転生魔王のマニュアル無双~絶滅寸前の魔王軍をコツコツ立て直します~

あけちともあき

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盗賊王を討て

封印の単眼鬼

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「一人やられてしまったか。だが、暗殺騎士相手に損害が一人であれば、悪くないどころか、大勝ちね」

 カーギィが興奮して、メガネをしきりに直す。
 倒されたのは、ゴブリンロードと共に合流した、新参のホブゴブリンだった。

「ホブゴブリン、頑張った。誇り、思う」

 ジュギィは、倒れたホブゴブリンのもとにひざまずき、目を閉じさせる。
 死んだゴブリンの体は、人間よりも遥かに早く土に還る。
 緑の肌は体内に葉緑素を飼っているからであり、死んだ彼らの肉体はそのまま、体内に秘めた植物の苗床となるのである。

「君の健闘に感謝する。安らかに眠って欲しい」

 ルーザックは、手を合わせて念仏を唱えた。

「ルーちん仏教徒だったかあ。あたしはね、親がクリスチャン」

「クリスチャンが魔王になったとか、親が嘆くなあ……」

「だよねー、笑えない」

 速やかに埋葬は終わり、ジュギィがその上に、摘んできた野の花を手向ける。
 ルーザックは、ゴブリンにも使者に花を送る概念がある事を知った。

「ジュギィのこれは特別。ママはジュギィを好きにさせてたからね。小さい頃から人間のやってることを見てたの。だからこの娘って人間っぽいでしょ」

「さらに、ルーザックサマについていくようになってから、また人間臭さに磨きが掛かったわね。ゴブリン達まで個性がついて」

 レルギィとカーギィから見ると、ゴブリン達が個性的なのは違和感があるようだ。

「だけど、ルーザックサマ。ホブゴブリンはともかく、あのゴブリンたちの動きは? マニュアルって何のこと?」

 ゴブリンロードの次女は、黒瞳王の指揮に興味を示したようだ。
 これを聞いて、ジュギィはふふーん、と得意げに胸を張る。

「マニュアル、特別! ジュギィ、黒瞳王サマに任されてる! マニュアル使う、ゴブリン鍛える。ゴブリン、強くなる!」

「へえ……。私もマニュアルで、ルーザックサマに強化してもらおうかなあ……」

「レルギィ姉様! マニュアル、魔法と違う! コツコツ頑張るの! レルギィ姉様には無理!」

「な、なんですってぇ!」

 姉妹の間で争いが勃発しそうだ。

「ほら、二人とも行くわよ。ちょっとね、牧童の姿が向こうに見えてるから」

 カーギィがメガネを光らせながら呟いた。
 魔法のメガネが、近づいてくる相手を捉えたらしい。

「では出発。休憩を取る暇が無いから、休めそうなところまで移動して、そこで休もう」

 あくまで、無理をせず、させない主義のルーザックなのであった。
 一行は、谷底を進んでいく。
 周囲に緑があったのが、徐々に岩肌剥き出しの地面に変わっていく。

「ルーザックサマ、ここでストップ。封印の地に入るから。恐らく、見張りがいると思うけれど……」

 カーギィの言葉に従い、ルーザック一行はストップした。
 彼女が偵察を行う間、休憩を取ることにする。

「少ししたら、私がカーギィ姉と交代するから。あんたたちはしばらく休んでて」

「ああ、ありがとう。弓を持っている者はいるか?」

「ギ!」

「よし、いつでも使えるように用意しておいてくれ。牧童が追いかけてきたら攻撃するんだ」

「ギィ!」

「本当はこういうのはマニュアル化してないから、臨機応変というのは避けたいんだが」

 どっかりと座り込んだ一行。
 ルーザックの肩から、アリーシャがピョイっと飛び降りた。

「ルーちん、たまにはあんた、休んでなさい。こっからはあたしが指揮とっとくから。マニュアルっつーの? ちょいちょい頭に叩き込んであるからさ」

 先輩らしいことを言うアリーシャである。
 お言葉に甘え、ルーザックは岸壁に寄りかかって休むことにした。
 そして、これまで休むこと無く挑んできた戦いで、どうやら相当疲労が溜まっていたようだ。
 ルーザックの意識は、眠りの底に沈んでいく。




 ハッと目覚めた。
 そこは、谷底ではない。
 ぼんやりとした暗い空間で、どこが地面で、どこが壁かもはっきりとはしない。

『お目覚めかね、黒瞳王。いや、君が眠ったからこそ、こうして我輩が現れることが出来たのだ』

「どなたかな」

『我輩か? 我輩は、君が探し求めているものだよ』

 響いてくる声。
 始めは音だけだったそれは、徐々にその存在感を強くしていく。
 やがて、眼前に気配が集まる。
 そして、次の瞬間、ルーザックの目の前には人の胴体ほどもある、巨大な眼球が浮かんでいた。

単眼鬼サイクロプスか……?」

『いかにも。お初にお目にかかる。我輩にとって、君は二人目の黒瞳王だ。先代は、ほれ、少々面倒くさそうでな。接触せんでいた』

「アリーシャ?」

『そう、それ』

 ルーザックと単眼鬼は、顔を見合わせて苦笑した。

『君も、カリスマに溢れるわけでもなく、強い力があるわけでもない。正直な話、我輩が従うには力不足すぎる。だが……我輩がより好みをしている間に、我輩はこの有様だ。しかも魔神殿は力を失いかけており、最後の機会になってしまった』

「魔神氏はそう言っていたな。俺の双肩に全てが掛かっていると」

 普段であれば、現地スタッフたちの前では一人称を私、で通しているルーザックだが、ここは夢の中。
 ざっくばらんに、俺、を使う。

「俺は、仕事で全権を預けられた事が一度もなくてな。やる気だけはあっても、話の通じない上司は俺にろくな仕事を寄越さない。挙げ句は手柄を横取りし、責任だけを俺に丸投げだ。……済まん、愚痴になった」

『なに、気にするな。我輩とて人のことは言えぬ。魔神に最も近い眷属としての奢りゆえ、初代黒瞳王以外の魔王を認めなかった。挙げ句が、我ら魔族の危機だ。故に、こうして思念を飛ばし、ゴブリンロードに我輩の在り処を教えてやった』

「なにっ、では、アージェさんが君の居場所を知っていたのは、知識からではなく、君が干渉したせいだったのか」

『いかにも。我輩も、反省しているのだ。挙げ句、全身を封印され、自由になるのはこの目玉のみと来た。こうなるまで気付かなかったのだなあ……』

 しみじみと呟く単眼鬼。

「何を言う。反省できることは素晴らしいことだ。俺は大いに評価する。過去の過ちは取り返せないが、今を十分に後悔なく生きることは出来る」

『なんと……! 我輩、妥協して君という黒瞳王に協力しようと思っていたのだが……。嬉しいことを言ってくれるではないか』

「一歩目を踏み出すのは妥協でも良いじゃないか。まずは結果を作ることが肝要だ……。うむ、俺もどうも、これは自分で言っていて耳が痛くなってきた」

『ははは、案外君と我輩は似た者同志かもしれんな』

「かもしれない」

『いいだろう。君に手を貸そう。友として、だ』

 そこで、ルーザックは目覚めた。




「おお」

「やっと起きた! すっかり寝てたねえ、ルーちん。どんだけ揺さぶっても起きなかったのよ!」

「うんうん、黒瞳王サマ、目覚めた! ……で、後ろの大きい目玉……何」

 ジュギィぷるぷると震える指先を向けたそこには、ぷかぷかと目玉が浮かんでいる。

「おお」

 ルーザックは、まだ自分が夢を見ているのではないかと思った。
 だが、この目玉と交わした言葉は、克明に覚えている。

「あー、みんな、紹介しよう。武器を下ろすように」

 思わず身構えていた、カーギィやレルギィ、ホブゴブリンたちを鎮める。
 ルーザックは立ち上がると、浮遊する目玉を招いた。

「彼が、単眼鬼サイクロプスだ。理由があって、目玉以外の部分が封印されているそうだが、こうして私と共に戦ってくれる事になった」

『うむ。ゴブリンどもよ、我輩は、黒瞳王ルーザックの友として力を貸すことにした。よろしくな』

「は……はあーっ!?」

 ゴブリンロードたちの、唖然とした声が響き渡る。

「全く……冴えない奴だとばかり思ってたけど、いろいろ規格外よね、ルーちん」

「うん、さっすが、黒瞳王サマ!」

 アリーシャとジュギィは、この状況に、何の疑問も感じていないようなのであった。
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