転生魔王のマニュアル無双~絶滅寸前の魔王軍をコツコツ立て直します~

あけちともあき

文字の大きさ
17 / 32
盗賊王を討て

暗殺騎士vsゴブリン遊撃隊

しおりを挟む
 暗殺騎士とは、正式な騎士ではない。
 特別に、身体能力的な才能が高い人間が選ばれ、鷹の目王ショーマスより異能を授かった存在だ。
 その動きは、人智を超越する。
 壁を、天井を、まるで大地であるが如く駆け、目前から一瞬で死角へと消え、専用の刺突剣で相対するものをたちまちのうちにほふる。
 かつて、ショーマスと黒瞳王が戦った際も、暗殺騎士は単騎で敵陣の只中に飛び込み、敵将の首を上げて魔王軍の士気を崩したと言う。
 彼らは、ホークウインドに轟く英雄の名でもあり、聞くものの背筋を粟立たせる人外の者の名でもあった。

 暗殺騎士ロシュフォール。
 鷹の右足地方に派遣された、八名の暗殺騎士の一人である。
 その顔は、甲冑に覆われて見えない。
 強化皮革と、魔族の骨で作られた甲冑は、強靭で軽い。
 縦横無尽に動き回る、暗殺騎士の動きを邪魔しないのだ。

「鷹の尾羽は落とされたというのに、ゴブリンの姿はなし。おかしい」

 彼は森の中を疾走する。
 そこは大地の上ではない。
 木々の上だ。
 枝から枝へを、まるで道を走るかのように走る。

「かつての記録では、勝ちに奢った魔族は統率を欠き、町や村を我が物顔で歩き回ったと言う。だが、今回のこれは明らかに違う。必要量だけの略奪を行い、速やかに撤退したようにしか見えない」

 一人、誰にともなく呟いているように見える。
 だが、彼の方には一羽の鷹が止まっていた。
 ロシュフォールは鷹に話しかけているのだ。

「陛下のご予想は当たっておられる。ゴブリンの背後に、何者かがいる。これは、ただの魔族による反乱ではないこれより、強行偵察に移る。行けっ」

 鷹が羽ばたいた。
 その足には、小さな巻物スクロールが結わえ付けられている。
 飛び立つ間にも、巻物には自然と文字が刻まれていく。
 ロシュフォールの言葉が記されているのだ。

 鷹と別れた暗殺騎士は、猛烈な勢いで鷹の右足地方へと向かう。
 目指すのは、かつて盗賊王と仲間たちが、強大な魔族を封じたという山。
 ロシュフォールの目は、その地へと向かっているであろう、ゴブリン達が残した痕跡を追っていた。

(集団が移動した形跡。ゴブリンのみであれば残る痕跡も少ないだろうが、森に慣れてない何者かが同道している)

(足跡からして、巨漢ではない。人間……? それに極めて近い体格の者だ。ダンが戦ったらしき場所に、似た足跡が存在した。衰えたとはいえ、剣豪であった男を倒した相手となれば、要注意)

 山の周りをぐるりと廻る。
 ここから、こと、森や山などに限れば、暗殺騎士の速度は馬よりも速い。
 人間を超越した脚力と、あらゆる障害物を無視できる走法で、局地であるほど速くなるのだ。
 森を越え、谷に差し掛かる。

(そろそろ、奴らの姿が見える……見えた!)

 森から丘へと着地し、着地と同時に疾走する。
 今、暗殺騎士が、谷間を移動するゴブリンたちへと襲いかかる。



 ほぼ同時に、ゴブリンロードの次女、カーギィは接近する相手に気づいていた。
 いや、魔法のメガネの力で見えたというのが正しい。

「レルギィ!」

「分かってる!」

 レルギィが、棍棒を構えた。
 指示された方向には誰もいない。だが、カーギィの言葉を信じ、そちらに武器を向ける。
 その瞬間、棍棒に衝撃が走った。
 突然、男の姿が現れる。

「!?」

 男は驚きの気配を発する。

「暗殺騎士……!!」

 カーギィ、レルギィもまた、青ざめた。
 動揺したのは、ゴブリンたちも同じである。

(獲った!)

 暗殺騎士は勝利を確信した。
 魔族にまで、己が持つ、恐怖の象徴というイメージが知れ渡っているのだ。
 士気を失った敵など、どれだけいようと弱兵に過ぎない。
 逆を言えば、どれだけの弱兵であろうと、士気と規律があれば、神兵に抗うことは可能なのである。

「集団戦闘マニュアル三番!!」

 奇妙な単語を叫ぶ者がいる。
 ゴブリンたちの只中、黒い風変わりな衣装を着た男である。
 ロシュフォールは彼を見た瞬間に確信した。
 これこそが、ゴブリンの反乱における首魁しゅかいであると。
 そして、男の瞳を見て、一瞬彼の背筋が総毛立った。
 その目には、一切の光沢がない。
 完全な闇である。
 闇の瞳を持つ者など、人間であろうはずがない。
 即ち、三十年前にショーマスが手に掛けたという、魔族の王。

「黒瞳王!」

 暗殺騎士は標的を確定した。
 あの男を討つ。
 それこそが、ロシュフォールが最優先ですべき事なのだ。
 だが、彼の行く手が阻まれる。
 突き立てられたのは槍だ。
 四名のホブゴブリンが、黒瞳王の前方で、ロシュフォール目掛けて槍を繰り出す。

「何を……」

 ロシュフォールは剣を振り回し、穂先の付け根を切り落とした。
 だが、切られてなお、棒が暗殺騎士に突き込まれる。

(何っ!?)

 暗殺騎士は慌て、大きく後退した。
 後退した分だけ、ホブゴブリンたちが間合いを詰めてくる。

「ええいっ、なんだ。調子が狂う……!」

 突き出された棒の先端に足を引っ掛け、ロシュフォールは跳ぶ。
 ホブゴブリンの一体の頭を踏みつけ、そのまま折る。

「グギャッ」

「これで一匹……」

「集団戦闘マニュアル三番、徹底!」

 そこに、ゴブリンたちが槍を構えて向かってきた。
 きっちりと規律が取れた動きである。
 着地しかけたロシュフォール目掛けて、穂先が繰り出される。

「くっ!」

 それを横飛びに回避するロシュフォール。
 その横に、黒瞳王がいた。

「しまっ……!」

 何のことは無い。
 着地から、逃げ場を塞がれるように槍衾やりぶすまを作られ、逃げ場所へと誘導されたのだ。
 黒い魔剣が、暗殺騎士を襲う。

「ぬうっ!!」

 ロシュフォールは素早く、地に伏せた。
 剣が頭上を通り過ぎる。
 切っ先が兜を掠め、まるでチーズを削るように、先端を削ぎ落としていった。

(あれは受けてはならない一撃だ……!)

 ロシュフォールはゴブリンたちの足元を、蜥蜴とかげのような動きでくぐり抜ける。

(一時体勢を立て直し……)

「後方、マニュアル三番、前進!」

 ゴブリンたちの中から抜けたと思った瞬間には、彼らはロシュフォールを向いていた。
 穂先が上を向き、くるりと反転。
 立ち上がろうとしたロシュフォールに突き込まれる。

「うおおおおっ!!」

 一瞬たりとも、気を休める余裕がない。
 避けきれず、幾つかの槍を受けながら、暗殺騎士は全力で飛び退すさった。

「集団戦闘マニュアル四番!」

 ザッとゴブリンの人波が、左右に割れる。
 その中心から、黒い剣を持った男が駆け寄ってくる。
 黒瞳王自らの突撃だ。

「ええい、舐めるなっ!!」

 暗殺騎士は、空いた手を使って、全身に隠し持った飛び道具を抜き打ちに放つ。
 これは黒瞳王に体に幾つも当たるが、不思議な衣服が攻撃を阻み、貫くことが出来ない。

(あ、頭しかないのか!!)

 慌て、狙いを変えようとする騎士。
 その意識の隙間を衝ついて、黒瞳王の脇から小さな影が飛び出した。
 年若いゴブリンの女である。
 手にしているのは、ナイフ。

「ちっ!」

 ロシュフォールは黒瞳王の頭を狙うことを諦め、ゴブリンの女を迎撃しようと意識する。
 だが、同時に、暗殺騎士目掛けて黒瞳王の剣が迫る。

(この剣を受け止めつつ、ゴブリンを投擲で殺す……! その次に黒瞳王を仕留め)

 一瞬の判断であった。
 暗殺騎士ゆえの、オートメーション化された殺しの思考。
 故に、ロシュフォールは致命的な過ちを冒した。
 受け止めようと翳かざした剣が、黒い魔剣に打たれてガラス細工のように砕け散る。
 ほんの少しも、黒瞳王の攻撃を緩めることは出来ていない。
 ゴブリンの女は、転倒していた。
 足元に、もっと小さな女がいる。それにつまずいたようだ。
 ロシュフォールが放った投げナイフは、ゴブリンの女の後ろ髪を掠めていた。
 ゴブリンの女は、倒れる寸前にナイフを投げている。
 これは、ロシュフォールの腹部に刺さっている。
 肉には届いていない。

 だが。
 黒い魔剣が、ロシュフォールの肩から腹の半ばまで斬り込まれている。

(な)

 暗殺騎士は目を剥いた。

(これは、なんだ)

 ひんやりとした感覚が、傷口から全身に広がっていく。
 ロシュフォールは急速に曖昧になっていく自我の中、自問した。
 どこだ。
 どこで間違った。
 どこで俺は過ちを犯した。
 この暗殺騎士が、ゴブリンの群れ如きに。

 卓越した個人である暗殺騎士が、ゴブリンの集団を前にして、思考の柔軟さを失った。
 それこそが敗因である。
 気付く時間など無かった。
 かくして、暗殺騎士ロシュフォールは、鷹の右足の城へ戻ることはなかったのである。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます

難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』" ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。 社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー…… ……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!? ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。 「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」 「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族! 「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」 かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、 竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。 「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」 人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、 やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。 ——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、 「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。 世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、 最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕! ※小説家になろう様にも掲載しています。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

没落ルートの悪役貴族に転生した俺が【鑑定】と【人心掌握】のWスキルで順風満帆な勝ち組ハーレムルートを歩むまで

六志麻あさ
ファンタジー
才能Sランクの逸材たちよ、俺のもとに集え――。 乙女ゲーム『花乙女の誓約』の悪役令息ディオンに転生した俺。 ゲーム内では必ず没落する運命のディオンだが、俺はゲーム知識に加え二つのスキル【鑑定】と【人心掌握】を駆使して領地改革に乗り出す。 有能な人材を発掘・登用し、ヒロインたちとの絆を深めてハーレムを築きつつ領主としても有能ムーブを連発して、領地をみるみる発展させていく。 前世ではロクな思い出がない俺だけど、これからは全てが報われる勝ち組人生が待っている――。

『スローライフどこ行った?!』追放された最強凡人は望まぬハーレムに困惑する?!

たらふくごん
ファンタジー
最強の凡人――追放され、転生した蘇我頼人。 新たな世界で、彼は『ライト・ガルデス』として再び生を受ける。 ※※※※※ 1億年の試練。 そして、神をもしのぐ力。 それでも俺の望みは――ただのスローライフだった。 すべての試練を終え、創世神にすら認められた俺。 だが、もはや生きることに飽きていた。 『違う選択肢もあるぞ?』 創世神の言葉に乗り気でなかった俺は、 その“策略”にまんまと引っかかる。 ――『神しか飲めぬ最高級のお茶』。 確かに神は嘘をついていない。 けれど、あの流れは勘違いするだろうがっ!! そして俺は、あまりにも非道な仕打ちの末、 神の娘ティアリーナが治める世界へと“追放転生”させられた。 記憶を失い、『ライト・ガルデス』として迎えた新しい日々。 それは、久しく感じたことのない“安心”と“愛”に満ちていた。 だが――5歳の洗礼の儀式を境に、運命は動き出す。 くどいようだが、俺の望みはスローライフ。 ……のはずだったのに。 呪いのような“女難の相”が炸裂し、 気づけば婚約者たちに囲まれる毎日。 どうしてこうなった!?

処理中です...