転生魔王のマニュアル無双~絶滅寸前の魔王軍をコツコツ立て直します~

あけちともあき

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盗賊王を討て

ゴブリン調査隊、がんばる

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「ギッ」

「ギギッ」

 物陰で、ゴブリンとゴブリンが目配せする。
 二人一組で作られた、ゴブリン調査チームだ。これがあと五つあり、隊長のジュギィ指揮のもと、ゴブリン調査隊を形成している。

「地図、ソクリョウ」

「ギ」

 最近のお勉強で、ちょっとだけ覚えた言葉を喋ってみる。彼が手にしているのは地図。文字が読めないゴブリンでも分かるよう、可愛らしい絵で描かれている。
 作者はジュギィだ。
 相方のゴブリンが、グッと親指を立てた。
 二人はそろり、物陰から出てくる。
 辺りに人間がいなくなるまで、じっと待っていたのだ。

 ここは、鷹の右足地方、城の近くにある村。
 城へ収める農作物を作っている。

「ヒトいる、ムギ、ギ」

「ギ、ウマ」

 二人は指差し確認した。
 なるほど、収穫された麦が積まれた荷車が用意されている。
 少し向こうで木に繋がれているのは、荷馬であろう。
 ゴブリン達は、腰につけた皮の袋から、木の板と白いものを取り出した。
 木の板を下敷きにし、地図を載せ、白いもの……チョークに似た性質を持つ石で、紙に絵を描く。
 馬。荷車。それと麦。

「ギィ?」

「ギー!」

 描いた絵を見せたゴブリン、相方がそれを指さして感心する。
 さらに、相方も絵を見せる。
 彼は別の方向を観察していたようだ。
 刈った麦を束にして、積んである山。
 これをスケッチしたものを見せる。

「ギ」

「ギー!」

 相方の絵をゴブリンが褒める。
 互いの仕事をリスペクトし合うべし。
 黒瞳王が定めた鉄の掟の一つだ。
 ゴブリン達は、互いを褒め合い、いい気分になった。
 やる気がもりもり湧いてくる。

「ギィ!」

 二人は絵を崩さぬよう、そっと紙を筒にして袋に差し込むと、また歩き出した。
 時間帯的には夕方である。
 日暮れも近く、村人たちは家に戻っていく頃合いだろう。
 繋がれた馬も、もうすぐ村人が迎えに来るはずだ。

「ギ?」

「ギー」

 彼らは昼過ぎから活動を行い、このあたりの区画の地形や、家の並びを記録したところである。
 さらに、荷車で麦を運ぶ、という情報を得ている。
 ここで帰ってもいいのだが、ちょっと欲を出した。
 もう少し探っていく?
 いいね!
 そういうやり取りだ。

 昼間行った調査では、物陰から物陰を渡るばかりで、人が多い場所を調べられなかった。
 夜に調べてもいいのだが、ある程度人間の流れは掴んでおきたい。
 ゴブリン達はやる気に満ち溢れ、スタスタと道を歩いていった。
 と、角からトコトコと農夫が現れる。

「!!」

 ゴブリン達は驚愕した。
 慌てて、壁にピタリと張り付く。

(ギ、ギィーッ)

 しまった、調子に乗ってしまった。
 そのような後悔を込めて内心で呻うめく。
 彼らはゆっくり姿勢を落とし、後退を始めた。
 かつてのゴブリンたちなら、農夫一人に発見された程度であれば、彼を襲って口封じをしたことであろう。
 だが、ゴブリン調査隊の情報収集で、この村は人口がさほど多くなく、一人消えればすぐに判明し、いらぬ騒ぎになるのではという推測が行われている。
 情報に従い、彼らは農夫に見つからない事を選択したのである。

「ん? 何か緑色のものが見えたような……」

 農夫が振り返った。
 既に、そこにゴブリンたちの姿はない。
 姿勢を低くしたまま、荷車の下に潜り込んだのだ。
 二人は息を殺し、農夫が去るのを待った。

「ギ」

「ギィ」

 戻ろう、と二人が決断する。
 かくして、彼らはなんとか人間達に知られること無く帰還に成功した。



「いい情報。大事。黒瞳王サマ、知らせる。絵、じょうず」

「ギー!」

 ジュギィ隊長から、お褒めの言葉をいただくゴブリン達である。
 だが、ジュギィは彼らに向かい、キッと目を吊り上げた。

「でも、危ない、無理だめ! 全部だめになる!」

「ギー」

 叱るところは叱る。
 この辺りのメリハリはしっかりやるジュギィだった。
 ゴブリン達を帰した後は、彼女の仕事。
 調査チームが集めてきた地図をまとめて、作戦本部へ持っていくのだ。

『おお、ゴブリンの末姫。今日もご苦労だったな』

「ギッ! 情報、いっぱい。カーギィ姉サマに渡す」

『凄まじい速度でこの土地が丸裸にされていくな。わしもゴブリン如きがここまでやるとは思わなんだ』

 ぷかぷか浮かんでいた巨大な目玉、単眼鬼のサイクが、しみじみと呟く。
 彼は特に何の仕事も持っていない。
 適当にこの辺りをぶらぶらし、暗殺騎士の襲来に備えるためだ。
 ごく当たり前のように、ゴブリンを見下すような言葉を発するが、気にしていても仕方ない。
 ゴブリンとは最も下位の魔族であり、数こそが力。
 単眼鬼とは魔神に次ぐ、最上位魔族の一つ。たった一人しか存在しないのだ。今は目玉だけしかないとしても、単騎であの城を落とす程度は容易い。ただし、とても派手な破壊が生まれる。

「ゴブリン、頑張る。黒瞳王サマ、勝つため!」

『ほうほう、お前、友を好いておるのか? 下等なゴブリンが、種の本能を超えたそのような感情を抱くとは……』

 ぶつぶつ言うサイクを無視し、ジュギィはさっさと作戦本部……テントへと飛び込んだ。

「黒瞳王サマ! カーギィ姉サマ! これ!」

 どさどさーっと地図の束を、テント中央に作られたテーブルに乗せる。

「ああ、もう乱暴に! しかし、日に日に情報が増えていくわね。ゴブリン達はここまで有能だったかしら」

 ゴブリンロードであるカーギィが疑問を覚えるほど、ゴブリン達の働きは見事だった。
 それに対して、黒瞳王は何を当然のことを、という顔をする。

「マニュアル通りの行動をしたのだ。想定通りの結果が出たことは喜ぶべきだろう」

 ルーザックがてきぱきと、巻かれた地図を広げていく。

「ほう、麦を束ねて乗せる荷車。馬……ふむふむ……」

「ほいほいー。メモしてくよー」

 小さな黒瞳王アリーシャが、全身で羽ペンを使い、地面に広げられた紙に文字を記していく。
 これを用いて、鷹の右足攻略のためのマニュアルを作成するのである。
 情報収集は、最初にルーザックに従ったゴブリン達。
 習熟訓練は、新たに仲間になったゴブリン達に施す。
 頭数は限られているが、鷹の尾羽の古戦場砦よりは戦力に余裕がある。

「城に麦を収める際に、農夫と入れ替わるのが良いだろうな。荷馬が言うことを聞くかどうかだが」

「動物を一時的にゾンビ状態にする毒草があります。レルギィに取ってこさせます?」

「いいな、ではそれで行こう。城に侵入するのは、麦に隠れてゴブリンが数名、農夫と入れ替わりで私とレルギィで行こう」

「ジュギィはー」

 ジュギィが不満げにむくれた。

「ジュギィには城外の撹乱を行ってもらう。信用できる者にしか任せられないのだ」

「信用……!! がんばる!!」

 信用の一言に、ジュギィは鼻息を荒くする。

「頼むぞ」

「うん!!」

「あー、何気にルーちん、無自覚なタイプよねー。あかんわー」

 アリーシャの言葉に、ルーザックは眉を顰ひそめた。

「何がいかんのだ」

「それ、そーゆーとこよ……。天然めえ」

「分からん」

 ともあれ、士気は最高。
 ルーザック陣営は着々と、鷹の右足攻略のための力を蓄えていくのである。
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