ELYSIUM

久保 ちはろ

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Part 16-3

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 獅子王は、まどかの唇に、チュッと音を立ててキスをすると、首筋から、鎖骨、胸へと体をずらしながら啄むように小さなキスをこぼして行き、裾が乱れたスカートから露になっている太股に噛み付いて、ぺろりと舐めた。
「あんっ」
 甘い不意打ちに、びくっと体が震える。
 彼は黙って上体を起こすと、ぱかぱか、とパンプスを脱がして床に転がした。
 そしてそのまま下着もするすると抜き取ってしまう。スカートは腰まで捲り上げられ、無防備な下半身が彼の前にさらけ出された。
(見られている)
 まどかはその視線がたまらずに、身をよじった。
 しかし、それは全く無駄な行為で、獅子王は膝の下に手を掛けると軽く持ち上げ、あっさりとまどかの体を開いてしまった。
「や……獅子王……止めて?」
「服を着たままってのも、すごくいやらしいな」
 まどかの言葉など全く意に介せず、さらに膝を体の方へ押し付けるように押さえ、そのまま顔を脚の付け根に近づけた。
「ひゃんっ」
 柔らかな感触が伝わり、喉が鳴る。
 くちゅ……ちゅく。
 その音は、彼の愛撫に十分満足していた証明以外の何ものでも無かった。
 泉の入り口で蠢く、弾力のある湿った温もり。
 今までの愛撫で体中が敏感になっていた。
 そして、待っていた。
 彼の舌は花弁を丁寧にめくり、時間をかけてじっくり味わうように舐め上げ、甘い刺激を与え続ける。
「だ……だめぇ……」
 舌が動く度に立つ水音が、冷たい室内に淫靡に響く。
 まどかの体は、すでに自覚出来る程熱く火照っていた。この部屋と体の温度差はどれほどだろう。
 獅子王は指で花弁を押し広げるようにし、奥へと舌を割り込ませて行った。
 彼の、まだ少し湿りを含んだ髪が内股に触れる。まるで繊細な触手が、肌をくすぐっているようだ。その大胆で滑らかな舌の動きと、柔らかな髪の感触によってまどかの理性はすでに揺らいでいた。
 彼はさらに顎を大きく動かし、傲慢に花弁を貪っている。
「はあぁぁぁあん!」
 ねっとりとした舌が蕾に纏わりついた。
 尖らせた舌の先で、彼はその膨らんだ蕾を突く。容赦なく弾かれる度に、そこからびりびりと刺激が走る。
(もっと、もっと溺れたい)
 頭ではそう思っても、その刺激を続けられたら壊れてしまいそうで、どうしていいか分からなくなる。
「あ……ふぅン……」
 思わず獅子王の頭に手を伸ばし、力の入らない手で押さえつけてしまう。
 それは「止めて」という合図か、もっと奥へ誘う為か……彼にどんな風に取られてもよかった。
 獅子王はふと頭を上げた。まどかの手が取られて、再びシーツの上に戻された。相手の少し紅潮した顔からは、何の感情も読み取れなかった。
 一瞬、寂しさが襲った。
 しかしそれもつかの間、今度は指がゆっくりと泉に沈み込んだ。
 泉からとろり、と蜜が溢れて、指の侵入を歓迎する。
 獅子王は片手で腿を押さえつけたまま、二本の指を優しく前後させながら、奥まで進める。
「はぁ……あ……」
 彼が掻き回す度に、秘所がくちゅくちゅ、と音を立てる。
「おまえ、こんなにぬるぬるになるまで濡らして……可愛いヤツだな」
 彼の言葉で体に旋律が走る。
「ん、締まった。蜜は美味いし、こんなに反応がいいのも、……やっぱ、おまえ可愛いな」
(なんだか、始めて聞く響きじゃない……でも一体いつ……獅子王が……私に……?)
 そんなあやふやな記憶に思いを馳せたのは一瞬で、さらに攻め立てる彼の指の動きで思考は一気に四散した。
「あ……あんっ……あン…………はぁ、っ」
 一層狭くなった蜜路を、彼の指はリズミカルに往復し始める。鳳乱のそれと比べると、少し無骨な指が中を圧迫し、粘膜を擦り上げる。
 一瞬でも鳳乱と獅子王を比べた自分に疾しさを感じたが、それは獅子王の愛撫を拒否するまでに至らなかった。
「獅子……」
 鳳乱を頭から打ち消すかのように、自分を辱めている男の名前を呼んだ。名を呼ぶと、その存在がぐっと色濃くなった。獅子王は再び体を折り、乳房に噛み付く。ざらつく舌で唾液を塗り伸ばしては、乳房を頬張り、揺らす。
「はっ……あはぁ…………いいの、すごく……や、だめ……」
 指のリズムに合わせて、腰が浮いてしまう。それをまた獅子王にベッドに押し付けられると、逃げ場が無くなり、渦巻く快感は堰を切ったように体の奥から溢れ出て、体中を巡る。
 指先が、つま先が細かく震えた。
「ああっ……ハアっ! あん……あん……獅子……やっ…………やん」
 泣き声のような嬌声が、押さえようとしても口から漏れ出てしまう。拳が白くなる程に、シーツを掴んだ。何かにしがみついていないと、とても深い所へ墜ちて行く……。
「声も……可愛いすぎ。堪んない……」
 彼の顔に掛かる、一束の前髪の隙間から覗いた琥珀色の瞳が、強い光を放っていた。
 目が合うと、自分の乱れた姿を見られているという羞恥に耐えられず、再び瞼を閉じる。官能がひときわ冴える。
「あぁっ!」
 獅子王は親指の腹で、ぷっくりとした固い蕾を擦った。蜜で濡れそぼった指は、蕾の上を何度も何度もなめらかに滑る。少しずつ力を入れて擦られると、そこから甘い官能がさざ波のように上へ上へと打ち寄せて来る。
「あぅ…………んふぅ……ンッ」
 蜜路は、濡れた柔らかな媚肉で、彼の指を締め上げる。そして、自分の中の彼の存在をもっと感じてしまう。
 獅子王が蕾を弾いた。「ぁはんっ!」体が跳ね上がる。
 隘路の奥まで入り込んだ指は、再び中をぐちゃぐちゃと音を立てて掻き混ぜる。まどかの腰はその動きに合わせて揺れた。
 急に彼の指の動きが、止まる。
「や……だぁ……」
 息も絶え絶えに、彼に懇願の視線を向けた。視界に映る彼の輪郭がぼやけていたが、獅子王は口を歪めて笑ったように見えた。
 そして、再び体を屈める。硬く張り詰めた蕾に、彼の熱い舌が襲いかかる。
「ふあっ……」
 指が再び、ちゅぷ、と鈍い水音を立てながら浅く、深くの挿入を繰り返し、舌は花芯を強く擦り上げた。獅子王の唾液と自分の愛液が混ざり、さらにぬめりを増している。
 脳は痺れたようにもう何も考えられなくなり、その代わり、執拗に愛撫を与えられている体の中心だけがものすごく彼の指に舌に、貪欲に、そして敏感になっていた。
 獅子王は彼の自慢の犬歯で、震える蕾に軽く歯を立て、同時に舐め転がした。
「ひゃぁああんっ」
 悲鳴とも聞こえる、一層高い嬌声が部屋に響いた。
 獅子王は、何度も同じ愛撫を繰り返し、まどかを甘く懲らしめる。
 その刺激を受けきれず、胸が波うち、腰が揺れる。快感はさざ波ではなく、うねりとなって体を、全ての感覚を飲み込もうとしていた。
 大きな快楽の期待は、同時に恐怖を呼び起こした。まどかの腕は、彼を求めて宙を彷徨った。
「はぁ……あ……獅子、きて…………」
 彼は依然と蜜で溢れる隘路を攻めながら、体をずらして這い上がって来ると、片手で体を抱きしめた。まどかは彼の背にしがみついた。
 彼の着ているシャツを通して体の熱を感じた。二人は無我夢中で唇を求め合った。
 愛液をたっぷり味わった後の、彼の唇はほろ苦かったが、激しく舌を絡め合い唾液が交わると、それが不思議と甘く変化した。
「んふぅ……ンん…………」
 まどかは口いっぱいに獅子王の舌を頬張り、我を忘れてしゃぶり付く。
 彼の性急な舌の動きは感覚という感覚をかき混ぜる。下から突き上がる衝撃がますます大きくなる。まどかは一層彼の指を締め付けた。
 彼は花芯を軽く引っ掻くようにして、さらに刺激を与え続ける。
「あぁ……だめ…………い、いっちゃう……ん、いっちゃうっ……」
 キスの合間に言葉が漏れた。彼の熱い吐息が唇を撫でる。
「いって、いいよ……おまえのイくところが、見たい……見せて」
 彼の言葉が、脳に沁みて、とろけた。
「ああ……いやぁ…………あん……あッ……!」
 同時に、親指が濡れそぼった蕾を押し潰した。
「やぁぁぁぁ……!」
 光が弾けた。腰ががくがくと戦慄き、首は大きく反り返った。腕は渾身の力を込めて彼にしがみついた。
 獅子王も、その強張る体を押さえ込むように強く抱きしめた。彼の、逞しい体の下でまどかの胸が潰された。
 絶頂を迎えた後の余韻を味わう、というよりも、久々に悦びを、それも一方的に、激しく悦びを与えられた体は、ぐったりと重かった。
 頭に霧がかかったように、何も考えられなかった。
 獅子王はまどかにぴったりと寄り添っていた。乱れた息が頬をくすぐっていた。まどかは彼の方へ顔を向ける。
 二人はしばらく言葉無く、見つめ合っていた。
「唇の傷、内側でよかったな……」
 ふと彼の手が、まどかの左手首を掴み、顔の前に上げた。
「……時間切れだ」
 獅子王は彼女の腕時計を見て舌を鳴らし、ゆっくり体を起こした。
「動くなよ」
 獅子王はバスルームへ行き、粗末なタオルで顔を拭きながら戻って来ると、それでまどかの脚の付け根を丁寧に拭った。
「こんなにシーツ濡らしちゃって、どーしようかね。……って、オレが悪いのか。ま、最後だしいっか」
「ちょ……自分でやる……」
 急に酔いが冷めて、自分の失態を目の当たりにしたような、そんな恥ずかしさを覚えた。
「今さら、何照れてんだよ。……パンツも履かせてやろうか?」
 彼はつまんだ小さな下着を、ひらひらと揺らした。
 まどかは速攻でそれを奪い取ると、急いで乱れた服を直した。そんなまどかを獅子王は見下ろしている。
「すごいだろ、アカルディルの技術は。あんだけ激しく腰揺らしても、服が皺にならない」
 まどかは顔を赤くするだけで何も言えず、バスルームに駆け込むと、髪を手櫛で整えた。
「行くぞ」
 彼の硬い声がまどかを急き立てる。
 そのトーンに、ベッドの上での甘さは欠片も無かった。

 紙の上を、獅子王が署名をするペンが走る。
 全て手続きが終わると、獅子王は背筋をピンと伸ばし、エゼルに向かって美しい敬礼をした。
 こんなところで、こんな扱いをされても、こんな下衆な高官にもそれなりの敬意を払う。
 額に手の甲を当てて一直線に肘を張り、顎を引き締めた獅子王の横顔は、ただ位高い。
 一方の、向かいに反り返って座る、『本当に』位の高いはずのエゼルがとても貧相に見えた。
 まどかも慌てて獅子王に倣って挨拶をした。


 二人は船に乗る。
 獅子王は手慣れた様子でオートマティック・パイロットを起動させ、帰路をバーシスに設定すると、さっさと椅子を倒して寝てしまった。
 頭上のコンパートメントから救急用のブランケットを出して、静かな寝息を立てている獅子王に掛ける。
 まどかは往路で軽く睡眠を取ったので、眠れそうにも無かった。
 それだけではなく、今獅子王に呼び起こされた体の興奮と、彼を連れ戻した達成感が気持ちを昂らせていた。

 まどかは一人取り残されたように、ずっと変わらぬ宇宙の広がりに視線を泳がせながら、たった今二人の間に起こったこと、これから二人の間に起こるであろうことをぼんやり考えた。
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