アンデッドハザード

内海 裕心

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私は、今、生きている。
人生で、こんなにも一秒一時を感じる瞬間は無かった。
生きている感覚を感じる。生命が自分の体に宿っている感覚を。その生命を費やしていく感覚を。
屍のように生きた時代はもう終わりなのだ。
この時代、これからの時代は、誰もが意志を明確にし、それに従って嘔心瀝血しないと生きていけない。
今までの生ぬるい社会とは違うから。
私も、私の意思で生きていく。この狂った世界で。
この世界に、阿鼻叫喚する者もいるかもしれない。過去を省みて、昔のような平和に戻って欲しいと悲嘆に暮れるものもいるかもしれない。
でも、私は、少なくとも
そうでなければ、私の人生は変わることがなかったのだから。

部屋の電気を付けず、真っ暗な部屋で4人は1点のテレビを見つめる。残虐なシーンが映し出されて部屋に赤い光が反射すると、声が上がった。


「あっははははははは、この映画、滑稽だね」


「作りがチープだよな、さすが邦画クオリティ」
とルナは言った。

「この、特殊メイクもさぁ、なんか安っぽいよね。こんなん、渋谷ハロウィンの仮装ゾンビレベルじゃんw」
とエミリーはそう重ねて言う。

「あー言えてるぅわーそれ」
それに賛同したのは、ミラだった。

私たち仲良し4人組は、お菓子を食べながらB級映画と言えるビデオを批評しながら見ていた。

私たち、4人組はいつも一緒だ。昔から仲が良くて、何をやるにも4人でやってきた。小学、中学はもちろん。高校も一緒のとこ受けようって行ってみんなで合格した。大学では、それぞれ離れ離れになっちゃったし、ルナは、就職しちゃったけど、でもたまの休日にはこうやって集まって、くだらないB級映画を見ながら、4人のうち誰かの部屋で談笑する。
そういう変わらない毎日が楽しかった。

「私たち、一生このまま、仲良く遊んでたいね」

私から自然とそういう言葉が零れる。

「そうだな。一生馬鹿やってよう」
とルナが答える。

「あーあ、ほんとに、今、こんな世の中だけどさ、私たちだけは変わらないよなあ」
とエミリー。

「まじわかるわぁー、うちら最強!」
同調するようにミラがそう言った。

この固い絆は、何があっても、崩せない。壊れない。そう思っていたし、それを信じて疑わなかった。それほど私たち4人の仲は、深いと私は感じていた。

「あ、そうえば、さ、ピザ、まだ来ないね。」

エミリーが唐突にそう言う。

そういえば、ピザを食べながら映画を見ようという話だった。確かに1時間前くらいに頼んだのに、まだ来ていない。

「せっかく食べながら見たかったのにぃーちぇーまじさいあく~」

そうやって悪態をつく、ミラ。

その声に反応するかのように、ぐううと私のお腹が鳴った。

「あ、失礼しました..!」

「あはははは、そりゃ腹減るよなあ幸も」

「ま、まーねー、、」
とおどおどと照れながらいう私。

「ま、ウチはポップコーン食べてるからいいけど~」

「ちょっと、ミラだけ食べて、ずるいって!」

「エミリーにはあげなーぁいもーん」

あからさまにじゃれ合う二人を見て、ルナと私は笑いあった。

「あ、ごめん仕事の電話だわ。」

ルナはそう言い、席を外す。
仕事の電話かな。大変そうだなぁ。ルナだけだもんね、大学行かなかったの。と心の中で私はつぶやく。
私はまだ大学生で仕事の苦労は実感したことがなかったが、よほど大変であることはわかった。
なぜならルナは、昔から1番人見知りで、引っ込み思案な性格だったのに、今では1番頼りがいのある女性になっていたからだ。

突然、ピンポンと玄関のチャイムがなる。

「あっ、いい所なのに」
エミリーがそう言う。

「あ、ピザじゃん?これ、やっふぅー!」
それを他所に、ミラははしゃいでいた。

「ミラ、そんなピザ食べたいなら、取ってきて、めんどくさい」
エミリーは、テレビのリモコンを操作しながらそう続けた。

「えー、ウチもめんどぃー!ルナは?ルナが行けばいいじゃーん!」

「あ、今ルナは、電話中。」

私は、慌ててそう言う

「まじ?じゃあ悪いけど、フェリス行ってくんない?」

「え、あー。うん」

フェリスというのは私の名だ。
まぁこうなるだろうなとは思った。ミアはなにかと面倒事があると、私かルナに押し付ける癖がある。しかし、ピザを受け取るくらいなら、と思った。

もう一度ピンポーーんとなる。
やばい。待たせてる。


「はーーーーい」

私は小走りで玄関先へ返事をしながら向かい、玄関のドアを開けた。

「すみません、、遅れて。何故か渋滞で、ピザ、おとととと」

「あ、大丈夫ですか!」

ピザの配達員さんが玄関の段差に引っかかったのか持っていたピザも放り投げてしまうくらいに勢いよく躓いて倒れ込んでしまう。

「大丈夫ですか!」

「えへへ、、すみません。僕ドジなもんで笑」

「いえ、気をつけてくださいね、お疲れ様です」
私はそう言って、ピザを受け取り、代金を払い、ピザの配達員のお兄さんを見送った。

「みんなー、ピザ届いたよー」
私の一声で、ミアとエミリーが食卓机のあるリビングへとやってきた。ルナはまだ来なかったので、長電話だろう。

「うっしゃー!やっとじゃーんウチ待ちくたびれたわぁ」

「フェリ、さっき、手間取ってたように見えたけど、大丈夫だった?」

「うん。なんか配達員さんがドジで、、」

「あはは、そうだったんだ、それは大変だったねえ、ルナまだ、かな?」

「ね、長いね電話。」

「おー、これこれ!エビコーンマヨ!うまそ~!」

「あっ、もう食べようとしてる!」

「ルナには、悪いけどお先じゃ~ん」

ミアが、待ってましたと言わんばかりの顔で、出来たてのピザを大口を開けて食べようとした瞬間その時だった。
リビングの窓ガラスが割れ、ガシャーンと大きな音を立てた。

「何!?、何事!」

「きゃーー!!」

エミリーとミアが一斉にして驚く。
私は驚きのあまり声が出なかった。

人が、窓ガラスを破って、こちらに突撃してきたのである。
その人は窓ガラスを突破ったあとそのままうつ伏せに倒れ込んだ。
その姿に、私は見覚えがあった。

「さっきの、、、配達員さん?」

倒れていたのは、先程ピザを届けに来てくれた、あの少しおっちょこちょいな配達員の男性であった。

でも、倒れ込んだ姿は仕事着に少し赤みがかった染み?うっすらと血のようなものが着いていた。


「ちょっ、マジヤバくね?大丈夫なんこれ?」

「大丈夫ですか、おーい、聞こえますかぁ?、ダメだねえ、反応がないよ」

エミリーが大声で呼びかけるも倒れた配達員はピクリとも動かない。

もう、死んでいるのだろうか...?

「と、とりあえず、110番する?あと救急車も」

「うーん、まぁ、それが、いいかもねえ」
エミリーは私の提案に同調する。
「えー、寝てるだけかもしんないし、1回叩き起してみようよ」

しかし、ミアは、私の話を無視して配達員を起こそうとした。

「おーい、おーい、生きてますかー?死んでますかー?返事しないじゃーん」
肩を叩きながら、耳元で呼びかけるミア。しかし、なおも返事は帰ってこない。

「こうなったら、無理やりにでもぉ~」

「あっちょっと、」

「ミア、、それはさすがに」

死んでいる、もしくは重傷をおっている可能性があるかもしれないのにミアは強引にうつ伏せで倒れている彼を引き起こそうとした。

「よいしょっと」

その時だった。

「うう、うあ、うぅぅぅ、、うがあああああああああっ」

急に倒れていた配達員の男性は目を覚まし、大きな声を上げ、ミアに覆い被さった。

「え!何いきなり!やめてよ!!いやあああああああああああああああああああああ」

「きゃああああああああああああああ」

私はその衝撃的で、悲惨な光景に悲鳴をあげざるおえなかった。

ミアが首元から肩の付け根辺りを、配達員の男性に、いや、暴徒化した男に噛みちぎられていたのだ。

血が溢れ出し、苦悶の表情を浮かべるミアが、必死で覆いかぶさってきた奴を自分の体から引き剥がそうとするも、圧倒的な力の差により、引き剥がせない。

ミアは、血が溢れ出る局部を手で押えながら、苦悶の声をあげ続けていた。何とかそれで痛みを堪えようとするミアであったが、血は止まらない。それどころか、奴はミアの身体中至る所に噛み付いて傷を増やしていき、2つしかない手ではもう数ある傷を押さえきれないほどになってしまった。

私は、ミアを助けようと思ったのに、体が動かなかった。

エミリーは、奴の背後に周り、腰あたりを掴んで、ミアから奴を必死に引き剥がそうとしていた。

私はその光景を見てもなお、気が動転していて、視界が歪み、目眩を起こして、動くことが出来ない。
ただただ、ぼやけた視界の中で、呆然と悪夢のような惨状を震えながら、立ち尽くして見ることしか私にはできなかった。

「フェリ、フェリス!、助けて!手伝って!ミアが!、ミアが死んじゃう!!」
エミリーが私を呼ぶ声がする。
でも、ミアの悲痛な叫びと、奴の呻き声でそれが、かき消される。そして、私の頭の中の記録にまたあのショッキングな映像が流れ、思考を放棄してしまう。何も考えたくなくて、数秒間目を瞑って耳を塞いだ。

私は本当はもう、二度と目を開けたくなかった。

これは夢だ何かの間違いだこんなことが有り得るはずがない悪夢を見ているんだ私は現実じゃないこれはただの妄想で空想で幻覚で幻聴で幻でそうじゃないと私はもう。

私はもう、おかしくなってしまう。

でも、私は強引にそれを辞めさせられた。

「フェリス、!今のうちに、逃げるよ!、もう、、ミアは助からない!」

腕を掴んで、耳元でそう叫んだのは、エミリーだった。

なおも目を閉じようとする私のまぶたまで彼女は引っ張った。

「はやく!」
そして手を取り、強引に私を引っ張りこんで逃げようとする。

「あ、、あああああ」

手を引っ張られた反射で目が開き、その間ミアだったモノを視界が捉えた。血塗れの肉片を貪り食う奴の姿が見えてしまう。私は、嘔吐感を覚え、脚がすくみそうになりながらも、腕を引っ張られているおかげで、たどたどしく歩かされ着いていった。

ミアはもう助からないんだとそこで初めて感じ、血の気が引いた。何が何だか分からなかった。さっきまであんなに元気でいたのに。突然の出来事すぎて、頭の理解が追いつかず、強烈な恐怖だけが私の感情を支配していた。


「ルナは、無事、かな」

エミリーがボソリとそう言ったのを私は聞き逃さなかった。


そうだ、ルナはルナはどこにいるの。彼女は先程からずっと電話で席を外していた。
別室からずっと出てきていない。無事なのだろうか。


玄関前廊下とリビングを繋ぐガラスの透明な扉の前まで引っ張られ、エミリーが唐突に立ち止まった。

扉を開けて、廊下を辿れば、玄関で逃げられる。助けを呼べる。それなのに、エミリーは一向に、その場から身動きひとつもせず動こうとしない。

私は、ガラス扉の向こうを見た。
透明なガラスの向こう側に立ち尽くしていた彼女は、私たちの前に立ちはだかるかのようで、その顔は不気味な笑みを浮かべていた。
そして、私達の背後で黒い影がのっしりと立ち上がるのが、ガラスの反射で見えた。








思い出したくない出来事が、これまで何度もあった。
そして、つい最近まで悲観して、どうにかなりそうだった。
私は、こうなってから何度も色々な窮地や困難を乗り越えてきた。それでも、辛い時は辛い。挫けそうになって死にたくなる。なんのために生きているのか。考えそうになる時もある。そんな私でも、強い精神力でこれまで生きてきて、これからどんな困難が待ち受けようとも乗り越えようと思った。
でも、待っていたのは窮地でも困難でも無く、安寧だった。


私がペンを持ち、日記帳を開こうとした時、木の扉が、軋んだ音を立てて開いた。

家の中へ入ってきたのは、ご機嫌顔をしたケビンだった。

ふらふらとこちらへ駆け寄ってくる。

「メアリー、ガムあるかい?」

「あ、ごめんなさい、私が持ったままだったわね」

私は、ジャンパーのポケットからガムを取りだし、彼にガムを渡した。

「ありがとう。」
彼は、手渡されたガムを直ぐに包装を取って口にほおりこんだ。

「うめぇー、今回は格別だわあ」
彼は、にこやかにガムを咀嚼しながら言った。

「ご機嫌ね」

「ああ!なんと言っても、安心できる寝床に暖かいシャワー。最高じゃん」
彼はさぞ嬉しそうにそう語る。

「あと、知り合いもいたんでしょ?」

「ああ、ハワードのことか。こうなってからすぐに出会ったな。数ヶ月前に目的地の違いで別れたが」


「奇遇な縁ね。良かったわね」

「ほんとに。俺に子の世界の生き方を教えてくれた人だからな。彼は」


と言って、彼はガムのゴミを捨て、私が座っているテーブルを隔てた向かいの席に彼は座った。

「君は、馴染めそうなのかい?」
彼は私に目を合わせてそう問う。

「えぇ、彼らは快く受けいれてくれたしね」
私はその向けられた目線には合わせず、目線を手元へと落とした。
「今日は、いい日記が書けそうだわ」
彼も、私の手元にある日記へ目を移した。
「今日は記念日として書けるね。明日が歓迎会だけど」
彼はそう笑いながら言った。

「ケビンはいる?まだ、話してないことがあったのよ」
がちゃんと木の扉が開き、唐突に彼女はケビンを呼んだ。

「おっと、リーダー様のお呼びだ。メアリーまたね」
そう言って彼は立ち上がり、私に小さく手を振り、家を出ていった。

私は日記の続きを書く。日記を書くことは世界が変わってからの私の日課となっていた。

これまでとは違って、久しぶりに今日はいい日記が書けそうだ。

ただ、これまで日記に書き記された悲惨な過去は忘れない。これまで死んでいった仲間のことも思い出しながら、私はこの幸せな気持ちを噛み締めるように一字一句書き記していった。

私は日記を書きながらいつの間にか寝てしまっていた。そんなことはこれまでは1度も無かった。

翌日、朝、起きると椅子に座りながら、机に突っ伏したまま寝ていた私の肩にモーフが1枚かけられているのに気づいた。

掛けてくれたのは、ケビンだろうと思った。
その事を彼に問うと、彼はこれまでに一度も見た事もない穏やかな顔で眠っていたといい寝顔だったぞといつもの笑顔でにこやかに話した。

私は、彼と出会えてよかったと思った。





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