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第4話 買い物と傘
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土曜の午後。
スーパーの中は、冷房が効きすぎていて少し寒いのに、
隣を歩くナオミは、なぜか戦場に向かう兵士みたいな顔をしていた。
「今日はまとめ買いあるよ。特売の日だから。」
「はいはい、隊長。」
「隊長じゃない、主婦ある。」
カートを押しながら歩くと、ナオミは次々と商品を放り込んでいく。
豆腐、ネギ、生姜、豚肉、そしてなぜか唐辛子の袋が三つ。
「また麻婆?」
「当然でしょ。辛さは人生の栄養ある。」
「もう限界なんだけど……」
「弱すぎ。もっと鍛えなきゃ。」
ペットフード売り場の前で、ナオミがぴたりと止まった。
「ピピとナッツのご飯、もう少ないね。」
棚には色んな猫フードが並んでいる。
ナオミは真剣な目で一つ一つ手に取った。
「ピピは魚派。ナッツは肉派。でも最近ナッツ、魚もいけるある。」
「じゃあ全部魚のやつにすれば?」
「ダメ。あなたは本当に何も分かってない。猫の味覚は繊細なの。」
僕は袋を手に取りながら、ぼそっと言った。
「……ピピはただナオミに甘いだけじゃ?」
「何か言った?」
「いや、別に……」
ナオミは魚味、肉味、ミックス味を全部カゴに入れた。
「王子たちのご飯は妥協しないの。」
「僕の夕飯も、たまに妥協してほしい……」
「聞こえないある。」
レジで大量の袋を渡されたのは、もちろん僕だ。
ナオミは軽やかに言う。
「男は力仕事ね。」
「……僕、荷物係だよね?」
「役割分担ある。」
外へ出ると、空が急に暗くなり、
次の瞬間、土砂降りになった。
「ちょ、ちょっと!こんな予報なかったよね!?」
「夏の雨は気まぐれある!」
僕たちは慌てて買い物袋を抱え直す。
そのとき、ナオミがバッグの中を探りながら言った。
「……あ、これ使えるかも。」
「それ、日傘じゃない?」
「晴雨兼用って書いてあったある。たぶん…大丈夫。」
仕方なくその小さな日傘を広げると、
ビニール傘よりさらに頼りなく、明らかに二人入る余裕はない。
「え、これ……無理じゃない?」
「わたし細いからいける。」
僕たちは肩をぎゅっと寄せて歩き出した。
右半分は僕が濡れ、左半分はナオミが濡れる。
小さすぎる傘の中心で、頭が何度もぶつかった。
「歩くの下手。」
「押してきてるのナオミだよ。」
「あなたが合わせて。」
「はいはい……。」
雨脚が弱くなってきたころ、
近所の奥さんが自転車を押しながら通り過ぎ、
こちらを見てニコッと笑った。
「いい夫婦ねえ。仲良しだわ。」
ナオミの肩が、ふっと揺れた。
「……聞いた?」
「うん。」
「仲良しって。」
「まあね。」
スーパーの袋が雨で濡れて、指先が少しひんやりした頃、
ナオミがぽつりと言った。
「人生にも急に雨降ることある。でもね……」
「でも?」
「こんなふうに、ひとつの傘で乗り越えられるなら悪くない。」
僕は息をつきながら笑った。
「うん。半分ずつ濡れるのも、案外いいかもね。」
雨上がりの空気には、アスファルトの匂いと、
さっき買った唐辛子の香りが、ほんのり混じっていた。
ふたり寄り添って歩く、そのあったかさみたいに。
スーパーの中は、冷房が効きすぎていて少し寒いのに、
隣を歩くナオミは、なぜか戦場に向かう兵士みたいな顔をしていた。
「今日はまとめ買いあるよ。特売の日だから。」
「はいはい、隊長。」
「隊長じゃない、主婦ある。」
カートを押しながら歩くと、ナオミは次々と商品を放り込んでいく。
豆腐、ネギ、生姜、豚肉、そしてなぜか唐辛子の袋が三つ。
「また麻婆?」
「当然でしょ。辛さは人生の栄養ある。」
「もう限界なんだけど……」
「弱すぎ。もっと鍛えなきゃ。」
ペットフード売り場の前で、ナオミがぴたりと止まった。
「ピピとナッツのご飯、もう少ないね。」
棚には色んな猫フードが並んでいる。
ナオミは真剣な目で一つ一つ手に取った。
「ピピは魚派。ナッツは肉派。でも最近ナッツ、魚もいけるある。」
「じゃあ全部魚のやつにすれば?」
「ダメ。あなたは本当に何も分かってない。猫の味覚は繊細なの。」
僕は袋を手に取りながら、ぼそっと言った。
「……ピピはただナオミに甘いだけじゃ?」
「何か言った?」
「いや、別に……」
ナオミは魚味、肉味、ミックス味を全部カゴに入れた。
「王子たちのご飯は妥協しないの。」
「僕の夕飯も、たまに妥協してほしい……」
「聞こえないある。」
レジで大量の袋を渡されたのは、もちろん僕だ。
ナオミは軽やかに言う。
「男は力仕事ね。」
「……僕、荷物係だよね?」
「役割分担ある。」
外へ出ると、空が急に暗くなり、
次の瞬間、土砂降りになった。
「ちょ、ちょっと!こんな予報なかったよね!?」
「夏の雨は気まぐれある!」
僕たちは慌てて買い物袋を抱え直す。
そのとき、ナオミがバッグの中を探りながら言った。
「……あ、これ使えるかも。」
「それ、日傘じゃない?」
「晴雨兼用って書いてあったある。たぶん…大丈夫。」
仕方なくその小さな日傘を広げると、
ビニール傘よりさらに頼りなく、明らかに二人入る余裕はない。
「え、これ……無理じゃない?」
「わたし細いからいける。」
僕たちは肩をぎゅっと寄せて歩き出した。
右半分は僕が濡れ、左半分はナオミが濡れる。
小さすぎる傘の中心で、頭が何度もぶつかった。
「歩くの下手。」
「押してきてるのナオミだよ。」
「あなたが合わせて。」
「はいはい……。」
雨脚が弱くなってきたころ、
近所の奥さんが自転車を押しながら通り過ぎ、
こちらを見てニコッと笑った。
「いい夫婦ねえ。仲良しだわ。」
ナオミの肩が、ふっと揺れた。
「……聞いた?」
「うん。」
「仲良しって。」
「まあね。」
スーパーの袋が雨で濡れて、指先が少しひんやりした頃、
ナオミがぽつりと言った。
「人生にも急に雨降ることある。でもね……」
「でも?」
「こんなふうに、ひとつの傘で乗り越えられるなら悪くない。」
僕は息をつきながら笑った。
「うん。半分ずつ濡れるのも、案外いいかもね。」
雨上がりの空気には、アスファルトの匂いと、
さっき買った唐辛子の香りが、ほんのり混じっていた。
ふたり寄り添って歩く、そのあったかさみたいに。
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