22 / 70
第二十二話
しおりを挟む
歌を歌え。急に、そう言われた。歌なんか、一度も歌ったことがないのに。他の少女たちが、思いついたように聴き馴染みのある童歌を口ずさんだ。皆、驚くほどに綺麗な声をしていた。それを聴いた私は、異様に焦る。歌わなければならない。しかも、彪林殿の前で、だ。声すら、出せる自信はなかった。
「お前たち、まるで子鳥のさえずりのように美しい声だな。見込みがある」
彪林殿が、笑う。それから私の方をちらりと見て、
「龍翠。お前は?」
と言った。
「……」
柊麗の麓の村で、王礼が歌っていた歌を思い出す。最初の、歌詞を歌ってみた。……歌ってみた、か。見事に、声が裏返る。それを聴いた他の少女たちが、堪えきれずに吹き出した。顔が、みるみるうちに熱みを帯びてくる。
「……お前は、ちょっと」
彪林殿が、下を向いた。ちょっと。ちょっと、なんなのだ。はっきりと、言ってほしい。いや、言わなくてもわかる。下手すぎる、と言いたいのだろう。馬鹿だ、と思った。復讐と呪いのことばかりで、自分が芸をするということについて何も考えていなかった自分を、心から恥じた。
「……すみません……」
俯く。彪林殿が、私に「立て」と言った。びくりとして、私は立ち上がる。
「お前たちは、好きなように練習しておけ」
そう言うと、彪林殿は私の手首を掴んで部屋を出た。手が、触れている。ふと、兄者の手を思い出した。兄者よりもずっと冷たくて、こわい掴み方だ、と思った。
「龍翠。お前、何故芸人になりたいと思った?」
──説教だ。喉が、詰まったように息が出来なくなる。何故。理由など、考えていない。
「……昔、この一座の興行を見たことがあるのです。それで、自分もああなりたいと思って……」
「本当に?」
半分、嘘です。思うも、それだけは言ってはいけない、と考え直す。結局、何も言えなかった。しばらくの、沈黙が流れる。
「やる気があるのか、貴様?」
ぐさり、と心臓を貫かれたような気分になる。貴様。貴様、と呼ばれた。
「……その」
「おかしいな。扈珀からは、『歌の上手な娘たちがくる』と聞いていたのだが。育ちが良くて、顔も綺麗で、仕草も女らしく、可愛げがある。そんな子ばかりだと、聞いていたのだがな」
だんだん、傷つくを通り越して、腹立たしくなってきた。腸が、くつくつと煮えくり返るような思いに駆られる。それでも、私は表情を動かさなかった。
「私は、飛び入りのようなものなので」
「それを言い訳にするか。お前など、用心棒どもの慰みものぐらいがちょうどいいだろう。そうだ。相手は李順や鄭義はどうだ。芸人にも、用心棒にもなれなかった哀れな二人だ」
心を、無にした。何か別のことを考えよう、と思った。兄者。兄者が、墨を派手にこぼして、私の着物を汚した時のこと。
「なんでお前みたいなやつを、扈珀は許したんだろうな。本当に、意味がわからない。まともに笑わないし、愛想もない。俺を誰だと思っている。笑いかけられたら、微笑みを返す。常識だろ」
確か、三日間は私の言うことをぜんぶ聞く、という約束をして、たくさんお菓子を奢ってもらったんだった。それから、私のことを様付けで呼ばせた。
「聞いてるのか、愚図。ああ、腹が立ってきた。お前、笑うこともできない人形なのか。俺は、そういう態度の悪い女は嫌いだな」
……嫌味を言われている。確かに、自分にも非がある。それでも、彪林殿に対して抱いていた想いが、少しずつ冷めていくのがわかった。冷めていく、か。あまりいい気分は、しない。
──ふん。恋の、熱情など。冷めてしまって、構わないのだった。むしろ、その方がいいのだ。私には、他に……知らなければ、ならないことがある。
彪林殿の声は、罵声とはいえ、やはり美しい。
*
「ねえ、龍翠。あなた、歌の練習だけじゃなくって、笑う練習もたくさんしなきゃならないのよね。かわいそうに」
少女のひとりが、きゃははと笑った。私は、唇を固く結んだ。絶対に笑うものか、と思いながら。少女たちが、嬉嬉として彪林殿のもとへ行く。付けられる稽古は、とことん甘いようだった。
彪林殿に稽古をつけられても、上達しないと思った。褒めてばかりで、ただのお遊びのように思えてくるのだ。彪林殿は、私を見なかった。見ても、見て見ぬふりをするだけで、すぐに他の少女たちの方へ目をやる。練習の、仕様がなかった。私は、少女たちとどこが違うのだろうか。そう思い、じっくりと少女たちを監察して、諦める。復讐のことが忘れられない限り、あのように華々しくなれない、と気付いた。笑いたくても、笑えない。無邪気な笑顔など、私は忘れてしまったのだ。
でも、さすがにこのままではまずい、と思い始めてきた。目立つ目立たないはさておいて、私はここに何がなんでも残らなければならないのだ。じっくりと時をかけなければ、紅隆は殺せない。
彪林殿の所へは行かず、喉を悪くしてしまったという芸人の女のもとへ赴いた。女の名は、明淑と言った。もうじきここを出ていくつもりらしく、部屋にはいくつかの荷物がまとめて置かれてあった。
「明淑さん。どうしたら、歌を上手に歌えるのでしょうか」
嗄れた声で、明淑さんが言う。
「あなた、元の声質はそんなに悪くないと思うの。今まで歌、歌ったことあるかしら?」
「いえ、ほとんど」
「なら、練習するに尽きるわね。本当に、練習がすべてよ。彪林なんかに構わず、ひとりで練習を重ねなさい。そしたら、いつか認めてくれると思うわ」
明淑さんが、今ここでお手本を見せてあげられたらねえ、と悲しそうに笑う。手本、か。確かに、手本もなにもない中で、歌を練習しろと言われるのは少々理不尽なことだと思った。
「そうだ。白藍殿なら、歌も少し歌えるわ。女らしい仕草とか、喋り方とか、そういうのも白藍殿に習いなさい。私はもうすぐ、ここを出ていかなければならないから」
「……わかりました」
白藍。まだ、会って話したことはない。
「頑張りなさい、龍翠。とにかく、おどおどしていちゃ駄目。堂々と、声高らかに歌うのよ。音程なんか、その後で合わせていけばいいんだから」
明淑さんが、咳き込む。しばらくの間言葉を交わし、私はありがとうございますと頭を下げて、そっと部屋から出ていった。
「──龍翠」
廊下に立ち塞がる、彪林殿。かなり、怒っている。その表情に気圧されそうになるも、私は決して彼から目を逸らさなかった。
「……なんでしょうか」
「お前、何故俺の元に来ない」
「明淑さんのところへ、歌を習いに行っていたのです。今ちょうど、彪林殿のもとへ行こうとしていました」
「なんの知らせもなく、約束の時間に遅れてくるとはいい度胸だな。そんなに俺と会うのが、嫌か」
「いえ……」
「早く、来い」
渋々、彪林殿についていく。なんだ、普段は私の事は放ったらかしのくせに。部屋の中で、少女たちが談笑していた。彪林殿を見て、失礼しましたと言い歌を歌い始める。耳に絡んでくるような甘ったるい声が、私には鬱陶しかった。僻み、だろうか。そんな自分も、十分に醜い。
「お前、明淑のところへ行くくらいなら、俺が格別厳しい稽古をつけてやろうか。出来損ないだものな」
彪林殿が、皮肉な笑みを浮かべた。昔見た笑顔よりも、ずっと──やめよう。昔と比べるのは、やめにしよう。
「……稽古をつけていただけるのであれば、是非」
低い声で、私はそう呟く。厳しい、だから何だ。無視されるより、ずっといいじゃないか。
彪林殿は、手に木の棒を取って、私の目の前にかざした。すん、と腹の底が冷たくなるような感覚を覚える。
「容赦は、しないぞ」
そう言った声の低さが、私の背筋に寒気を走らせた。
*
痛いのは、嫌だった。だから、歌おうとした。それなのに、声が思ったように出ない。出せなかった。その度に、彪林殿は私を打った。痛みで、頭がくらくらして、泣きそうになる度に、私は唇を強く噛んだ。稽古の時の口の中は、常に鉄の味がしていた。憎悪に満ちた自分の体が、また違う憎しみで溢れそうで、それがまた怖かった。
それでも、彪林殿は、私を見ている。
いや、私しか、見ていないのだろうか。
稽古の時は、いつもこわい顔をして、私と向き合うようになった。それは、赫連先生との呪いの稽古を私に思い出させた。結構な痛みが伴うが、そう思うと楽勝だと感じた。私も、同じだけ彪林殿に向き合えばいいのだ。声を、出す。音なんか、外れたってかまわない。最初は、私が音を外す度に笑っていた少女の顔も、だんだん虚無の色を帯びてくるようになった。彪林殿が、私とばかり向き合っていることに、さすがに戸惑いを覚えたらしい。いかにも所在なさげに歌の練習をしている少女たちの目線が、時々痛々しくに自分の肌に刺さってくる。が、気にもとめなかった。
私は、彪林殿と──自分と、向き合っている。この場所で、目的を果たすまで、生き抜く為に。私は、強くならなければならない。先生の、呪いの稽古にも耐えたのだ。ひとりで、野山を駆け回ったりもした。私は、柊麗で、強くなった。このくらい、どうってことはない。声が、顔が甘いだけの少女たちより、私は、ずっと、ずっと──。
声を、上げた。叫ぶ、とは違う。高く、澄んだ様な声を上げるのだ。黒く染まった心を、美しく塗り替える。表面、だけでも。喋る時は、少し声を高くした。表情を、なるべく柔らかくしようと練習した。寒い中、外に出て歌った。まだ声音が硬いと言われ、彪林殿に川に突き落された。水の中に、一瞬だけ喬の顔を見たような気がした。
自分の心は、強くなっているのだろうか。それとも、単に麻痺しているだけなのか。全くもって、わからなかった。わかる必要はない、と思った。
「お前たち、まるで子鳥のさえずりのように美しい声だな。見込みがある」
彪林殿が、笑う。それから私の方をちらりと見て、
「龍翠。お前は?」
と言った。
「……」
柊麗の麓の村で、王礼が歌っていた歌を思い出す。最初の、歌詞を歌ってみた。……歌ってみた、か。見事に、声が裏返る。それを聴いた他の少女たちが、堪えきれずに吹き出した。顔が、みるみるうちに熱みを帯びてくる。
「……お前は、ちょっと」
彪林殿が、下を向いた。ちょっと。ちょっと、なんなのだ。はっきりと、言ってほしい。いや、言わなくてもわかる。下手すぎる、と言いたいのだろう。馬鹿だ、と思った。復讐と呪いのことばかりで、自分が芸をするということについて何も考えていなかった自分を、心から恥じた。
「……すみません……」
俯く。彪林殿が、私に「立て」と言った。びくりとして、私は立ち上がる。
「お前たちは、好きなように練習しておけ」
そう言うと、彪林殿は私の手首を掴んで部屋を出た。手が、触れている。ふと、兄者の手を思い出した。兄者よりもずっと冷たくて、こわい掴み方だ、と思った。
「龍翠。お前、何故芸人になりたいと思った?」
──説教だ。喉が、詰まったように息が出来なくなる。何故。理由など、考えていない。
「……昔、この一座の興行を見たことがあるのです。それで、自分もああなりたいと思って……」
「本当に?」
半分、嘘です。思うも、それだけは言ってはいけない、と考え直す。結局、何も言えなかった。しばらくの、沈黙が流れる。
「やる気があるのか、貴様?」
ぐさり、と心臓を貫かれたような気分になる。貴様。貴様、と呼ばれた。
「……その」
「おかしいな。扈珀からは、『歌の上手な娘たちがくる』と聞いていたのだが。育ちが良くて、顔も綺麗で、仕草も女らしく、可愛げがある。そんな子ばかりだと、聞いていたのだがな」
だんだん、傷つくを通り越して、腹立たしくなってきた。腸が、くつくつと煮えくり返るような思いに駆られる。それでも、私は表情を動かさなかった。
「私は、飛び入りのようなものなので」
「それを言い訳にするか。お前など、用心棒どもの慰みものぐらいがちょうどいいだろう。そうだ。相手は李順や鄭義はどうだ。芸人にも、用心棒にもなれなかった哀れな二人だ」
心を、無にした。何か別のことを考えよう、と思った。兄者。兄者が、墨を派手にこぼして、私の着物を汚した時のこと。
「なんでお前みたいなやつを、扈珀は許したんだろうな。本当に、意味がわからない。まともに笑わないし、愛想もない。俺を誰だと思っている。笑いかけられたら、微笑みを返す。常識だろ」
確か、三日間は私の言うことをぜんぶ聞く、という約束をして、たくさんお菓子を奢ってもらったんだった。それから、私のことを様付けで呼ばせた。
「聞いてるのか、愚図。ああ、腹が立ってきた。お前、笑うこともできない人形なのか。俺は、そういう態度の悪い女は嫌いだな」
……嫌味を言われている。確かに、自分にも非がある。それでも、彪林殿に対して抱いていた想いが、少しずつ冷めていくのがわかった。冷めていく、か。あまりいい気分は、しない。
──ふん。恋の、熱情など。冷めてしまって、構わないのだった。むしろ、その方がいいのだ。私には、他に……知らなければ、ならないことがある。
彪林殿の声は、罵声とはいえ、やはり美しい。
*
「ねえ、龍翠。あなた、歌の練習だけじゃなくって、笑う練習もたくさんしなきゃならないのよね。かわいそうに」
少女のひとりが、きゃははと笑った。私は、唇を固く結んだ。絶対に笑うものか、と思いながら。少女たちが、嬉嬉として彪林殿のもとへ行く。付けられる稽古は、とことん甘いようだった。
彪林殿に稽古をつけられても、上達しないと思った。褒めてばかりで、ただのお遊びのように思えてくるのだ。彪林殿は、私を見なかった。見ても、見て見ぬふりをするだけで、すぐに他の少女たちの方へ目をやる。練習の、仕様がなかった。私は、少女たちとどこが違うのだろうか。そう思い、じっくりと少女たちを監察して、諦める。復讐のことが忘れられない限り、あのように華々しくなれない、と気付いた。笑いたくても、笑えない。無邪気な笑顔など、私は忘れてしまったのだ。
でも、さすがにこのままではまずい、と思い始めてきた。目立つ目立たないはさておいて、私はここに何がなんでも残らなければならないのだ。じっくりと時をかけなければ、紅隆は殺せない。
彪林殿の所へは行かず、喉を悪くしてしまったという芸人の女のもとへ赴いた。女の名は、明淑と言った。もうじきここを出ていくつもりらしく、部屋にはいくつかの荷物がまとめて置かれてあった。
「明淑さん。どうしたら、歌を上手に歌えるのでしょうか」
嗄れた声で、明淑さんが言う。
「あなた、元の声質はそんなに悪くないと思うの。今まで歌、歌ったことあるかしら?」
「いえ、ほとんど」
「なら、練習するに尽きるわね。本当に、練習がすべてよ。彪林なんかに構わず、ひとりで練習を重ねなさい。そしたら、いつか認めてくれると思うわ」
明淑さんが、今ここでお手本を見せてあげられたらねえ、と悲しそうに笑う。手本、か。確かに、手本もなにもない中で、歌を練習しろと言われるのは少々理不尽なことだと思った。
「そうだ。白藍殿なら、歌も少し歌えるわ。女らしい仕草とか、喋り方とか、そういうのも白藍殿に習いなさい。私はもうすぐ、ここを出ていかなければならないから」
「……わかりました」
白藍。まだ、会って話したことはない。
「頑張りなさい、龍翠。とにかく、おどおどしていちゃ駄目。堂々と、声高らかに歌うのよ。音程なんか、その後で合わせていけばいいんだから」
明淑さんが、咳き込む。しばらくの間言葉を交わし、私はありがとうございますと頭を下げて、そっと部屋から出ていった。
「──龍翠」
廊下に立ち塞がる、彪林殿。かなり、怒っている。その表情に気圧されそうになるも、私は決して彼から目を逸らさなかった。
「……なんでしょうか」
「お前、何故俺の元に来ない」
「明淑さんのところへ、歌を習いに行っていたのです。今ちょうど、彪林殿のもとへ行こうとしていました」
「なんの知らせもなく、約束の時間に遅れてくるとはいい度胸だな。そんなに俺と会うのが、嫌か」
「いえ……」
「早く、来い」
渋々、彪林殿についていく。なんだ、普段は私の事は放ったらかしのくせに。部屋の中で、少女たちが談笑していた。彪林殿を見て、失礼しましたと言い歌を歌い始める。耳に絡んでくるような甘ったるい声が、私には鬱陶しかった。僻み、だろうか。そんな自分も、十分に醜い。
「お前、明淑のところへ行くくらいなら、俺が格別厳しい稽古をつけてやろうか。出来損ないだものな」
彪林殿が、皮肉な笑みを浮かべた。昔見た笑顔よりも、ずっと──やめよう。昔と比べるのは、やめにしよう。
「……稽古をつけていただけるのであれば、是非」
低い声で、私はそう呟く。厳しい、だから何だ。無視されるより、ずっといいじゃないか。
彪林殿は、手に木の棒を取って、私の目の前にかざした。すん、と腹の底が冷たくなるような感覚を覚える。
「容赦は、しないぞ」
そう言った声の低さが、私の背筋に寒気を走らせた。
*
痛いのは、嫌だった。だから、歌おうとした。それなのに、声が思ったように出ない。出せなかった。その度に、彪林殿は私を打った。痛みで、頭がくらくらして、泣きそうになる度に、私は唇を強く噛んだ。稽古の時の口の中は、常に鉄の味がしていた。憎悪に満ちた自分の体が、また違う憎しみで溢れそうで、それがまた怖かった。
それでも、彪林殿は、私を見ている。
いや、私しか、見ていないのだろうか。
稽古の時は、いつもこわい顔をして、私と向き合うようになった。それは、赫連先生との呪いの稽古を私に思い出させた。結構な痛みが伴うが、そう思うと楽勝だと感じた。私も、同じだけ彪林殿に向き合えばいいのだ。声を、出す。音なんか、外れたってかまわない。最初は、私が音を外す度に笑っていた少女の顔も、だんだん虚無の色を帯びてくるようになった。彪林殿が、私とばかり向き合っていることに、さすがに戸惑いを覚えたらしい。いかにも所在なさげに歌の練習をしている少女たちの目線が、時々痛々しくに自分の肌に刺さってくる。が、気にもとめなかった。
私は、彪林殿と──自分と、向き合っている。この場所で、目的を果たすまで、生き抜く為に。私は、強くならなければならない。先生の、呪いの稽古にも耐えたのだ。ひとりで、野山を駆け回ったりもした。私は、柊麗で、強くなった。このくらい、どうってことはない。声が、顔が甘いだけの少女たちより、私は、ずっと、ずっと──。
声を、上げた。叫ぶ、とは違う。高く、澄んだ様な声を上げるのだ。黒く染まった心を、美しく塗り替える。表面、だけでも。喋る時は、少し声を高くした。表情を、なるべく柔らかくしようと練習した。寒い中、外に出て歌った。まだ声音が硬いと言われ、彪林殿に川に突き落された。水の中に、一瞬だけ喬の顔を見たような気がした。
自分の心は、強くなっているのだろうか。それとも、単に麻痺しているだけなのか。全くもって、わからなかった。わかる必要はない、と思った。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。
すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。
だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。
イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。
変わり果てた現実を前に、
夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。
深い後悔と悲しみに苛まれながら、
失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。
しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。
贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。
そして、母の心を知っていく子供たち。
イネスが求める愛とは、
そして、幸せとは――。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる