武徳JK ~山川異域、風月同天!

盛桃李もりももり

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第一章

第三話 千里の伝音? 神秘なる妖具!

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 机の上の携帯が、ぶるぶると震え出した。
 画面が明滅し、着信の文字が踊る。

彩音あやね 通話中】

「なっ……!? このうつわ、声まで震わせるか! さきほどは文字を飛ばすだけであったのに……。今度は遠き地より呼び声を届けるとは――まさしく妖術ようじゅつ!」

 李守義りしゅぎ驚愕きょうがくに心臓を跳ね上がらせ、携帯を落としかける。
 だが身体に染みついた習慣が、彼の指を自然に導いた。画面を滑らせ、耳に押し当てる。

 次の瞬間――てのひらの中から澄んだ少女の声が響いた。

『もしもし、惠美めぐみ?……大丈夫!?』

 焦りと気遣いが入り混じった声。間をおいて、さらに優しい問いかけ。

体調たいちょう、悪いの? それとも……何かあった?』

「なっ……!? 千里せんり離れても会話できるとは! これがいくさにあらば、大将たいしょうは遥か彼方かなたに在りても、目前もくぜんのごとく号令ごうれいできようぞ!」

 彼は慌てふためき、口を開く。

「う、われは……無事ぶじ! ただ、少し……」

 ふるめかしい調子に、声はぎこちなく震えていた。

 受話口の向こうで、彩音は沈黙する。
 そして真剣な響きを帯びた声が届いた。

『惠美……本当に大丈夫? もしかして……やっぱり学校に来たくないんじゃない?』

 ――その言葉に、李守義りしゅぎの胸中が激しく揺さぶられる。

 耳裏に甦るは、嘲笑ちょうしょうのざわめき、黒板に刻まれし侮辱ぶじょくの文字、机に押し込まれし呪詛じゅその紙片。
 記憶の洪水こうずいが押し寄せ、胸を締めつける。

 彼は大きく首を振り、息を整える。
 そして少女の声色を借りて、必死に答えた。

「……少し疲れているだけだ。明日は……必ず行く。」

 短い沈黙の後、彩音の声が柔らかく返ってきた。

『……うん。無理しないでね。』

 少女が、それでも誰かの荷を背負おうとする姿が重なり、李の胸奥きょうおうに熱を灯す。

 通話が切れると、部屋は再び静寂せいじゃくに包まれた。

 李守義りしゅぎは机に向かい、深く息を吐く。
 そして筆記具ひっきぐを握りしめ、独りごちる。

「……この身を託されし以上、まずは道を整理すべし。」

 構えたその手は、まるで刀剣を振るう武人のごとし。
 横線はやりの突き、縦線はやいばの斬撃。
 ペン先が紙上を駆け、墨跡が跳ね飛び、そこには戦場いくさばさながらの気迫が宿る。

「……ふむ、今の世にはこの筆跡、あやしと映るか。」

 苦笑しつつも、やがて筆跡は滑らかに整い、ノートの文字は少女のものと違和感なく重なった。

「軽き器にして刃のごとき鋭さ……侮るべからず。」

 足元には紙屑が積もり、インクの匂いが空気を満たした。

 彼は鏡に映る少女を見据え、静かに呟く。

学び舎まなびやに戻る前に、すべきこと、山のごとし。」

 手帳を開けば、日付や試験、行事が整然と記されている。

「……平成? これは何を指す。」

 さらに携帯を操れば、地図、歴史、記事……情報が奔流のごとく溢れ出す。

「指一つにて天下万象てんかばんしょうを知るとは……! 我が清朝しんちょうの頃、奏章そうしょう一通すら都に届くに半月を要したものを。」

 李の瞳は釘付けとなり、声は震えた。

「国は興亡こうぼうを繰り返し、栄華えいがもやがて傾く。かつての天朝てんちょうは今や紙片の註脚に過ぎぬか……嗚呼、世のことわりまぼろしのごとし。」

 次々と指は画面をめくる。
明治維新めいじいしん」「日清戦争にっしんせんそう」「戦後せんご奇跡きせき」――
 目を凝らし、息を呑む。

東夷とういの小国とあなどりしこのくに、いまや九州きゅうしゅうしのぎ、東亜とうあとなえるか。天地てんちてんじたるかのごとき変化……乾坤一擲けんこんいってき!」

 乾きゆく眼、痛む頭を押しても、指は止まらぬ。
 情報は方寸ほうすんにして四海しかいを呑み込む。

「この妖具……まさしく新たな戦場いくさば。文字と映像の矢雨やあめに囲まれながらも、退かず立つは我が務めよ。」

 ――気づけば窓外の光は薄れ、部屋は白き画面の輝きに染められていた。

「……ガチャリ。」

 玄関の扉が開く音が、静寂を切り裂いた。
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