ELYSIUM

久保 ちはろ

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Part 2-3

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「バーシスから、明朝には君達の服が届くだろう。それから出発する」
 神殿での儀式が終わり、まどかたちは心身共に疲れ果て、広場に戻った。
 広場の端に、村の人々が憩うためのものか、木を切っただけのベンチとピクニックの弁当を広げるのに最適な大きさのテーブルがあった。あまり使われていないのか、テーブルの上は砂で埃っぽい。
 五人はそこに座らされ、獅子王からやっとこの惑星について簡単な説明を受けた。
 この惑星は「ユラン」と言い、隣の惑星「イリア・テリオ」の管理下にあること。
「ユラン」には他の惑星には無い、非常に貴重な自然が完全な条件下で管理されていること、されなくてはいけないこと。
 その資源がどの惑星も羨むほどの財産であること。
「イリア・テリオ」は「ユラン」とは全く対照的で、宇宙大都市の一つであり、その頭脳部分が『バーシス』と呼ばれる機関であること。
 鳳乱と獅子王は、その機関から一時的に「ユラン」に派遣され、各村を回って調査と管理をしていること。
 最後に、獅子王は彼の携帯電話のようなもので、一人一人の写真を撮った。バーシスにその画像を送ると、それから個体が測定されて、体に合うサイズの制服が届くと言う。
「でもさ、なんで『バーシス』が、人を派遣して、そのほこらを占拠してる奴らを倒さないわけ? 簡単だろ?」
 こめかみを両の拳で支えながら、有吉は向かいに座る鳳乱に訊く。鳳乱は胸の前で腕を組んだまま答えた。
「『バーシス』は、ここでの伝統や慣習には絶対に逆らえない。この『ユラン』を管理してはいるが、『干渉』できない事になっている。今回もゼルペンスの長は村の神に助けを頼んだ。『バーシス』に、ではない。それなら、我々はそれを受け入れ、ただ見守るしかない。それに何よりも、ゼルペンスは無駄な血を流すのが嫌いな種族だ。『バーシス』の者が立ち入って、流血の惨事にでもなれば、ゼルペンスはこの惑星の村という村を結集させて、何をしでかすかわからない。とにかくそういう決まりなんだ」
「で、俺たちが尻拭い、ってことか」
「君達のようなものが来るとは本当に想像もしてなかったが、どうやらこの件は君達の手に委ねられているわけだ。仕方ないが、サポートはさせてもらう」
 鳳乱は『本当に』の所に語気を強めて、みちるとまどかを睨んだ。
 本当に女の人がダメなようだ。
「偉そ。悪いけど、そーいう態度なら、私たちが動かないでもいいのよ? こんな所にいきなり呼び出されたって、あんた達の為に働く義務はないんですから。この惑星だか、バーシスだかがどうなろうが関係ないもの」
 みちるが唇を尖らせた。
「まぁ、そんなに角立てるなよ。な、」
 獅子王が珍しく機嫌を取る。
「本当に関係ないと思うのか?」
 鳳乱の眼が、さらに冷たく光った。
「お前達、帰りたくないのか?」
 その言葉で、疲れて頭を垂れていた皆の視線が、一同に鳳乱に集まる。
「か、帰れるのか?!」
 吉野の声が上擦(うわず)った。
 鳳乱はふん、と薄く笑った。
「その可能性はある、ということだ。正直、それ関係は僕の管轄外だから詳しくは言えないが、バーシスの技術ならば君達がどこから来て、そして帰す手がかりくらいは見つけられるだろう。しかし協力しないとなると、その話も無いものと同じだな。まぁ、用が済んだらこの村では英雄だから、生涯なんとかいい暮らしは出来そうだが」
 風が吹き、ざあっと木々が葉を鳴らす。
 陽が傾き始めている。
 ここに来てから一日が終わろうとしている。

 帰れるかもしれない。
 まだ確かではない。
 でも、希望があるだけで、まどかの体に力が再び漲ってくる気がした。

「君達の寝る所だが。さすがにここの住人のようにテントで寝るのは辛いだろう。一応部屋を作ってやる。場所は……そうだな、向こうの空き地にしよう。付いて来い」
 鳳乱と獅子王が立つ。私たちも重い腰を上げる。
 その時、広場で遊んでいた子供達の皮のボールが勢い良く近くの茂みに飛び込んだ。
 子供達は笑って手を振っている。「取ってくれ」と言っているようだ。
 まどかは、それを見ると疲れも忘れ、手を振り返して茂みに入った。
 ボールはすぐに見つかった。まどかが脚を振り上げて思いきりそれを蹴ると、それは大きく弧を描いて木々の隙間を抜け、子供達の輪に落ちた。
 すぐに茂みを出ようと一歩踏み出した時、何かに後ろ髪を引かれた。
「痛っ!」思わず声を上げて振り返ると、細い枝に一束の髪が絡まっていた。解こうとしたが、樹液が髪に付着し、なかなかうまくいかない。
 手間取っていると、ガサガサと葉擦れの音を立てて鳳乱が姿を現した。
 まどかがすぐに戻らないので逃げたとでも思ったのか、様子を見に来たようだ。
 相変わらず無表情だ。まどかは責められている気がし、「髪が枝に絡まったの」と慌てて説明した。
「動くな」
 彼はさらに近づき、その長い指で丁寧に髪を解き始めた。そっけない態度に反して、その動きは優しい。
「だから……」
 鳳乱は低く呟く。
「だから、僕は長い髪が嫌いなんだ……。得に美しい長い髪は」
 枝から解放された髪を彼は指先で少し弄び、視線を髪からまどかに移した。
 オリーブグリーンの瞳は、光線の遮られた茂みの中では深みがぐっと増していた。
「お前は……」彼はなぜか躊躇ためら躊躇っている。
 まどかは黙って彼に視線を留めていた。
「……何でもない。何か困ったら獅子に頼れ。僕には近づくな。グズグズしないで早く来い」
 突き放すように言い、鳳乱はさっさと行ってしまう。まどかは慌ててその広い背を追った。

 ジャングルの脇の開かれた空き地で、鳳乱はミリタリーパンツのポケットから、マッチ箱大のつるりとした銀色のケースを取り出した。中から円錐のスティックのようなものを取り出して地面の上に刺した。
 そしてその上をぐっと踏みつけた。
「はい、下がって下がって」
 パンパンと獅子王が手を叩きながら五人を遠ざける。鳳乱はまだその場所で何か細工をしたあと、その銀色のケースを、片手で軽く宙に投げては受け止めながら、広い歩幅でこちらに来た。
 その長身の男の銀の髪は、夕陽の光を吸収して桃色に輝いている。まどかの視線は、つい彼に吸い寄せられていた。
「あれだけピンクの似合う男も珍しいわね。バラの花びらが散っていても不思議じゃないわ」
 ーー激しく同意。
 まどかがみちるに答えようとしたその時、音もなく、目の前に四角い建物が現れた。
 獅子王と鳳乱の寝所と全く同じ外観のものだ。
「獅子、女達の分は広場の反対側、あっちに作って来て」
 鳳乱は一本のスティックを宙に投げた。
 それを獅子王はうまく捕らえる。
「なんで? この隣でいいんじゃねえの?」
「訳の分からん連中が集まると、大抵面倒が起こる」
 鳳乱は、当然の事のように言った。
「ねえ、私たちが問題を起こすっていうの? 何かあるなら、はっきり言ってよ」
 まどかは相手に歩み寄り、両手を腰に当てた。執拗な侮辱を我慢するにも限界がある。
 ぐっと顔を見上げなくてはいけないのが、情けない。
 驚いたのか、彼の頬が一瞬赤く染まった。しかし、すぐに普段の鉄仮面に戻る。
「それなら言わせてもらうが、女は何の能力も無いくせに、すぐに疲れたの、熱いの、寒いの、痛いのなんだのと文句ばかり言う。そんな面倒な奴らとなるべく関わりたくないだけだ。特に長い髪のチャラチャラした女とは。ここでは邪魔なだけだ」
(悔しい……)
 彼のいう通り、確かにここではまだ無力かもしれない。でも日本にいたときには、少なからず人の役に立っていた……はずだ。
 患者さんの苦痛を少しでも和らげようと、いつも努力していた。
 それなのに始めから、何も知らないで「女」というだけで人格を否定するなんて。
 もしかして、イリア・テリオでは男尊女卑がまかり通っているのか。
 鳳乱はまどかを見下ろして、じっと反応を待っていた。その瞳に冷たい光は無く、代わりに同情が浮かんでいる。
 まどかは目に力を込めた。
「私に何が出来るかわからないのに、頭から人を否定するのはフェアじゃないと思う」
 鳳乱は、ふっ、と口の端を上げた。
「能力の無い者ほど、自己主張をしたがる。厄介だ」
 顔にカッと血が上った。
 鳳乱はそれ以上何も言わずに獅子王の方へ行き、私たちの部屋を作るよう、もう一度促した。
「言ってればいいわ。どうせ私たちはすぐにもとの世界に帰るんだから! そしたらあなたたちとは顔も見ずに済むし!」
 鳳乱の歩みが止まり、彼は肩越しに振り返りまどかを一瞥した。だが、それだけだった。
 後ろからみちるが肩に手をかける。
「気にすること無いよ。あんなやつ、何もわかってないから」
 まどかはみちるの手に、そっと自分の手を重ねた。

 みちるとまどかの部屋の造りは、ほとんど獅子王と鳳乱と同じものだったが、全体的に一回りほど小振りだった。
 とはいっても、一人で使う部屋の大きさとしては十分で、一人用のベッドにドレッサー、小ぶりのライティングデスク。そういった最低限の家具が備わっていた。ワンルームマンションとさほど違いがない。
 浴室はトイレと一緒になっているユニットタイプで、小さなバスタブまであった。
 一方、男達の施設にはそれぞれの個室に加え、十分くつろげる広さのダイニングキッチンがあった。キッチンは山小屋のバンガローの様な雰囲気で、意外と落ち着く。
 五人はそこに集まり、一緒に入って来た鳳乱の説明を再び聞くことになった。獅子王は親切にも水を入れた瓶を持って来て、人数分のグラスに注いでいた。
 鳳乱は水を一口飲んだ。
「食事は村の誰かが決まった時間に運んでくれる。君達がここで何か作ることはまだ無いだろう。水はタンクに溜めておけばいつでも出る。それは自分たちでやれ。陽光エネルギーで湯も出る。まあ、この気温で湯が必要だと思わないが。朝は僕と獅子王が来て、その日の予定を伝える」
 獅子王が皆を見回して言う。
「なんか質問は?」
「あ、日焼けクリームっていうか、基礎化粧品とかある?」
 みちるが小さく挙手した。
「基礎化粧品?」
 獅子王が苦笑し、鳳乱に目配せした。彼はもうお馴染みの溜息をついた。
「取り寄せておこう。で? 無ければ解散。よく休んでくれ。食事は三十分後に届けさせる」
 鳳乱と獅子王が出て行った。二人が外のドアを閉める音が聞こえるとそれを合図に、皆一斉にテーブルに突っ伏した。
「疲れたあ」
「なんなの、これーー」
 吉野は水を一気に飲み干し、
「オレなんか、さっきの蛇の心臓がまだ喉でバクバクいってる気がする。蛇なだけにヘビー」
 有吉がハハッと乾いた笑い声をあげた。
「あんた、一番最初によく、ガバッといけたわね。何気に惚れ直したわ」
 みちるは突っ伏した顔だけ、山口に向けた。
「あれな。中国であるんだよ。前に医師会の旅行の宴会で飲まされた。心臓がまだ打っているうちに飲むのが礼儀とかなんとか。で、飲むと後が大変なんだよ。めっちゃ元気になる」
 彼は苦笑した。
「元気になるならいいじゃない」
 まどかはテーブルに肘をついて重い頭を支えていた。
「局部的に元気になってもなぁ」
 山口と有吉が顔を合わせてニヤニヤ笑う。
「えっ! そう言うこと」
 まどかはそれ以上相手にせず、グラスの水を飲み干しておもむろに席を立った。
「私、もう休む」
 一度にあまりにもたくさんの事があり過ぎた。
「私も」
 みちるがまどかに続くと山口の声が追いかけた。
「メシは?」
「食べられるわけないでしょう」
 二人は答え、自分たちの一時宿泊所に戻った。
 
 シャワーを交代で簡単に浴びた後、汗と埃にまみれたそれぞれの服を洗って干した。湿気はあるが、比較的気温が高いから明日には乾いているはずだ。
 体の汚れを落とすと、随分気分がすっきりして、猛烈な眠気が襲って来た。まどかは裸のまま清潔なシーツの間に潜り込み、柔らかな枕に頭を沈め、丸くなった。
 やがてするすると糸がたぐり寄せられる様に、たちまち眠りの中に引きずり込まれていった。

 *

 夢の中で、自分が寝ていることをはっきりと自覚している。

「まどか」
 誰かが遠くで私の名前を呼ぶ。
 でも、眠い。私はまぶたを閉じたまま。
 雫が水面に落ちて波紋を広げるように、声の余韻は頭の中に静かに響いた。
「まどか」
 もう一度呼ばれる。
 私はこの声を知っている。ついさっき、近くで聞いたもの。
 そっと目を開ける。視界一面が灰色だ。目を開けたものの、仰向けになったまま身動きができない。
 夢だ。もう一度眠ろう。
 再び目を閉じる。閉じたまぶたの裏に、一対のオリーブグリーンの瞳が浮かび上がった。
 ハッと目を見開いた。
 すると、灰色一色の世界は突然、ジャングルと青い空に変わった。
 気がつくと、最初にこの世界に来た時の、あの石の祭壇の上に一糸纏わぬ姿で横たわっていた。
 両手は頭の上で、柔らかい細い蔦によって幾重にも巻かれて、動きを封じられていた。
 開かれた脚も同様に、足首に蔦が絡んでいる。
「まどか」
 耳元で、温かい吐息に混じりに名が呼ばれる。
「鳳乱?」
 返事は無い。姿も無い。
 その代わり、見えない両手が頬をそっと包んだ。
 思わずぎゅっと目をつむる。すると再び、いないはずの鳳乱の瞳が浮かび上がる。
 見られている?
 そう思うと途端に恥ずかしくなり、脚を閉じようと、胸を隠そうともがいた。だが、無駄だった。
 手の感触は頰からそのままそっと首筋を伝い、ゆるりと鎖骨をなぞり、デコルテの上で躊躇うように止まった。
 それでもそれは一瞬で、再び手は下へ移動し、指先は二つの膨らみを時間をかけて登って行った。
 ざわざわと、体の中に風が吹く。ぞくぞくと、肌が粟立つ。
 目を瞑ってるので、胸を包んだ手の感触がさらに際立つ。
 依然、オリーブグリーンの瞳は何も語らず、見つめている。
 ひんやりとした手は胸を下からすくい上げ、その指先をふくらみに沈めた。胸は何の抵抗も無く、その形を歪めた。
「はぁ……」
 ため息ともつかぬ声が漏れた。
 もどかしいほどゆっくりと手は胸を捏ねる。
 その愛撫によって体の芯は徐々に熱を持ち、ただ胸を揉まれただけですごく感じてしまう。
 さらに、見えない手指が、胸の先端を引っ掻くように軽く何度かつま弾く。
 それはだんだん硬さを増し、体の中で唯一、彼に抵抗を試みていた。
 しかし、彼の指はその二つの突起を服従させるかのように、強く押し込んだ。
「はぁ……」
 全身に電流が走り渡る。息が乱れてしまう。
 彼の視線が体中に絡みつく。
 そして思考を狂わせる。
 両手は胸の膨らみを離れ、体のカーブに沿って下りていき、脚の付け根に向かって何度か上下した。その度にぞくぞくとした快感が下腹で渦を巻く。彼の指は、すでにその小さな黒い茂みを這い、中心に近づこうとしている。
 そこはきっと、もう潤んで溢れんばかりになっているはず。
「やめて」
 声を喉から絞り出し、やっとそれだけ言ったが、二つの瞳は静かにまどかを見下ろして、指はまだ、さわさわと泉の周りを往復していた。
 刹那、ぐっと指が中に潜り込んだ。
「あぁあ……」
 襞は優しく彼の人差し指を包み込み、亀裂から、つう、と尻まで一筋の蜜が流れて行った。それまでの控えめな愛撫とは一転して、長い指は、急に泉の中で暴れ始めた。
「あっ、あぁん、あん……」
 指はより貪欲に、蜜を求めるように奥へ奥へと滑らかに侵入する。体はまどかの意思と反し、媚肉はその暴れる指をなだめるかのように収縮し、さらに奥へ奥へと誘い込む。
「やぁああ……」
 指が感じる場所をこすり上げるたび、声はどんどん高くなり、腰も指の動きを追うように妖しく揺れる。体の自由が利かないだけに、感情はますます煽られる。
(でも、どうして?)
 快感の波に幾度ものまれながら、疑問が頭をよぎる。
(私の事、嫌いなんでしょ? どうしてこんなことをするの? 嫌がらせなの? 辱めて楽しんでいるの?)
「ああっ!」
 その疑問を打ち消すかのように、稲妻が体の中心を駆け抜けた。彼の親指が、膨らんで、敏感になった蕾を何度も撫で上げていた。
 潤みの中に入った指は、既にしっかり粘膜に囚われながらも窮屈そうに動き、絶妙な刺激を執拗に与えてくる。
 くちゅくちゅと卑猥な水音が耳元に届く。
 親指は、蕾に溢れた蜜をくるくると塗り込んでは指の腹で擦り続ける。もう一方の手は片方の乳房を捏ね、時おり、きゅっと頂をつまみ上げる。体には既にじっとりと汗が滲んでいた。
 呼吸も、絶え絶えに、早く、浅い。
「はぁ、はあ……ん、も、もうやめて……おかしく、なっちゃう……」
 新しい波が内から外へと波紋を描いて広がり、全身がとろけそうだった。
 小さな波が内から外へ波紋を描いて広がり、目の奥に光がちかちかと弾けたと思うと、それが大きな白い光となって、まどかの体を包み込んだ。
「あああぁ!」
 胸が迫り上がり、つま先までピンと硬直する。そして、やがて糸が切れたように体が祭壇に落ちた。全身に、激しい官能の余波と愛撫の余韻がじんわりと響いている。
「まどか」
 再び声がした。切ない響きだ。
 まどかは、まだ息を乱しながら、じっと耳をすましていた。
 しかし、たちまち瞼が重くなってくる。
 オリーブグリーンの瞳は再び眠りの闇に紛れ、やがて消えて行った。

 目が覚めたときには、薄いカーテンを通して、部屋に白い光が射し込んでいた。どのくらい眠ったのか。
 頭はすっきりしていたが、まだ体にだるさが残っていた。
 ふと脳裏にあの、オリーブグリーンの瞳の残像が浮かんで、消えた。
 体を起こし、薄いブランケットを捲って、脚の付け根に手をやる。くちゅ、と音を立てて指先が襞の間に沈んだ。
「なによ、……自分が言ったんじゃない、『近づくな』って……」
 まどかはため息交じりに、独りごちた。
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