見つけた、いこう

かないみのる

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春の空は澄んでいて、柔らかい青色が目を労ってくれる。

しかし空気は冷たく身を引き攣らせる。

こんな季節の中、藤谷奈菜さんは最期に何を見たのだろうか?



「健吾?何を考えているの?」



寒河江川の川辺に腰を下ろして、川の流れを眺めていると、隣に座っていた志保が不安げに声をかけてきた。



「いや、考える事が多すぎて思考が停止しちゃって」


「そっか」


「ごめんな、志保。連れ回して」



志保は力無く首を振った。



おれと拓也が可那人の行方を探してから、数日経ったが、進展は何もなかった。

それはそうだ。

その道のプロである刑事が捜査をしてようやく真実に辿り着けるものを、ど素人の大学生が見よう見まねで捜査をしてすぐに結果が出るはずもない。



 藤谷さんの遺体が見つかり、可那人が容疑者として捜索されているとニュースで知った時、俺は急に夢の中にいるような錯覚に陥った。


あの可那人が殺人?まさか、そんなはずない。


そう思いつつも完全に可那人を信じ切れない自分がいたのも事実だ。

人間には複数の顔がある。

可那人に暴力的な一面がないと言い切れない。

俺は友人の潔白を信じ切れない自分が許せなかった。



 一方、可那人の幼い頃からの友人、拓也は可那人の潔白を信じて疑わなかった。

その姿勢に俺は恥ずかしさと申し訳なさが込み上げた。

そして拓也と可那人との間に壁ができたような気もした。



おれは所詮大学からの友人だ。

あの二人と同じ地に立ってたと思っていたのがそもそもの間違いだったのかもしれない。



おれがそんな卑屈な事をこぼしたら、志保は「そんなくだらない事を考える暇があったらできる事をやりなさい」と学校の先生のような事を言って叱咤してくれた。

自分よりずっと頼もしい彼女がいることにありがたみを感じた。



おれは拓也と一緒にこの事件の真相を掴もうと躍起になった。

拓也は可那人の知り合いに聞き込みをし、俺は可那人のご家族のケアをしながら可那人の足取りを追って行った。

しかし思うような結果が得られず、途方に暮れていた。



「橘君と藤谷さんって、遠くから見ていても幸せそうなほのぼのとした二人だと思ってたのに、どうしてこんなことに……」



志保が不意にこぼした言葉が俺の神経を逆撫でする。



「それを今調べているんだろ!」



しまった。

志保にあたってしまった。

志保は何も悪くないのに、ただ疑問を口にしただけなのに……。



「ごめん、志保。気が立ってた」



すぐに謝ったが、志保は怒るでもなく、俯いた俺の肩を優しく抱いてくれた。

長い間、その場から動けずに二人でずっと風景を眺めていた。



「すみません、橘さんのお友達ですか?」



急に後ろから声をかけられた。おれ達が振り返ると、後ろに高校生くらいの女の子が立っていた。

制服を着ていたが、この県の制服ではないことは確かだ。

全く見覚えがない。



「えっと、どちら様ですか?」


志保がおれの代わりに尋ねる。



「あたし、橘さんのお友達です。奈緒と言います」



彼女はペコリと頭を下げた。

俺たちも会釈した。

可那人に女子高生の友人がいたなんて知らなかった。

塾の生徒か?



「橘さんの事件をニュースで知って、あたし、居ても立ってもいられなくて……。ご自宅に行って、あたしになにかできることはないか聞いたら、橘さんのお友達が橘さんの事を調べているって聞いて、今日はここにいるって聞きました」



ここまで何で来たのか聞いたら、タクシーで来たとのこと。

 そこまでして協力しようとしてくれるなんて、この子と可那人の関係はいったい……。

まあ、これだけ真剣に話をしてくれる子だし、信用しても大丈夫だろう。



「あの、橘さんのお母様から聞いたんですけど、橘さんが犯人とするにはどこか違和感があるんですよね?だったら、あたしの父の知り合いに監察医の先生がいるらしいから、一度その先生に相談したらどうかと思って」


「監察医?」


「再鑑定をしてもらうんです。被害者さんのご遺体の検死結果などの資料をもう一度見てもらって、一度目の検死で変なところがなかったか、とか、新しい手掛かりがないか、とか調べてもらうんです。それが事件解決に繋がったりもするから。まあ、その場合は資料を持って東京に行くことになりますが。弁護士は立ててますか?」


「詳しくは分からないけど、藤谷さんのご両親が立てているんじゃないかな?」


「そうですか。では弁護士さんを通して頼み込んでみましょう」


遺体の再鑑定か、考えもしなかった。

この子は年下なのにこんな事まで考えていたのかと感心する。



「そうだな。正直なところ、警察は可那人が犯人だと決めつけて捜査しているようなところがあるし、お願いしてみるか」



俺は解決の糸口が見えたような気がして少し気分が晴れた。



「藤谷さんのご両親を説得しないと」



志保は冷静に言った。

藤谷さんの両親は、可那人が愛する娘を惨殺した犯人だと疑わず、おれ達の捜査にも非協力的だった。

何かが分かったところで娘が戻ってくる訳じゃないから、これ以上傷を掻きむしるような事をしないでくれと懇願された。



 しかし、もしも可那人が犯人じゃないと分かれば、愛する人に殺されたのではないと分れば少しでも気持ちが変わるのではないか。

おれはそう思うが、それは可那人に親しい側の人間の理屈なのかもしれない。

いや、同じ考えの人が藤谷さん側の人にもいる。



「そこは公佳さんに相談しよう」


志保は希望が見えたのか表情に光が差し込んだ。


藤谷さんの親友である公佳さんも、俺達に協力してくれている一人である。

藤谷さんが可那人と一緒で幸せだったということを信じてやまない。

彼女ならきっと藤谷さんの両親を説得してくれるだろう。



「奈緒さん、ありがとう。ところで、失礼だけど、可那人とはどういった関係で?」



奈緒さんはにっこり笑った。

その拍子に彼女の目から涙が一粒溢れた。


「ただの友人ですよ。あたし達はお互いを 花友はなともって呼んでます。あたしの数少ない大切な友人でした」
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