転生魔王のマニュアル無双~絶滅寸前の魔王軍をコツコツ立て直します~

あけちともあき

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盗賊王を討て

古戦場砦を攻略する

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「ありゃ? なんだって、こんなところに枯れ枝がまとめてあるんだ?」

 古戦場砦の内部は、居住性を考えて改良されている。
 本来であれば剥き出しの石壁があるばかりだが、鷹の尾羽地方は、秋を迎えると底冷えするようになる。
 石の砦の中で一日を過ごすとなれば、外と変わらないような厚着をしない限り、やってはいられない。
 そのような訳で、いつしか砦の内側には、板で内張りがされるようになっていた。
 窓についた鎧戸も、二層に改造され、外の寒さを遮断するようになっている。

 季節はそろそろ秋を迎えようという頃。
 砦の食堂には暖炉があり、兵士たちは寒くなれば、皆そこに集まって任務の時まで時間を潰すのがならわしだった。
 おおかた、暖炉にくべる着火剤にするつもりで集めた物を、誰かが放置したのだろう。

「しゃあねえ。運んでやるか」

 いつもなら面倒な作業と思うところだ。
 砦に出入りしている、近隣の村人が、雑務を請け負っているのだ。
 だが、今の砦は人手が少なくなっていた。
 近隣で、兵士の死体が発見されたのだ。
 二名は腐敗しかかっており、一名は新しい。
 さらに、装備が剥がされていたという。
 今は、動ける兵士の多くが現場の検証と、犯人探しに出張っている。

「よっこらしょっと……」

 火種を持ち上げた兵士。
 ふと、背後に気配を感じて振り返った。

「ギッ」

 耳障りな声と共に、悪臭が漂う。
 緑色の小柄な人影が、そこにはいた。
 途端に、脇腹が熱くなる。

「げっ……ご、ゴブ……」

 声を上げようとしたが、力が入らない。
 腹に槍が突き刺さっていた。それも、砦で採用されている正規の槍だ。
 これを、ゴブリンが堂に入った構えで持ち、兵士の腹に突き刺している。
 抜かれた槍と共に、血がほとばしった。
 血の中に、紫色の液体が混じっている。
 毒である。

「な、ばか、な」

 それが兵士の最後の言葉になった。
 どさり、と彼は崩れ落ちる。
 ゴブリンが手招きすると、背後からもう一人のゴブリンが現れる。
 手には、大事そうに小さな炎。
 布を巻かれ、油を染み込ませた枝を火種としている。
 食堂に食材が入ってくる時間を見計らい、暖炉から火を盗んできたのだ。

「ギギッ」

「ギィッ」

 ゴブリンは、着火剤から枝を抜き、さっと点火させて別方向へ走る。
 彼は腰布に挟んでいた一枚の紙を取り出した。
 それに描かれているのは、砦の見取り図。
 そして、ゴブリンは見取り図を見、把握する訓練を受けていた。

「ギギッ」

 枝が燃えきる前に、昨夜ルーザックが設置した着火剤に、火をつける。
 瞬く間に、着火剤は燃え上がる。
 そして、古くなってよく乾燥した、砦の内壁を炎が舐めていく。
 その内壁の一部は剥がされていた。
 ルーザックが剥がして持ち帰り、どれだけの時間で延焼するかを試験したのである。
 二人のゴブリンは、予あらかじめ定められたルートを辿り、次々に着火して回った。

「おいっ、そこで何をしてる?」

 声が掛かった。
 ゴブリンは耳をピクリと動かす。
 見つかった。
 仕事は途中である。
 相手の足音は一つ。
 ならば、戦うか。
 一人であれば、勝てるかもしれない。
 ゴブリンは振り返ろうとして、思い出した。

(見つかったならば窓から逃走せよ)

 黒瞳王ルーザックの厳命である。
 戦うことはまかりならない。
 ゴブリンは振り返らず、そのまま前方へ走った。
 窓に飛び上がり、取り出した鎌を内壁へ打ち込み、足場とする。

「お、おい!」

 声を無視して、窓から飛び出していった。

「ゴブリンが砦の中に……!? 一体何が起きているんだ」

 それは、早朝の見回りをしているダンであった。
 既に、腰のなまくらに手を掛けていた。
 ゴブリンが振り返れば、一撃の元に叩き伏せられていたことだろう。

「思い切りのいい逃げ方だったな。ありゃ、俺の足じゃ追いつけん」

 ダンはゴブリンが逃げた窓の下まで行くと、壁に刺さった鎌を抜いた。

「脱出用ということか。奴ら、砦の内壁に木が張られていることを知ってこんなものを……。まるで何度も練習したかのような動きだったな」

 感心しながら呟いた。
 手にした鎌の握りには、何度も踏みつけられた跡がある。
 それが、ダンの予想を裏付けていた。

「……ってことは。まずいぞ」

 ある事実に気付き、ダンの血の気が引く。
 ゴブリンたちが、内壁に鎌を突き立て、それを足場にして逃げる練習をしている。
 あからさまに、砦に潜入することを目的とした動きではないか。
 それが、何もしていないなどという事があるだろうか?

 またしても、ダンの予想は的中する。
 臭ってきたのは、古い木材が焼ける臭気だ。
 黒い煙が、入口側から立ち込めてくる。

「ギィッ!」

「ギッ!」

 窓の外からは、ゴブリンたちの声がする。

「奴ら、砦を落としに来たのか!」

 慌て、ダンは砦の中で今も寝床についているであろう、同僚たちを起こして回った。
 その途中、腹を刺されて事切れている兵士を発見する。
 槍で一突き。傷口付近には毒。

「この腕前……! くっ、全員起こしていては、俺が煙に巻かれる……!」

 ダンは姿勢を低くし、煙の中を抜けた。
 無理に曲げた腰がひどく痛むが、命には替えられない。
 やがて、入り口まで辿り着いた。

「おいおい、冗談だろう……」

 入り口を守っていた兵士は、やはり槍で刺されて死んでいる。
 そして、何よりも高らかに炎を上げているのは、扉であった。

「ちぃっ!」

 ダンは、死んだ兵士の腰から剣を抜いた。
 彼らが手にしていた槍は奪われていたが、棍棒まがいのなまくらは放置されていたのだ。
 ゴブリンたちは、この剣が使い物にならない代物だということを知っている。

 ダンは剣を構えた。
 そして、扉に向かって突っ込む。
 剣王流の技の一つ、ヤマアラシである。
 剣王アレクスが生み出したと言われる技であり、剣の斬撃と重量で、対象を切り伏せながら破壊する。
 だが、このなまくらでは古式剣王流の技など、半分も再現できない。
 再現しきれぬ技を、己の技量で本物に近づける。
 ダンは全身の関節を順に動かしながら、切っ先を加速していった。
 放たれた瞬間よりも、遥かに速い斬撃。
 それが、扉を粉々に打ち破った。
 炎すらも消し飛ばされ、かつての剣豪は燃え落ちようとする門をくぐる。

 メラメラ、パチパチと火の粉が爆ぜる音がした。
 振り返り、ダンは絶句する。

 砦全体が燃え上がっていた。
 窓という窓から黒煙が上がり、逃げ遅れた兵士たちが、小さな窓に殺到している。
 だが、敵の侵入を阻むべく、矢を射るだけのスペースしかない窓は、人が通るには小さすぎる。
 せめて、ゴブリンほどの体格であれば。

「古い木は、大変よく燃える」

 声がした。
 ここ最近、毎日耳にしていた声だ。
 砦の中で渦巻く炎は、中を逃げ惑う者たちを効果的に追い詰めている。
 どこに可燃物が多いか。
 燃えない場所には、薪を積み上げ、着火剤を積み上げ。
 より黒煙が出るように、樹木から取った脂やにがそこここに塗りたくられ。
 そう、砦の中に、逃げ場などない。
 この数日間の間、隅々まで歩き、調べられた砦の中は、それそのものが兵士たちを燻し殺すための罠となった。

「ですが、どれだけ燃えるかの検証も欠かすわけにはいかない。幸い、スケジュール通りに運びました」

「お前は……」

 そこに立っていたのは、ダンが弟子と呼んだ男だった。
 放たれる言葉は、どこか的外れで、だが実直。
 彼がいつもは深く被っている帽子が、今はない。
 だからこそ、その瞳がよく見える。
 艶のない、漆黒の闇にも似た瞳が。

「ル……ルーザック」

「ええ、その通り。同時に、八代目黒瞳王も拝命しています」

 黒く、鴉の濡れ羽にも似た輝きを放つ衣装。
 どう仕立てたのか、想像もできぬほど見事にあつらえられた黒い革靴。
 そして腰には、漆黒の剣。

「腑に落ちた。お前なら、やれるな。こうして、見事に砦を落としてみせることが出来る……! なあ、馬鹿弟子よ……! お前が砦に来たこと、これまでやって来たことの何もかも! それは、この日のためだったのか、黒瞳王!!」

 ダンは剣を構えた。
 古式剣王流。
 ダンが最強と頼む、剣王が生み出した最古の流派。
 だが、優れた切れ味の剣がなくば、力を発揮しきれぬ不完全な技。

 対するルーザックも、剣を構えた。
 漆黒の魔剣である。
 ヨロイボアの体毛も、骨すらも、易々と破断して見せた豪剣。
 未だ無銘。

「我がスタッフでは師匠には勝てません。従って、責任者である私がお相手を勤めさせてもらう。今までのご指導、ご鞭撻、感謝いたします……!」

 燃え上がる砦を背後に、人魔の師弟による一騎打ちが始まるのである。
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