ELYSIUM

久保 ちはろ

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Part 16-2

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どこを見ても、右も左も同じ景色。
 延々と広がる闇と、様々な大きさと形の石の塊と。
 発光しているもの、していないもの。ガスを纏ってるもの、そうでないもの。
 まどかは暫く操縦席に身を沈めてそれらを眺めていたが、やがて飽きてくるとシートを水平近くまで倒した。
 制服のジャケットからカプセルを出して口に入れる。レモンのような味が口に広がり、カプセルが溶けていく。
 そして、コントラストを調節して、船の中の光を弱めた。
 今日は、普段のアーミーワンピースではなく、ザンク・イネアの統括に面会をするという公式な理由で、正装させられていた。
 紫紺のスーツ。タイトなスカートでも素材のせいか窮屈な感じがせず、それでも服の形は崩れなかった。
 当然、お揃いの色のベレーも被せられた。まどかは帽子を膝の上に置いた。
 薬が効いてきたのか、だんだん瞼が重くなってくる。

 「火の石」の事件後、獅子王は表向きの指令『他惑星のコントロール』を受け、ザンク・イネアに飛ばされた。
 言葉を変えて言えば、『流された』あるいは『追放』。
 言い方は幾らでもあるが、結局、彼の私情で多くの人々の命が脅かされた事実と、イリア・テリオの財源、否それのみならず、その他数ある星々の大切な資源の一部にもなっているユランの破壊をもたらしかねなかったその行為は、十分大罪に当たる。
 それは彼の命をもって償おうにも償いきれるものではない。
 そもそも、イリア・テリオに死刑制度は無い。
 最も重い刑罰は終身刑で、罪を犯したものは、死ぬまでその罪を償わせられるのだった。
 そして、送られるの場所が殆どの場合、「ザンク・イネア防衛庁」異称「囚人収容所」。
 収容された囚人たちは、軍人として過酷な訓練を要求され、いかなる争いにも真っ先に前線に送られる、また、ありとあらゆる労働で酷使される。
 治験、人体実験しかり。
 そんなことを、ミケシュから講習の合間に聞いた。
(そんな罪人を連れ戻しに私は宇宙そらを飛んでいるの…………)
 まどかは、揺れる思考の中で問いかけた。
(ねえ、鳳乱、私のしていることは正しいの?)
『何かをするのに「正しいか、正しくないか」の天秤にかけるのじゃなくて、自分が納得するか、しないかで決めるんだよ』
 彼の懐かしい声が甦った。まどかの口元が無意識にほころぶ。
 船の中に闇が入り込んでくる。
 そして、すっぽりと闇にのまれた。

 まどかが目覚めると、すでに船は高度を下げていて、ザンク・イネアのその荒れ果てた地が目の前に広がっていた。
 遠目にも一目でわかる、乾いて荒れた灰色の地。緩やかに起伏する丘が多く、そこには切り立った岩肌がざらついた表面を見せ、緑が圧倒的に少ない。転々と家が連なるところが、村なのだろうか。きっとあの黒い、二つ隣り合って並んでいるひときわ大きな四角い箱が、ザンク・イネア防衛庁だろう。
 近づくにつれ、黒いと思った建物の外壁は土埃や大気汚染の被害に長い間さらされ、維持管理もなにもされていないことを如実に表しているだけだった。
 ロボットに船を誘導されて、格納庫に船は無事着地した。既に待っていた黒い軍服姿の、小柄な男にまどかは将官室へ案内された。
「これはこれは、わざわざ遠いところからよくお越し下さった」
 エゼル、と名乗った総括将官が話す度に、彼のたるんだ喉の奥からひゅうひゅうと音がした。
「恰幅が良い」と言いたいが、せり出した腹は金ボタンの光る軍服でどうにか隠れている状態で、体を机と椅子の間に窮屈そうに挟んで座っていた。  
 彼の無遠慮な視線がずっと、まどかの体に絡みついている。
 まどかはその視線を敢えて無視し、持参した書類を渡した。
「お目通しください」
 ザンク・イネアのような貧しい星では、まだ紙をやり取りするのが通常だった。
 将官はまるで汚いものに触れるような手つきで書類を受け取ると、中身を確かめた。そして、目だけでまどかを見上げると、不快な声音を隠しもせずに言った。
「獅子王は終身ではなかったのかね? エステノレス長官から彼の身を任されたのは、つい昨日のことのように思えるが……」
「申し訳ございません。私はただこの書類を遣わされた身ゆえ、将官の質問にお答えすることは出来ません。ただ、エステノレスは、この書類で全て処理出来ると申しておりました」
「まあ、そういうことだが……急に言われてもねえ……」
 エゼルのその血色の悪い顔が、一層黒くなった。
 そのとき、後ろのドアが左右にスライドし、例の小柄な男に付いて、獅子王が入って来た。
 まどかは、一瞬目を瞠った。
 将官室に入って来た獅子王は、以前と全く変わり果てた姿だった。
 最後に彼を目にしたのは、たった二ヶ月前だというのに。
 身につけているのは防衛庁の制服、というよりも作業着だ。くたびれたTシャツに、埃で白くなった黒いカーゴパンツ。つま先も踵も磨り減ったブーツ。獅子王の頬は痩け、いつも光の中で輝いていた金髪は無造作に肩まで伸び、乱れてごわごわだった。
 そして琥珀色の瞳には力も光もなく、どんよりと暗い影が映っていた。
 彼はまどかを見ても、顔色一つ変えず、何の反応も示さなかった。
「カネラ獅子王。バーシスより金目まどかがお迎えに上がりました」
 まどかは彼の部下ということを強調するために、敬礼をした。
「私の任期はまだ完了していない。つまり、帰れない。まあ、任期も無期だしな」
 まどかの顔を見るでもなく、エゼル将官の背後に広がるスクリーンに目をやりながら、彼は言った。
 その声にも、昔のような張りは無い。
「しかしカネラ獅子王、私はエステノレス長官の指令を受けてここまで来たのです。カネラをお連れせずに一人で戻る様なことになれば、この金目の首が飛びます」
 まどかは獅子王をしっかりと見据えた。「睨んだ」と言った方がいいかもしれない。
「おやおや、こんな頼もしい部下を失うことがあれば、是非この私が身元を引き受けたいものですな」
 肌の脂ぎった将官がもう一度、まどかを下から上まで舐める様に視線を這わせるのを、肌で感じた。
 まどかは、こみ上げる嫌悪感を抑え込み、再び一度獅子王に問いかけた。
「如何致しますか」
 その質問に、選択肢は無い。今の彼は逆らえるわけが無い。
 やや間があって、獅子王は言った。
「荷をまとめる」
 それを聞くと、まどかは内心安堵のため息をつき、エゼルに向き直った。
「お聞きの通りですので、カネラ獅子王は今日を持ちまして任期完了ということでよろしいですね。お手を煩わせることは重々承知の上ですが、将官に任期完了の手続きをお願いしたいのです。私はカネラのお手伝いをして、もう一度ここへ伺います。いつ頃伺えばよろしいでしょうか」
「……一時間後かな」
 相手は憮然として言った。
 まどかは苛立を鎮めて無理やり微笑み、深々とお辞儀をした。
「ありがとうございます。さあ、カネラ獅子王、参りましょう」
 獅子王の横へ回り、促した。獅子王は将官に慇懃な敬礼をし、踵を返すと将官室を出た。
 まどかも部下らしく、彼の後についていく。
 獅子王の部屋はこぢんまりしていて、機能的だった。
 そう言えば聞こえがいいが、四角く部屋をかたどっている壁と床は質の悪い金属独特のくすんだ銀色の一色で、殺風景な雰囲気を一層濃くしていた。
それでも囚人には勿体ないのかもしれない。
 部屋にあるのはシングルベッド、クロゼット、ライティングデスク。娯楽の一切は与えられていないようで、本の一冊も無かった。隣に続くドアの奥はバスルームだろう。
 獅子王はクロゼットの下から青い小ぶりのケースを引きずり出して、ぞんざいに服を詰め始めた。まどかはそれを見ながら、ライティングデスクの前に座った。
「獅子王、全部詰めるんじゃなくて、シャワーを浴びて、着替えてからにしたら?」
 返事は無かったものの、彼は服を詰める手を止めて、そのままバスルームに消えて行った。
 まどかはベレーをデスクの上に置き、ジャケットを脱いで椅子に掛けた。着心地は全く悪くないのだが、普段着慣れないスーツは苦手だ。
ホッと息を付く。
 彼がシャワーを浴びている間、まどかは机の上に重ねた手に顎を乗せ、本当にこれで良かったのか考えた。
 既に答えは出ていたが、いつもその質問へ戻ってしまう。
 起こした頭を振り、考えないようにする。
 代わりに、ケースのところへ行き、乱暴に放り込まれた服を畳んで入れ直す作業に没した。
 服は少なかった。当たり前だ。ここでは作業服一式と替えの下着さえあればいい。
 最後のシャツを畳もうと手に取ると、獅子王がバスタオル一枚を腰に巻いて出て来た。
 黄金の髪は再び輝きを取り戻し、しっとりと濡れていた。体が暖まり、血行が良くなったのだろう、頬にはうっすら赤みが差していた。
 こうして見ると、やはり獅子王も美しい男の一人だった。
 重労働のせいか、粗末の食事のためか——多分、両方だろう——肉が落ちたために顔がシャープになり、初めて会った頃のあどけなさが消えてぐっと大人っぽくなったように見える。体の引き締まった筋肉は、逆にハードな労働の御陰で落ちることは無かったようだ。
 昔、博物館で見た数々のギリシア彫刻の神々の姿を連想させる。
「それ、着るから貸してくれないか」
 彼は手を伸ばした。まどかは無言で、手にしていたシャツを差し出した。獅子王はそれを広い肩に羽織ながら、腕を通す。
 まどかはその背中に語りかけた。
「……二人で……傷ついたもの同士、肩を寄せ合って、傷の舐め合いでもしようかな、と思って。……その方が少しでも慰みになるでしょ。少なくとも、私には、よ。もう……恨んでるとか憎いとか分からないの。どうでもいい。でも、あなただけ鳳乱の影から逃げてこんな遠くの星に隠れているなんて卑怯だわ」
「そんな理由でオレを連れ戻しに来たのか」
 まどかは着替えている彼に、くるりと背を向けた。衣擦れの音が冷たい室内に響く。
「ねえ、眠れる? 毎晩、ちゃんと、眠れる?」
「……ああ。労働しごとがきついからな」
「じゃあ、食事も出来るでしょうね。仕事がきついなら」
「ああ……」
 ぱたん、とケースの蓋を閉める音がした。
 まどかは体の向きを変え、彼に歩み寄って正面から対峙した。
「私は、眠れないの。薬を飲んでないと、眠れないの。食事も……最近はあなたを連れ戻すっていう動機で急に食欲が出たけど、それまで殆どまともに食べられなかったわ」
「どうりで。痩せたよな」
 バーシスの制服仕立てのシャツと、プレスされたストレートパンツに着替えてまどかを見下ろす獅子は、大佐を名乗るに十分値する男だった。
「しかし、あのシャムが、おまえがオレを連れ戻すのをよく承諾したな。おまえ、何かシャムにしたの? それとも、シャムと何かしたの? あいつの犬になったんだろ」
 まどかは無言で、相手を睨みつけた。悪びれる様子も無く、平然と立っている彼を見ると、憎しみがふつふつと沸き立つのがわかった。
ーー軽口叩ける身分なの?
 一体誰のせいで私が、みんなが辛い思いをしていると思っているの。
 あなたは黙って頭を垂れて、私に付いて来ればいいのーー
「シャムもこんな上等な雌犬を手に入れて、今頃大喜びしてるだろうね」
 彼は薄く笑った。
「その下品な口を閉じて。長官とはあなたが考えているようなことは何も無いわ」
「これからあるかもよ。あいつはあんな顔して、結構奥手だからね。それとも、もうキスくらいされた?」
 まどかは右手を大きく振り上げた。
 瞬間、彼はその先の痛みを察したのか、左目を瞑った。
 まどかは彼に一撃をかわす隙を与えず、その後頭部を押さえつけると、自分の方へ引き寄せた。がっ、と彼の歯が唇にあたり、血の味が口に広がった。まどかは彼を睨み付けたまま、そして彼は驚きで目を見張っていた。
 それでも、重なった二人の唇は離れなかった。
 まどかは彼の頭に手を回したまま、乱暴に彼の唇に自分のを押し付けていた。彼の唇から、とまどいが伝わる。だが、それはすぐに従順に変化した。
 相手は出血の出所を探るように、丹念に舌でまどかの唇を舐めた。親猫が、子猫の頭をいつまでも舐めている、そんな優しい執拗さで。
 まどかは、瞼を閉じた。
 獅子王はまどかの背に両手を這わせると、もっと深い所を探るために大胆にその舌を割り込ませた。
 肉厚の、ざらついた質感。
 独占するように、口内の隅々を弾力のある舌が動き回る。その遠慮の欠片も無いキスは、恋人同士が再会を喜ぶようなものではなく、喉を涸らした旅人がやっと見つけた湧き水に顔ごと浸す、そんな切実さがあった。
 鳳乱のものと全く違うその感触に、初めは戸惑いながら、それでもだんだん体の力が抜けて行く。獅子王の後頭部に当てていた手は既にその必要が無くなり、肩まで滑った。
「んン……」
 溢れた唾液とともに甘く舌を吸われた拍子に、鼻にかかった声が漏れてしまう。
 恥ずかしさを打ち消すように、彼の舌に軽く歯を立てる。彼のそれは嬉しそうに応え、まどかの舌を絡めとると根元の方からズッ、と音を立てて勢い良く吸い上げた。
 電気がぴりっと体の中心を走り抜けた。まどかは思わず体を離す。
 そしてなるべく冷静さを保ちながら、言った。
「鳳乱のことは忘れたみたいだけど、キスの仕方はまだ覚えているようね」
 彼の、熱にけぶる瞳を真っすぐ見つめる。
 刹那、彼の瞳の熱が弾けた。
 恐怖を感じ、まどかが相手の体から手を引くよりも早く、獅子王はまどかの手首を掴んだ。
「オレが何を覚えているか、おまえの体に教えてやるよ」
 まどかは相手を睨んだ。掴まれた手を振りほどこうと、もがいた。もちろん、彼が手を放すわけが無かった。
 獅子王の瞳に、異様な光が揺れていた。怒りか欲望か。まどかには分からない。
「オレと一緒にいるって、そう言うことだろ。おまえこそ鳳乱を忘れたくて、わざわざこんなとこまで来たんじゃないのか」
 まどかは初めて、自分の決断を後悔した。
 顔の高さで掴まれた手首が痛かった。彼は掴んだその腕を下すと、まどかをベッドまで引きずって身を放り、その上を跨ぐように覆い被さった。
「いやっ! 止めて!」
 その体の下から足掻き、逃げようとするまどかの腰を彼は両腕で掴み、強い力で引き寄せる。固いベッドに肩を押し付けられ、間髪をおかず、首筋に獅子王の濡れた舌が這い回った。
 まどかは懸命に首を反らせて、彼の肩を押し返したが、相手の強靭な体はびくともせず、ただ愛撫に没頭している。
 鎖骨から顎、耳たぶまで丹念に舌は何度も何度も往復し、肌を湿らせていく。それでもまだ、まどかはぐいぐいと彼の肩を押して抵抗を続けると、急に彼の歯が喉に食い込んだ。
 獅子王が、喉に深く噛み付いていた。
 まるでそれは『本当に』肉食獣が獲物ののど笛を噛み切り致命傷を負わせる、それだった。
 その瞬間、まどかは全てを諦めた。彼のちょっとした行為はまどかを『本物の小動物』にさせるのに十分だった。
 相手を制していた腕が、力なく冷たいシーツの上に落ちた。
 それをすでに承知していたかのように、彼は喉にしゃぶり付きながら、まどかのシャツのボタンを外し始める。
 彼の荒い愛撫から、最初は恐怖しか感じなかったが、何度も肌を舐める舌のぬめりとざらつきが、じわじわと脳を甘く痺れさせ、徐々に恐怖を薄れさせていった。
 彼は薄いキャミソールの間から手を入れ、ゆっくりと腹部を撫で回すと、徐々に上に這わせていく。そして、胸の膨らみに指先が触れた。
「ん?」
 彼はやや上体を起こし、乱暴な手つきでキャミソールをたくし上げた。露になった膨らみは冷たい空気にさらされ、まどかは急に心細くなった。
「おまえ、ブラしてないんだ。なんで? もしかしてオレとこうするの、考えてたの」
 蔑むような視線で見下ろされているのに、意に反して体が火照るのを感じた。まどかは顔をそらし、その視線を避けた。
「そんなわけ、ないじゃない」
 かろうじて残った自尊心で、それだけ返した。
ーーふうん、ま、いいけど。
 彼は依然、まどかの顔を見下ろしたまま、両の胸を優しく揉み始めた。まどかは急にこみ上げた官能の兆しに堪えるように、瞼をきつく閉じた。
 彼の温かく、大きな手に包まれた膨らみは、されるがままに形を歪ませ、食い込む彼の指を受け入れる。
 下から上へ、内から外へ、マッサージを施しているような彼のゆったりとした手の動きは、どこか頼りなく感じた。
(もっと……)
 そんな声が脳裏に響く。
 まどかはとっさに、頬が熱くなるのを感じた。
(私は何かを期待しているの?)
「わかってるよ」
 まどかは驚き、思わず彼の顔を仰ぎ見た。聞こえるはずが無いのに。さっきの蔑むような素振りは消えていて、瞳には切なさと哀れみの色が浮かんでいた。
 彼はまどかの耳元に口を寄せ囁いた。
「乳首、立ってるし。もっとして欲しいんだろ……今度は、オレがイかせてやるから……」
(え? 今度は、って……?)
「はんっ……!」
 彼はまどかに考える暇を与えず、さっきまでのそれよりもずっと強い力で胸に強く指を食い込ませ、顔を伏せると突き出た頂を舐め上げた。それだけで、体が小さく跳ねた。強烈な快感が突き抜ける。
 獅子王は片方の乳首を摘み、捻り上げ、もう一方には強く吸い付き、軽く噛みついた。
「ああ……っ!」
 思わず声が高くなる。そして視界に入った天井が、ここがどこかを思いださせた。まどかは慌てて自分の手を銜(くわ)えた。乳輪をくるくる舐め回していた獅子王は、顔も上げずに乳首を口に含んだまま、くぐもった声で言う。
「完全防音だから、そんなことしなくてもいいよ。好きなだけ声、出して」
 彼は頂を口に含み、乳児のように舌を絡めながら吸い、転がし、再び柔らかな丘に押し込む。
「ふう……ン」
 ざらついた舌で突起を左右交互にしつこく擦り上げられ、そこだけじんじんと軽い痛みを伴う快感にさらにそれは硬さを増す。
 ふと獅子王は胸への愛撫を止めて、伸し上がって来た。さっきのような性急さは感じさせないキスを落とすと、まどかに少し体を預ける。
「たまに上の機嫌が悪いとさ、いきなり部屋に入って来られて、リンチだよ。躾だってさ。笑えるだろ。後ろから突っ込まれるヤツもいるよ。だから、完全防音なの」
 そう言って悪戯な笑みを浮かべる。まどかはなんとなく、懐かしいその笑みにつられてつい、気が弛んでしまった。
「獅子王も、突っ込まれたの?」
 彼は始めて、顔をほころばせた。
「まさか。なんか、オレは結構特別待遇だったみたい。今まで誰も入って来なかった……まあ、これからだったのかな。お楽しみは……」
 そんなことを言いながら、胸の上にあった片手はするすると体の線をなぞりながら下りて行き、スカートの裾から侵入すると、ストッキングの上から内股を撫で上げた。
 ざわざわと、甘美な予感が粟立つ。
 そんな変化を感じ取ったのか、獅子王は目を細めて、再びキスをした。
「こんな所で女と楽しむなんて、オレが始めてだろうな……」
「ふっ……ン」
 獅子王の指が、下着の上をゆっくりと秘裂に沿って動いた。
「……おまえ、またなんて便利なモノはいてるんだ」
 獅子王は、少し驚いたふうをしながらも、おかしそうにクスクス笑った。
 なんてことは無い、ストッキングは腿でぴたりと止まるガーターストッキングなだけだ。
 まどかは締め付けるものが苦手なので、なるべく締め付ける面積が少ないものを選んで身につけているだけだった。それでも確かに、脱がせる手間がかからないと言えば、それはそれで「便利」なのだろう。
 まどかは指摘されると恥ずかしくなり、琥珀の輝きから視線を外した。
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