捨てられ聖女は、王太子殿下の契約花嫁。彼の呪いを解けるのは、わたしだけでした。

鷹凪きら

文字の大きさ
16 / 68
2章

16 内緒の作戦 ①

しおりを挟む
 羽のような真っ白な雪が、ひらひらと舞い降りてゆく。
 いくつにも重なった結晶が空から落ちてくる光景は、何度見てもきれいだと思う。

 雪は嫌いではない。
 幼いころからずっと見てきた。
 地面を少しずつ白く染めていくその様は、今はもう、薄れてしまった遠い記憶を思い起こさせる。

 窓際の椅子に腰掛け、シェラは外を眺めていた。

「どんどん酷くなりますね……」

 隣に立って、同じように窓の外を覗いていたルーゼが言う。
 昨夜から降り始めた雪は止むことはなく、いまだに降り続いている。だんだんと勢いも増してきており、地面には薄っすらと白い絨毯が出来始めていた。

「この勢いだと、ある程度積もりそうですね」

 頷きながら言うと、ルーゼは眉を寄せる。

「困りましたね。無事に条約も締結できて、早めに帰国できるかと思っていたのですが……このままだと、滞在が長引きそうです」
「あまりのんびりしていると、本格的に雪の降る季節にもなってしまいますし、早めに止むといいのですが……」

 二人で仲良く溜め息をつく。
 さすがにひと冬をヴェータで越すのは無理があるだろう。
 アレストリアの人たちからしたら、敵国の根城で数か月を過ごすなど、気が休まらないはずだ。いくら条約を締結したといっても、正直ヴェータでは何があるかわからない。

 聖女レニエッタという厄介な存在もいることだし、シェラとしてもできるだけ早くこの国を出たいと思っていたのだが……

「殿下はその辺りのことも、バルトハイル王と打ち合わせをしてくるようです」

 ルディオはハランシュカと一緒に、朝から主城に出向いている。
 条約の内容について、詳しい取り決めをしてくると言っていた。ルーゼの言葉からするとそれだけではなく、今後の滞在についても話してくるのだろう。

 雪が舞う空を見る。
 これが止まなければ、安易に馬車は出せない。
 目の前に広がる、白い景色が終わるのをただ待つだけ。

 そんな中で今のシェラには、ルディオのためにできる事がひとつだけある。
 それは、未来を視ること。
 無事にアレストリアに帰れるのか、この先なにか困難が待ち受けていないか、それを事前に知ることができれば回避も可能だ。

 聖女の力を失いかけているシェラには、まともに未来を視ることはできない。
 しかし、ひとつだけ方法があった。
 それを実行するには、主城の奥にある場所まで行かなければならない。

 今のシェラがあの場所に行くのは危険が伴うだろう。さらに聖女の力を使えば、生命力を消費することにもなる。

 それでも、彼のためになるのであれば、身を削ってでもやる覚悟はあった。

「お手洗いに行ってきます」

 ルーゼが頷いたのを確認して席を立ち、部屋を出る。
 これから行こうとしている場所に、彼女を連れてはいけない。ルディオの言いつけをやぶることになり罪悪感はあるが、一人で抜け出すしかないのだ。

 離宮の入り口までくると、警備の騎士に声をかけられる。

「どうされました?」
「ルディオ様に呼ばれているので、主城まで行ってきます。警備、ご苦労さまです」

 ぺこりとお辞儀をして、早足で外に出る。
 声をかけられることは想定していたので、もともと抜け出すための嘘は考えていた。騎士は首を傾げながらも、いってらっしゃいませと見送ってくれた。

 スカートの裾を持ち上げ、滑らないように気を付けながら進む。
 雪の積もり始めた石畳の上は歩きづらかったが、なんとか主城まで辿り着けた。

 身体についた雪をはらいながら、入り口を通り過ぎる。今度はヴェータ側の警備兵が出迎えてくれたが、こちらはシェラがいることに疑問をもたなかったようで、何も聞かれることはなかった。
 もともとシェラはヴェータの王女である。城内を歩いていても、おかしいことはない。

 だが、そう言ってられるのも途中までだ。
 いま目指している場所は城内の最奥にあり、警備が敷かれている。いくらシェラが王族だとしても、あの場所には現王とそれに近い立場の者しか立ち入ることができない。

 廊下の角から、通路の先にいる警備兵を見る。目的の扉の前に、兵士は二人。
 ここまでは、人目に触れないようになんとか来れた。だがこの先は、簡単に進めないだろう。

 どうしようかと、頭をフル回転させて考えていたシェラの背中に、声がかかる。

「シェラさま、スパイごっこですか? あたしも混ぜてくれません?」

 思わず肩を大きく揺らしくて、振り返った。
 驚きすぎて止まりかけた心臓に手をあてながら、小声で名前を呼ぶ。

「レニエッタ!?」

 そこにいたのは赤い髪に黒い瞳を持つ、新たにこの国の聖女となった少女の姿だった。

しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

【完結】冷徹執事は、つれない侍女を溺愛し続ける。

たまこ
恋愛
 公爵の専属執事ハロルドは、美しい容姿に関わらず氷のように冷徹であり、多くの女性に思いを寄せられる。しかし、公爵の娘の侍女ソフィアだけは、ハロルドに見向きもしない。  ある日、ハロルドはソフィアの真っ直ぐすぎる内面に気付き、恋に落ちる。それからハロルドは、毎日ソフィアを口説き続けるが、ソフィアは靡いてくれないまま、五年の月日が経っていた。 ※『王子妃候補をクビになった公爵令嬢は、拗らせた初恋の思い出だけで生きていく。』のスピンオフ作品ですが、こちらだけでも楽しめるようになっております。

捨てた騎士と拾った魔術師

吉野屋
恋愛
 貴族の庶子であるミリアムは、前世持ちである。冷遇されていたが政略でおっさん貴族の後妻落ちになる事を懸念して逃げ出した。実家では隠していたが、魔力にギフトと生活能力はあるので、王都に行き暮らす。優しくて美しい夫も出来て幸せな生活をしていたが、夫の兄の死で伯爵家を継いだ夫に捨てられてしまう。その後、王都に来る前に出会った男(その時は鳥だった)に再会して国を左右する陰謀に巻き込まれていく。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。 辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。 側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。 ※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。

伝える前に振られてしまった私の恋

喜楽直人
恋愛
第一部:アーリーンの恋 母に連れられて行った王妃様とのお茶会の席を、ひとり抜け出したアーリーンは、幼馴染みと友人たちが歓談する場に出くわす。 そこで、ひとりの令息が婚約をしたのだと話し出した。 第二部:ジュディスの恋 王女がふたりいるフリーゼグリーン王国へ、十年ほど前に友好国となったコベット国から見合いの申し入れがあった。 周囲は皆、美しく愛らしい妹姫リリアーヌへのものだと思ったが、しかしそれは賢しらにも女性だてらに議会へ提案を申し入れるような姉姫ジュディスへのものであった。 「何故、私なのでしょうか。リリアーヌなら貴方の求婚に喜んで頷くでしょう」 誰よりもジュディスが一番、この求婚を訝しんでいた。 第三章:王太子の想い 友好国の王子からの求婚を受け入れ、そのまま攫われるようにしてコベット国へ移り住んで一年。 ジュディスはその手を取った選択は正しかったのか、揺れていた。 すれ違う婚約者同士の心が重なる日は来るのか。 コベット国のふたりの王子たちの恋模様

契約結婚の相手が優しすぎて困ります

みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。

雪解けの白い結婚 〜触れることもないし触れないでほしい……からの純愛!?〜

川奈あさ
恋愛
セレンは前世で夫と友人から酷い裏切りを受けたレスられ・不倫サレ妻だった。 前世の深い傷は、転生先の心にも残ったまま。 恋人も友人も一人もいないけれど、大好きな魔法具の開発をしながらそれなりに楽しい仕事人生を送っていたセレンは、祖父のために結婚相手を探すことになる。 だけど凍り付いた表情は、舞踏会で恐れられるだけで……。 そんな時に出会った壁の花仲間かつ高嶺の花でもあるレインに契約結婚を持ちかけられる。 「私は貴女に触れることもないし、私にも触れないでほしい」 レインの条件はひとつ、触らないこと、触ることを求めないこと。 実はレインは女性に触れられると、身体にひどいアレルギー症状が出てしまうのだった。 女性アレルギーのスノープリンス侯爵 × 誰かを愛することが怖いブリザード令嬢。 過去に深い傷を抱えて、人を愛することが怖い。 二人がゆっくり夫婦になっていくお話です。

処理中です...