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塾で生徒に数学を教えていると、思いがけない言葉が飛んできた。
「で、先生、あの女の人誰なの?」
「あの女の人?」
「この間、先生クラフトフェアにいたでしょ。僕、先生とすれ違ったんだけど、先生全く気付かないんだもん」
数学のプリントの解説が一段落し、次のプリントを解くように指示したところで、忠士君は俺に好奇心に満ち溢れた視線を送ってきた。
「ああ、大学の友達」
俺は極めて冷静に答えた。
が、内心は動揺を悟られないように必死だった。
まさか塾の生徒に目撃されていたとは。
「彼女じゃないの?」
「違うよ」
「先生、最近なんか嬉しそうだよね」
「いや、そんなことないよ」
「絶対彼女だ」
「えええ?橘先生、彼女できたの?ちょっと聞いてないよ」
太田先生が口を挟んできて面倒になったので忠士君に「三分以内に解けたら宿題なしにする」と言って授業に戻らせた。
忠士君は目をギラリと輝かせて、「余裕だし」と言いながらプリントに取り組み始めた。
教育実習で知り合った忠士君が入塾したのは、一ヶ月ほど前である。
教育実習最終日、俺は別れ際に忠士君に自分のアルバイト先である塾の場所と、自分がいる曜日、時間を教えていた。
すると忠士君はすぐに体験授業に来てくれた。
そして早々に入塾手続きをすませ、自分の生徒になってくれた。
わざわざ自分を追いかけてきてくれたんだと、俺は忠士君をかわいく思っていたが、本人は「ここの塾に決めたのは、うちの中学校の生徒が全然いなくて勉強に集中できるからだよ。先生は関係ないから」と言われて階段の三段目あたりから落とされた気分になった。
まあ、忠士君なりの照れ隠しだろうな。
本日の授業が全て終わり生徒も全員帰ったところで、俺が教室に残って日報を書いていると、太田先生が話しかけてきた。
「で、橘先生、結局彼女できたの?」
なんでそんなに俺の恋愛に興味があるんだ。
思春期の中高生じゃないんだぞ。
「いや、まだ、できてないです。」
「へえ、そう。最近の橘先生、なんか色気づいてきたし、ついに春が来たのかと思ったよ。まあ、格好良くなって女子生徒に人気が出るなら彼女作ってもいいよ。生徒には黙っておいてね」
なぜ彼女をつくるのに太田先生の許可が必要なのだ。
ここは恋愛禁止のアイドル事務所ではなく塾であり、俺はアイドルではなく塾講師なのだ。
太田先生は気付いていないようだったが、俺は「まだ」という部分を強調していた。
実はもう既に、藤谷さんと会う約束をしているのである。
少し先だが、その時を楽しみにして、俺は日々を過ごしている。
「で、先生、あの女の人誰なの?」
「あの女の人?」
「この間、先生クラフトフェアにいたでしょ。僕、先生とすれ違ったんだけど、先生全く気付かないんだもん」
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「ああ、大学の友達」
俺は極めて冷静に答えた。
が、内心は動揺を悟られないように必死だった。
まさか塾の生徒に目撃されていたとは。
「彼女じゃないの?」
「違うよ」
「先生、最近なんか嬉しそうだよね」
「いや、そんなことないよ」
「絶対彼女だ」
「えええ?橘先生、彼女できたの?ちょっと聞いてないよ」
太田先生が口を挟んできて面倒になったので忠士君に「三分以内に解けたら宿題なしにする」と言って授業に戻らせた。
忠士君は目をギラリと輝かせて、「余裕だし」と言いながらプリントに取り組み始めた。
教育実習で知り合った忠士君が入塾したのは、一ヶ月ほど前である。
教育実習最終日、俺は別れ際に忠士君に自分のアルバイト先である塾の場所と、自分がいる曜日、時間を教えていた。
すると忠士君はすぐに体験授業に来てくれた。
そして早々に入塾手続きをすませ、自分の生徒になってくれた。
わざわざ自分を追いかけてきてくれたんだと、俺は忠士君をかわいく思っていたが、本人は「ここの塾に決めたのは、うちの中学校の生徒が全然いなくて勉強に集中できるからだよ。先生は関係ないから」と言われて階段の三段目あたりから落とされた気分になった。
まあ、忠士君なりの照れ隠しだろうな。
本日の授業が全て終わり生徒も全員帰ったところで、俺が教室に残って日報を書いていると、太田先生が話しかけてきた。
「で、橘先生、結局彼女できたの?」
なんでそんなに俺の恋愛に興味があるんだ。
思春期の中高生じゃないんだぞ。
「いや、まだ、できてないです。」
「へえ、そう。最近の橘先生、なんか色気づいてきたし、ついに春が来たのかと思ったよ。まあ、格好良くなって女子生徒に人気が出るなら彼女作ってもいいよ。生徒には黙っておいてね」
なぜ彼女をつくるのに太田先生の許可が必要なのだ。
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