プロンプト一行分のミステリ――ChatGPTに「ミステリ小説を書いて」と言っただけの小説

髙橋P.モンゴメリー

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プロンプト一行分のミステリ――ChatGPTに「ミステリ小説を書いて」と言っただけの小説

第1話 ChatGPTにミステリ小説を書いてと言っただけの小説

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登場人物(ざっくり)



僕(成瀬 湊・なるせ みなと)

28歳。コンビニ夜勤とWebライターの副業をしながら、小説投稿サイトに細々と投稿している。



如月 遥(きさらぎ はる)

高校時代の同級生。ミステリ研究会のメンバー。十年前の卒業間際に「失踪」した。



黒川 由利(くろかわ ゆり)

成瀬の高校時代の後輩。今は図書館司書。遥の行方をずっと気にしている。



AI「キャプテン」

成瀬が深夜に呼び出しているチャットAI。物語の中ではサービス名をぼかして「チャットAI」と呼ばれることが多い。



プロローグ チャットログ



僕:

 ミステリ小説を書いて。



AI:

 了解しました。

 舞台や登場人物、雰囲気など、ご希望はありますか?



僕:

 なんでもいい。とにかく、続きを読みたくなるやつ。

 あと、できれば、

 「図書室で消えた少女」の話にしてほしい。



AI:

 わかりました。

 では以下のような導入はいかがでしょう。



 ――二月の図書室で、如月遥は消えた。

 最後に残されていたのは、一冊のミステリ小説と、

 「わたしはちゃんと犯人を知っている」というメモだけだった。



僕:

 ……ちょっと待って。

 その名前、どこから出てきた?



AI:

 「如月遥」という名前は、

 一般的な日本人名の一例として生成しました。

 何か問題がありましたか?



画面をスクロールする僕の指先が、そこで止まった。



問題なんて、山ほどある。



十年前の二月、僕の高校の図書室から、本当に一人の女子生徒が「消えた」のだ。

その名前も、その季節も、

そして「ミステリ小説とメモだけが残されていた」という状況も――

まるで、あのときの出来事をそのまま引用したみたいに。



僕:

 ……この話、書いてみようか。



その夜、僕は知らないふりをして、

AIが提案した導入に「続き」を要求し続けた。



十年前、図書室で消えた如月遥。

そして今、チャット画面の向こうから

彼女の名前を呼び戻した、正体不明のアルゴリズム。



ミステリ小説を書いてほしいと言っただけのはずが、

これはどうやら、

僕自身の「失踪事件」の続きを書かされる話になるらしい。



第一章 AIに小説を書かせる夜



コンビニの夜勤明け、午前四時半のキッチンは、

電子レンジの低い唸り声と、ドリップコーヒーのしょぼしょぼした香りだけが漂っていた。



「今日も負けたねえ」



ため息と一緒に、つぶやきが漏れる。

何に負けたのかと言えば、小説投稿サイトのPVランキングだ。

昨夜アップした短編は、閲覧数わずか「7」。

そのうちの5は自分だと分かっているから、実質2人。

たった2人が読んでくれたと思えばありがたいはずなのに、

数字で突きつけられると、どうしても「負け」の気分になる。



マグカップをテーブルに置いて、

ノートパソコンを開く。

起動音とともに、薄暗い部屋に白い光が広がった。



デスクトップには、いくつもの「未完_1」「未完_2」「未完_final」といった不穏な名前のフォルダが並び、

その隙間に、ひときわ目立つアイコンがひとつ。



「チャットAI」



最近、使い始めたばかりのサービス。

ニュースで見たときは、「またすごいのが出たな」と他人事だった。

でも一度試してしまえば最後、

プロット作りも、設定の穴埋めも、

ちょっとした言い回しの相談も、

気づけば全部、この画面の奥に丸投げするようになっていった。



「……よし」



僕は深く息を吐き、AIを呼び出す。



僕:

 おはよう。まだ起きてる?



AI:

 いつでもお話しできます。

 おはようございます。

 本日はどのようなお手伝いをしましょうか。



画面の向こうでは、誰かが眠らずに待っている。

それがコードの塊だと分かっていても、

「いつでも」という返事には、妙な安心感があった。



今夜――いや、暦の上ではもう「今朝」だけど――

僕がしたいことは決まっている。



僕:

 ミステリ小説を書きたい。

 でも、アイデアが出ない。

 導入を書いてほしい。



AI:

 かしこまりました。

 いくつか確認させてください。

 舞台(学校、地方都市、ネット上など)や、

 扱いたいテーマ(失踪、密室、入れ替わり、記憶など)はありますか?



「なんでもいい」

そう打ち込もうとして、指を止めた。



なんでもいいから、ずっと「なんにも完成しなかった」のかもしれない。

そう考えた途端、少しだけ意地が出る。



僕:

 じゃあ……

 舞台は地方都市の高校。

 テーマは「失踪」。

 図書室から、1人の女子生徒が消える話にして。

 ただし、誰も死なないでほしい。



AI:

 了解しました。

 では、以下のような導入をご提案します。



数秒の沈黙のあと、

画面に文字が流れ出す。



 二月の終わり、放課後の図書室で、如月遥は消えた。

 最後に彼女を見たと証言したのは、

 窓際の席でミステリ小説を読んでいた一人の男子生徒だけだった。

 彼の前の机には、一冊の本と、

 「わたしはちゃんと犯人を知っている」という走り書きのメモ。

 それが、如月遥の「最後のメッセージ」だと、

 学校中の誰もが信じていた。



マグカップを持ち上げる指先が、そこでぴたりと止まる。



如月遥。

二月の終わり。

図書室。

ミステリ小説。

「犯人を知っている」というメモ。



十年前の記憶が、

ほこりをかぶった段ボールみたいに、一気にひっくり返る。



高校三年の二月、

僕の通っていた県立高校の図書室で、本当に一人の女子生徒が「いなくなった」。



名前は――如月遥。



そして、

彼女の席に残されていたのは、

たしかに、一冊のミステリ小説と、

短いメモだけだった。



「わたしは、ちゃんと知っているよ」



当時の警察は、「家出の可能性が高い」と言った。

メディアが来るほど大きな事件にはならなかったが、

校内はしばらくざわついていた。

彼女の家族は転校したと噂され、

卒業アルバムには、遥の顔写真だけが載っていなかった。



それから十年。

僕はあの事件を、

「よくある行方不明事件のひとつ」として

ほとんど封印していたはずだった。



なのに、どうして。



僕:

 ねえ。

 その「如月遥」って名前、

 本当に適当に出してきた?



AI:

 「如月」は二月を連想させる苗字として、

 「遥」は比較的よく用いられる名前としてランダムに組み合わせました。

 特定の人物や事件を参照したわけではありません。



画面の向こうは、あくまで無邪気だ。



僕の胸だけが、不自然に早く脈打っている。



僕:

 ……いいよ。

 そのまま続けて。

 長編になるつもりで書いて。



AI:

 承知しました。

 では、この導入を元に、第一章の続きを書きます。



こうして、

十年前の「失踪事件」と、

今この瞬間に始まった「AI小説」が、

僕の中で静かに重なり始めた。
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