ジュンケツノハナヨメ

かないみのる

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 友希哉が長野へ泊まりがけで出張へ行っている金曜日、わたしは友人の寺崎このみの部屋にいた。


 フワフワのぬいぐるみやクッション、綺麗なアクセサリーや香水の瓶などが並ぶかわいい部屋だ。


 今日はこの部屋で、二人でDVDをいくつか観る予定だ。



「そうだ! 夏に行ったコンサートのDVD、ついに出たんだ! 観ない?」



 このみはそう言ってわたしの返事を待たずにDVDプレイヤーにDVDをセットした。



「『Oh!大阪』の? いいよ! 観よ観よ!」



『Oh!大阪』はこのみが好きな男性アイドルグループだ。


 何度かコンサートのDVDを見せてもらっているが、パフォーマンスも申し分なく、ファンじゃないわたしが観ても面白い。


 二人で『Oh!大阪』の作り出す世界に浸ることにした。


 このみはわたしの中学時代からの友人で、美容師として働いている。


 地味なわたしとは対照的に、成人式や結婚式などの華やかな場所で活躍しており、本人も美しさと気品を兼ね揃えている。


 しかしその一方で、飾らない気さくな性格で親しみやすく、地味なわたしとも友達でいてくれる。


 お互いの仕事や趣味はまったく違うが、波長が合うのか居心地が良く、定期的に二人で会っている。



『困ったよ、カミクマさん。お腹が空いて、動けない~』


 Oh!大阪のメンバーの上沼君と山下君がクマの着ぐるみを着てステージに出てきた。


 モコモコのフワフワで愛くるしい。



『それは大変だ! ヤマクマさん、何を食べたいんだい?』


『豆大福』


『ジジイか! そこはクマさんらしくハチミツっていわんかい!』


『蜂蜜じゃ腹膨れんやろ』


『そんなリアルなこと考えんでええねん! んじゃ、新曲いくよー!』


『「蜂蜜取りへ出かけよう」!』



 二人のやりとりを観て、「ああ! かわいい!」と、このみが悶える。


 わたしも同意する。



「めっちゃかわいいね」


「シュウちゃんとヘイちゃんの曲も名曲なのよ! 次だから! あ、でも九時からイッチーのドラマがあるからそっち観てもいい?」


「いいよ。そろそろ始まるんじゃない?」



 このみがDVDを停止して、チャンネルを変えた。



 午後八時五十五分、テレビは報道番組で、アイドルグループについての報道をしていた。


 どうやら人気女子アイドルグループの、『クラフティ』がアジアで本格的に活動することに決めたらしい。


 一年間は台湾で活動し、日本には帰って来ないようだ。


 リーダーの女の子が意気込みを語っている。



「前から思ってたけど、真由子ってクラフティの岸山ももはに似てるよね」



 このみが不意にそんな事を言った。


 わたしは驚いて、テレビに映る岸山ももはを凝視した。


 リーダーの左にいる緑の衣装を着た子だ。


 目が丸くて瞳も大きく可愛らしい。


 わたしと似ているなんて大間違いだ。



「えー、初めて言われたよ。全然似てないよ」


「いや、似てる。顔の下半分が」


「下半分って、鼻と口ってこと? あんまり嬉しくないんだけど」



「目とか眉毛はメイクで何とかなるんだよ。でも下半分は誤魔化しようがないの。だから若い子はマスクで下半分を隠すのよ」



 そう言ってこのみは鏡台に行ってメイク道具を手にした。



「ちょっと試しにメイクさせてもらっていい? 絶対岸山ももはになるから」


「本当かなあ?」


「プロを信じなさいって」



 このみになされるがまま、わたしの顔は改造された。


 アイラインの入れ方や眉毛を整えるハサミ捌きなどから、彼女がプロである事を改めて感じた。


 メイク終了後、鏡を見せられて、映った自分の姿に驚きを隠せなかった。



「確かに」



 このみが持った鏡に映ったわたしは、控えめに言っても岸山ももはにそっくりだった。


 野暮ったかった自分が、アイドルと同じような顔になっている。



「でしょ?」


「どうやったの?」


「アイプチで二重にして、前髪似せて、眉毛の形を整えただけだよ」


「眉毛は整えたというより完全に形変えたよね」


「岸山ももはは垂れ眉だからね。だいぶ剃っちゃったから、普段のメイクではちゃんとアイブロウで書いてね。カラーコンタクト入れるともっと似るよ」


「わたしにはできないわ」


「コツを掴めばできるって。教えてあげる」


 そのあと二十分ほど岸山ももはになるレクチャーを受けた。


 そして二人でイッチーのドラマの半分を見逃した。



 ドラマ終了後、このみは放置していたメイク道具一式を片付けて、タオルをわたしに手渡してくれた。



「さ、お風呂行って、DVD鑑賞の続きといきますか!」



 このみ、わたしの順番でお風呂に行き、髪を乾かして、DVD鑑賞の続きをする事にした。



「次は何観る?」


「これ借りてきたから、観よ! 真由子、ホラー映画大丈夫だよね?」


「得意ではないけど、まあそれなりには観れるよ」


 実を言うと大人になった今でもホラーはどちらかというと苦手だ。


 怖いもの見たさの好奇心が勝ってしまい、観てから後悔するということも少なくない。


 でも最近は耐性が付いてきたのか、前ほどトラウマになることはなかった。今回も無事に鑑賞できるといいが。



「血のシーン終わった?」



 わたしは目と耳を塞ぎながら聞いた。


 映画の序盤、シャワーを浴びる主人公の手に血が付いていて、驚いて目を瞑ってしまった。


 予想外の血に弱いのだ。このみはわたしの肩をポンと叩いた。



「耳塞いでたらあたしの声聞こえないでしょー。終わったよ」



 目を開けて画面を観る。



「うわあ……なにこのシーン? どうなってるの?」


「主人公のキャリーがいじめられてるの。みんなからナプキン投げつけられてるの」


「なんでナプキン投げつけられてるの?」


「生理を知らなくてパニックになったからバカにされてるんだよ」



 先程まで目をつぶっていたせいか、話の流れがよく分からない。


 なぜ生理を知らないだけで周囲の子は主人公をいじめるのか。


 まあ、いじめとは理不尽なものだから、理解しようとするのが間違っているのかもしれない。



「ていうか真由子、大丈夫? あれっぽっちの血で驚いてたら、ホラー映画なんて観られなくない? 前からそんなに苦手だったっけ?」



「血が出るシーン自体は平気なんだよ。銃で撃たれたりとか、刺されたりとか。でもさっきは何も関係がないところで不意に血が出てきたからびっくりしちゃって」


「不意打ちがだめなの?」


「不意打ちの血がだめなの」


「不意打ちの血、略して不意打血」


「しょうもない駄洒落」



 くだらない話をしながら二人で笑い合った。


 その後、わたしはなんとか映画を観終えることができた。


 なんとも言えない恐怖と後味の悪さが残ったが、主人公のキャリーが怒りを放出して、自分をいじめていた人達に仕返しをするシーンは少し胸がスッとした。


 わたしもキャリーのように、わたしを取り巻く憎い人間に復讐できたら、などと悪いことを考える。



「さて、そろそろ寝ますか!」



 わたし達は布団を敷き、寝床に入った。


 相変わらず眠れず布団の中でもぞもぞしていたら、このみが話しかけてきた。



「さっき化粧していて気付いたんだけど、真由子、最近眠れてる?」



 不意に言われてドキリとした。



「分かる?」


「肌の調子、悪そうだったから」


「プロの目は誤魔化せないね」


「仕事のストレス?」


「まあ、そうだね」


「あんまり無理しちゃダメだよ。真由子は昔から無理しすぎるんだから」


「大丈夫だよ。こうやってストレス解消させてもらってるし」



 わたしは心配かけまいと強がってみせた。


 しかし気持ちとは裏腹に、このみの優しさに不意に涙が少し流れてしまった。


 この涙がこのみに悟られていないことを願った。


 休み明けの月曜日、わたしは金曜日にやり残した仕事、というより吉川が放置した挙句、わたしに押し付けてきた仕事のせいで残業をするはめになった。



 パソコンに向かっていると、同じく残業をしていた横山君が両手に缶コーヒーを持って話しかけてきた。



「今日は残業?」



 横山君はコーヒーを一本手渡してくれた。



「くれるの? ありがとう! ちょっと忙しくてさあ」


「仕事押し付けられたんだろう?」


「よく知ってるね」


「俺の席からだと管理部の様子が丸わかりでさ。吉川さんが騒いでいたでしょ」


「ご存知でしたか」


「最近そんなことばかりだろう?」



 横山君がため息混じりに言った。


 やはり横山君の目は誤魔化せない。


 このみといい、横山君といい、わたしの心配をしてくれる人には感謝しかない。


 わたしは心配かけまいと、明るい話題に切り替えようとした。



「ありがとう。でも良い事もあったんだよ」


「へー、何があったの?」



 強がっただけだったから具体的に答えを求められると困ってしまう。


 最近あった事を全力で振り返った。



「クラフティの岸山ももはに似てるって言われた」


「誰?」


「知らないならいいよ。誰にも言わないでね。恥ずかしいから」



 驚いてくれるかなと期待したが、思っていた様な反応は得られず、少し恥ずかしくなった。


 岸山ももはは有名だと思っていたが、わたしが想像していたよりもあまり知名度は高くないのかもしれない。



「横山君も残業? 何かトラブルでもあったの?」



「担当しているシステムでエラーが出たらしくて原因究明」



 横山君は缶コーヒーを開けて一口飲んだ。


 わたしも同じように缶コーヒーのプルタブを引き、缶コーヒーを開ける。


 口に含むとミルクの甘みとコーヒーの程よい苦味が疲れた身体に染みる。



「トラブルの原因は分かったの? 終わりそう?」


「さあ、ダラダラやってるから分からない。そろそろ仮眠でも取ろうと思ってたし」


「裁量労働制は残業しても給料変わらないし、大変だねえ」


「仕事ができる人にとってはいい仕組みなんだろうけど、俺みたいな仕事できない奴には辛いね」


 自嘲気味にそう言うと横山君は自分のデスクへ戻っていった。


 本人の評価とは逆で、横山君は仕事ができる。


 だから振られる仕事も多く、こうやって残業をしているのだろう。


 頑張っている横山君を見て、わたしも頑張ろうと気合いを入れて仕事を再開する。


 残業開始から一時間、仕事がひと段落着いたので、お菓子の差し入れをしようと横山君のデスクに行った。


 横山君は椅子にもたれて伸びをしていた。



「はい、差し入れ」


「お、ありがとう。ちょうど休憩してニュース見てたんだ」



 横山君はパソコンでニュースの動画を見ていた。


 この間起こった女児誘拐事件の犯人の似顔絵が公開されたようだ。


 画面には犯人の似顔絵が映し出されている。



「顔が分からないのに目撃者の証言だけで似顔絵描くなんてすごいよね」


「そういえば、こういう犯人の似顔絵を書いていた元警察官が、その経験を活かして探偵をやっているらしいんだよ。知ってる? この近くに事務所があるらしいよ」


「探偵?」


「そっくりな似顔絵を描けるから、写真を持っていなくても特徴を伝えれば似顔絵を描いてもらえるんだよ。それを元に調査してもらえるんだってさ。浮気調査とか得意らしいよ」


「へー」


「何か困ったらそこに頼もうかな」


「横山君がそういう状況にならない事を願うわ」



 二人でふざけ合い、お菓子を食べた。横山君にクッキーをあげたら、お礼にとチョコレートをくれた。


 最近のお気に入りらしく、ホワイトチョコをいちごチョコで包んだ可愛らしい見た目をしていた。


 味もやわらかい甘さでとても美味しかった。


 こういう楽しい時間を過ごすことができるから、残業も悪いことばかりではない。


 そう思わせてくれる同期がいるのは、とても幸せなことなのかもしれない。
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