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しおりを挟む朝食を済ませたピアは、自室に戻って数冊の本を胸に抱えると普段通り書斎に向かった。
書斎の窓は開いていて、木々の香りを含んだ清々しい風がカーテンを揺らしている。椅子に座り、本を開く。
だが、隣の椅子は空っぽだ。いつもと同じこの時間、この場所にジュリアスがいないのは不思議だった。今にでもドアが開いて、にこやかに彼が入って来そうな気配さえする。ただ、自分がそう期待しているに過ぎないが。
(三週間。ジュリアス様は三週間くらいすぐだって言ってたけど……)
恋慕を募らせるピアからすれば、三週間は長い。三日前から、ジュリアスは故郷のアグロン王国に一時帰国していた。
(殿下は、今頃どうしているかしら。無事に着かれたかしら……)
二年に一度、近隣五カ国がアグロン王国に集い、課題を出し合い議論され、条約や協定が締結される。他国への貧困救済や軍事関与なども話し合うため、会議は数日を要する。その会議にジュリアスが今年から参加することが急に決まり、慌ただしく旅立ったのだった。そして、あと一週間で終わるはずの家庭教師の契約は、この不在期間の穴埋めのためにさらに一ヶ月延長されていた。
ジュリアスと共に過ごせる時間が少しでも増えたのは、正直嬉しい。だが、それだけ別離が辛くなるのも確かだ。だから、彼がいないこの時間は、せめて彼のことを考えずに、その時のために心の準備をしようと思っていたのだが、ジュリアスを頭から追いやるのは思っていたよりもかなり困難だった。
ピアは全く気の乗らない読書はやめて、ふと窓の外へ目を向けた。
澄んだ青空に、たちまちジュリアスの柔らかな笑顔が浮かぶ。それだけで会えない寂しさが胸にこみ上げる。
しかし、ピアはすぐに寂しさを振り払った。
(だめだわ。ジュリアス様がお仕事に励んでいるのに、こんな気持ちになっては。それに、もうすぐお別れでもあるし、彼のいない生活に慣れるいい機会じゃない……)
決意も新たに気を引き締める。
そこへ、扉がノックされて執事が入ってきた。
「ジュリアス様から、ブランシェ様へとこちらを預かっております。不自由なきよう、遠慮なく使うよう御伝言を仰つかいました」
そう言って、金の縁飾りのついた天鵞絨の長財布をテーブルの上に置く。ザクっと音がして、その厚みからも相当な量の硬貨が入っているだろうことは想像がついた。
「こ、困ります……。お給金はもらっていますし、居心地よくしていただいてます。これ以上望んでは分不相応、罰当たりですわ……」
ピアが財布に手をつけずにいると、執事は困ったように眉尻を下げた。
「しかし、それでは私がお咎めを受けてしまいます。ああ、それとも、ご自分で使われるのに気が進まないとおっしゃるなら、仕立て屋をこちらに呼びましょうか。宝石商でも、毛皮商人でも、お望みをおっしゃっていただければ……支払いは私が代わりにこの中から……」
名案だと言わんばかりに、とくとくと話し始めた執事の言葉をピアは慌てて遮った。
「いえ、あの……、ではありがたくこちらを使わせていただきます……」
そう言ってピアが財布を手に取ると、執事は満足げに頷き、部屋を出て行った。
「もう、ジュリアス様、こんなことまでしてくださらなくても……」
財布に向かってため息をつくが、留守の間も、ジュリアスが自分に心を配ってくれたことが何よりも嬉しい。
そんな彼の気持ちに応えられるのなら、ドレスの一枚でも新調してもいいかもしれない。
帰ってきた彼がそれを見てなんて言うだろうか。そう考えると、いても立ってもいられず、ピアは急いで身支度をすると、早速街へ出かけた。
仕立て屋では数ある美しい反物から一つを選ぶのに長い時間を要し、結局迷いに迷った末、二着作ることにした。夏にふさわしい薄手の生地で、色は百日草のような淡い黄色と、赤みの強いプラムのような色だ。これはきっと夕暮れ時に映えるだろう。仕上がったドレスは宮殿に届けてもらうことにして、店を出る。喉が渇いたので、カフェに入ってコケモモのジュースを飲んだ。
(ドレスが新しいのだから、それに合う首飾りも必要だわ……)
あまり無駄遣いしてはいけないと思いながら、結局午後は宝石店に寄り、雑貨屋では手袋やショールを買い込んだ。さすがに買い物はもう十分だ。ピアは最後に図書館に寄ってから帰ることにした。
馬具屋の前を通った時、ピアの目はウィンドウに拍車や長靴と一緒に飾られている短鞭に吸い寄せられた。
濡れたように黒光りするそれは、持ち手の編み込みの部分や、細部に至って美しい。ジュリアスも短鞭を持っていたが、思えばそれは使い込まれて、革が傷み始めていた気がする。彼が望めば鞭の一つや二つなどいつでも新調できるだろうが、ピアは自分から何か贈り物をしたいという思いに突き動かされ、店に入ると結局それを購入してしまった。
(殿下が喜んでくださるといいのだけど。それに、お別れした後もこれを見て、私を思い出してくだされば……)
再びジュリアスとの別れが頭をかすめると、今までの楽しかった気持ちが一瞬でしぼんでしまった。薄紙に包まれた短鞭を、まるで自分の恋慕をそこに収めるように、胸もとで握る。
「ピア……? ピアじゃないか?」
突然、背中に声がかかり、振り向いた。そして、声の主を目にしたピアは、驚きに一瞬息をするのも忘れた。
「やはり、ピアだ。すっかり美しくなって。どこの貴婦人かと思ったよ……まだ、私を覚えているかな?」
そう言いながら歩み寄ってきたアンソニー・テンハーゲンは、優雅な物腰でピアの手を取り、その指にキスをした。
アンソニーが借りているという屋敷は、図書館から近い閑静な場所にあった。小さいが、よく手入れのされた庭にはペチュニアやマリーゴールドが明るく彩りを添え、開け放たれた応接室の窓から、それらの甘い香りが微かに入り込んでいた。
アンソニーと偶然の再会を果たしたピアは、彼にお茶に招待され、その足でこの屋敷を訪ねていたのだった。
彼と別れてからまだ数ヶ月だが、その懐かしい笑顔を見た時、ピアは心の奥底で何かが蠢きだしたのを感じた。何か恐怖と紙一重のもの……。しかし、同時にそれはとても魅力的で、強く心を惹きつけるもの。
香り高いお茶のセットを前に、長椅子に隣り合わせに座ったアンソニーはピアの両手を優しく握り、じっと見つめてきた。それは親愛を込めたごく普通の仕草であるにもかかわらず、ピアの心は高鳴った。
「本当に、君に会えるなんて夢を見ているようだ」
「わ、私も……まさか先生がこの街に来ているなんて思いませんでした」
「私もだよ。君がこの街の宮殿でお仕えしているとは知らなかったからね。しかし、別れてそう経たないが、君の美しさにはさらに磨きがかかって、見違えたよ」
低く、よく通る声が甘くピアの鼓膜をくすぐる。
かつて、体を重ねながら彼はその声でピアを賛美し、唇は散々彼女を辱めたのだ。その記憶が蘇り、ぞくりと肌が粟立つ。ふしだらな想像が助長する前に、ピアは慌てて話題を変えた。
「今日は久々に買い物に来たのです。まだ暑いのにもう秋物の反物がたくさん出ていて、目移りしてしまいました。それから、これは殿下にと、短鞭を買ったんです。とても綺麗だったので……」
薄紙を開けて見せると、アンソニーは興味深そうに手にとって吟味した。
「なかなか上等な革だ。とても美しいし、しなやかで、でも機能的で……良い買い物をしたね」
彼が宙で振ると、鞭はひゅっと鋭い音を立てた。返されたそれをピアは元どおりに紙で包む。
「先生がこちらの大学で教えているということは、宮廷書官のお仕事はお辞めになったのですか?」
アンソニーは隣国の宮廷書官に合格し、従事していたはずだ。
「いや、この大学では受け持つのは特別授業だけだから、半期だけの約束だ」
「そうですか。私のお務めはあとひと月ほどなのです。ジュリアス様はとても真面目で、聡明で素直な方なので、いつも自分の勉強不足を感じてしまいます」
「ジュリアス様は確かに、無類の本の虫だからね。何度か私のところにもアグロン王宮の文官から本の問い合わせがあったよ。ああ、もしよかったら、私の蔵書を貸してあげよう。殿下が興味を持たれそうな本を何冊かもって来ているから」
アンソニーの寛大な申し出に、ピアは瞳を輝かせた。
「ありがとうございます。きっとジュリアス様、お喜びになると思います。今はお留守にして、お戻りは三週間後ですが……。ああ、きっとまた夜更かしして一気に読んでしまわれるに違いないわ……。あ、私も予習しておいた方がいいかも……。質問攻めにされて困らないためにも」
新しい書物を手にするジュリアスの笑顔がパッと脳裏に浮かび、ピアの声は自然と弾んだ。すると、今まで微笑んでいたアンソニーがふと真顔になる。手に指を絡ませ、そのままピアを自分の方へ引き寄せた。顔が間近に迫り、ピアはハッと息をのんだ。
「随分君は、殿下に教育熱心の様子だね。そもそも、きちんとお務めは果たしているのかな?」
顔を覗き込まれ、ピアの頰が熱くなる。アンソニーの含みのある口調に、彼が何を仄めかしているのかは瞭然だ。何しろ、その指導をしたのは他でもない、彼なのだから。
(きちんとお務めは……しているわ)
アンソニーの親指が、ピアの親指の関節をゆっくりとなぞり始める。そんな他愛ない愛撫だが、たちまちそこから熱が生まれ、波紋が広がっていく。
「私が教育熱心だなんて……。それでしたら、ジュリアス様の方が熱心ですわ……」
「きっと、君の指導の仕方がいいからだね。どうだい? 私が教えたことは役に立ったかい?」
アンソニーの瞳に宿る、見覚えのある光に気がつくと、ピアは思わず目を伏せた。
再び鼓動が激しく打ち始め、呼吸が浅くなってしまう。
自分が追い詰められているような感覚。アンソニーを前にするといつもそうだった。そして、いつの間にか意思も感覚も、全て彼の思い通りに操られてしまう。それをわかっていたはずなのに、どうしてここに来てしまったのだろう? 二人きりになってしまったのだろう。昔話をするだけなら、外で会うことも、執事に事情を話して宮殿に呼ぶこともできたはずなのに。
「どうした? まさか、私の教えを忘れてしまったわけではないだろうね?」
握っていた手が解かれ、両手はピアの頰を包んで上を向かせた。アンソニーの目に欲望の炎が明瞭に宿っている。ピアは、そこに自分の本心が映っている錯覚に囚われた。微かな恐怖と、快楽の期待。
「そ、そんなことは……」
「それならなぜ、はっきり返事をしない? ああ……」
アンソニーは腑に落ちた、というように口角に笑みを刻んだ。
「自信がないのか」
頰を指の腹で優しく撫でられただけで、背筋に旋律が走り抜けた。鼓動が激しく打ち、苦しい。ピアが答えられないでいると、アンソニーはさらに顔を近づけてきた。
「ならば、復習が必要だな」
彼の息が唇にかかる。ピアは喘ぐように口を薄く開いた。そこへアンソニーの唇が重なった。
「ふ……」
下唇を優しく食まれただけで、うなじのあたりから甘い痺れが広がった。濡れた舌先が形を確かめるように唇の輪郭をゆっくりとなぞる。アンソニーに何度も口角や唇を優しく吸われると、頭に靄がかかったように夢見心地になっていく。やがて彼はキスを一旦止め、唇の上で言った。
「舌を出しなさい」
それが当たり前のように、ピアは彼の言葉に従う。おずおずと出した舌を、アンソニーはねっとりと舐め上げた。ざらりと舌の表面が大きく擦られる感触に、ぞくぞくと全身が痺れた。
舌同士を密着させ、何度か擦り合わせた後、彼はピアの舌にしゃぶりついた。まるで果肉から滴る果汁を味わうように、ちゅぱっ、ちゅぱっと唾液ごと吸い上げる。緩急をつけて吸われているうちに、過去に彼から刻み込まれた官能がずるりと引き出された。
頰を包んでいた両手が背中に回り、ピアは相手の胸に強く抱き寄せられる。アンソニーの舌が口内に割り込み、甘く舌が絡み取られると、一気に全身の力が抜けた。火照っていた体が更に熱くなり、頭に濃厚な官能が渦巻く。
背中を撫でていた片手が前に回され、ゆるりと乳房を撫でる。指先で、すでに硬く張った先端をドレス越しに擦られると、ピアは塞がれた口内で喘いだ。乳房を揉まれながら舌を吸われ、下腹がじんじんと痺れてくる。やがてキスは貪るように変化し、ピアもそれに応えるように無意識のうちに相手の舌を味わっていた。
やっとアンソニーが口を離した時には、ピアは肩で息をしていた。
アンソニーはそんなピアを見て満足げに目を細めた。相手の端正な顔もほんのり紅潮し、妖艶さを増している。
「随分、挑発的なキスをするじゃないか……この様子だと、心配していたほどではなさそうだが、もう少し確認しておく必要があるだろうな。念には念を入れて」
彼の瞳には先ほどよりもずっと強い欲望の光が揺れている。ピアはアンソニーの言葉に頷きかけたが、その時ふとジュリアスの顔が頭によぎり、思いとどまった。
(私はジュリアス様のもの……。ジュリアス様は、もうアンソニー先生のことを忘れろとおっしゃった……このまま体を許してしまったら、ジュリアス様を裏切ることになる)
「先生……」
ピアはアンソニーの硬い胸をそっと押し、体を離そうとした。だが、彼は腕の力を緩めずにピアの顔を覗き込んできた。
「殿下のためでもあるのだぞ?」
「え?」
ピアは目を瞬いた。真顔で彼は続ける。
「性技の世界は奥が深いのだ。以前私が君に教えたことはほんの一部に過ぎない。より知識を増やして、殿下にその技術をお教えするのが、君の務めではないのか? 殿下が将来の奥方を満足させるために、君は様々な技法を会得し、伝授する。それを怠っては職務怠慢ではないか? 君はそんな無責任な人だったのか?」
「そ、それは……」
「殿下は勉強熱心な方ではないのか? それなら、新しい知識を得ることを喜ばないわけはないだろう」
ピアは伺うようにアンソニーを見つめた。彼は依然真顔で、邪心はないように見えた。そうだ。なぜアンソニーに不安を抱いたのだろう。アンソニーは亡き父のお気に入りの生徒だったのだ。小さい頃から自分を知っていて、いつも本当の兄のように優しく相手をしてくれた。いろいろなことを教えてくれたし、今自分がジュリアスの家庭教師としていられるのも、彼のおかげだ。彼は本当に私のことを心配してくれているだけなのだ。
(それに、ジュリアス様がもっと喜んでくださるのなら……)
彼の言う通り、それが家庭教師としての自分の役割なのだ。ピアは心を決め、言った。
「先生の言う通りですね。もっといろいろ教えてください」
その言葉にアンソニーは目元をほころばせた。
「やはりピアは私の思った通り責任感の強い女性だ。というよりも、ずいぶん殿下に入れ込んでいるのではないか?」
心を読まれた気がして、ピアは熱くなった顔を伏せた。アンソニーが小さくため息をついた。
「まあ、良い。では、この先は寝室で続けよう」
「は、はい……」
やっとピアを腕から解放し、アンソニーは彼女の手を引いて寝室に移動した。
寝室の壁際には精巧な彫り飾りのついた衣装ダンスやサイドボードが置かれ、中央にはどっしりとした構えの天蓋付きのベッドがあった。アンソニーはベッド脇からやや離れた場所にピアを立たせると、自分は寝台に腰掛けて、リラックスするように後ろ手をついた。
「では、服を全て脱ぎなさい」
「え……」
「早く脱いで、ちゃんと綺麗な体を見せるんだ」
「そんな……明るいのに」
部屋には昼下がりの光で満ちていて、そこで昔なじみといえど、久々に会った異性の前で全裸になるのは流石に躊躇われた。
「何を恥ずかしがっている? 私はもうピアの全てを知っているんだぞ?」
ピアは上目遣いでアンソニーを見つめた後、ゆっくりとドレスを脱ぎ始めた。紐を解き、最後のボタンを外すと、するりと布が脚を滑り落ちていく。シュミーズにかけた手を一旦止め、許しを請うように相手を見たが、アンソニーはただ頷いただけだった。ピアは諦めて下着を脱いで全裸になると、腕で乳房を、もう片方の手で股間を隠した。
「隠すのはだめだ」
ピアは下唇を噛んだ。これは自分がアンソニーに頼んだことだ。ここにいるのは全てジュリアス様のため。ピアはもう一度自分に言い聞かせ、体の両脇に手を下ろした。
「相変わらず美しい……」
アンソニーは低く呟いた。
「こっちにおいで」
彼の開いた膝の間に立つと、アンソニーは指先を首筋、鎖骨から肩、デコルテ、そして乳房の丘陵へと滑らせていった。
「体が、変わったな。乳房が大きくなっている。殿下はここを愛撫するのがお好きなのかな? 紛れもなく存分に揉まれた証拠だな」
思わせぶりに外側から内側へ曲線を確かめるように撫で上げてくる。その手の感触が、羽毛で撫でられるような微かな刺激が、彼との性愛の記憶を鮮やかに蘇らせ、ピアは体を震わせた。
「すごく魅力的だ。控えめに言っても……」
感慨深げに呟き、アンソニーは乳房に顔を寄せると、いきなりむしゃぶりついた。
「いやっ、やああ」
その声にもかまわず、アンソニーは両手で乳房を揉みしだきながら乳首に吸い付き、舌で転がし続けた。胸から広がる甘美な感触にたちまち頭の中が灼熱し、空白になる。
「あ……あん、あ……」
我慢しようとしても、気持ちよくて声が出てしまう。愛撫はもう一方の頂に移り、乳房の曲線に舌を這わせ、捏ねるように指を食い込ませてくる。
両方の乳首がすっかり硬く尖り、唾液に濡れ光っているが、それでもアンソニーは執拗に交互に唇に含み、吸い上げ、舌先で押し伏せ続けた。
「この指導の頻度はどのくらいだ? こんなにいい体になる程だ……感度もね」
「ま、毎晩……です。たまに、朝も……」
喘ぎながらピアが答えると、「ほう」と先端を咥えたままアンソニーが目を細めた。
「本当に勉強熱心なのだな」
そう呟いた直後、乳首にカリッと歯を立てられた。
「ああっ!」
甘美な愉悦から一転した鋭い刺激に体を貫かれ、吐息に混じる嬌声が高まった。アンソニーはじんじんと疼く乳首を慰るように舌で転がしたまま、空いた手を細い肩から脇腹を経て、腰まで這わせた。その手の動きが妖しい官能を伝えてくる。
「うふっ」
唇と指で乳首をつまみ転がされているうちに、ピアは背を反らせ、胸を捧げるかのように突き上げていた。唇から漏れ出てくるのは荒くなり始めている吐息だけだ。
「や、あ、だめっ」
ピアが慌てる声も無視し、アンソニーは指先を秘裂に沿って滑らせ、絶え間なく湧き出る滑りを塗り広げた。硬くなった乳首を唇と舌であやしながら、同じように膨らんだ芽をわずかに乱暴になで付ける。
「そろそろ、これが恋しくなったのではないか?」
まるで条件反射のようにピアがアンソニーの股間に視線を落としてしまう。彼の教えが確実に体に刻まれている証拠だった。視界に、白いズボンのうず高い盛り上がりが飛び込んでくる。
「まず、君が教えた通りできているのかを確認しよう」
アンソニーの厳しい口調に、ピアはその場に崩れるようにひざまづいた。ブーツを脱がし、おずおずとズボンのボタンを外して前ばりをくつろげる。
すぐに屹立が勢いよく跳ねて、ピアは一瞬目を丸くした。それでもすぐに気を取り直して全て脱がせると、思わず小さく息を吐いた。緊張して一瞬呼吸を忘れていたのだ。
アンソニーはさらに両膝を広げた。それが合図だった。ピアはおもむろに手を伸ばし、怒張を包む。手のひらに強い脈動が伝わり、それだけで興奮に頭がぼうっとしてくる。吸い寄せられるように顔を寄せ、口に含んだ。右手を根元に軽く添え、左手をたくましい腿に置いた状態で根元までのみ込んでいく。舌を幹に這わせ、ゆっくりと頭を上下させた。アンソニーの味と香りが快感を促し、頭の芯を痺れさせていく。
「ああ……いいよ。その調子だ。まさか再び君の口に含まれるなんて思いもしなかった……」
アンソニーが優しく頭を撫でてくる。ピアは嬉しくなり、右手でもペニスを愛撫しながら盛んに怒張をしゃぶり立てた。アンソニーが髪に手を差し入れ、愛撫する。
「もちろん、殿下にもこれをしているんだな? 教えた通りに……」
「はい……」
ピアは屹立を口から離してアンソニーを上目で見た。ふと、瞳に宿る欲望が濃くなった気がし、ピアは少し怖くなって再び咥え直した。そのまま、ゆっくりと深いところまで頭を下げては引き戻すことを繰り返す。口の中でペニスはかさを増し、時折びくんとうごめいた。先端だけを浅く含み、小刻みに動かす。そして一気に深く頬張る。支柱の中心に盛り上がった線を何度も舌先でなぞりあげ、先端から溢れる雫をくるくると舐めとる。ピアの唇は、彼の体液と唾液でベトベトだ。だが、彼女は無心でペニスを味わった。アンソニーの腰が揺れ始め、後頭部に置かれた手が髪を激しく弄った。
「ああ……たまらない。ああ、出る……っ、出るぞ、ピアっ……」
そう言ってアンソニーは腰を突き上げた。後頭部を抑えられ、ペニスに喉を圧迫されて苦しくなるがピアはそのまま灼熱の飛沫を受け止めた。彼は何度か呻き、最後に体を震わせ、腰を引いた。ちゅぽんと口からペニスが飛び出し、先端からこぼれた体液が唇との間で糸を引いた。唇の端から樹液が喉を伝って下りていった。こくりと彼の蜜を飲み下した。
肩で息をしながら、アンソニーはピアを見下ろして満足げに微笑む。
「素晴らしいよ、ピア。教えた以上の出来だ」
恩師から褒められるのは素直に嬉しい。ピアは胸をときめかせながら、アンソニーを見つめた。今度は何をすればいいのだろう。その気持ちを読んだように、アンソニーは彼女の両脇に手を入れて立たせると、ベッドの上に誘った。
「では、ご褒美に君の好きだったことをおさらいしよう。殿下にはもう披露したのかな?」
そう言いながら、アンソニーもシャツを脱いで裸になると、外したクラヴァットで仰向けになったピアの手首を拘束した。
「あ……」
次に何をされるのか。その予感だけでピアの背筋を甘やかに這い上がる快感に息を詰まらせた。
「手はどこだったかな?」
結ばれたクラヴァットの縁から、腕の内側を指先ですっと撫でられ、自然と手は頭上に上がった。
「いい子だ」
アンソニーは乳房を手のひらで撫でた。
「ああっ……」
彼への口戯ですっかり興奮し、すでに敏感になっている先端を擦られ、ピアは思わず声を上げてしまう。甘美な感触はさらに先端を尖らせた。
「相変わらず敏感だな」
アンソニーはぷくりとふくらんだ蕾をつまんで、左右にひねった。
「あう……、だめ、です……」
全てを心得た愛撫に、ピアは喘いだ。逃げられないとわかっていても、体が悶えてしまう。それを見てアンソニーは嬉しそうに目を細めた。
「ピアはこうして縛られるのが殊の外、好きだったな」
「そ、そんなこと……」
否定はしたが、声は震えてしまった。縛られて、抵抗を奪われた時点ですでにピアは体を昂らせていたのだ。
「おや、認めないのか? 忘れてしまったというなら、思い出させるだけだ」
冷笑をたたえたアンソニーの顔が下りてきて、唇が塞がれた。すぐに柔らかな舌が入り込み、中を探ってくる。
「んん……」
強いお酒を飲まされたように、ピアの意識は揺らいでいく。舌を強く吸われ、唾液を啜られる。強引に欲望を暴かれるような、迷いも羞恥をも全てを奪ってしまうようなキス。気持ちを確かめるようなジュリアスのキスとは全く違う。
それを一瞬比べてしまったピアは、背徳感に顔を背けようとした。だが、覆いかぶさるアンソニーに顎を掴まれて逃げる道は奪われ、ピアはただ流し込まれる官能をただ受け止めるしかなかった。
くちゅくちゅと唾液の混じり合う卑猥な音が、ピアの興奮をさらに高めた。アンソニーの息も乱れている。舌を絡め合わせ、甘噛みされる。唇が痺れるほどの長いキスの後、アンソニーはやっと体を起こした。
そして紅潮させた顔でピアを見下ろし、唾液に濡れ光る唇で言った。
「久々だからな、たっぷり可愛がってあげよう」
開かれたピアの脚の間で、アンソニーはうずくまった。思わず足を閉じかけると、手のひらで膝の内側を押さえられる。
「閉じてはだめだ。だいたい、殿下が望まれた時、脚を閉じるなんて失礼に当たるだろう?」
「で、でも、そんなに見ないでください……」
白昼堂々、恥ずかしいところを間近で見られる羞恥に、彼女はさらに身を火照らせた。
「君の可愛いここを見るのも久々なんだ。少しくらい堪能させてくれ……」
そう言ってさらに顔を寄せてくる。柔らかな髪が内腿をくすぐり、まだ触れられてもいない秘園が熱くなった。
「ほら、もうすっかり濡れている。花びらが蜜にまみれて艶やかに光っているよ……」
「う……そ」
「嘘なものか」
ぬるりとした感触が襞を分け、指が秘裂を撫で上げ、愛芽を転がした。
「ぁああっ」
耐えきれずにピアは腰を揺らす。
「ほら、見てごらん。こんなに濡れているだろう?」
蜜に濡れ光る指を見せられ、ピアは顔を背けた。
「君も喜んでくれているんだね。嬉しいよ。それとも、すぐに濡れてしまうのは殿下に開発されてしまったからか?」
そう言って、アンソニーは再び股間に触れてきた。すでに息吹いている愛芽を撫でられると、はしたないほど声を上げてしまう。
「君の可愛い声をもっと聞かせておくれ……」
アンソニーはピアの脚の間に顔を潜り込ませ、秘裂を下から上へと舐め上げた。愛液がすくい取られ、舌先でクリトリスにクニクニと塗り込められる。
「あ……あ、はぁ……あ」
尖らせた舌先で花芯を扱かれ、ピアの喘ぎが高くなる。花弁は指で左右に広げられ、さらに奥へと舌が侵入してくる。アンソニーは聞こえよがしに、ぴちゃぴちゃと子猫がミルクを飲むような音を立ててくる。
「あ、そんな……だめ……」
アンソニーの舌が潜り込んで粘膜を刺激すると、彼の形の良い鼻が花芯をグイグイ押してくる。顔をほとんど股間に押し付けるようにして存分に舐められ、ピアは腰を大きく揺らした。もっと強い刺激が欲しかった。拘束されているため、相手に触れたり、シーツを握ったりして快感を散らせられないぶん、体の中には濃厚な官能が密度を増していくばかりだ。舌での、焦らされるような愛撫がこのまま続くなら、一思いにいかせて欲しかった。
「気持ちいいのだろう? まず、久々に君の達する顔を見せてもらおうかな」
「そ、そんな……恥ずかしい……。許し、て……」
ピアはいやいや、と首を左右に振った。だが、アンソニーは指を二本隘路に差し入れ、内壁を優しく擦り上げながら、クリトリスを口に含んだ。
感じる場所を知り尽くした彼の愛撫は絶妙だった。加えて優しく花芯をしゃぶられ、あっという間に限界が近づいた。
「あ……、あっ、あ、あっ……」
ガクガクと体が上下に波打ち、ピアは瞬く間に上り詰めた。それでもなおクリトリスを口内で転がしているアンソニーに、浅ましく腰を押し付けてしまう。ふっと、光が体を包み、ピアの意識が飛んだ。
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