武徳JK ~山川異域、風月同天!

盛桃李もりももり

文字の大きさ
18 / 37
第六章

第一話 狙われた背中

しおりを挟む

「――始めッ!」
 
 笛の音が空気を裂いた。
 次の瞬間、校庭が沸き立つ。
 掛け声と足音が交じり合い、風のような熱気が地面を揺らした。

 対面のチームから、ボールが放たれた。
 空を切る音が響き、その軌道は、まるで弓から放たれた矢のようにまっすぐだった。

 惠美の瞳が鋭く光いた。
 思考よりも先に、身体が反応はんのうする。
 足先が砂をかすめ、腰をひねる――
 髪の先をかすめて、ボールが通り抜けた。

 一瞬、世界が静まる。
 砂の匂いと風の音だけが、耳に残った。

 呼吸が止まる。
 次の瞬間――もう動いていた。

 転がるボールを拾い上げ、指先で感触を確かめる。
 掌の中、木の皮のざらつきと重み。
 その手が、しなやかに弧を描く。

 風を裂く音。
 ボールは閃光のように宙を走り、
 まぶしいほどの弧を描いて――
 相手の胸を正確に撃ち抜いた。

 「ッ――!」
 
 鈍い衝撃音が遅れて響き、空気が一瞬止まる。
 相手の男子が息を呑む間もなく、胸を押さえて数歩よろめいた。
 そのまま足元を崩し、ボールが地面に転がる。

 ――ドン。
 弾む音が合図のように、
 周囲から一斉に歓声かんせいが爆発した。

「うわっ!」
「すげぇ……」
「高橋、マジで強くね!?」

 歓声とどよめきが校庭を駆け抜ける。
 その中心で、惠美は微動だにしなかった。

 汗ひとつかかず、呼吸は乱れない。
 ただ、淡々たんたんと次の動きを見据えている。
 彼女の構えは無駄がなく、しなやかで、
 それでいて――どこか張りつめた緊張をはらんでいた。

 李守義りしゅぎの声が、心の奥で静かに響く。

「学び舎のたわむれといえど、これもまたいくさ
 矢を皮球に換え、戦鼓せんこを笑いに変える。
 攻めに理あり、退くに節あり……まこと、見事な陣法じんぽうよ。」

 ――その時。

 校庭の隅、三つの影が並んでいた。

 佐々木綾香は腕を組み、苛立いらだちを隠そうともせず、
 指先でリズムを刻むように腕をたたいていた。

「……チッ。何よあれ。人前で調子乗ってんじゃないわよ。」

 森下里奈は髪を指でくるくるいじりながら、
 欄干らんかんにもたれて笑う。

「でもさ、ちょっとカッコよくない~?
 あのフォーム、なんかスポアニのヒロインって感じ~」

「はぁ!? あんたまで何言ってんの!」
 
「冗談よ、冗談。」
 
 高村紗希は二人より少し後ろに立ち、無言のまま空を見上げている。

「……もう、関わらないほうがいいと思う。」

「何それ、ビビってんの?」
 綾香が鼻で笑う。

「別に……どうでもいい」

「ふん、相変わらず冷めてるわね。」
 綾香は小さく舌打ちし、
「……でもさ、学校じゃ手を出せなくても、やり方はいくらでもある。」

「え、なにそれ~? まさか外の人、使う気?」

 綾香の唇がゆがむ。
「ちょっと“特別”なやり方で、あの子にお勉強してもらうだけ。」

「うっわ~、出た!出た!」
 里奈はわざとらしくため息をついて笑った。

 一方の紗希は、沈黙を保ったまま視線を戻す。

 校庭の中央。
 光が雲の切れ間から差し込み、惠美の姿を照らしていた。

 白いシャツが揺れ、風が髪を舞わせる。
 その背筋はまっすぐで、どこか痛いほどの静けさを帯びている。

 ――あの掃帚ほうきの一撃、脳裏に焼きついて離れない。
 迷いもなく、鋭く、そして美しかった。

 あれは“見せる力”じゃない。
 “生きるための力”だ。

 紗希は唇を噛み、わずかに目を伏せる。

 再びボールが放たれる。
 風を切る音が走り抜け、惠美の髪が揺れる。

 その瞳は、まるで戦場いくさばを見据えるしょうのようだった。
 静かで、冷たく、
 それでいて――誰よりも、強かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界転生した女子高校生は辺境伯令嬢になりましたが

ファンタジー
車に轢かれそうだった少女を庇って死んだ女性主人公、優華は異世界の辺境伯の三女、ミュカナとして転生する。ミュカナはこのスキルや魔法、剣のありふれた異世界で多くの仲間と出会う。そんなミュカナの異世界生活はどうなるのか。

最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である

megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

勇者の様子がおかしい

しばたろう
ファンタジー
勇者は、少しおかしい。 そう思ったのは、王宮で出会ったその日からだった。 神に選ばれ、魔王討伐の旅に出た勇者マルク。 線の細い優男で、実力は確かだが、人と距離を取り、馴れ合いを嫌う奇妙な男。 だが、ある夜。 仲間のひとりは、決定的な違和感に気づいてしまう。 ――勇者は、男ではなかった。 女であることを隠し、勇者として剣を振るうマルク。 そして、その秘密を知りながら「知らないふり」を選んだ仲間。 正体を隠す者と、真実を抱え込む者。 交わらぬはずの想いを抱えたまま、旅は続いていく。 これは、 「勇者であること」と 「自分であること」のあいだで揺れる物語。

醜悪令息レオンの婚約

オータム
ファンタジー
醜悪な外見ゆえに誰からも恐れられ、避けられてきたレオン。 ある日、彼は自分が前世で遊んでいたシミュレーションRPGの世界に転生しており、 しかも“破滅が確定している悪役令嬢の弟”として生きていることに気付く。 このままでは、姉が理不尽な運命に呑まれてしまう。 怪しまれ、言葉を信じてもらえなくとも、レオンはただ一人、未来を変えるために立ち上がる――。 ※「小説家になろう」「カクヨム」にも投稿しています。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

処理中です...