戦士の享楽

火吹き石

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2.相談

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 町の囲壁の上を歩きながら、タカネはこの日、何度目かの溜め息をついた。それを聞き留めた先輩のツムジが、喉を鳴らして笑った。

「ええ、昨日もたっぷり可愛がってもらったんだろう?」

 ツムジが言うと、タカネは睨みつけた。だがどう答えてよいか分からず、思わず、

「あんなやつ、きらいだ!」

 と吐き捨てていた。しかしそう言ったそばから、気分が悪くなった。イワオのことを、別にきらっているわけではなく、むしろ変わらずすきだったからだ――もちろん、友人として。

 足を速め、ツムジの先を行く。後ろでツムジがくすっと笑う声が聞こえたが、無視した。

 タカネはいま、十人隊の先輩たちとともに、囲壁を巡回していた。二手に分かれており、イワオは近くにはいない。いつもは一緒のところを、イワオに当てつけるために、わざと別の組に入れてもらったからだった。

 時はすでに昼下がりだった。右手に町を見て、左手には農場が広がり、その向こうには森と丘とが広がっている。ここからは見えないが、もうしばらく歩けば、町を流れる広い運河が見えるようになるだろう。それがこの町の生命線であり、日々、船が行き交っていた。夏になれば、休みの日には、小舟にでも乗って遊ぶこともできるだろう。

 だが、イワオとは絶対にいやだ、とタカネは苛々と思った。

 昨日もまた、イワオに抱かれた。腕力に組み伏せられ、乱暴にがつがつ掘られ、あられもなく喘がされ、しまいには泣かされた。大柄な友人の自信満々な笑みが思い出され、胸の内が荒立った。悔しくて、屈辱で、たまらなかった。

 だが一方で、そうやっていたぶられることに、自分が興奮していることも分かっていた。そしてその事実は、タカネの屈辱感を増しはすれ、減じはしなかった。昨夜、自分からおねだりまでしてしまったことが思い出される。身も心も完全に屈服させられてしまった証だった。

 いずれ復讐してやりたいと、タカネは思っていた。もちろん、流血を望んでいるわけではない。ただ、イワオがいつものタカネのように、よがり、喘ぎ、身悶えする様を見てみたかった。

 何度かイワオを抱いてやろうとしてみたことはあったが、それらはことごとく失敗した。力ではまったく敵わないし、組み伏せられ、愛撫されると、タカネはすぐに蕩けてしまう。イワオが戦士団に入る前に、先輩たちからたっぷりと抱かれる快楽を教え込まれたせいだった。それとも、タカネは元からそういう体質に生まれついているのだろうか。若者には分からなかった。

 そんなことを考えながら歩いていると、後ろからツムジの声がかかった。

「タカネ、急ぎすぎだ。」

 呼び声にはっと足を止めて振り返ると、タカネはずいぶん一行から前に出過ぎていた。考え込んでいて、思わず足早に歩き過ぎたようだった。

 先輩たちはにやにや笑っている。タカネがどういうことを思い悩んでいるか、察しがついているのだろう。若者は顔を赤らめた。

 タカネは先輩たちの近くに小走りで寄ると、軽く頭を下げた。

「すみません。」

「仮にも巡回をしているんだからな、あまり気を抜きすぎるなよ。」

 ツムジが少しばかり咎めるような口調で言う。

 町を攻めようという盗賊などありえぬし、辺境の町でもないから異国から侵攻があることもまずない。町内で暴力沙汰がそう多くあるわけでもなかった。だから、巡回はほとんど形だけのものではあった。しかしそれは形だけであっても、必要なものだった。もしもその形もなく、平時からなにも備えがなければ、付け込まれる隙を与えることになるだろう。

 タカネは自分が考え事に没頭して、務めを怠ったことに恥じらいを覚え、なおさら顔を赤くした。そうして畏まった若い戦士に、ツムジは笑いかけ、その肩を叩いた。

「おい、別にそんなに恐縮しなくていいぞ。そう大したことじゃない。」

 言いながら、ツムジは後輩の肩に軽く手を置いたまま、一緒に歩き続ける。そして、軽い調子でたずねた。

「なにを悩んでいた。イワオか?」

 いきなり図星を突かれて、タカネは顔を少ししかめた。とはいえ、このところタカネが悩むことといえば、だいたいイワオのことしかなかったから、言わずとも分かることだったのだが。

 タカネが頷くと、ツムジは促すように顎をしゃくってみせた。それに従って、タカネは言う。

「イワオのやつに抱かれてばっかで、むかついてるんです。」

 ツムジはにやっと笑った。

「それで? お前さん、抱かれるのがいやなわけでもあるまい。」

 タカネは口を尖らせて、横目で先輩を睨んだ。ツムジの言っていることは、まったく正しかった。ツムジは、タカネの体をじっくり仕込んだ先輩の一人だから、タカネがどれだけ抱かれることを望み、喜んで身を任せるか、知っていて当然だった。

「別に、抱かれるのがいやなわけじゃありませんよ。ただ、あいつが生意気で、調子に乗ってるのが、気に入らないだけです。」

 そう言いながら、自分が半分嘘をついていることを自覚していた。あの生意気な態度はタカネに屈辱を与えるものではあったが、屈辱は、かえって興奮と快楽を強めるものでもある。自分をなぶり者にするときの、イワオの勝ち誇った笑顔がなければ、性的な喜びは減るだろう。

 だが、イワオになぶられることを喜んでいるという事実が、翻って、タカネにはなおさら屈辱なのだった。

「あいつのこと、ひいひいよがらせてやったら、ちっとは気が晴れるんでしょうけどね。」

 タカネが忌々しげに言うと、先輩の一人が笑った。

「ひいひいよがるのは、お前の仕事だろ。」

「別に、仕事じゃない!」

 タカネはどなった。だが先輩たちは、悪びれもせず下卑た笑みを浮かべている。別の先輩が、タカネに言う。

「久しぶりに、お前とやってみてえなあ。もう、しばらくご無沙汰だからなあ。どうだ、今夜あたり、またおれたちの相手をしねえか。」

 その言葉に、ふと、タカネの胸に疑問が浮かんだ。

「先輩方、いまはどこでやってるんですか。」

 タカネはたずねた。というのも、砦に帰ってきてからこのかた、タカネはいつもイワオに抱かれてばかりいて、先輩たちを相手にしていなかったからだ。

 たいてい十人組では、どこの組でも、先輩たちが一番の若手に色事の手ほどきし、若手は先輩たちの性の相手をするものだった。当然、色事に興味のない者もいるし、趣味の合わない者もいるから、掟として定まっているというわけではないが、だいたいはそうだった。

 タカネは抱かれるのがすきだったから、毎夜誰かの相手をしていたが、この一月ひとつきは先輩らと共寝ともねもしていない。もちろんイワオも同様で、タカネの他に床をともにする相手はいないだろう。

 それでタカネはたずねたのだが、先輩たちは顔を見合わせると、にやにや笑った。ツムジが、後輩に答えて言う。

「気になるか、え?」

「別に、言いたくなけりゃ、聞きませんけど。」

「まあ、たいていは別の隊のやつだな。後は、たまには、飲み屋で若い連中が声をかけて来ることもあるなあ。」

 ツムジは言う。屈強の戦士たちの一団が飲み屋に行けば、一夜を共にしたいと思う者も少なくはない。それにその一団が、性の相手がいなくて溜まっているとなれば、なおさら、溜まったものを抜いてやりたいと思う者は多いだろう。

 別の先輩が口を挟む。

「おれは、何日か前に、飯屋の若造と一発やったな。店の奥の部屋でよ。ほら、あの可愛いやつだよ、タカネも知っているだろ。」

 タカネは頷いた。たいてい、十人隊にはそれぞれ行きつけの店があるもので、タカネの隊にもそうした店があった。その飲み屋の若い見習いのことを話しているのだろう。精悍な顔立ちの若者で、タカネもよく見知っている。

 ところにもよるが、飯屋には、客に部屋を提供している場所は多い。客同士でその部屋を借りることもできるが、見習いの若者が性の相手を務めることもあった。もちろん、それは客同士で意気投合して遊ぶのとは違って、対価が発生する仕事だった。

 それから、先輩たちは自分らが誰と色事に興じたかを語っていった。

 タカネにとって意外なことに、飲み屋で集まっている時に、他の客たちに言い寄られるような場合を除けば、みなてんでばらばらに遊んでいるようだった。タカネがみなの相手をしていた時には、全員に代わる代わる回されていたものだから、他のところでもそういう遊びをしているのだとばかり思っていたが、そうではないらしかった。

 それをタカネが言うと、ツムジは笑って答えた。

「そりゃ、隊員全員で遊ぶのはいいけどな、相手のことを考えてみろよ。おれたちを相手にできる体力のあるやつなんて、そうそういないだろうよ。かといって、十人隊を相手にできるほどの人数、集まることもほとんどないしな。」

「そりゃあ、そうですね。このおれみたいに、頑丈で体力がなけりゃ、務まらないでしょうね。」

 タカネは自慢げに言った。先輩たちはそれを見て、いやらしい笑みを浮かべる。先輩の一人が口を開いた。

「なあタカネ、またおれたちと遊ばねえか。丈夫だし、ちっこくて可愛いし、おまけに淫乱となったら、お前以上の相手はいねえからなあ。」

「別に構いませんけど。だけど、イワオがなんて言うか――」

 と言いかけて、タカネは口をつぐむ。イワオは伴侶でなければ恋人ですらなく、誰かと寝るのにいちいち許しを得る必要などどこにもなかった。

 それに、と思う。イワオを無視して先輩たちと遊ぶようになれば、イワオも少しは堪えるかもしれない。

 あの大きな友人はタカネを性的にはこの上なく喜ばせてくれるが、いつもひどく苛めてくれるので、事後は色事の後というよりは、試合や喧嘩の後のようで、気が立った。しばらくイワオを遠ざけていれば、少年時代の喧嘩のようなやり方よりも、少しはましな色恋の仕方を学ぶかもしれない――タカネは恋をしたことはなかったが、しかしとにかく、イワオはタカネに恋をしているらしいのだった。

 しかしそこまで考えたところで、ふといいことを思いつき、タカネは思わず笑みを零した。

「おお、ちびさんの顔を見てみろ。すげえいやらしい顔してるぞ。」

 ツムジが言って、他の隊員に顔を向ける。タカネは慌てて笑みを消した。そんなにいやらしい笑い方をしていただろうかと、顔に触れてみる。

「なにを笑ってた?」

 ツムジがたずねると、タカネはまた笑いそうになるのを堪えながら、答えた。

「いや、ちょっといいことを思いついたんです。」

 と言って、タカネは説明する。それはこういうことだった。

 イワオはいつもタカネをなぶり者にし、乱暴に犯す。タカネは、手荒な扱いはきらっていないものの、イワオの態度があまりに生意気に過ぎる。それで、少しばかり仕置きが必要だった。そしてその方法を、ちょうどタカネは思いついたのだった。

「一度、あいつも先輩たちに回されてみたらいいんですよ。」

 タカネは言った。いつもタカネを組み伏せる巨体が、先輩たちに抱かれる快感を教え込まれ、よがり悶えるすがたを想像すると、それだけで股のあたりが熱くなる。

「あいつ、前にやった時が初めてだって言ってました。ケツも初めてですよ。ちょっとくらい経験しても、悪くはないでしょう。おれと一緒に遊んでやってくださいよ。」

「その時は、お前も一緒にやるんだろうな。」

 ツムジがそうきく。タカネは頷いた。

「そりゃ、もちろん。九人もいるんだ、おれとあいつ、二人いたって少ないでしょう。頼みますよ。今度、おれとあいつと、一緒に遊んでください。」

 そうしてタカネが頼むと、先輩たちは顔を見合わせて卑猥な笑みを浮かべた。一人が言う。

「可愛い後輩の頼みとあれば、きかなきゃならんよな。」

「しかしまあ、大前提、イワオに相談してみなけりゃならないけどな。」

 ツムジが言う。もちろん、タカネとしても無理やりやるつもりなどなかった。だがおそらく、少し挑発してやれば、イワオをその気にさせることは難しくないだろうと思えた。

 どうやら大勢がタカネの考えに同意しているので、さらに言った。

「いつにしますか?」

「そんなの、すぐには決められんよ。久しぶりにお前さんとするなら、隊長も加わりたいだろう。すると、日程を調整しなけりゃならん。」

 ツムジが言う。十人隊の隊長は、平の隊員よりも必要な仕事が多い。イワオが戦士団に加わる前も、タカネは隊長とする機会は多くなかった。

「だからまあ、数日以内だろうな。」

 タカネはそれを聞いて、にいっと笑った。ツムジは小柄な後輩の頭をがしがしと撫でた。

「それまで、禁欲だぞ。たっぷり溜めとけ。」

「はいっ!」

 タカネは笑顔で応じた。ついにイワオの乱れるすがたが見られるのだ。期待を胸に、その足取りは自然と軽くなった。
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