7 / 7
薬の効果が切れるまで後六日(2)
しおりを挟む
慌ててレオン(クリスティアーノ)を起こそうと彼の体に手を添えた時、一頭の馬が勢いよく木の間から現れた。
「っ!」
(レオン?!)
「……なにをしている?」
低い声色で険しい表情を浮かべるクリスティアーノ(レオン)。
「あ、これはその……」
「ん、もうなに? せっかく気持ちよく寝ていたのに……」
欠伸を噛み殺しながら上半身を起こすレオン(クリスティアーノ)。
それを見たクリスティアーノ(レオン)は馬から颯爽と降りると、肩をいからせながら近寄ってきた。そして、レオン(クリスティアーノ)を指さす。
「お・ま・え・な! なに人の婚約者の膝を枕にして寝てんだよ!」
「え、だって今は僕の婚約者でしょ」
「ちげえだろ! 昨日も言ったがソフィーの婚約者はお・れ・だ!」
「もーうるさいなー。膝の一つや二つ別にいいじゃないか」
「いいわけねえだろうが! おまえだって俺がお前の婚約者に膝枕してもらったらいい気にはならねえだろ?!」
その言葉でソフィアは想像してしまい、ムッと眉間に皺を寄せる。
(たしかにいい気はしないわね)
ところが、肝心のレオン(クリスティアーノ)は全く気にした様子もなく首を横に振った。
「僕は別に。してもらいたいならしてもらったら? 僕はかまわないよ。どうぞ?」
「は、はあ?! 別に俺はしてもらいたいなんて一言も言ってねえよ! 俺はただ『おまえがソフィーに膝枕されるのは気に食わねえ』ってことをわかりやすく伝えようとしただけでっ」
「へえ~嫌なんだ?」
意外だという口調に、クリスティアーノ(レオン)の眉間の皺が深くなる。
「嫌に決まってんだろ。俺だってまだしてもらったことがねえのに。『デート』の件といい、なんでおまえばっかり先に経験してんだっつーの」
「ふーん……だって、ソフィー」
「「え」」
(ちょ、ちょっと?! いきなり矛先向けないでよ!)
クリスティアーノ(レオン)と目が合い、互いの顔が赤く染まる。
「ち、ちげえからな! 俺はあくまで一般論ってやつを参考にして言っただけで……」
「わ、わかってるわよ!」
今にも意味のない応酬が始まりそうな空気の中、「はいはい」とレオン(クリスティアーノ)がストップをかけた。
「その続きは別の機会にね~。さ、二人とも口調を戻して」
「は?」
「え?」
レオン(クリスティアーノ)の言葉の意味はすぐに分かった。馬の足音が複数聞こえてくる。
「……あ。あいつらのこと忘れてた」と呟くクリスティアーノ(レオン)。ソフィアが怪訝な顔になる。
「もしかして……護衛の騎士を置いてきたんではなく、振り切ってここまで?」
「ふ、不可抗力で」
視線を泳がせるクリスティアーノ(レオン)に呆れた目を向けるソフィア。
木々の間から既視感を覚えるような登場の仕方で現れた護衛騎士二人。元気いっぱいの若手フィンと、真面目な中堅ルーク。二人ともクリスティアーノ(レオン)を目に留め、ホッと息を吐いた。
フィンがクリスティアーノ(レオン)に向かって声を上げる。
「殿下! 次からは護衛を置いて先に行くのはやめてくださいね!」
クリスティアーノ(レオン)は苦笑しながら「わかったよ」とうなずき返した。
続けて口を開いたのはルーク。
「それにしても、私は殿下がこれほどまでに馬術の腕が巧みだとは知りませんでした」
ギクリとクリスティアーノ(レオン)の顔が強張る。すかさず、レオン(クリスティアーノ)がフォローに入った。
「俺が時折、殿下に教えていたからだろうな」
その言葉にフィンの表情がパッと輝く。尊敬する眼差しでレオン(クリスティアーノ)を見た。
「さすが隊長! 休暇明けたら自分にも教えてくださいね!」
「ああ」とうなずき返すレオン(クリスティアーノ)の影に隠れ、胸を張っているクリスティアーノ(レオン)。そのことに気づいたソフィアは笑い声が漏れそうになるのをなんとか耐えた。
しかし、フィンの目が不意にソフィアに向けられる。
「そういえば、隊長とソフィア嬢の結婚式っていつなんですか?」
「「え?」」と固まったソフィアとクリスティアーノ(レオン)。
「自分、隊長の式には絶対参列したいと思っているんですよ! あ、でも出たいのは先輩たちも一緒ですよね……全員休むとなると殿下につく護衛がいなくなっちゃうから……」
自分が一番下のため、ここは遠慮するべきなのかと迷っているようだ。
一人であれこれ考え始めたフィン。クリスティアーノ(レオン)とソフィアの視線がかち合う。
彼の純粋な好意に応えたいところだが、今この場で答えを返すわけにはいかない。まだ式については何も話し合えていないのだ。とりあえずテキトーに話を逸らそうとソフィアが口を開こうとしたタイミングでレオン(クリスティアーノ)が話し始めた。
「あいにく、日にちはまだ決まっていないんだ。今はまず、会えなかった時間を埋めているところだから」
と、レオン(クリスティアーノ)がソフィアを見やる。ソフィアは努めて婚約者らしく見えるように照れたような仕草を意識して頷いてみせた。フィンが頬を染めて嬉しそうに二人を交互に見る。それに対して、不機嫌そうなクリスティアーノ(レオン)。だが、幸運なことに彼の表情の変化には誰も気づかなかった。
レオン(クリスティアーノ)が今度はクリスティアーノ(レオン)を見る。
「そうだな……式には親友であるクリスを呼ぶ予定だから、式を見るだけなら全員可能じゃないか?」
クリスティアーノ(レオン)が『親友』という言葉に、フィンが無事に参列できそうだと知り、目を輝かせる。
和やかな空気の中、読めない笑顔を浮かべ終始聞き手に回っている男が一人。ソフィアはちらりと彼を見た。
(……やっぱり。これって、そういうことなのかしら……)
クリスティアーノに確認したいところだが、今は無理だ。仕方ないので気持ちを切り替え、レオン(クリスティアーノ)に便乗する形でフィンに「ぜひ参列してくださいね」と告げる。
「はい!」という気持ちのいい返事に皆笑顔を浮かべた。
その後、まだ食事が済んでいないというクリスティアーノ(レオン)たちのために、バスケットの中から余った昼食を取り出し、おすそ分けすることになった。
「私が毒見を」と動こうとしたルークだったが、それよりも先にフィンが口をつける。それを見てから、クリスティアーノ(レオン)も食事を始めた。
食事中の会話はたわいもないものばかりで、平和そのものだった。
食後、三人のお腹が落ち着くのを待ち、皆で城へと帰る準備を始める。ふとフィンが首を傾げながらクリスティアーノ(レオン)を見た。
「殿下、なにしてるんですか?」
「え? あ! い、いや、なんでもないよ」
馬の側に立ち、ソフィアに視線を向けていたクリスティアーノ(レオン)。
(え……まさか、私を乗せるつもりだった? いや、まさかね)
ソフィアは行き同様にレオン(クリスティアーノ)と共に馬に乗った。
複数の視線を感じる。キラキラとした視線と、じとーっとした視線。ソフィアはどちらも無視してただまっすぐに前だけを見た。
城に到着し、馬から降りる。その時も視線を感じた。仕方なく視線の主を見ると、クリスティアーノ(レオン)が露骨に顔を背ける。
(拗ねた子供か! 仕方ないでしょ)
言いたいが、言えないもどかしさに耐えていると、クリスティアーノ(レオン)の帰りを待っていたという侍女長が現れた。
「え、マルゲリータが?」
話を聞く限り、ちょうどクリスティアーノ(レオン)が城を空けている間にマルゲリータが会いに来ていたらしい。約束を忘れていたのかとクリスティアーノ(レオン)は青ざめるが、レオン(クリスティアーノ)の様子を見るに、もともとそのような知らせはなかったようだ。
クリスティアーノの不在を知ったマルゲリータはすぐに帰ったと聞き、安堵の表情を浮かべるクリスティアーノ(レオン)。
この後、マルゲリータに手紙を書くことになったクリスティアーノ(レオン)とはその場で別れ、レオン(クリスティアーノ)に自室へと送ってもらうことになった。
ソフィアとしてはレオン(クリスティアーノ)にはあのままクリスティアーノ(レオン)のフォローに回ってもらいたかったのだが……。
「大丈夫。後で入れ替えるから」
「あ……そう」
ソフィアの心配などお見通しだったらしい。
数メートル歩いたあたりで、後ろから追いかけてくる足音を耳にした。足を止め、振り向く。てっきりクリスティアーノ(レオン)だと思っていたが、追いかけてきたのはフィンだった。
彼はどこか緊張した顔で「話があります」とレオン(クリスティアーノ)に告げた。ただならぬ空気を感じ、思わずソフィアとレオン(クリスティアーノ)は目配せし合う。
空き部屋へと入った三人。その判断は正しかった。
フィンからの報告内容は誰にでも聞かせられるものではなかったのだ。
「今朝、牢屋でクリスティアーノ王子殿下を襲った者たちが全員死んでいるのが確認されました」
横で聞いていたソフィアは息を呑む。
レオン(クリスティアーノ)は「そうか……」とだけ呟いた。
(そうか、ってまるでそうなることが分かっていたかのような反応ね)
今の反応により、ソフィアの中にあったおぼろげな疑惑が輪郭を得ていく。
「そのことを殿下には?」
とレオン(クリスティアーノ)が尋ねると、フィンは首を横に振った。
「先輩たちはことの詳細まで調べ終わってから殿下に報告すると」
「……この場合、ひとまず現状を報告するのが先決だと思うが?」
「自分もそう思ったのですが……。それに、休暇中の隊長にも報告する必要はないと言っていて、それも自分的には納得いかなくて……」
(それはそうでしょう)
「それで、こうして俺に判断を仰ぎにきたんだな」
「……はい」
「わかった。殿下には俺から伝えておく。俺へ報告したことについては……他の奴らには黙っていろ。いいな?」
「はい」
「もし、またなにか違和感を覚えたらすぐに俺に報告を」
「はい!」
指示を受けたことで、それまであった迷いがフィンの目から消える。
「ソフィアもこのことは……」
「わかってる。知らないフリをしておくわ」
心得ているように頷き返す。
「……ちなみに、その指示を出したのはヴィンセントか?」
レオン(クリスティアーノ)の問いに、フィンの顔が再び強ばる。
「……はい。今、皆をまとめているのはヴィンセント先輩なので……」
「わかった。いい判断だった」
複雑な表情を浮かべるフィンの肩をレオン(クリスティアーノ)が叩く。フィンは頭を下げて部屋を出て行った。
沈黙の中、ソフィアは思案しているレオン(クリスティアーノ)の横顔を見つめる。
「……やっぱりこの入れ替わり、相応の理由……『目的』があったのね」
レオン(クリスティアーノ)の顔がソフィアへと向く。目と目が合った。互いに言葉はない。どれくらい時間が経ったのか、先に音を上げたのはレオン(クリスティアーノ)。
「さすがだね」
そう言って、彼は目を細め、笑みを浮かべた。
「っ!」
(レオン?!)
「……なにをしている?」
低い声色で険しい表情を浮かべるクリスティアーノ(レオン)。
「あ、これはその……」
「ん、もうなに? せっかく気持ちよく寝ていたのに……」
欠伸を噛み殺しながら上半身を起こすレオン(クリスティアーノ)。
それを見たクリスティアーノ(レオン)は馬から颯爽と降りると、肩をいからせながら近寄ってきた。そして、レオン(クリスティアーノ)を指さす。
「お・ま・え・な! なに人の婚約者の膝を枕にして寝てんだよ!」
「え、だって今は僕の婚約者でしょ」
「ちげえだろ! 昨日も言ったがソフィーの婚約者はお・れ・だ!」
「もーうるさいなー。膝の一つや二つ別にいいじゃないか」
「いいわけねえだろうが! おまえだって俺がお前の婚約者に膝枕してもらったらいい気にはならねえだろ?!」
その言葉でソフィアは想像してしまい、ムッと眉間に皺を寄せる。
(たしかにいい気はしないわね)
ところが、肝心のレオン(クリスティアーノ)は全く気にした様子もなく首を横に振った。
「僕は別に。してもらいたいならしてもらったら? 僕はかまわないよ。どうぞ?」
「は、はあ?! 別に俺はしてもらいたいなんて一言も言ってねえよ! 俺はただ『おまえがソフィーに膝枕されるのは気に食わねえ』ってことをわかりやすく伝えようとしただけでっ」
「へえ~嫌なんだ?」
意外だという口調に、クリスティアーノ(レオン)の眉間の皺が深くなる。
「嫌に決まってんだろ。俺だってまだしてもらったことがねえのに。『デート』の件といい、なんでおまえばっかり先に経験してんだっつーの」
「ふーん……だって、ソフィー」
「「え」」
(ちょ、ちょっと?! いきなり矛先向けないでよ!)
クリスティアーノ(レオン)と目が合い、互いの顔が赤く染まる。
「ち、ちげえからな! 俺はあくまで一般論ってやつを参考にして言っただけで……」
「わ、わかってるわよ!」
今にも意味のない応酬が始まりそうな空気の中、「はいはい」とレオン(クリスティアーノ)がストップをかけた。
「その続きは別の機会にね~。さ、二人とも口調を戻して」
「は?」
「え?」
レオン(クリスティアーノ)の言葉の意味はすぐに分かった。馬の足音が複数聞こえてくる。
「……あ。あいつらのこと忘れてた」と呟くクリスティアーノ(レオン)。ソフィアが怪訝な顔になる。
「もしかして……護衛の騎士を置いてきたんではなく、振り切ってここまで?」
「ふ、不可抗力で」
視線を泳がせるクリスティアーノ(レオン)に呆れた目を向けるソフィア。
木々の間から既視感を覚えるような登場の仕方で現れた護衛騎士二人。元気いっぱいの若手フィンと、真面目な中堅ルーク。二人ともクリスティアーノ(レオン)を目に留め、ホッと息を吐いた。
フィンがクリスティアーノ(レオン)に向かって声を上げる。
「殿下! 次からは護衛を置いて先に行くのはやめてくださいね!」
クリスティアーノ(レオン)は苦笑しながら「わかったよ」とうなずき返した。
続けて口を開いたのはルーク。
「それにしても、私は殿下がこれほどまでに馬術の腕が巧みだとは知りませんでした」
ギクリとクリスティアーノ(レオン)の顔が強張る。すかさず、レオン(クリスティアーノ)がフォローに入った。
「俺が時折、殿下に教えていたからだろうな」
その言葉にフィンの表情がパッと輝く。尊敬する眼差しでレオン(クリスティアーノ)を見た。
「さすが隊長! 休暇明けたら自分にも教えてくださいね!」
「ああ」とうなずき返すレオン(クリスティアーノ)の影に隠れ、胸を張っているクリスティアーノ(レオン)。そのことに気づいたソフィアは笑い声が漏れそうになるのをなんとか耐えた。
しかし、フィンの目が不意にソフィアに向けられる。
「そういえば、隊長とソフィア嬢の結婚式っていつなんですか?」
「「え?」」と固まったソフィアとクリスティアーノ(レオン)。
「自分、隊長の式には絶対参列したいと思っているんですよ! あ、でも出たいのは先輩たちも一緒ですよね……全員休むとなると殿下につく護衛がいなくなっちゃうから……」
自分が一番下のため、ここは遠慮するべきなのかと迷っているようだ。
一人であれこれ考え始めたフィン。クリスティアーノ(レオン)とソフィアの視線がかち合う。
彼の純粋な好意に応えたいところだが、今この場で答えを返すわけにはいかない。まだ式については何も話し合えていないのだ。とりあえずテキトーに話を逸らそうとソフィアが口を開こうとしたタイミングでレオン(クリスティアーノ)が話し始めた。
「あいにく、日にちはまだ決まっていないんだ。今はまず、会えなかった時間を埋めているところだから」
と、レオン(クリスティアーノ)がソフィアを見やる。ソフィアは努めて婚約者らしく見えるように照れたような仕草を意識して頷いてみせた。フィンが頬を染めて嬉しそうに二人を交互に見る。それに対して、不機嫌そうなクリスティアーノ(レオン)。だが、幸運なことに彼の表情の変化には誰も気づかなかった。
レオン(クリスティアーノ)が今度はクリスティアーノ(レオン)を見る。
「そうだな……式には親友であるクリスを呼ぶ予定だから、式を見るだけなら全員可能じゃないか?」
クリスティアーノ(レオン)が『親友』という言葉に、フィンが無事に参列できそうだと知り、目を輝かせる。
和やかな空気の中、読めない笑顔を浮かべ終始聞き手に回っている男が一人。ソフィアはちらりと彼を見た。
(……やっぱり。これって、そういうことなのかしら……)
クリスティアーノに確認したいところだが、今は無理だ。仕方ないので気持ちを切り替え、レオン(クリスティアーノ)に便乗する形でフィンに「ぜひ参列してくださいね」と告げる。
「はい!」という気持ちのいい返事に皆笑顔を浮かべた。
その後、まだ食事が済んでいないというクリスティアーノ(レオン)たちのために、バスケットの中から余った昼食を取り出し、おすそ分けすることになった。
「私が毒見を」と動こうとしたルークだったが、それよりも先にフィンが口をつける。それを見てから、クリスティアーノ(レオン)も食事を始めた。
食事中の会話はたわいもないものばかりで、平和そのものだった。
食後、三人のお腹が落ち着くのを待ち、皆で城へと帰る準備を始める。ふとフィンが首を傾げながらクリスティアーノ(レオン)を見た。
「殿下、なにしてるんですか?」
「え? あ! い、いや、なんでもないよ」
馬の側に立ち、ソフィアに視線を向けていたクリスティアーノ(レオン)。
(え……まさか、私を乗せるつもりだった? いや、まさかね)
ソフィアは行き同様にレオン(クリスティアーノ)と共に馬に乗った。
複数の視線を感じる。キラキラとした視線と、じとーっとした視線。ソフィアはどちらも無視してただまっすぐに前だけを見た。
城に到着し、馬から降りる。その時も視線を感じた。仕方なく視線の主を見ると、クリスティアーノ(レオン)が露骨に顔を背ける。
(拗ねた子供か! 仕方ないでしょ)
言いたいが、言えないもどかしさに耐えていると、クリスティアーノ(レオン)の帰りを待っていたという侍女長が現れた。
「え、マルゲリータが?」
話を聞く限り、ちょうどクリスティアーノ(レオン)が城を空けている間にマルゲリータが会いに来ていたらしい。約束を忘れていたのかとクリスティアーノ(レオン)は青ざめるが、レオン(クリスティアーノ)の様子を見るに、もともとそのような知らせはなかったようだ。
クリスティアーノの不在を知ったマルゲリータはすぐに帰ったと聞き、安堵の表情を浮かべるクリスティアーノ(レオン)。
この後、マルゲリータに手紙を書くことになったクリスティアーノ(レオン)とはその場で別れ、レオン(クリスティアーノ)に自室へと送ってもらうことになった。
ソフィアとしてはレオン(クリスティアーノ)にはあのままクリスティアーノ(レオン)のフォローに回ってもらいたかったのだが……。
「大丈夫。後で入れ替えるから」
「あ……そう」
ソフィアの心配などお見通しだったらしい。
数メートル歩いたあたりで、後ろから追いかけてくる足音を耳にした。足を止め、振り向く。てっきりクリスティアーノ(レオン)だと思っていたが、追いかけてきたのはフィンだった。
彼はどこか緊張した顔で「話があります」とレオン(クリスティアーノ)に告げた。ただならぬ空気を感じ、思わずソフィアとレオン(クリスティアーノ)は目配せし合う。
空き部屋へと入った三人。その判断は正しかった。
フィンからの報告内容は誰にでも聞かせられるものではなかったのだ。
「今朝、牢屋でクリスティアーノ王子殿下を襲った者たちが全員死んでいるのが確認されました」
横で聞いていたソフィアは息を呑む。
レオン(クリスティアーノ)は「そうか……」とだけ呟いた。
(そうか、ってまるでそうなることが分かっていたかのような反応ね)
今の反応により、ソフィアの中にあったおぼろげな疑惑が輪郭を得ていく。
「そのことを殿下には?」
とレオン(クリスティアーノ)が尋ねると、フィンは首を横に振った。
「先輩たちはことの詳細まで調べ終わってから殿下に報告すると」
「……この場合、ひとまず現状を報告するのが先決だと思うが?」
「自分もそう思ったのですが……。それに、休暇中の隊長にも報告する必要はないと言っていて、それも自分的には納得いかなくて……」
(それはそうでしょう)
「それで、こうして俺に判断を仰ぎにきたんだな」
「……はい」
「わかった。殿下には俺から伝えておく。俺へ報告したことについては……他の奴らには黙っていろ。いいな?」
「はい」
「もし、またなにか違和感を覚えたらすぐに俺に報告を」
「はい!」
指示を受けたことで、それまであった迷いがフィンの目から消える。
「ソフィアもこのことは……」
「わかってる。知らないフリをしておくわ」
心得ているように頷き返す。
「……ちなみに、その指示を出したのはヴィンセントか?」
レオン(クリスティアーノ)の問いに、フィンの顔が再び強ばる。
「……はい。今、皆をまとめているのはヴィンセント先輩なので……」
「わかった。いい判断だった」
複雑な表情を浮かべるフィンの肩をレオン(クリスティアーノ)が叩く。フィンは頭を下げて部屋を出て行った。
沈黙の中、ソフィアは思案しているレオン(クリスティアーノ)の横顔を見つめる。
「……やっぱりこの入れ替わり、相応の理由……『目的』があったのね」
レオン(クリスティアーノ)の顔がソフィアへと向く。目と目が合った。互いに言葉はない。どれくらい時間が経ったのか、先に音を上げたのはレオン(クリスティアーノ)。
「さすがだね」
そう言って、彼は目を細め、笑みを浮かべた。
11
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
P.S. 推し活に夢中ですので、返信は不要ですわ
汐瀬うに
恋愛
アルカナ学院に通う伯爵令嬢クラリスは、幼い頃から婚約者である第一王子アルベルトと共に過ごしてきた。しかし彼は言葉を尽くさず、想いはすれ違っていく。噂、距離、役割に心を閉ざしながらも、クラリスは自分の居場所を見つけて前へ進む。迎えたプロムの夜、ようやく言葉を選び、追いかけてきたアルベルトが告げたのは――遅すぎる本心だった。
※こちらの作品はカクヨム・アルファポリス・小説家になろうに並行掲載しています。
王太子妃は離婚したい
凛江
恋愛
アルゴン国の第二王女フレイアは、婚約者であり、幼い頃より想いを寄せていた隣国テルルの王太子セレンに嫁ぐ。
だが、期待を胸に臨んだ婚姻の日、待っていたのは夫セレンの冷たい瞳だった。
※この作品は、読んでいただいた皆さまのおかげで書籍化することができました。
綺麗なイラストまでつけていただき感無量です。
これまで応援いただき、本当にありがとうございました。
レジーナのサイトで番外編が読めますので、そちらものぞいていただけると嬉しいです。
https://www.regina-books.com/extra/login
婚約者のいる運命の番はやめた方が良いですよね?!
水鈴みき(みすずみき)
恋愛
結婚に恋焦がれる凡庸な伯爵令嬢のメアリーは、古来より伝わる『運命の番』に出会ってしまった!けれど彼にはすでに婚約者がいて、メアリーとは到底釣り合わない高貴な身の上の人だった。『運命の番』なんてすでに御伽噺にしか存在しない世界線。抗えない魅力を感じつつも、すっぱりきっぱり諦めた方が良いですよね!?
※他サイトにも投稿しています※タグ追加あり
逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?
魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。
彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。
国外追放の系に処された。
そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。
新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。
しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。
夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。
ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。
そして学校を卒業したら大陸中を巡る!
そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、
鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……?
「君を愛している」
一体なにがどうなってるの!?
【完結】没交渉の婚約者より、図書館で会った人の方が素敵でした
ぽぽよ
恋愛
レイチェルには、十年間一度も会ったことのない婚約者がいた。
名前しか知らない、奇妙な婚約。
ある日、図書館で出会った男性に、レイチェルは心を奪われる。
穏やかで優しい彼に惹かれていくが、レイチェルには婚約者がいた――
見た目だけでは分からない、本当に大切なものとは?
すれ違いを描く、短編ラブストーリー。
ショートショート全5話。
公爵家の養女
透明
恋愛
リーナ・フォン・ヴァンディリア
彼女はヴァンディリア公爵家の養女である。
見目麗しいその姿を見て、人々は〝公爵家に咲く一輪の白薔薇〟と評した。
彼女は良くも悪くも常に社交界の中心にいた。
そんな彼女ももう時期、結婚をする。
数多の名家の若い男が彼女に思いを寄せている中、選ばれたのはとある伯爵家の息子だった。
美しき公爵家の白薔薇も、いよいよ人の者になる。
国中ではその話題で持ちきり、彼女に思いを寄せていた男たちは皆、胸を痛める中「リーナ・フォン・ヴァンディリア公女が、盗賊に襲われ逝去された」と伝令が響き渡る。
リーナの死は、貴族たちの関係を大いに揺るがし、一日にして国中を混乱と悲しみに包み込んだ。
そんな事も知らず何故か森で殺された彼女は、自身の寝室のベッドの上で目を覚ましたのだった。
愛に憎悪、帝国の闇
回帰した直後のリーナは、それらが自身の運命に絡んでくると言うことは、この時はまだ、夢にも思っていなかったのだった――
※毎朝8時10分投稿です。
小説家になろう様でも掲載しております。
口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く
ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。
逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。
「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」
誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。
「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」
だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。
妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。
ご都合主義満載です!
私が行方不明の皇女です~生死を彷徨って帰国したら信じていた初恋の従者は婚約してました~
marumi
恋愛
「あら アルヴェイン公爵がドゥーカス令嬢をエスコートされていますわ」
「ご婚約されたと噂を聞きましたが、まさか本当だとは!」
私は五年前までこの国の皇女エリシアだった。
暗殺事件に巻き込まれ、幼なじみで初恋の相手だった従者――アルヴェイン公子と共に命からがら隣国、エルダールへ亡命した。
彼の「必ず迎えに来る」その言葉を信じて、隣国の地で彼を待ち続けた……。
それなのに……。
やっとの思いで帰国した帝国の華やかなパーティー会場で、一際目立っているのは、彼と、社交界の華と言われる令嬢だった――。
※校正にAIを使用していますが、自身で考案したオリジナル小説です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる