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真夏の太陽は地獄の釜にも負けない熱を生み出しているのではないか。
とにかく汗が止まらない。
黒いTシャツなんか着てくるんじゃなかった。
太陽光のエネルギーをもろに吸収した俺は、自転車から降りて、リュックからタオルを出して汗を拭いた。
喉がカピカピに渇いていたのでペットボトルの飲み物を一気に飲んだ。
温くなったスポーツドリンクは甘ったるかったが、喉を潤すには十分だった。
鮮やかな青空には大きなクリームのような濃い積乱雲があり、いかにも夏を感じさせるような風景だった。
道の脇には向日葵も咲いており、写真で見たら映えるだろうなと考えた。
ジリジリと肌を焼く日光は、容赦なく俺の体力を奪っていく。
部活をしていた頃と違って運動量も減っており、かつ睡眠時間も減っている。
寝不足と運動不足で不健康な身体にこの天気は凶悪だ。
とりあえず自転車を押して歩を進める。
意識が朦朧としそうな中、気がつくと向かいから人が歩いてきていた。
俺はその人の容姿に目を疑った。
黒いワンピース。
ポニーテールにまとめた綺麗な黒髪。
昼間なのに、夢の中にいるような錯覚に陥った。
あの少女と──夢の中で逢った少女とそっくりだ。
寝不足と暑さでおかしくなって幻覚を見ているのだろうか?
俺はその子につい見惚れてしまった。
彼女は俺の視線に気づいたのか、顔を上げて俺の方を向いた。
「あっ」
「あっ」
どうやら幻覚ではなかったらしい。
二人同時に声が出た。
「すみません! ジロジロ見たりして」
「いえ! こちらこそ!」
俺たちはお互いに頭をペコペコと下げた。
側から見たら滑稽だろうが、当事者である俺は真剣に、初対面の人をジロジロと見てしまったという不審者的行為をひたすら謝った。
「人違いでした」
俺の言葉を聞いて、少女は不思議そうな顔をした。
「誰と間違えたんですか?」
大きな黒目が俺を捉える。
「えーっと、夢で見た人と……」
俺は歯切れ悪く答えた。
少女は驚いた顔を見せたが、すぐに優しく微笑んだ。
「そうだったんですね」
近くの向日葵にも負けない明るい笑顔が魅力的で、つられて俺も笑っていた。
どこか懐かしさの感じる笑顔。
初対面なのに不思議だった。
この時すでに彼女に対して何らかの感情を抱いていたのだろう。
知り合い同士というわけではないのだから、特に話すこともないが、彼女とここで別れるのが嫌だった。
運命なんてもの、信じていなかったけど、夢で逢った人とそっくりな人に現実でも逢えるなんて不思議な体験をこのまま終わらせたくなかった。
「この辺に自動販売機はありませんか?喉が渇いちゃって」
少女は手で首元を仰ぎながら言った。
汗がじんわりと滲んでいるのが分かった。
自分の気持ちを言い出せない俺に、少女は手を差し伸べてくれた。
彼女の方が少し上手のようだ。
「少し歩いたところにあります。一緒に行きましょう」
俺たちはゆっくりと歩き始めた。
太陽の高さは変わっていないのに、先ほどのような怠さはなく、俺の頭は水をかぶったようにはっきりとしていた。
「名前は?」
「 十河詩織です。『詩を織る』で詩織」
「俺は 星川流といいます」
流君、と彼女は噛み締めるように呟いた。
「何歳ですか?」
俺は彼女の素性を調べるために年齢を聞いた。
彼女にマイナスな印象を持っていないとはいえ、すぐに信用できるかといえばそうではない。
しかし詩織ちゃんから帰ってきたのは予想外の言葉だった。
「内緒です」
「内緒?」
「秘密があったほうが楽しいじゃないですか」
悪戯をした後のような笑顔を詩織ちゃんは見せた。
その顔が俺の感情をプラスの方へと揺さぶった。
明らかに怪しいのに、どうしてこうも嫌悪感を抱かないのだろうか?
自動販売機を見つけると、詩織ちゃんは駆け出した。
そしてミネラルウォーターを二本買い、一本を俺に手渡してくれた。
「自販機までの道案内のお礼です」
詩織ちゃんは自分のミネラルウォーターの蓋を開け、三分の一くらいの量を一気に飲んだ。
ペットボトルが太陽光を受けて輝いており綺麗だった。
詩織ちゃんの喉元が上品に動き、水を飲んでいるだけなのに、どこか神々しさを感じられた。
俺もつられてミネラルウォーターを飲んだ。
冷たい水が食道を通っていくのがくすぐったかった。
夢中になってミネラルウォーターを飲んでいると、詩織ちゃんの視線を感じた。
俺と目が合うと、詩織ちゃんは少し笑った。
「流君、これから一緒に遊びませんか?」
とにかく汗が止まらない。
黒いTシャツなんか着てくるんじゃなかった。
太陽光のエネルギーをもろに吸収した俺は、自転車から降りて、リュックからタオルを出して汗を拭いた。
喉がカピカピに渇いていたのでペットボトルの飲み物を一気に飲んだ。
温くなったスポーツドリンクは甘ったるかったが、喉を潤すには十分だった。
鮮やかな青空には大きなクリームのような濃い積乱雲があり、いかにも夏を感じさせるような風景だった。
道の脇には向日葵も咲いており、写真で見たら映えるだろうなと考えた。
ジリジリと肌を焼く日光は、容赦なく俺の体力を奪っていく。
部活をしていた頃と違って運動量も減っており、かつ睡眠時間も減っている。
寝不足と運動不足で不健康な身体にこの天気は凶悪だ。
とりあえず自転車を押して歩を進める。
意識が朦朧としそうな中、気がつくと向かいから人が歩いてきていた。
俺はその人の容姿に目を疑った。
黒いワンピース。
ポニーテールにまとめた綺麗な黒髪。
昼間なのに、夢の中にいるような錯覚に陥った。
あの少女と──夢の中で逢った少女とそっくりだ。
寝不足と暑さでおかしくなって幻覚を見ているのだろうか?
俺はその子につい見惚れてしまった。
彼女は俺の視線に気づいたのか、顔を上げて俺の方を向いた。
「あっ」
「あっ」
どうやら幻覚ではなかったらしい。
二人同時に声が出た。
「すみません! ジロジロ見たりして」
「いえ! こちらこそ!」
俺たちはお互いに頭をペコペコと下げた。
側から見たら滑稽だろうが、当事者である俺は真剣に、初対面の人をジロジロと見てしまったという不審者的行為をひたすら謝った。
「人違いでした」
俺の言葉を聞いて、少女は不思議そうな顔をした。
「誰と間違えたんですか?」
大きな黒目が俺を捉える。
「えーっと、夢で見た人と……」
俺は歯切れ悪く答えた。
少女は驚いた顔を見せたが、すぐに優しく微笑んだ。
「そうだったんですね」
近くの向日葵にも負けない明るい笑顔が魅力的で、つられて俺も笑っていた。
どこか懐かしさの感じる笑顔。
初対面なのに不思議だった。
この時すでに彼女に対して何らかの感情を抱いていたのだろう。
知り合い同士というわけではないのだから、特に話すこともないが、彼女とここで別れるのが嫌だった。
運命なんてもの、信じていなかったけど、夢で逢った人とそっくりな人に現実でも逢えるなんて不思議な体験をこのまま終わらせたくなかった。
「この辺に自動販売機はありませんか?喉が渇いちゃって」
少女は手で首元を仰ぎながら言った。
汗がじんわりと滲んでいるのが分かった。
自分の気持ちを言い出せない俺に、少女は手を差し伸べてくれた。
彼女の方が少し上手のようだ。
「少し歩いたところにあります。一緒に行きましょう」
俺たちはゆっくりと歩き始めた。
太陽の高さは変わっていないのに、先ほどのような怠さはなく、俺の頭は水をかぶったようにはっきりとしていた。
「名前は?」
「 十河詩織です。『詩を織る』で詩織」
「俺は 星川流といいます」
流君、と彼女は噛み締めるように呟いた。
「何歳ですか?」
俺は彼女の素性を調べるために年齢を聞いた。
彼女にマイナスな印象を持っていないとはいえ、すぐに信用できるかといえばそうではない。
しかし詩織ちゃんから帰ってきたのは予想外の言葉だった。
「内緒です」
「内緒?」
「秘密があったほうが楽しいじゃないですか」
悪戯をした後のような笑顔を詩織ちゃんは見せた。
その顔が俺の感情をプラスの方へと揺さぶった。
明らかに怪しいのに、どうしてこうも嫌悪感を抱かないのだろうか?
自動販売機を見つけると、詩織ちゃんは駆け出した。
そしてミネラルウォーターを二本買い、一本を俺に手渡してくれた。
「自販機までの道案内のお礼です」
詩織ちゃんは自分のミネラルウォーターの蓋を開け、三分の一くらいの量を一気に飲んだ。
ペットボトルが太陽光を受けて輝いており綺麗だった。
詩織ちゃんの喉元が上品に動き、水を飲んでいるだけなのに、どこか神々しさを感じられた。
俺もつられてミネラルウォーターを飲んだ。
冷たい水が食道を通っていくのがくすぐったかった。
夢中になってミネラルウォーターを飲んでいると、詩織ちゃんの視線を感じた。
俺と目が合うと、詩織ちゃんは少し笑った。
「流君、これから一緒に遊びませんか?」
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