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薬の効果が切れるまで後六日(2)
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慌ててクリスティアーノを起こそうと彼の体に手を添えた時、一頭の馬が勢いよく木の間から現れた。
「っ!」
(レオン?!)
「……なにをしている?」
低い声色で険しい表情を浮かべるレオン。
「あ、これはその……」
「ん、もうなに? せっかく気持ちよく寝ていたのに……」
欠伸を噛み殺しながら上半身を起こすクリスティアーノ。
それを見たレオンは馬から颯爽と降りると、肩をいからせながら近寄ってきた。そして、クリスティアーノを指さす。
「お・ま・え・な! なに人の婚約者の膝を枕にして寝てんだよ!」
「え、だって今は僕の婚約者でしょ」
「ちげえだろ! 昨日も言ったがソフィーの婚約者はお・れ・だ!」
「もーうるさいなー。膝の一つや二つ別にいいじゃないか」
「いいわけねえだろうが! おまえだって俺がお前の婚約者に膝枕してもらったらいい気にはならねえだろ?!」
その言葉でソフィアは想像してしまい、ムッと眉間に皺を寄せる。
(たしかにいい気はしないわね)
ところが、肝心のクリスティアーノは全く気にした様子もなく首を横に振った。
「僕は別に。してもらいたいならしてもらったら? 僕はかまわないよ。どうぞ?」
「は、はあ?! 別に俺はしてもらいたいなんて一言も言ってねえよ! 俺はただ『おまえがソフィーに膝枕されるのは気に食わねえ』ってことをわかりやすく伝えようとしただけでっ」
「へえ~嫌なんだ?」
意外だという口調に、レオンの眉間の皺が深くなる。
「嫌に決まってんだろ。俺だってまだしてもらったことがねえのに。『デート』の件といい、なんでおまえばっかり先に経験してんだっつーの」
「ふーん……だって、ソフィー」
「「え」」
(ちょ、ちょっと?! いきなり矛先向けないでよ!)
レオンと目が合い、互いの顔が赤く染まる。
「ち、ちげえからな! 俺はあくまで一般論ってやつを参考にして言っただけで……」
「わ、わかってるわよ!」
今にも意味のない応酬が始まりそうな空気の中、「はいはい」とクリスティアーノがストップをかけた。
「その続きは別の機会にね~。さ、二人とも口調を戻して」
「は?」
「え?」
クリスティアーノの言葉の意味はすぐに分かった。馬の足音が複数聞こえてくる。
「……あ。あいつらのこと忘れてた」と呟くレオン。ソフィアが怪訝な顔になる。
「もしかして……護衛の騎士を置いてきたんではなく、振り切ってここまで?」
「ふ、不可抗力で」
視線を泳がせるレオンに呆れた目を向けるソフィア。
木々の間から既視感を覚えるような登場の仕方で現れた護衛騎士二人。元気いっぱいの若手フィンと、真面目な中堅ルーク。二人ともレオンを目に留め、ホッと息を吐いた。
フィンがレオンに向かって声を上げる。
「殿下! 次からは護衛を置いて先に行くのはやめてくださいね!」
レオンは苦笑しながら「わかったよ」とうなずき返した。
続けて口を開いたのはルーク。
「それにしても、私は殿下がこれほどまでに馬術の腕が巧みだとは知りませんでした」
ギクリとレオンの顔が強張る。すかさず、クリスティアーノがフォローに入った。
「俺が時折、殿下に教えていたからだろうな」
その言葉にフィンの表情がパッと輝く。尊敬する眼差しでクリスティアーノを見た。
「さすが隊長! 休暇明けたら自分にも教えてくださいね!」
「ああ」とうなずき返すクリスティアーノの影に隠れ、胸を張っているレオン。そのことに気づいたソフィアは笑い声が漏れそうになるのをなんとか耐えた。
しかし、フィンの目が不意にソフィアに向けられる。
「そういえば、隊長とソフィア嬢の結婚式っていつなんですか?」
「「え?」」と固まったソフィアとレオン。
「自分、隊長の式には絶対参列したいと思っているんですよ! あ、でも出たいのは先輩たちも一緒ですよね……全員休むとなると殿下につく護衛がいなくなっちゃうから……」
自分が一番下のため、ここは遠慮するべきなのかと迷っているようだ。
一人であれこれ考え始めたフィン。レオンとソフィアの視線がかち合う。
彼の純粋な好意に応えたいところだが、今この場で答えを返すわけにはいかない。まだ式については何も話し合えていないのだ。とりあえずテキトーに話を逸らそうとソフィアが口を開こうとしたタイミングでクリスティアーノが話し始めた。
「あいにく、日にちはまだ決まっていないんだ。今はまず、会えなかった時間を埋めているところだから」
と、クリスティアーノがソフィアを見やる。ソフィアは努めて婚約者らしく見えるように照れたような仕草を意識して頷いてみせた。フィンが頬を染めて嬉しそうに二人を交互に見る。それに対して、不機嫌そうなレオン。だが、幸運なことに彼の表情の変化には誰も気づかなかった。
クリスティアーノが今度はレオンを見る。
「そうだな……式には親友であるクリスを呼ぶ予定だから、式を見るだけなら全員可能じゃないか?」
レオンが『親友』という言葉に、フィンが無事に参列できそうだと知り、目を輝かせる。
和やかな空気の中、読めない笑顔を浮かべ終始聞き手に回っている男が一人。ソフィアはちらりと彼を見た。
(……やっぱり。これって、そういうことなのかしら……)
クリスティアーノに確認したいところだが、今は無理だ。仕方ないので気持ちを切り替え、クリスティアーノに便乗する形でフィンに「ぜひ参列してくださいね」と告げる。
「はい!」という気持ちのいい返事に皆笑顔を浮かべた。
その後、まだ食事が済んでいないというレオンたちのために、バスケットの中から余った昼食を取り出し、おすそ分けすることになった。
「私が毒見を」と動こうとしたルークだったが、それよりも先にフィンが口をつける。それを見てから、レオンも食事を始めた。
食事中の会話はたわいもないものばかりで、平和そのものだった。
食後、三人のお腹が落ち着くのを待ち、皆で城へと帰る準備を始める。ふとフィンが首を傾げながらレオンを見た。
「殿下、なにしてるんですか?」
「え? あ! い、いや、なんでもないよ」
馬の側に立ち、ソフィアに視線を向けていたレオン。
(え……まさか、私を乗せるつもりだった? いや、まさかね)
ソフィアは行き同様にクリスティアーノと共に馬に乗った。
複数の視線を感じる。キラキラとした視線と、じとーっとした視線。ソフィアはどちらも無視してただまっすぐに前だけを見た。
城に到着し、馬から降りる。その時も視線を感じた。仕方なく視線の主を見ると、レオンが露骨に顔を背ける。
(拗ねた子供か! 仕方ないでしょ)
言いたいが、言えないもどかしさに耐えていると、レオンの帰りを待っていたという侍女長が現れた。
「え、マルゲリータが?」
話を聞く限り、ちょうどレオンが城を空けている間にマルゲリータが会いに来ていたらしい。約束を忘れていたのかとレオンは青ざめるが、クリスティアーノの様子を見るに、もともとそのような知らせはなかったようだ。
クリスティアーノの不在を知ったマルゲリータはすぐに帰ったと聞き、安堵の表情を浮かべるレオン。
この後、マルゲリータに手紙を書くことになったレオンとはその場で別れ、クリスティアーノに自室へと送ってもらうことになった。
ソフィアとしてはクリスティアーノにはあのままレオンのフォローに回ってもらいたかったのだが……。
「大丈夫。後で入れ替えるから」
「あ……そう」
ソフィアの心配などお見通しだったらしい。
数メートル歩いたあたりで、後ろから追いかけてくる足音を耳にした。足を止め、振り向く。てっきりレオンだと思っていたが、追いかけてきたのはフィンだった。
彼はどこか緊張した顔で「話があります」とクリスティアーノに告げた。ただならぬ空気を感じ、思わずソフィアとクリスティアーノは目配せし合う。
空き部屋へと入った三人。その判断は正しかった。
フィンからの報告内容は誰にでも聞かせられるものではなかったのだ。
「今朝、牢屋でクリスティアーノ王子殿下を襲った者たちが全員死んでいるのが確認されました」
横で聞いていたソフィアは息を呑む。
クリスティアーノは「そうか……」とだけ呟いた。
(そうか、ってまるでそうなることが分かっていたかのような反応ね)
今の反応により、ソフィアの中にあったおぼろげな疑惑が輪郭を得ていく。
「そのことを殿下には?」
とクリスティアーノが尋ねると、フィンは首を横に振った。
「先輩たちはことの詳細まで調べ終わってから殿下に報告すると」
「……この場合、ひとまず現状を報告するのが先決だと思うが?」
「自分もそう思ったのですが……。それに、休暇中の隊長にも報告する必要はないと言っていて、それも自分的には納得いかなくて……」
(それはそうでしょう)
「それで、こうして俺に判断を仰ぎにきたんだな」
「……はい」
「わかった。殿下には俺から伝えておく。俺へ報告したことについては……他の奴らには黙っていろ。いいな?」
「はい」
「もし、またなにか違和感を覚えたらすぐに俺に報告を」
「はい!」
指示を受けたことで、それまであった迷いがフィンの目から消える。
「ソフィアもこのことは……」
「わかってる。知らないフリをしておくわ」
心得ているように頷き返す。
「……ちなみに、その指示を出したのはヴィンセントか?」
クリスティアーノの問いに、フィンの顔が再び強ばる。
「……はい。今、皆をまとめているのはヴィンセント先輩なので……」
「わかった。いい判断だった」
複雑な表情を浮かべるフィンの肩をクリスティアーノが叩く。フィンは頭を下げて部屋を出て行った。
沈黙の中、ソフィアは思案しているクリスティアーノの横顔を見つめる。
「……やっぱりこの入れ替わり、相応の理由……『目的』があったのね」
クリスティアーノの顔がソフィアへと向く。目と目が合った。互いに言葉はない。どれくらい時間が経ったのか、先に音を上げたのはクリスティアーノ。
「さすがだね」
そう言って、彼は目を細め、笑みを浮かべた。
「っ!」
(レオン?!)
「……なにをしている?」
低い声色で険しい表情を浮かべるレオン。
「あ、これはその……」
「ん、もうなに? せっかく気持ちよく寝ていたのに……」
欠伸を噛み殺しながら上半身を起こすクリスティアーノ。
それを見たレオンは馬から颯爽と降りると、肩をいからせながら近寄ってきた。そして、クリスティアーノを指さす。
「お・ま・え・な! なに人の婚約者の膝を枕にして寝てんだよ!」
「え、だって今は僕の婚約者でしょ」
「ちげえだろ! 昨日も言ったがソフィーの婚約者はお・れ・だ!」
「もーうるさいなー。膝の一つや二つ別にいいじゃないか」
「いいわけねえだろうが! おまえだって俺がお前の婚約者に膝枕してもらったらいい気にはならねえだろ?!」
その言葉でソフィアは想像してしまい、ムッと眉間に皺を寄せる。
(たしかにいい気はしないわね)
ところが、肝心のクリスティアーノは全く気にした様子もなく首を横に振った。
「僕は別に。してもらいたいならしてもらったら? 僕はかまわないよ。どうぞ?」
「は、はあ?! 別に俺はしてもらいたいなんて一言も言ってねえよ! 俺はただ『おまえがソフィーに膝枕されるのは気に食わねえ』ってことをわかりやすく伝えようとしただけでっ」
「へえ~嫌なんだ?」
意外だという口調に、レオンの眉間の皺が深くなる。
「嫌に決まってんだろ。俺だってまだしてもらったことがねえのに。『デート』の件といい、なんでおまえばっかり先に経験してんだっつーの」
「ふーん……だって、ソフィー」
「「え」」
(ちょ、ちょっと?! いきなり矛先向けないでよ!)
レオンと目が合い、互いの顔が赤く染まる。
「ち、ちげえからな! 俺はあくまで一般論ってやつを参考にして言っただけで……」
「わ、わかってるわよ!」
今にも意味のない応酬が始まりそうな空気の中、「はいはい」とクリスティアーノがストップをかけた。
「その続きは別の機会にね~。さ、二人とも口調を戻して」
「は?」
「え?」
クリスティアーノの言葉の意味はすぐに分かった。馬の足音が複数聞こえてくる。
「……あ。あいつらのこと忘れてた」と呟くレオン。ソフィアが怪訝な顔になる。
「もしかして……護衛の騎士を置いてきたんではなく、振り切ってここまで?」
「ふ、不可抗力で」
視線を泳がせるレオンに呆れた目を向けるソフィア。
木々の間から既視感を覚えるような登場の仕方で現れた護衛騎士二人。元気いっぱいの若手フィンと、真面目な中堅ルーク。二人ともレオンを目に留め、ホッと息を吐いた。
フィンがレオンに向かって声を上げる。
「殿下! 次からは護衛を置いて先に行くのはやめてくださいね!」
レオンは苦笑しながら「わかったよ」とうなずき返した。
続けて口を開いたのはルーク。
「それにしても、私は殿下がこれほどまでに馬術の腕が巧みだとは知りませんでした」
ギクリとレオンの顔が強張る。すかさず、クリスティアーノがフォローに入った。
「俺が時折、殿下に教えていたからだろうな」
その言葉にフィンの表情がパッと輝く。尊敬する眼差しでクリスティアーノを見た。
「さすが隊長! 休暇明けたら自分にも教えてくださいね!」
「ああ」とうなずき返すクリスティアーノの影に隠れ、胸を張っているレオン。そのことに気づいたソフィアは笑い声が漏れそうになるのをなんとか耐えた。
しかし、フィンの目が不意にソフィアに向けられる。
「そういえば、隊長とソフィア嬢の結婚式っていつなんですか?」
「「え?」」と固まったソフィアとレオン。
「自分、隊長の式には絶対参列したいと思っているんですよ! あ、でも出たいのは先輩たちも一緒ですよね……全員休むとなると殿下につく護衛がいなくなっちゃうから……」
自分が一番下のため、ここは遠慮するべきなのかと迷っているようだ。
一人であれこれ考え始めたフィン。レオンとソフィアの視線がかち合う。
彼の純粋な好意に応えたいところだが、今この場で答えを返すわけにはいかない。まだ式については何も話し合えていないのだ。とりあえずテキトーに話を逸らそうとソフィアが口を開こうとしたタイミングでクリスティアーノが話し始めた。
「あいにく、日にちはまだ決まっていないんだ。今はまず、会えなかった時間を埋めているところだから」
と、クリスティアーノがソフィアを見やる。ソフィアは努めて婚約者らしく見えるように照れたような仕草を意識して頷いてみせた。フィンが頬を染めて嬉しそうに二人を交互に見る。それに対して、不機嫌そうなレオン。だが、幸運なことに彼の表情の変化には誰も気づかなかった。
クリスティアーノが今度はレオンを見る。
「そうだな……式には親友であるクリスを呼ぶ予定だから、式を見るだけなら全員可能じゃないか?」
レオンが『親友』という言葉に、フィンが無事に参列できそうだと知り、目を輝かせる。
和やかな空気の中、読めない笑顔を浮かべ終始聞き手に回っている男が一人。ソフィアはちらりと彼を見た。
(……やっぱり。これって、そういうことなのかしら……)
クリスティアーノに確認したいところだが、今は無理だ。仕方ないので気持ちを切り替え、クリスティアーノに便乗する形でフィンに「ぜひ参列してくださいね」と告げる。
「はい!」という気持ちのいい返事に皆笑顔を浮かべた。
その後、まだ食事が済んでいないというレオンたちのために、バスケットの中から余った昼食を取り出し、おすそ分けすることになった。
「私が毒見を」と動こうとしたルークだったが、それよりも先にフィンが口をつける。それを見てから、レオンも食事を始めた。
食事中の会話はたわいもないものばかりで、平和そのものだった。
食後、三人のお腹が落ち着くのを待ち、皆で城へと帰る準備を始める。ふとフィンが首を傾げながらレオンを見た。
「殿下、なにしてるんですか?」
「え? あ! い、いや、なんでもないよ」
馬の側に立ち、ソフィアに視線を向けていたレオン。
(え……まさか、私を乗せるつもりだった? いや、まさかね)
ソフィアは行き同様にクリスティアーノと共に馬に乗った。
複数の視線を感じる。キラキラとした視線と、じとーっとした視線。ソフィアはどちらも無視してただまっすぐに前だけを見た。
城に到着し、馬から降りる。その時も視線を感じた。仕方なく視線の主を見ると、レオンが露骨に顔を背ける。
(拗ねた子供か! 仕方ないでしょ)
言いたいが、言えないもどかしさに耐えていると、レオンの帰りを待っていたという侍女長が現れた。
「え、マルゲリータが?」
話を聞く限り、ちょうどレオンが城を空けている間にマルゲリータが会いに来ていたらしい。約束を忘れていたのかとレオンは青ざめるが、クリスティアーノの様子を見るに、もともとそのような知らせはなかったようだ。
クリスティアーノの不在を知ったマルゲリータはすぐに帰ったと聞き、安堵の表情を浮かべるレオン。
この後、マルゲリータに手紙を書くことになったレオンとはその場で別れ、クリスティアーノに自室へと送ってもらうことになった。
ソフィアとしてはクリスティアーノにはあのままレオンのフォローに回ってもらいたかったのだが……。
「大丈夫。後で入れ替えるから」
「あ……そう」
ソフィアの心配などお見通しだったらしい。
数メートル歩いたあたりで、後ろから追いかけてくる足音を耳にした。足を止め、振り向く。てっきりレオンだと思っていたが、追いかけてきたのはフィンだった。
彼はどこか緊張した顔で「話があります」とクリスティアーノに告げた。ただならぬ空気を感じ、思わずソフィアとクリスティアーノは目配せし合う。
空き部屋へと入った三人。その判断は正しかった。
フィンからの報告内容は誰にでも聞かせられるものではなかったのだ。
「今朝、牢屋でクリスティアーノ王子殿下を襲った者たちが全員死んでいるのが確認されました」
横で聞いていたソフィアは息を呑む。
クリスティアーノは「そうか……」とだけ呟いた。
(そうか、ってまるでそうなることが分かっていたかのような反応ね)
今の反応により、ソフィアの中にあったおぼろげな疑惑が輪郭を得ていく。
「そのことを殿下には?」
とクリスティアーノが尋ねると、フィンは首を横に振った。
「先輩たちはことの詳細まで調べ終わってから殿下に報告すると」
「……この場合、ひとまず現状を報告するのが先決だと思うが?」
「自分もそう思ったのですが……。それに、休暇中の隊長にも報告する必要はないと言っていて、それも自分的には納得いかなくて……」
(それはそうでしょう)
「それで、こうして俺に判断を仰ぎにきたんだな」
「……はい」
「わかった。殿下には俺から伝えておく。俺へ報告したことについては……他の奴らには黙っていろ。いいな?」
「はい」
「もし、またなにか違和感を覚えたらすぐに俺に報告を」
「はい!」
指示を受けたことで、それまであった迷いがフィンの目から消える。
「ソフィアもこのことは……」
「わかってる。知らないフリをしておくわ」
心得ているように頷き返す。
「……ちなみに、その指示を出したのはヴィンセントか?」
クリスティアーノの問いに、フィンの顔が再び強ばる。
「……はい。今、皆をまとめているのはヴィンセント先輩なので……」
「わかった。いい判断だった」
複雑な表情を浮かべるフィンの肩をクリスティアーノが叩く。フィンは頭を下げて部屋を出て行った。
沈黙の中、ソフィアは思案しているクリスティアーノの横顔を見つめる。
「……やっぱりこの入れ替わり、相応の理由……『目的』があったのね」
クリスティアーノの顔がソフィアへと向く。目と目が合った。互いに言葉はない。どれくらい時間が経ったのか、先に音を上げたのはクリスティアーノ。
「さすがだね」
そう言って、彼は目を細め、笑みを浮かべた。
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