戦士の享楽

火吹き石

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3.力比べ

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 十人隊の寝室に、隊員が集まっていた。手狭な部屋の両の壁に、それぞれ五つの寝台が置いてある。出入り口の正面に開け放たれた窓があり、光と風が入って、室内は明るかった。隊長と副隊長が用事で部屋におらず、一同は帰ってくるのを待っていた。

 タカネは、片側の列の真ん中の寝台に、イワオとともに腰掛けていた。太い腕が肩にかかり、体を抱き寄せられている。大柄な友人の体温と漂ってくる汗の匂いが、タカネの気を昂ぶらせていた。

 一同はいろいろと話しているが、タカネはそれを少しも聞いていなかった。心臓が、どきどき痛いほど強く打っている。これからイワオとともに、先輩たちに回されるというので、興奮しきっていた。

 タカネの心配もよそに、イワオは十人隊で遊ぶということに同意した。渋るのではないかと思っていたから、簡単に承諾したので、拍子抜けだった。

 タカネが今回の遊びを相談してから、すでに三日が経っていた。それが一番近い休みで、かつ隊長にも都合のいい日だった。といっても、隊長と副隊長は午前から忙しく事務仕事をしており、すぐに終わらせようと頑張っているところだったが。

 そうして隊長らが仕事をしている間、他の隊員たちは遊んで待っていた。もちろん性的な遊びではなく、角力すもうや剣闘、槍投げといった競技だった。おかげで、みな汗みどろだった。隊員の半分は短衣の胸元を大きく開け、諸肌脱ぎになっていた。寝床に染み付いた古い汗の匂いと混ざって、部屋には酸っぱい汗の匂いが充満していた。

 イワオもまた、半裸になった一人だった。だが常とは違って、タカネはちゃんと服を着たままだった。興奮しているためなのか、肌を出すのがかえって気恥ずかしく思われたのだ。

 やがて、タカネははっとして顔を上げた。タカネ以外の者も、扉に顔を向ける。外の廊下から、足早に歩く音が聞こえてきた。それからすぐに、部屋の扉が開けられ、隊長と副隊長が入ってきた。

 部屋に入るなり、隊長が口を開く。

「ようやく終わったぞ。」

 隊長はそれから、タカネに笑顔を向ける。先輩たちも立ち上がって、一歩タカネの寝台に近づいた。

「じゃあ、もう……?」

 ようやくことがはじまると思って、緊張しながらタカネは先輩方を見渡した。これからイワオと一緒に、たっぷりと可愛がってもらうのだ。さっきからずっと、腰のものは固くなっていた。もう我慢の限界だった。

 タカネはイワオから身を離すと、喜び勇んで立ち上がり、腰帯を解き、短衣を手早く脱いだ。そして腰布に手をかけたところで、友人が少しも服を脱ごうともせず、こちらをにやにや笑いながら見ていることに気がついた。

「おい、お前も脱げよ。」

 タカネが言うと、イワオは肩をすくめる。

「お前だけでいいだろ。」

 イワオはこともなげに言う。タカネは首をひねった。

「なんでだよ。お前だってみんなと寝るんだろ。とっとと脱げよ。」

 タカネの言葉に、イワオはまた肩をすくめて見せた。

「やっぱり止めとく。抱くほうがしょうにあってるからなあ。」

 タカネは眉をひそめた。まさかいきなり、そんなことを言われるとは思ってもみなかった。仲間たちを見渡してみるが、誰もイワオを咎めようとはしない。

 イワオが続けて言った。

「大丈夫だって。別にどっか行こうってんじゃない。ちゃんと抱いてやるからよ。」

 慰めるような口調に、タカネは苛立ちを覚えた。別に抱いてもらえないからと困っているわけではないのだ。

「先に話してたはずだろ。おれと一緒に、初めてケツを使うってよ。」

 すると、ツムジが口を挟んだ。

「気が変わったんだろ。ままあることさ。」

 それから、比較的若い、タカネらよりも五つほど上の先輩が言う。

「とっととはじめようぜ。溜まっちまってるんだよ。もう半月くらい出してないんだ。」

 タカネはたじろいで、みなの顔を見渡した。別に、みなが間違ったことを言っているわけではない。気が変わることはあるし、まさかいやがるイワオが抱かれるところなど、見たいわけでもない。

 しかし、話の運びに変なところがあるような気がしていた。もしも抱かれることがいやなら、イワオはもっと早くに断れたはずだった。それに、先輩たちの口調がなにか少し白々しく聞こえる。

 そうして腰布だけで周りの様子を窺っていたタカネに、イワオが声をかけた。

「ああ、そうか。タァ、おれが抱かれるところを見たかったんだっけな。そりゃ、残念がるよな。」

 イワオが言う。確かに、それはタカネにとって残念なことではあった。だがそれより、このみょうな雰囲気のほうが、よほど気になった。

 しかし次に、イワオが偉ぶった笑みとともに発した言葉で、タカネは状況を飲み込んだ。

「じゃあ、こうしたらいいな。力比べで決めようぜ。タァがおれを倒せたら、おれも一緒に横になるし、なんならお前が抱いてもいいぞ。」

 タカネは周りを見渡した。先輩たちはいやらしい笑みを浮かべている。それでタカネは、みながなにかしら、前もって画策していたことを確信した。おそらくは、元からイワオには抱かれるつもりなどなかったのだ。ただタカネをみなで回すつもりだったのだろう。おまけに、力比べに勝ったら抱かれてやろうなどという、見え見えの挑発までしているから、確信はなおさら強まった。

 タカネは、しかしイワオを責める気にはなれなかった。自分自身、イワオが抱かれるところを見ようと、先輩たちに話を回していたのだ。相手が同じように話を回していても、タカネにはなにも言えなかった。

 それに、たとえ前もってタカネの知らぬところで計画していたにせよ、別段タカネにとって悪いことでもない。タカネが抱かれることを強要されているわけでもない――それどころか、抱かれることはこちらから望むところだった。

 それでもなお、タカネは苛立っていた。それは、別にこの状況におこっているわけではなかった。ただただ、イワオの、自分の勝利を一切疑わない、自信満々な笑みにむかついているのだった。

 あの笑顔を叩き潰し、組み敷いて抱けるなら、どれだけ気が晴れるだろう。タカネはただただイワオを叩きのめしたいという思いに駆られていた。イワオに喧嘩を売られたら、どうしたって買わずにはいられなかった。万に一つも勝機はないだろうということは、この際どうでもいいことだった。

 タカネは黙って寝台から降りると、部屋の真ん中に立った。そして一同を厳しい顔で眺め、それから、イワオをひときわ強く睨みつけた。

 イワオはにやにやと笑いながら、寝台から降り、短衣を脱ぎ捨てる。ただ褌だけを身に着け、逞しい巨体を晒す。タカネから二、三歩の距離を空けて、こちらを見下ろす。

 タカネは、立ちはだかった大きな裸体を見た。相手の顔には、勝利を確信した笑みが浮かんでいる。それを見ていると、怖じ気を抱くよりも、むらむらと闘争心が沸き起こった。

「約束だからな。」

 タカネは言った。

「おれがお前を倒したら、お前のことを抱くからな。――めちゃくちゃにしてやるから、覚悟しとけよ。」

 小柄な若者の言葉を、イワオは笑った。

「お前、勝てる気でいるのか?」

 その問いに答える代わりに、タカネは身を屈めた。イワオも同じように、腰を低くする。周りの先輩たちは、口元に笑みを浮かべながら、寝台に座って見守っている。

 次の瞬間、タカネは石床を蹴った。

 部屋は狭い。寝台の列の間には、きつく詰めて二人並べるというくらいの幅しか存在はなく、大きく動いて駆け引きをするような空間は存在しない。ゆえに、正面からぶつかるしかなかった。

 しかし直に組み合って、タカネに勝てる見込みはまずなかった。もしも望みがあるとすれば、最初の一瞬、突進して倒すことだけだろう。倒し、そして、首を取る。

 二人の体がぶつかった。

 タカネはイワオの腿を捕らえ、全力で押した。タカネは小柄だが、力はある。助走の勢いと相まって、その衝撃は強かった。おそらくたいていの大人は、たとえタカネより一回りも二回りも大きくとも、これで押し倒すことができただろう。

 しかし、イワオの体は少し揺れただけで、びくともしなかった。まるで、足の裏から根が生えているか、それとも石の床に張り付いているかのようだった。

 イワオはタカネの腰を上から掴んだ。だが倒そうとはせず、ただ捕まえているだけだった。抵抗を楽しんでいるということが、タカネには分かった。その余裕ぶった仕草が、心から腹立たしい。

 先輩の一人が、感嘆の声を上げた。

「さすがだなあ、イワオ。あれを耐えるとはなあ。」

「タカネ、もっと気合い入れろ。押し倒してやれ。」

 言われなくともタカネは、押したり引っ張ったりして、懸命に倒そうと力を振るっていた。腕と足に力がみなぎり、膨れ上がっている。だが一向に、イワオの体は動かない。まるで壁でも押しているような気分だった。

 そうしてタカネが力を振り絞っている一方で、イワオはなお動かなかった。ただただ、奮闘するタカネを捕まえているだけだ。相手がどんな顔をしているか、タカネには目に見えるようだった――あの憎たらしい、自信満々な笑顔。

「くそっ……たれっ!」

 タカネは呻いた。体中が赤くなり、熱を持っていた。肌からは汗が滲み出ている。全力を出し切り、体からは少しずつ力が抜けていく。それでも諦めず、なんとかして倒そうと、右へ左へと引き、押し、持ち上げようとした。だが体格と膂力りょりょくの圧倒的な差の前に、足を動かすことすらできなかった。

 ふいに、イワオが小さく笑い声を落とした。そして、タカネの体に、巨大な力がのしかかった。抗うことは叶わず、あっという間にタカネは膝をついた。

 タカネはなおもイワオの足を掴んでいた。だが腰を掴んだイワオの両手に力が籠もると、大人が子どもを転がすように、タカネを横ざまに倒した。足を掴んでいた手も離れ、肩が床に当たった。

 タカネは一瞬の間、自分を見下ろすイワオの顔を床から見た。巨躯の戦士の目は興奮に輝き、口元には荒々しい笑みが浮かんでいる。そして次の瞬間には、イワオは素早く動き、タカネを仰向けに倒すとともに腹の上に跨っていた。

 タカネは相手を押しのけようと両腕を伸ばした。しかしイワオは簡単に手を捕まえて、自分の腿の下に押し込み、抑え込んだ。太く力強い足と、タカネ自身の胴との間に挟まれて、両腕は動かせなくなった。

 もがくタカネを、イワオは見下ろした。その顔には残忍で楽しげな笑みを浮かべている。両腕を押さえられ、体の上にのしかかられて身動きの取れぬタカネに対して、イワオの両腕は自由だった。イワオは片手でタカネの頬を、乱暴な手付きで撫で回した。

「残念だったな、タァ。おれを抱くのはお預けだな。」

 タカネは全力でもがきながら、どなった。

「うるせえっ! とっとと、どきやがれっ!」

 腕を振りほどこうと全力を入れるが、イワオは両足をしっかりと閉じ、放さなかった。もとよりタカネは、すでに力をほとんど使い果たしていた。もはや勝ち目はない。それでも、抵抗することが止められなかった。

 イワオは楽しげに笑った。

「まだ続けるんだな? 可愛いなあ、タァは。そんなに苛めて欲しいんだな。」

 イワオは両手でタカネの頬を包んで捏ね回し、弄んだ。それから、やおら手を広げると、したたかに打つ。刺すような痛みに、タカネは息を詰まらせた。

「このっ……!」

 タカネは呻いた。だがイワオはそれには取り合わず、左右の手で交互に頬を叩いていく。痛みとともに、ぱん、ぱん、と腹立たしいほど小気味よい音が部屋に響いた。

 左右にぶれるタカネの視界の真ん中には、イワオの自慢げな笑みがあった。そして周りに、タカネを見物する先輩たちがいる。みんな愉快そうな顔だった。

 十回かそこら叩かれた頃には、頬はひりひりと熱を持っていた。タカネは打たれて体力を失い、抵抗をほとんど無くした。

 イワオは手を休め、叩く代わりに、頬を優しく撫でた。無骨な指がじんじんする肌を撫でるたびに、熱い痛みに混じって、なにか甘く疼くような感覚を覚えた。

 頬をひとしきり弄ぶと、イワオは言った。

「タァ、負けちまったなあ。だけど、喜べよ。いまから隊のみんなに回してもらえるからな。」

「うるせえ……くそったれ。」

 タカネはなお憎まれ口を叩き、相手を睨みつけた。すると、イワオは笑みを浮かべながら、先輩たちを見回した。

「もっと苛めて欲しいんですって。ほんとに、タァは可愛いな。たまんねえなあ。」

 そう言うイワオの腰のものが、タカネの視界の端で、大きく膨らんでいった。腰布が持ち上がり、ぱんぱんになっている。タカネは逞しい膨らみを見て、喉の渇きを覚えた。

 と、先輩の一人が声を上げた。

「おい、こいつ勃起してるぞ!」

 タカネは一瞬、それがイワオのことを言っているのだと思った。しかしイワオが肩越しにタカネの股を見下ろし、そして笑い声を上げたことで、誰のことを言っているのかが分かった。

「タァ、ほんとに可愛いなあ!」

 イワオはうれしそうに声を上げ、タカネの腰布を掴もうとした。その時、イワオの体が少し浮いた。そしてこの機を、タカネは逃さなかった。一時いっときに全力を振り絞ると、巨躯の若者は体勢を崩した。タカネはその尻の下から滑り出ると、跳ねるようにして上体を起こそうとした。

 しかしタカネが立ち上がる前に、イワオが両手を伸ばして襲いかかった。

 タカネは相手の手を払って距離を取ろうとしたが、力では敵わず、簡単に押し倒された。そしてイワオは、巨体に似合わぬ素早さでタカネの体を掴み、ひっくり返すと、一つ息をする間もなく、タカネを床に組み伏せた。

 それから、イワオはタカネの首に太い腕を回し、締め上げつつ、膝立ちになる。タカネの手は自由だったから、首から腕を引き剥がそうと力を振るうが、一向に締め付けは緩まない。そうして捕まえた上で、イワオはもう一方の手で、タカネの腰布を引きむしった。

 覆いがなくなり、タカネの勃起した性器が露わになった。

 タカネの耳元に、イワオの興奮した吐息がかかる。無骨な手が、腹のあたりを撫で回す。憎い友人がどんな顔をしているか、見ずとも分かった。

 先輩たちはタカネの正面に回った。イワオに捕らえられ、裸にされ、それなのに興奮しきった体を、下卑た笑いとともに見る。まるで視線が肌を這うのが感じられるような、そんないやらしい目だった。
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