転生魔王のマニュアル無双~絶滅寸前の魔王軍をコツコツ立て直します~

あけちともあき

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盗賊王を討て

魔王軍戦略会議

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「では紹介しよう。こちらが新しく魔王軍に加わった、ダークエルフのディオースだ。過去の歴史や戦史に詳しいということで、軍事担当部長の役職を与えている」

「ディオースだ。よろしく」

 ダークエルフは、やや緊張した面持ちで告げた。
 何せ、対面にはふわふわと浮かぶ巨大な目玉がいるのだ。
 ゴブリンだけの陣営かと思っていたら、最上位の魔族である単眼鬼サイクロプスがいる。
 話が違う……! とは思ったが、よくよく考えればこの単眼鬼が、最下位魔族のゴブリンと仲良くやっているのだ。それに、自分達が魔王軍への視察を決めた、あの盗賊王軍への攻撃。これは単眼鬼が使う魔眼光だったではないか。
 魔神が定めた、魔族のヒエラルキーを超越し、対等に席に着く。これこそが、黒瞳王ルーザックが指揮する、今代の魔王軍なのだろうと理解する。

 ちなみに、単眼鬼のサイク以外に、この場には黒瞳王ルーザック、先代黒瞳王にして顧問のアリーシャ、ルーザックの右腕たるゴブリンの末姫ジュギィ、現場主任のレルギィ、管理担当係長カーギィ、ゴブリン統括課長補佐アージェがいる。
 ゴブリンクイーンは、巣から出てくるつもりはないらしい。
 彼女は魔王軍を娘達に任せ、自分は一族の運営に徹する心づもりなのだ。

『我輩は専務とやららしい。なんなのだこの役職は』

「私が分かりやすいように設定している。ちなみに、私が社長だ。全ての責任は私が持つ。どんどん発案し、実行して欲しい。ただ、私に承認を取るように」

「あ、ああ。ところで一つ聞いてもいいだろうか」

「何かな」

「この、後ろに並んだ、色とりどりの小さな彫像は一体……。風変わりな城塞から、奇妙な形の船、鎧姿の戦士と様々だが」

「気晴らしに作ったプラモだ……。最近腕が上がってな」

 ちょっと自慢げなルーザックだが、ディオースにはよく分からない。

「黒瞳王サマ、凄いの! プラモきれい!」

 無邪気に、瞳をキラキラさせるジュギィに至っては、どうして彼女がここにいるのかも分からない。ゴブリンロードは、成人を迎える際に、肉体的にも精神的にも変身と呼べるほどの変化を遂げる。ジュギィはどうみても、まだ子供で、明らかに未成年だった。
 しかも、右腕とはなんだ。そういう役職があるのだろうか……?
 考えれば考えるだけ、袋小路に入り込みそうだ。
 ディオースは、この事に関する思索は棚上げとすることにした。

「では、まず私が考案した今後の展開についての作戦を話そう」

 ディオースは告げるなり、卓上に大きな紙を広げた。
 何枚もの紙をつなぎ合わせたもので、そこには拡大模写された地図が記されている。
 特に、ホークウインド地方を拡大してあり、他の国は切れてしまっているものも多かった。

「赤いインクで印がつけられていますね。これは……私達魔王軍の支配している地域?」

 カーギィが目を細めた。
 地図で赤い線に囲まれた地域は、鷹の尾羽から右足に続く、ホークウインドの二割ほどの領土。

「人間達が残していった戦略、戦史に関する書類には一通り目を通した。我がダークエルフ族にも、やはり魔導王ツァオドゥとの戦いの記録が残されていてな」

「魔導王ってそういう名前だったのか……」

「古来、名前を知られれば呪術に属する魔法に掛かりやすくなると言われている。魔導王の周囲がそれを恐れ、王の名を秘しているのだろう。だが、あの女に呪術は通用しない。あれは呪術のエキスパートでもある。彼奴との戦いで、我らダークエルフは敗戦を重ねたが、それらの記録は正確に残されていた。
 プライドが高い我らの事。書類に残すことはせず、魔導器である水晶に、自動的に記録させていたのだ」

 ここで、ディオースの背後に控えていたゴブリンが、書類の束を卓上に提出した。
 それは、ディオースが紙に書き起こした、ダークエルフ達の敗戦の記録である。

「ここに資料がある。文字が読めない者もいるだろうから、口頭にて簡略に伝えよう」

 ダークエルフは、これまで一族が行ってきた戦いの歴史を告げる。
 初戦は圧倒的な勝利であった事。
 二戦目でやや苦戦。
 三戦目で辛勝。
 四戦目から、ダークエルフは勝てなくなった。
 度重なる敗戦。
 二代目黒瞳王の死。
 捲土重来けんどちょうらいを願って協力した三代目黒瞳王が、個人主義の人物だったこと。
 魔導王どころか、鋼鉄王と盗賊王をも一度に相手にし、為す術もなくすり潰された三代目黒瞳王。
 絶望し、プライドを守るために逃げたダークエルフ達。

「以上だ。ここに、教訓がある」

 話が理解できず、ぐうぐうと居眠りしているレルギィを、あえて無視するディオース。
 彼は頭がいい。この場に並んだ面々を、どう扱えばいいか既に理解し始めていた。

「と、仰いますと?」

 言葉を投げてきたのは、ゴブリンロードの長姉アージェだ。
 次代のクイーンとなるべくして育てられた彼女だが、ディオースが得た情報によれば、明らかに母であるクイーンよりも頭の回転が早いと言う。

「我らが敗北した事には、全て理由がある。これを洗い出したものが提出した書類だ。お前は文字が読めるか?」

「魔神語ですよね。ええ、嗜んでおります。この場にいる者では、カーギィも読む事が出来ます」

「アージェ姉サマ。ジュギィも実は魔神語と、人間語も少し……」

「まあ! 凄いじゃない、ジュギィ!」

「えへへ」

 いきなり会話がアットホームになった。
 だが、この状況でディオースは不快感を覚えなどしなかった。
 目を見開き、照れ笑いをするゴブリンの末姫を見たのだ。
 ロードにもなっていない、幼いゴブリンの知性で出来るものではない。
 この場にいるゴブリンで、最も規格外の存在となりうるのは、この娘では無いか。

(なるほど、黒瞳王の右腕か)

 その役職には、黒瞳王の期待と、そして厳然たる事実が含まれていたのだ。

「話を戻しても良いかな? アージェとカーギィには、この書類を確認しておくように要請する。特に、マニュアル作成担当となったカーギィは、この書類に記載された、ダークエルフ側の敗因を理解しておくように。疑問点があれば、私に聞きに来てもらいたい。不明を放置する事は、即ち魔王軍の損失となる」

「分かりました」

 カーギィが緊張した面持ちで頷いた。

「勝ちに不思議の勝ちあり。負けに不思議の負け無し、か。これはどの世界でも真理だな」

 黒瞳王がうんうんと一人首肯している。
 隣のアリーシャは、全く分かっていない。

「ねえねえルーちん。どゆこと?」

「アリーシャが負けた戦には全て理由があり、それを徹底的に掘り起こして問題点をはっきりさせ、二度と繰り返さないようにしようという事だ」

「うっ! あ、あたしのハートが痛む……!」

 卓上でのたうち回る元黒瞳王に、つかの間、この場の空気が和んだ。
 そこで、ルーザックが宣言する。

「さて、そろそろ良い時間だ。休憩に入る。お茶を持ちたまえ」

「何っ!? お茶とはどういうことだ黒瞳王」

 驚き、ディオースは問うた。
 これに、黒瞳王は平然と応じる。

「ああ。君は我が軍の方針にまだ疎かったな。長時間の会議は思考を鈍化させる。環境に脳が慣れてしまい、気づくべき刺激に鈍感になってしまうのだ。という事で、私は会議の際に一時間の休憩を入れることにしている。この間、仕事の事や書類に触れてはいけない。これは規則だ」

 扉が開き、ゴブリン達が薬草茶を運んできた。
 干し肉やチーズ、蜂蜜を掛けた果実などのお茶請けも一緒である。

「糖分は脳の栄養になるぞ。君も遠慮なく食べたまえ」

「は、はあ……それでは」

 すっかり黒瞳王に呑まれ、ダークエルフは薬草茶を手に取るのだった。
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