新米神様、世界を創る

黒蓬

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41.滅びた世界とリーネの過去

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穏やかな日々が続いていたある日、セイルはいつものように自分の世界を水晶球越しに見つめていた。しかし、ふとした瞬間、水晶球の視界に自分の世界から少し離れた場所に別の世界らしきものがあることに気づいた。

「…あれは?」

セイルは首をかしげながら、水晶球を操作してそれを拡大してみた。それはまるで命を失ったような静まり返った世界だった。黒ずんだ大地には亀裂が走り、雲のような何かがその表面を覆っているが、それは決して生命を宿す気配のあるものではなかった。

不安を感じたセイルは隣で書物を読んでいたリーネに尋ねた。

「リーネ、今まで気づかなかったけど、あんなところに別の世界があるみたいだ。あの世界のこと何か知らないか?」

セイルの指さす先を見て、一瞬驚いたように目を見開いたリーネだったが、すぐに目線を逸らした。

「気にしなくていいわ。元々あった世界の一つでしょう。」

リーネはそう言ったが、その表情はどこかぎこちなかった。

「そんな表情で言われてもな……もしかして、何かリーネと関係がある世界なのか?」

気になったセイルはさらに問い詰めた。
すると誤魔化しきれないと判断したらしい。リーネは少しだけため息をつき、肩を落とした。

「そうね、あなたには話しておいた方がいいかもしれないわね。……セイル、その世界はかつて私が教育係を務めていた神、ミレネアが創った世界よ。」

セイルは驚きの声を上げた。

「ってことは、その人は俺の先輩になるのか。でも、どうしてこんなに荒廃してしまったんだ?」

その世界を見るリーネの顔には苦渋の色が浮かんでいた。

「ミレネアは、とても優秀な神だったわ。創造の力も豊かで、世界を形作る能力に長けていた。そして性格も積極的で、短い期間で世界を急速に発展させていったの。」

セイルは黙ってリーネの話に耳を傾ける。

「私は彼女に何度も忠告した。『あまりに急速に発展させるのは危険よ』と。でも、彼女はいつも笑って『大丈夫、大丈夫』と言って流してしまった。確かに、彼女の世界はその時点では上手くいっていた。だから、私も強く止めることはできなかったの。」

「それで…?」

話を聞いているセイルの声にも不安が滲んでいた。
そして、続きを語るリーネの目は悲しみに沈んでいた。

「彼女の世界では、あるエネルギーが広く利用されていた。それ自体はとても強力で効果的なものだったけれど、それゆえに危険性も孕んでいたの。」

「最初は小さな兆候だった。でも、一度エネルギーのバランスが崩れた時、それは止めるのが非常に難しい状態になってしまったわ。ミレネアと私は力を合わせて、暴走を止めようとした。」

リーネはその時のことを思い出すように、遠くを見るような目をして続けた。

「でも、一箇所を止めれば、別の場所に派生する。それを繰り返すうちに、ついには世界全体にエネルギーの暴走が広がってしまった。」

「そんな……」

セイルの胸に重いものがのしかかる。

「その暴走により、大地は裂け、空は黒く染まり、生き物たちも次々に命を失っていった。そして最終的には……あのような姿になってしまったの。」

リーネは俯きながら静かに語った。

「ミレネアは最後まで世界を救おうとしたけれど……それゆえにショックが大きくてね。世界があの姿になってしばらくは部屋に籠ってしまっていたわ。」

セイルはしばらく言葉を失った。リーネの話には、彼女がどれだけその時の出来事に心を痛めているかが伝わってきた。
そうして、しばしの沈黙が続いた。セイルはこれ以上聞いても良いものか迷いはしたが、ここで聞かなければ次はないかもしれないと思い、気になったことを口にした。

「それで……その後、ミレネアさんは?」

「……転生したわ。一から新しい世界を作り直して、その成果を認められてね。
何とか気を取り直して、慎重に事を進めた彼女の世界は見事にバランスの取れた世界を創り上げたわ。けれど、それも彼女の救いにはならなかった。」

再び場に沈黙が下りた。セイルは以前に神の転生の話を聞いた時のことを思い出していた。あの時、きっとリーネはミレネアさんのことを考えていたのだろう。

「そうか……俺の世界も、もし何か間違ったことをすれば、あの世界みたいになる可能性があるのかな……」

セイルは静かに呟いた。
少しして顔を上げたリーネは真剣な表情で頷いた。

「可能性はゼロじゃないわ。神として世界を創造し、導くというのは、それだけ大きな責任が伴うの。」

「リーネは、どうしてそのことを俺に話してくれたんだ?」

「聞いてきたのはあなたじゃない。でも、そうね。あなたが神として歩んでいく中で、知る必要があると思ったからよ。」

リーネは少し寂しげに微笑んだ。

「神としての力は、想像以上に繊細で、時に危険でもある。でも、セイル、あなたにはミレネアのようにならないでほしい。そう願っているの。」

その夜、セイルは水晶球越しに再び滅びた世界を見つめていた。リーネの話を聞いた後では、その光景がよりいっそう胸に刺さった。

「ミレネアさんは、最後まで自分の世界を守ろうとしたんだよな……」

セイルは自分に言い聞かせるように呟いた。

「俺も、この世界を絶対にそんなふうにさせない。」

リーネがそっと近づき、セイルの肩に手を置いた。

「その決意を忘れないで。どんなに素晴らしい世界でも、基盤が脆ければ簡単に崩れてしまうわ。だからこそ、慎重に一歩一歩築いていくことが大切なの。」

「あぁ。リーネ、話してくれてありがとう。ミレネアさんの話、聞くことができて良かったよ。」

セイルはリーネに向かって微笑んだ。その瞳には、神としての責任をしっかりと受け止めた光が宿っていた。そして、滅びた世界の暗闇を見つめるセイルの中にはある決意が芽生えていた。
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