制服の俺とスーツのあいつ

M.I

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第1話

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キュキュッ。
急いで漕いだ自転車のブレーキをかけた。

ズボンのポケットからスマートフォンを取り出し、時刻を確認した。
「セーフ」
開始3分前。

 この日は友達に勧められて入った塾の初日だった。

高校受験を控えていた10月。
長年続けていた野球での推薦入試。
推薦と言えど英国数と三教科を
受験しなくてはならなかった。
今まで野球にばかり力を入れていたたため、勉強をほとんどしてこなかった。
集団では到底ついていけないと思い、個別塾へと入ることにした。

正直、乗り気ではなかった。
極度の人見知りということ、勉強が好きじゃないということ、学校のあとにどこかへ立ち寄るということ等。
行きたくない理由ばかり思い浮かぶ。 
だが、友達の京介が
「面白い先生ばっか。分かりやすいよ。」
と何度も言ってくるので
少しずつ気になり出した。
自分でも心のどこかでは
勉強しないといけないという現実は分かっていたから、京介の勧誘を承諾した。



ガラッ
ドアを開けた。
「こんにちは~!」
元気に講師たちが挨拶してきた。
人見知りの激しい俺は、
うまく返事ができず、
目を合わさず「うす、秋谷です」とだけ呟いた。


「秋谷くん?かな?初めまして、英語担当の雨宮亮菜(あめみや りょうな)です。宜しくね。」

あまりの低身長に驚いた。
まるで子供がスーツを着ているかのようだ。
俺が183㎝あるからか、人種が違うのかと思うほどだった。

「開始ギリギリだよ!今日はこの席に座ってもらって~。あ、6時半なった!えっとまずどの程度理解しているか知りたいから、このプリント解いてみてくれる?」
「先生って身長何㎝?」
しまった。気になりすぎて、席につくやいなや質問してしまった。
「え~っと、禁句を口にしたので、プリント追加します。」

…は?!
思ってた返事じゃねぇんだけど!
というよりポンポンよく言葉出てくるなぁ…。

緊張していた気持ちが少し解れた。

雨宮という女はそのままプリントを机に置いて、立ち去ろうとした。
その瞬間ぼぞっと
「151㎝」と囁いたのが聞こえた。

身長差にも驚いたが、
答えてくれたことに更に驚いた。
雰囲気的に怒られると思っていたから。

学校の先生や、コーチとは違った
大人がそこにいた。

しばらくしてプリントを真面目に解きはじめた。
ありとあらゆる問題が象形文字に見えた。 
結果、わかった問題が2問。
流石に焦った。

答え合わせをしに雨宮が戻ってきた。
「解けた?って、空欄多くね?」
見た目はどこかのアイドルグループにいるかのように可愛らしいのに、まさかの少し男っぽい口調。
驚くことが多くてなんとなく
雨宮が気になった。

「ほとんど分からなかったっす。」
見栄を張っても仕方ないから
ここは正直に申し出た。

「そっか。間違ってもいいから、とにかく解答欄は埋めよう。間違うことはいけないことじゃないし。入試で間違えなければ良いこと。」

馬鹿にされると思っていた。
この言葉で少し安心した。

男っぽい口調のわりには
丁寧な解説で、意外にすんなり理解できた。

「野球やってる?」
解説が終盤になったとき、いきなり質問された。
「なんで?やってそう?」
「うん、なんか野球してる人っていう雰囲気。あとキーホルダー。去年の夏の甲子園の優勝校でしょ?私は準優勝した学校応援してたんだけどね。負けちゃった。」
「…準優勝の学校も好きっすよ」
男ばっかりの三人兄弟の俺は
年上女性と喋ることがほとんどないから、
どう返したらいいか
いまいち分からなかった。
でも、話を終わらすのが少しもったいなく思えて、とりあえず返事した。
準優勝ってどこだったっけ、と思いながら。

他愛ない話を時折交えて、
授業は進んでいった。
意外にもその話が面白く、
授業は飽きなかった。

あっという間に90分が経過した。

たった一回の授業なのに
英語に興味が湧いてしまった。
この時点で雨宮の思う壺だった。

「じゃ、ここまで!宿題はここからここまでね!」
「げ、多くね?」
「これでも手加減しています!頑張れ受験生!」
問答無用で大量の宿題を出された。
しかし、単純な俺はやる気になっていた。
次、塾に行く日が少し楽しみに思えた。



思えばこの日から
俺は雨宮に惹かれていたのかもしれない。


帰り道の赤信号、自転車を停めて
去年の準優勝校を調べた。
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