは違う。空気は美味しく、天気は晴れやかで、金もあるし、食物や家畜も備わっている。自給自足で好きなものが食べれて、自由で楽しい生活を送ることができる。私からしたら、地獄から急に天国へ来たようなものだ。聞こえる音も、誰かの悲鳴や、叫び声ではなく、鳥のせせらぎと木々を揺らす風の音。
私はこれに満足していた。しかしあることに気づく。いや、等の最初に気づいていた。私の大切な家族。姉が居ないのだ。私は彼女がいなければ、今この瞬間生きていなかったと思う。それくらいかけがえのない存在だった。
私は、姉を探すことにした。私は起き上がり、辺り周辺を見渡す。私が寝ていた草原、そして辺りの丘一面は、緑一色で、人の気配はなかった。私は丘を駆け下りていく。すると、丘の麓に、家が一軒あり、羊の家畜や、畑などが見えた。あそこだと思った。私の潜在的な記憶にもあそこでの情景が残っていた。姉はきっとそこにいるに違いない。私は足早に、歩みを進める。これだけ大地を力強く駈けたのは、初めてといってもいいほど、新鮮で、初めて味わう清々しい感覚だった。
家の前について、私は扉をノックする。返事はない。聞こえなかったのかもしれない。私はもう一度、、今度は少し強めにノックした。しかし、やはり返事が帰ってくることは無かった。少し気は引けたが、人がいる気配がしなかったので、私は無断で家に入ることにした。
「お邪魔します。誰かいますか」
私の小声が家中に響き渡るものの、返事は返ってこない。家は照明が着いておらず、暗く、シーンとしていて、静寂に包まれていた。
もちろんそこに姉の姿もなかった。二階建ての木で作られた家で、2階にも上がり部屋を1つづつ見ていくが、誰もいなかった。そこにも姉の姿はなかった。しかし、この家には、誰かがいたことは分かる。最近まで誰かがいたと思う。そう思わせるような生活感があり、物などは埃が被っておらず、蜘蛛の巣も張っていない。最近まで使われていのだ。
私は考えた。この辺りの知識は全く持っていない。つい先程、ここに来たばかりなのだ。分かるはずもない。しかし、此処で待っていても姉が来る保証はない。誰かが居た痕跡はあるものの、これが姉が居たという根拠にはならない。他の人の家だとして、その家主からしたら私は、素性も知らない、突然家に帰ってきたら居たという不法侵入者だ。警戒されて家を追い出されるなんてことに過ぎず、殺されるかもしれない。そう悲観的な思考を巡らせるものの、私は家に留まるという判断に至った。
なぜなら、またしても私がここで暮らしていたという潜在的な記憶が残っていたからだ。もしかしたら外で姉を探したら、潜在的な記憶がまた呼び起こされるかもしれない。しかしもうすぐ、日は落ちるので今日は辞めることにした。私は家にある食料で1度もやったことがなく、いつも姉任せだった料理をした。せっかくの良い食材が台無しになってしまう出来の料理だったが、初めてだったので仕方ないと思ったし、自分自身が作ったからか味の割には、すごく美味しく感じられた。私は翌日も、その次の日も家で過ごした。食料や暮らしには困らなかった。寂然とした毎日は、心悲しく、寂寥感があったが、繰り返すうちにその暮らしに慣れてしまっていた。この家に来た目的は、姉を探すことだった。それなのに私はその目的を忘れ、今の暮らしに甘んじていたのだ。前の暮らしと今の暮らしは、大きく違う。前は、住む家もなく、食べ物は残飯もしくは余り物、風が吹き抜け寒いところでモーフ1枚包まりながら寝る。辺りはゴミだらけで、有害ガスで溢れる場所でそこに癒しはなく、争いごとが絶えない。しかし今は、ちゃんと住む家があって、十分な食べ物があり、暖かなベットがある。外を出れば家畜と戯れることもできるし、豊かな自然を味わうことも出来る。とても満足していたし、初めて心穏やかに過ごせてとても癒されていた。けれど、これほど、生活が変わったのに私自身はちっとも変わってすらいなかった。前の生活では、衣食住全てのことを姉任せにして、自分は被害者気取りで、この状況を変えたいと願っているだけで何も行動しなかった。今は、衣食住は自分でやるようになったし、自由に自分自身で生きている。しかしそれでも、私自身の目的の為には生きられていない。私は姉と共に生きたいと思いつつ、ここの暮らしになれ、外の世界は分からないからと理由をつけて、行動しなかったのだ。
私は結局、自分に甘く、そして、弱い人間であり、そこでようやく初めて変われない人間なのだと気づく。その事が、骨身に応え、私の身体を蝕んでいった。私は、このような前の生活とは比べ物にならないほど良い生活で暮らしていけているのに、心の状態は前よりも不安定で、今にも触れればボロボロと崩れて無くなりそうなほど、情緒は欠落し、心は穴だらけだった。
「死に至る病は絶望のことである」と哲学者キルケゴールは言った。
私は、今まさにこの死に至る病を患っている。自分自身に絶望し、何も、生きる活力さえ失っていたのだ。
その後、私は姉を探すことを諦めた。私は、姉を探すことよりもまず、自分自身を探さなければならなかった。これから私の生活はどうなるかは分からない。このまま何も起こらず、何も感じずに、生きながら死んでいるように過ごしていくのか。それとも何かが起こり、私は変われるのか。
一つだけ分かっていたことといえば、私自身では何もかも変えられないことであった。
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私が目覚めるとそこは、妖精たちの話に出てきた私と同じ歳の女の子が暮らしていたスラム街に近い場所だった。なぜこんな所に私は住んでいるのだろう。
「アルヴィナ、起きたのかい。」
私の後ろで優しい声がした。それは、私が幼い頃、別れてしまった両親だった。
「パパ、ママ?」
私は驚いた顔で両親を見つめた。
「どうしたんだい、そんな狐につままれたような顔をして。」
「私たちの顔になにか着いているかしら。」
「いや、なんでもないよママ、パパ」
私はそう言って涙ぐみながらママとパパにハグした。
夢のようだった。
私は、一生、両親の顔を見ずに、家族のことも知らずに、生きそして死んでいくものだと思っていたからである。私は、両親がいるならば何もいらなかった。その思いは元の世界から持ち越して来たものだ。なぜ、私が妖精達の話で聞いた、私に似たもう1人の少女が暮らしていた街と同じような街にいるのか、そして、両親が私と暮らしているのかは分からなかったが元の暮らしより、今の暮らしの方が断然マシだと思っていた。私はそれほど本当の家族を求めていた。
この世界の暮らしは話に聞いていた通り、本当に酷いものだった。食事は食料がない時は、ゴミ箱の残飯であったり、廃材売りのために出た廃棄ガスが辺りに充満して、肺がやられたりなどもした。元いた世界とまさに、環境面では真逆であった。しかし、私はそんなことは特に気にならなかった。なぜなら、私には本当の家族の愛があり、それだけでも生きていけるからである。
でも、突如としてそれは打ち破られることになる。
ある日のこと、私は目覚めいつものように廃材集めに行く。その恒例行事に最初は抵抗があったがすっかりもう慣れていた。そして私は、その道の途中で、畑や果樹林などがあり、私は目を光らせるようになっていた。そう、盗みである。このような田舎の辺境地には、もちろん監視カメラもない。誰も見ていない。見ていたとしても、廃材集めの仲間たちだけだ。私はいつの日からか、何も柵のない畑で、野菜を取っていた。人参、ネギ、カブ、一般的なものから、ロマネスコ、フェンネル、マンゴルト、コールラビ、シュッピッツコール。
色々な種類の新鮮な野菜を私は、くすねていた。あんな食事はもう御免だ。
そして今日も、私は適当に、見つからないように廃材集めの列から、自然に外れ、畑へと足を運んでいた。
太陽が沈みかかり、夕方から、夜へと移り変わるそんな時、いつもこの辺りの畑は閑散としていて人っ子一人もここに住んでいないのではないか。そんなように感じさせるほどの静けさだった。
それでも警戒は怠らず、私はそっと畑の中へと侵入した。恐らくだが、記憶ではこの畑には、1度も入ったことがなかった。足跡を付かせないために、私は四つん這いとなり、砂泥だらけになりながら畑の中を這った。そこには、ヴァイサー シュパーゲル、俗に言う白アスパラガスがあった。見るのは初めてで、興奮したが焦らずゆっくりと採集し、廃材を詰めていた籠に放りこんだ。そして、踵を返して私は畑から出て、服に着いた砂や泥を取り払う。スラム街での暮らしだ。多少汚れていてもおかしくはないだろう。廃材集めでも汚れることはあるからだ。
しかし、人間の目を欺けても、動物の目は欺けなかった。野良犬だろうか、それもと飼い犬?目の前に犬がいて鬼のような形相で、尖った歯と歯茎をむき出しにして唸っていた。私はこれまでの慎重さとはうって変わってその犬から逃げるために走り出した。最初、出鼻をくじかれ、足がもたつきそうになる。それでも踏ん張って何とか体勢を立て直し、また走り出す。犬の方を振り返ると、物凄いスピードでまだ追いかけている。離れていた距離は、みるみる詰められてきた。
しかし、私は、追いつかれる既のところで、近くにある森の茂みの中に入り込み、転がるように落ちていった。犬は多分そこで諦めたと思う。逃げることに、夢中になって転がりながらなので確認はできなかった。落ち葉などがクッションとなり、ケガは木の枝などに引っかかったときに擦った擦り傷、転がる時に石などにぶつかったうちみ、擦り傷程度で、軽傷ではあった。
一呼吸着いた後、私は自力で生えているツタをロープ代わりにして、落ちてきたところを駆け上がった。
日が完全に暮れかける前に、戻ってこられたのは幸いであった。
「おかえりなさい。」
家へ戻ると両親は暖かく出迎えてくれた。
「遅かったじゃないか…どうしたんだいその傷や汚れは、何かあったのかい?」
「まあ、大変。今手当するからね。」
私の姿を見るやいなや、両親は心配そうに私にそう言った。
「大丈夫だよ、ただの擦り傷だから、それより、見てよこれ。」
私は、心配する両親を制して、廃材入れの袋から盗ってきた野菜と廃材を机の上に出し広げた。
「どう?すごいでしょ?このヴァイサーシュパーゲルは、白アスパラガスで甘みがあって美味しいんだよ!」
「すごいけど、、、大丈夫だったかい?その傷や汚れはその時おったんだろう?
」
「そうよ。すごいと思うけど、心配よ。私たちはこんな野菜より、、あなたの事が」
「私の心配はいいから、さ、早く食べよう?」
私は、この新鮮な野菜を食べた時とても心が落ち着き、安心し、穏やかになる感覚を覚えた。私は、元の世界の生活を思い出していた。地産地消で、新鮮で美味しい食卓に毎日にありつけることができる。 アンドリュー叔父さんの作ってくれた暖かみのある料理は、とても愛情を込もっていて、すごく美味しかった。それがどれだけ有難いことであったかを痛感した。そして、私は気づかないうちに涙を流していた。彼の料理を思い出し、恋しくなったからだ。私はあの生活がとても恵まれていて、愛もあり、安らぎもある、素敵な環境だったのだと気づき、しみじみと感傷に浸っていた。
「大丈夫かい?」
「私たちがついてるから、ほら泣かないで。」
そんな惨めな私を、両親は暖かい抱擁で、慰めてくれた。今は両親の存在が私にとっての唯一の心の支えとなっていた。
しかしこの生活は変わらない。そんな現実にむしゃくしゃして、嫌気がさしていた。
しかし、それ以上に悪いことが、翌日起きてしまった。
私はいつも通りの憂鬱な朝を迎え、両親に挨拶しようとするも、2人がいない。
テントの中から出ようとした瞬間、怒号のような声が、外から聞こえてきた。
「おい、どういうことなんだ、言ってみろ」
「すみません...すみません。」
「すみませんじゃわかんねぇだろ?」
「これは、お前らがやったんだ、どう落とし前つけてくれるんだよ。」
「私たちが悪かったです、許してください。乱暴は、、」
「うるせぇ!!!」
ドシャッという、大きな音が聞こえて、私の両親は、地面に倒れ込んでいた。
私は、何が起こっているのか、状況を理解出来ていなかった。いや、理解したくなかったのだ。両親が私のせいでこのように地に伏せられ、罵られ、暴力を振るわれていることを。
私は、動けなかった。両親が今まさに、奴らから暴力を受けようとしているのに、恐怖で、固まってしまった。彼らは私が農作物を盗んだせいで、両親に八つ当たりしているのだ。悪いのは私だ。それなのに、両親を助けようと出来ない。むしろ助けないための理由を頭の中で考えて、どうせ私が割って入っても、両親を助けられない。犠牲が増えるだけ、なんて思考に至ってしまっている。
元の世界では、こんなことは起こるはずもなかった。外界とは接点がなく、接する人がアンドリュー叔父さんだけだったからか平和ボケしていた私は、外がどれだけ怖いものなのか知らなかったのだ。むしろ私は、自由を求めていたし、外界の刺激が欲しいとすら、思っていて、、そして家族を求めていた。それさえあれば何も要らないとまで言った。でもそれは浅はかな考えだった。ある程度の自由があったとしても、自分たちの立場、人々との関わりあいでは、行動が制限されてしまう。その考えに至れていなかったことなどの未熟さを知り、心底自分を見損なった。そして、家族を守れなかった自分に、、絶望した。
本当に大切な物、大切な人、大切な生活は、いつもの変わらない日常に隠されている。それに気づけない私たちは、一生前に進むことが出来ず、どんなきっかけがあろうとも変われないのである。
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