若者組の戦い

火吹き石

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13.塚

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 塚のある空き地に、両氏族の若者たちが集まっていた。空気は凍るように冷たい。太陽はまだ昇ってはおらず、みなの掲げるたいまつの明かりがあたりを照らしていた。寒さを和らげるように、若者たちは肩も触れ合うほどに密集していた。

 二つの氏族の若者たちは、塚を挟んで分かれていた。それぞれの氏族から、年長の者が前に出ており、昨日の戦で捕らえた捕虜を連れていた。双方、二十かそこらを捕らえていた。

 いつもの捕虜の交換であれば、こんなふうに全員が出ることはなかった。だがこの朝は、五日に終わる戦いを終えた、最後の交換だった。

 双方の捕虜が、厳かに交換された。捕虜は双方一人ずつ解放され、自分たちの仲間のところへと戻っていく。途中、鉄牙族が捕らえた捕虜がいなくなると、捕虜の代わりに鍋釜や短剣が、身代金として与えられた。

 そうして捕虜の交換が終わると、双方の氏族の若者が、塚の前に進み出た。一人の年長者と、一人の年少者、それぞれ二人だった。

 鉄牙の年少者として、オッポが前に出ていた。鎧を着ておらず、首に色石の飾りもなく、上に短衣と外套だけを着て、手には細い杖を持っている――少年の印だった。赤枝の年少者も、オッポと同じく、小柄な若者で、こちらも同じような身なりをしていた。

 二人の年少者とは違って、年長者の二人は鎧をまだ着ていた。だがその手には武器はなく、代わって細い枝を持っていた。鉄牙の若者はそれに黒い紐を、赤枝の若者は赤い紐を、それぞれ結んでいた。

 二組の若者たちは、塚の入り口のすぐ前にまで歩いていくと、いきなり鉢合わせたように驚いて、大げさに飛びしさった。そして年長の若者らが戦いの構えを取ろうとすると、年少者がそれぞれの仲間の前に立ちふさがり、口々に言う。

「だめだ、だめだ、戦いに来たんじゃない。」

 赤枝の少年役が言った。それにオッポが答える。

「こっちだってそうだ。止めてくれ。」

 年長の若者らは、互いを胡散臭げに見合いながら、塚の周りを大股で何度か回る。二人の少年役は、仲間をなだめようとしきりに話しかける。やがて年長者らが、互いに敵意のないことを納得すると、ようやく枝を下ろした。それから、先に鉄牙の若者が口を開く。

「お前たちは何のためにここに来た。戦場に、どうしてそんな子どもを連れてきた。誰も見ておらぬ間に、死者の宝を奪おうというのか。」

 赤枝の戦士が、大仰に首を振る。

「まさか。違う。もう宝になど興味はない。そのためにどれだけの血が流れたことか。――そういうお前は、いったいなぜここにいる。まだ日も昇らぬうちから起き出して、陣から離れたここに、なぜ来たのだ。」

 それに、鉄牙の若者が答える。杖で塚を――正確には、そこに葬られているはずの、死者のむくろを――差した。

「その死者を葬るために。もう戦いはこりごりだ。私の友が何人も倒れた。この子の先輩たちも倒れた。死者の宝を巡って生者が死ぬなど、愚かしいことだった。死者の宝は、死者の家に納めればよかろう。」

 赤枝の戦士が、うれしそうに笑う。

「ならばお前の考えていることは、我々の考えていることと同じだ。さあ、ぐずぐずせず、仕事に取り掛かろう。日が昇ってしまわぬうちにな。」

 そうして、四人の若者は塚の入り口に集まると、地面に落ちている石をそれぞれ一つずつ、まるで大岩でも動かしているかのように呻きながら拾い上げると、塚の上に置いた――もちろん、埋葬を表しているのだ。それから大仕事の後であるかのように、額を拭うと、大きく溜め息をついた。

「さあ、これで死者の家ができた。まさか誰も、死者の塚を暴こうとはしないだろう。」

 赤枝の戦士が言うと、鉄牙の戦士が答える。

「ああ。これで戦は終わりだ。我ら二つの氏族の間の戦いも、やがては終わるだろう、もはや死者は宝とともに眠っているのだ。後は夜闇に乗じて陣に戻ればいい。――さあ、平和への祈願のために、そして死者のために。」

 鉄牙の戦士は、短剣を抜いた。赤枝の戦士もそれに倣う。そして、二人は手を切ると、その血を塚の入り口の地面に滴らせた。二人の少年は、懐からパンを取ると、その一部を千切って、手で砕き、血の上から振りかけた。

 そうして死者への捧げものを終えると、四人はそれぞれの手にある杖や枝を、膝でへし折って捨てた。それが、この劇の終わりの合図だった。若者たちの間にあった重々しい緊張が、それで途切れた。いくつも溜め息をつく声が聞こえ、ざわざわと小さな話し声が上がる。

 オッポはタテガミを振り返って、小走りに向かってきた。タテガミは年長の者だったから、鉄牙の連中の前面に立っていた。タテガミは小柄な若者を両手で受け止め、掻き抱くと、その額に口づけを落とした。

「緊張した。」

 オッポが小さく零した。少年役は、年少の者で、一番小柄な者が担うことになっていた。重要な役割であったから、もちろん気が張ることだろう。

「おつかれさん、オッポ。」

 タテガミはそう言って、友人の髪を手で梳き、鼻を埋める。五日もろくに水浴びをしていなかったから、ひどくべたべたしており、苦くて酸っぱい匂いがしている。だがそれはタテガミも一緒だったから、気にもならなかった。

 タテガミのかたわらにいたハシラも、オッポの肩を叩いた。オッポはにっこり笑ってハシラを見る。この五日で、二人の仲は親密なものになっていた。おそらくは、タテガミの脇をずっと二人で守っていたからだった。この二人がいなければ、タテガミは何度か捕まっていたことだろう。

 三人が言葉を交わしているうちにも、周りの人々は忙しく動いていた。まずは、みな鎧を脱いで、それを引いてきた荷車のあたりに集める。それから、大勢が荷車から食料と飲み物を運び出しにかかり、あるいは塚の周りで焚き火を作りはじめていた。これから、うたげがはじまるのだった。

 さて仕事をはじめようかとタテガミが思った時に、ツノが近づいてきた。その首には、色石の飾りがあった。オッポは少し身を屈めて、ツノを睨みつける。

 この戦いの間に、若者たちは装飾品を幾度も奪い、奪われた。タテガミは、はじめにツノに捕らわれてからは捕虜になっておらず、だから緑の腕輪も守り通していた。それだけでなく、他方の腕には銀の細い鎖が巻かれ、指には赤い石を嵌めた銅の指輪があった。ハシラも、元から持っていた銀の腕輪に加えて、紐を通した飾り石を首から下げていた。

 だがオッポは、ツノから奪った首飾りを、ツノによって奪い返されたのだった。そしてもちろん、単に首飾りを取られただけでは済まなかった。ツノを犯した上に、一年者に回させたのだったから、そのお返しも当然あった。

 オッポは捕らわれると、一晩中、ツノの相手をさせられた。尻の穴をじっくりと慣らされ、巨根を捩じ込まれ、徹底的に犯され、屈服させられたのだった。次の早朝にオッポが帰ってきた時、その尻の穴は赤く腫れ、奥から白濁した液を漏らしていた。

 手荒に初めてを経験させられたのだが、それによってしっかりと尻の味も教え込まれていた。疲れたオッポのためにタテガミが穴をほじくって洗ってやった時にも、あんあん喘いで勃起させたものだった。

 ツノは三人に近づいてくると、まずはタテガミの肩を叩いた。かなり力が強く、一歩下がってしまう。タテガミも、それに負けじと相手の肩を叩き返す。それから、ハシラとオッポにも同じ挨拶をした。

 だがオッポには、そうやって肩を叩いた後も、肩を掴んだままだった。オッポが、ばしん、と音が鳴るほどの力で腕を打って振りほどく。ツノは引いた腕を擦りながら、愉快そうに笑った。

「ええ、つれねえな。あの時はあんなに喜んでたのによ。」

 笑うツノに、オッポは鋭く睨み返す。

「あの時っていつだよ。お前がおれたち一年者に回されてた時か?」

「ああ、つれねえなあ。あんなにおれの腕の中で鳴いてたのによ。」

 ツノは言って、オッポの腰に腕を回して抱き寄せる。その手は尻に当てられ、柔らかい肉をぎゅうぎゅうと揉みしだく。オッポは小さく甘い溜め息をつきながらも、相手の腕からは身を離そうとはせず、むしろ自分も相手の尻に手をやった。

「お前のこと、後でまた犯してやるからな。」

 オッポは鋭く睨みながら、迫力のある笑みを浮かべる。ツノはもっと気楽に笑っていた。タテガミの見るところ、オッポは口ではいろいろ言っているが、まんざらでもない様子だった。ツノのほうも、オッポを見下ろす目には、なにか愛おしむような色が見える。

「お前ら、いつのまにそんな仲良くなったんだよ。」

 タテガミは言いながら、二人の肩に手をかけた。オッポは弾かれたように、ツノからもタテガミからも身を引き離す。そして鋭く言った。

「別に、仲良くなんかない。」

「そうか。おれには仲良く見えるんだけどなあ。」

 なあ、とタテガミはハシラに向ける。恋人はくすっと笑った。

「遊ぶんなら、また後でにしろよ。いまからは、うたげだぞ。ほら、準備しないと。」

 恋人はそう言って、タテガミを掴んでツノから引き離し、そのまま口づけを交わした。それもいつもの短いものではなく、何度か唇を喰んでくれまでした。口を離すと、ハシラは笑う。

「いまはこいつで我慢してろ。」

 恋人が言うと、タテガミは照れてしまい、顔を逸した。めったなことでは、ハシラはこんな肉感的な口づけをくれない。腰の物が半ば芯を持ちはじめていて、気が気ではなかった。

「よし、準備にかかるか。」

 タテガミはなんでもないようにそう言って、ほど近くで燃える焚き火に向かった。他の三人も、それに続く。焚き火の周りでは数人が食事の準備をしていた。

 周りでは、若者たちが忙しく立ち回っていた。ところどころで、お喋りをしたり、ふざけて肩を組んだり、口づけを交わしたり、あるいは愛撫としか見えぬくすぐり合いをしている者も、中にはいたが。

 準備が整えば、これからはうたげだった。その後は、また別の楽しみがある。タテガミは火のそばに腰を下ろし、すでに調理をしていた者を手伝いながら、これからのことを考えた。

 楽しい夜になりそうだった。ツノの巨根も欲しいし、オッポにもまた抱いて欲しかった。二人がやっているところも見てみたいと思うし、二人を一時に相手してみるのも楽しそうだった。他の若者たちも大勢いたし、もちろん愛するハシラもいた。きっと乱れに乱れるタテガミを見ながら、ハシラはいつものように茶を嗜むか、それとも口づけをくれるかするだろう。もしかしたら、今夜は特別に抱いてくれるかもしれない。

 なんにせよ、楽しい夜がはじまる予感がしていた。
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