武徳JK ~山川異域、風月同天!

盛桃李もりももり

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第十一章

第三話 新たなる始まり

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 機内は静まり返っていた。
 窓の外では、夜の雲がゆるやかに流れ、
 遠くで灯がひとつ、またひとつと瞬いていた――暗い海を渡る星々のように見えた。

 惠美はシートにもたれ、指先で冷たい窓をそっとなぞった。
 薄いガラスの向こうに、あの日見た長城ちょうじょう故宮こきゅうの残像が、まだ揺れている気がした。

(――かつての王朝はちりと消え、それでも人は旅人としてその跡を辿る。
  歴史は死なず。
  命の儚さを語りながら、心と記憶の灯を未来へと渡していく。)

 李守義りしゅぎの声が、静かな確信を帯びて胸の奥に響いた。

 惠美は目を閉じ、深く息を吐く。
 ようやく気づいたのだ。
 自分が守りたかったのは、家という形ではなく――
 この時間、その絆、その記憶を、未来へ受け渡す“勇気”だったのだと。


 東亜商事とうあしょうじの会議室。
 スクリーンに映し出されるのは、中国企業との契約締結の記念写真。
 拍手が鳴り響き、高橋貴子が壇上へと呼ばれた。

 彼女は深呼吸をし、まっすぐ前を見据える。
 多くを語らずとも、その背筋の伸びた姿がすべてを物語っていた。
 ――もう一人ではない。
 背中には家族の支えがあり、娘の想いがあり、そして何より、自分自身の誇りがあった。
 ライトの下、その笑みは凛として、どこか誇らしかった。


 出版社の編集部。
 紙の匂いが漂う中、高橋誠一は分厚い原稿を編集者に手渡した。
 机の上には、刷り上がったばかりの雑誌。
 戦後取材の連載、その一章目。

 ページをめくると、活字の海が広がる。
 夜ごと灯りの下で書き続けた言葉たちが、いま確かに形となって息づいている。
 誠一は静かに呟いた。
「……俺にも、守れたものがあったんだな。」

 その瞬間、彼の視線がわずかに上がる。
 いつもうつむいていた背筋が、ほんの少しだけ伸びていた。


 校舎の掲示板の前。
 人だかりの中心で、全国論文コンクールの入賞者リストが貼り出されている。
 “高橋惠美”。
 その名前が、確かな文字で刻まれていた。

「すごいっ! 本当に入選してる!」
 彩音が飛びつくように隣に来る。
 その目は星のように輝き、声も少し震えていた。

 惠美は静かに微笑んだ。
 その視線は、掲示板を越えて――校庭の空の、もっと遠くへと向かっていた。

 その空は、どこまでも広く、
 新しい日々の色に満ちていた。

 
 夜。
 
 リビングには柔らかな灯りがともり、テーブルの上には旅の写真と小さな土産。

 惠美はソファに腰を下ろし、指先で写真を撫でた。
 長城で撮った一枚。
 父と母、そして自分。三人の笑顔が風に揺れている。

「――これからの道を、あなたの想いと一緒に歩いていくね。」
 小さく囁いたその声に、
 心の奥で、懐かしい声がそっと応えた。

(いいえ。
 もう、お前は“お前の時代”を生きている。)

 窓の外で夜風がカーテンを揺らす。
 その音は、不思議なほど優しかった。

 惠美は顔を上げる。
 星々が滲む夜空に、静かに微笑む。
 その瞳は、これから始まる物語を映すように澄んでいた。


 終章――そして、新たな戦場へ

 剣は、彼の信念だった。
 だが今、紙とペンこそが、彼女の剣。
 それは、人を傷つけるためではなく、誰かを守るための剣だった。
 
 教室で、彼女は勇気を知り――
 家庭で、絆を知り――
 旅の途中で、過去と未来の呼吸を感じた。

 高橋惠美という少女は、もはや“転生者”ではない。
 ひとつの魂の物語を引き継ぎながらも、
 今を生きる、ただひとりの人間となった。

 たとえこの先に、嘲笑や試練、
 あるいは新しい戦場が待っていようとも――

 彼女はもう、俯かない。

 守ること。
 それは家族を想うこと、
 自分を信じること、
 そして、生きるという選択を貫くこと。

 それが、最も鋭く、そして最も優しい剣。

 夜明けの光が差し込む。
 惠美は鞄を手に取り、静かに立ち上がった。

 物語は、まだ終わらない。
 ――ここからが、彼女の“新たな時代”の始まりだった。
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