コストカットだ!と追放された王宮道化師は、無数のスキルで冒険者として成り上がる。

あけちともあき

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第9話 黒幕はマンティコア

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 地下通路は左右に伸びている。
 灯りは薄暗い。

「さて、次なる目的地だが……。何をしているんだ、イングリド」

「良かった……。オーギュスト、まだ死んでいないな? よしよしよしっ……! 私、新記録だぞ……! こんなに長くいて死なない仲間なんて初めてだ」

「なんて恐ろしい基準なんだ」

 死神の二つ名通りの結果が発生していないことに、彼女は喜んでいる。
 そこまで特別なことではないのだが。

 彼女が幸運スキルを持っており、致命的な事態が偶然回避される可能性が高いとする。
 それならば、可能な限りイングリドのそばにいれば、幸運のおこぼれにあずかれるというわけである。

「ところでオーギュスト、次はどこに行くんだ? 私は全く、盗賊スキルの心得がなくて分からないんだ」

「そこは俺に任せて欲しい。道化師たるもの、芸に通じる様々なスキルを身につけておいて然るべきなんだ。さあ、床は石畳。しかしここを歩いてきた村人の足には土がついている。ということは……どういうことだと思う?」

「うーん……。土があるところから来た?」

「正解! 彼は石畳で覆われてはいないところから、ここまでやって来たということだ。さらに言えば、足の土が落ちきらない程度、乾ききらない程度の距離にそれはある。ほら、土は湿ってるだろ? こっちだ」

 俺は歩き出した。
 土の跡を追っていけばいい。

 すぐに、行き先は判明する。
 それは一見して、石壁。

「ここだ」

「壁にしか見えないが……」

「魔法だろうな。ほら」

 俺が手を伸ばすと、壁の中に消えていく。
 これを見て、イングリドが血相を変えた。

「いっ、石壁に取り込まれるぞ! あぶなーい!!」

「うおわーっ!?」

 イングリドに押されて、二人で石壁へと飛び込むことになってしまった。
 なんて大胆なアクションをするんだ。

 俺達が飛び込んだところは、なるほど、地面も、壁も、何もかもが土ででききていた。
 ここから村人はやって来たのだろう。

 俺の耳に、すすり泣く声が聞こえてくる。
 周囲を見回すと、即席の牢屋のようなものが作られているのが分かる。

 中には……子どもだ。
 暗視スキルがあるから、暗いところでも人の顔をはっきり見分けることができるのだ。

「生存者確認。イングリド、この子たちを生かして連れ帰れれば、死神の汚名返上に一歩近づくぞ」

「いや、そんなことは今はどうでもいい! 子どもたち、無事!? 私が助けに来た!」

 すぐさま行動に移すイングリド。
 心根が真っ直ぐな女性だ。

「おっと!!」

 俺も慌てて、イングリドの後を追う。
 彼女が走り出したということは、その行く先に幸運があるということだ。
 逆に言えば……。

 さっきまで俺たちがいた場所目掛けて、頭上から何かが降り立つところだった。

『なにぃっ!? わしの動きを察していたのか? いやあ、これはただのまぐれだな』

 巨大なモンスターが、そこに立っている。
 俺がもとの場所にいたら、踏み潰されているところだった。

 奴は、気配も音もなく現れた。
 魔法を使用して隠れていたのだろう。

 その姿は、コウモリのような翼を生やした、ライオン……いや、顔は邪悪な笑みを浮かべた老人のものだ。
 俺の魔物知識が、モンスターの正体を告げる。

 こいつはマンティコア。
 恐るべき、邪悪な知識と邪神から与えられた魔法を行使する、強大なモンスターだ。

『しかし驚いたな。どうやってわしが作った毒の霧を抜けてきた? 地上には村人どもの死体も置いておいたはずだ。どうして地下に来ようなどという発想になる』

「地上には子どもがいなかったからな」

 マンティコアの問いに答える俺。
 背後では、イングリドが子どもたちを助け出している。
 今救出すると、マンティコアとの戦いに巻き込まれかねないから、危ないのだが……。だが、彼女は子どもたちを放ってはおけなかったのだろう。

「お前は以前から、村の地下に住み着いていたようだな」

『なぜそう思う』

「この地下の作りは、神殿だろう。俺の神学スキルから導き出されるに、作りは自然崇拝形式、大地の宗教。そしてお前はその宗教の司祭だな?」

『ほう、わしが司祭だとよく見切ったな……?』

「何、簡単なことだ。毒霧の魔法はポイズンミスト。姿を消したのは、カメレオンの魔法。これらを使いこなすのは、南国で信仰されている神、腐食神プレーガイオスの信徒だけだ。村人の中にある、ガッテルト王国への反発心に付け込み、神殿を作らせて住み着いたな、マンティコア。まずは腐食神への生贄に村人を捧げ、次に子どもたちを使って何らかの儀式を行うつもりだったな」

『見事だ。その通り。お前たちがあと一日遅ければ、腐食神様はこの地に降臨。見渡す限りの大地を腐らせ、腐食の園を作り上げていたことであろうよ』

 にやりとマンティコアが笑った。
 つまり、俺とイングリドが来たのはギリギリ間に合うタイミングだったということだ。

 大人たちは恐らく、この依頼が入った時点で死亡していた。
 子どもたちが儀式に捧げられる寸前だったことは、幸いと言えるだろう。

「子どもたちは牢から助け出した。あとはお前を倒すだけだ、モンスター!!」

 イングリドが身構える。

「気をつけて!」

「あいつは怖いやつだよ!」

「子牛をぺろりと食べちゃうの!」

 子どもたちから声が飛ぶ。
 マンティコアが睨むと、彼らは悲鳴をあげて黙り込んだ。

『ふん、どちらにせよ、そのガキどもを守りながら戦わねばならんお前らが、このわしに勝てるはずがないだろう。お前らもプレーガイオス様への捧げ物にしてくれよう! がおおおおおおおおおっ!!』

 マンティコアが吠える。
 奴の咆哮は、それそのものが聞く者の身を竦ませる魔力的な力を持つ。

 故に、発させてはいけない。
 俺の手は既に、その手段を握り込んでいた。
 振りかぶって、思い切り投げつける。

『おおおおおっふごっ!!』

 投げつけたものはマンティコアの目の前で広がり、奴の口の中を塞いでしまった。
 何のことはない。
 投げられた勢いで広がったのは、厚手のハンカチだ。

『もがっ、もごおおおっ!!』

 モンスターの牙に引っかかり、唾液で湿って張り付いたハンカチは、なかなか取れるものではない。

「さーて、お立ち会い!」

 俺は振り返り、子どもたちへと宣言する。

「これより始まるのは、恐るべき悪漢、マンティコアの退治劇! 優しき女剣士と、この道化師が、見事あの恐ろしいモンスターを退治してのけたなら、拍手喝采を!」

 
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