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第一部:都市国家アドポリスの冒険 2

第6話 ゼロ族とバジリスク その1

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 暗黒の森を抜けると……そこにはなんか、原始的な集落があった。
 あれえ……?
 俺がショーナウン・ウィンドと一緒に森に入ったときには、あんな集落無かったけどなあ。

「ブラン、もしかして、全然違う方向に出てきた? 暗黒の森ってかなり大きいよね?」

『わふーん?』

 外は外でしょ? 同じだよ、と言う感じで答えてくるブラン。
 テイムされても魂までは売り渡さない。
 彼を走らせると、行き先はブラン任せになるわけだな……!

 俺はと言うと、干し肉用に薄切り肉を吊るした竿を何本も背中に立て、まるで小さな旗みたいに肉が風にあおられている。
 傍から見たら凄い姿だな。

 だが、原始的な集落だとしても、人が住んでいることには変わりないだろう。
 見たところ、森から出てくる道は草が刈り取られ、土が踏み固められている。

 よく利用されている証だ。

 ブランに乗って、トコトコと集落に近づいていった。

 すると、物陰から何か小さいものがこちらを見ている。
 あれは何だ。

 毛玉だ。
 直立する毛玉だ。

 毛玉は俺達を見ると、「キャーッ」と悲鳴を上げた。
 そして、転がるようにして集落に逃げていってしまう。
 なんだなんだ。

 人間の集落じゃないのか!
 
「あれは確か……。ゼロ族だな。リスの獣人で、警戒している時は、もっふもふの尻尾を頭から被ってああやって毛玉みたいな姿になるんだ」

『わんわん』

「なるほど、あの集落はゼロ族のものだったのか。だが待て、おかしいぞ。ゼロ族は樹上に集落を作るはず。なのにどうして地上に住んでるんだ」

『わふん?』

「いやいや、気にするところだろ、そこは。何か異常なことがゼロ族の間で起こってるんだ。これは放っておけないぞ」

『わんわん』

「別にお人好しでもなんでもない。モフモフしたものが困っているのを放っておけないだけだ」

 俺達はゼロ族の集落へと踏み入っていく。
 すると、その中心にある木材を組み合わせた櫓状の家から、頭もヒゲも、尻尾も真っ白なゼロ族の老人が出てきた。

「お、お待ちくだされーっ! わしらは森を追い出された哀れなゼロ族! どうかマーナガルム様、お慈悲をー! 食うならわしだけを食ってくだされー!」

『わふーん』

 ブランが鼻を鳴らした。
 食べないよ、と言っている。

 ゼロ族は彼らの言葉を使っているのだが、テイマーである俺にはそれが分かる。
 どれ、会話をしてみよう。

「安心してくれ。俺はオース。マーナガルムの友人だ。そして彼はブラン。幸い、腹一杯にアーマーボアを食ってきたから君達を食べることはない」

 俺がブランから降りてそう告げると、老人はホッとしたようだった。
 それに、暗黒の森最強のモンスターであるマーナガルムから、俺のような無害そうな人間が降りてきたのでびっくりしている。

「腹が減ったら食べるのですかのう」

 おそるおそる、老人が聞いてきた。
 ちょっと安心したのか、他のゼロ族も出てくる。

 近くの物陰から顔を出したのは、俺達を見て最初に逃げ出したゼロ族のようだ。
 女の子だな。

『わふん』

「ゼロ族は痩せっぽちで食いでがないから食べないって」

「なーんだ」

 安心したようで、わーっとゼロ族が一斉に出てきた。
 チョロチョロ動き回り始める。

「急ににぎやかになったな。長老、ゼロ族は普段は樹の上に集落を作って住んでるはずだが、なんで下にいるんだ」

「お詳しいですな。その通りです。わしらは向こうにある森に集落を持っていました。ですが、そこに恐ろしいモンスターが現れまして。森の木々は枯れ、生き物たちはモンスターに食べられてしまったのです」

「恐ろしいモンスター? そいつは何なんだ?」

「わしらは名前を知りません。ですが、あの姿は忘れられませんわい。黒と紫の禍々しい見た目。長い尻尾と六本の手足。口から吐く毒にやられると、たちまち死んでしまいます。しかも、あやつと目を合わせると石になってしまう」

「バジリスクか。俺はテイマーだから詳しいんだ。この辺りにバジリスクが出るとはなあ。本当ならもっと乾燥した地域にいるはずだが」

「人間が一緒にいましたぞ。逃げ惑うわしらを見て笑っていました……。思い出すだけで震えが来る」

「多分、バジリスクを連れてきたやつだろう。バジリスク……。大きさにもよるが、最低でもAランクのモンスターだな。最大クラスのはSランクに相当して、レッサードラゴンに匹敵する」

 俺は考え込んでから、じっとブランを見た。

『わふん?』

「俺はゼロ族を助けてやりたいと思ってるんだが、どうだ。力を借りれるだろうか」

『わんわん!』

 もちろん。
 お安い御用! ブランが、笑ってるように見える顔になった。
 これ、サモエドという種類のモフモフした大型犬にそっくりだ。

 戦闘力が絶対サモエドじゃないんだけど。

「じゃあ、おじいさん。俺達がバジリスクをやっつけてやるよ。ゼロ族は森の上に住まないと厳しいもんな」

「おお……やってくださるのですか! ですが、どうしてそこまで親切に」

「俺はモフモフテイマー。テイムできる以上、モフモフには優しくしたいんだよ」

 理由はそれだけで十分だ。

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