ゴボウでモンスターを倒したら、トップ配信者になりました。

あけちともあき

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真夏な私の遭遇編

第262話 二人デビューイベントの前夜伝説

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「えー、では社長お願いします」

 マネージャーエルフのルンテさんがそう言って、後から兄が出てきた。
 ここはスタジオ。
 軽く明日のリハーサルをやったカナンさんとファティマさんに、社長たる兄がなんか色々教えるらしい。

「いよいよ明日だ。緊張していることと思う」

 こくこく頷くファティマさんと、なんか平常心なカナンさん。

「ハヅキの配信にたくさん付き合ったので……」

「カナンさんは半分デビューしているようなものだったな……。いいかな? 今回は二人とも序盤は、はづきのサポート無しでイベントを行う。これは二人が既に多くの潜在的顧客を掴んでいると見ているからだ」

 なるほどー。
 先日の海の配信の反応からするとそうだよね。
 カナンさんもファティマさんもツブヤキックスのトレンドに載ったし、PickPockでは動画の切り抜きが流れてたし。
 なりきりアカウントも登場した。

 有名配信者のなりきりアカウントは、アンチや住所を特定されたらダンジョンそのものに襲撃されたりするけど大丈夫かな。

「カナンさんは魔法スタイルだから問題ないだろうが、ファティマ。お前は一つ注意すべき点がある」

「はい」

「まず、お前のスタイルは前衛だ。剣舞で戦う形になる。ただし、絶対に力比べに持ち込まれるな。視聴者からパワーが売りであると認識されない限り、力そのものは常人の域にとどまる。ましてや女性の肉体は純粋な筋力が低い。今のダンジョンで力比べに持ち込まれたら命が危ないと考えるんだ」

「はい。自分のやり方を相手に押し付ける、ですね先生」

「そういうことだ」

 おお、師匠と弟子のやり取りだ。
 そして、女性は筋力に劣るから力比べは絶対駄目と聞いて、頭の中に一人の人物が思い浮かぶ……。

「はづきがとある人物のことを考えているが、はぎゅうはもともと女子離れしたパワーと、パワーキャラの印象をリスナーに植え付けたことで力比べに同接数バフが掛かるんだ」

「な、なるほどー」

「それからお前の場合は分からん。前例がない」

「なんですって」

 私のケースだけ放り投げられてしまった。

 兄はその後、配信するに当たっての心構えと注意点を色々教えた。
 同接数的に不安な時は、きら星はづきグッズをポーチに入れて配信に臨め、とか。

 そうなの?

「お前のグッズを持っていると、同接数バフが掛かるのだ」

 バフっていうのはあれね、プラス補正ってことね。
 簡単なグッズならほんの数人ぶんだけど、プラモなら、配信者は百人くらい、フィギュアなら二百人くらいのプラス補正があるんですって。
 な、なんですってー。

 なお、一般人ならこの補正が十分の一くらいに減る。

 今では配信者たちは、お守りみたいに私のグッズを持っているらしい。
 そんなに広がってるの。
 どうりで、初対面の配信者さんたちに「いつもお世話になってます」って挨拶されるわけだ……。

 あとは、イカルガエンターテイメントも大きく成長して、この箱、つまり芸能事務所みたいなものだけど、そこそのものにファンがついてる。
 今までは強力な配信者として私が引っ張り、そこから新しい人のチャンネルに登録者を流してたけど。
 その必要がなくなったと兄は判断したんだと思う。

「もちろん、イカルガ公式チャンネルでも同時視聴をする。はづきがこれを視聴しながらメンバーと感想を言い合い、ピンチになったら即座にダンジョンに合流するから安心してくれ」

「それなら安心です!」

「最強の保険がついてるなら何も問題はないわね」

 ということで、イベントはつつがなく行われる見通しとなった。
 私は明日一日空けておかないとなー。

 まあ、配信しないなら特にやることも……。
 本を読んでゴロゴロしたり、ネットサーフィンしたり、蠱毒を補充したりくらいしかないし。
 あっ、この間委員長に教えてもらった銭湯に行くのもいいな。

「一日空けておくんだぞ……」

「あっはい」

 兄に念を押されてしまった。
 仕方ないので、今日明日は会社に来てゴロゴロしよう。

 配信に使われるダンジョンは、今回も宇宙さんが確保している。
 明日にはちょうど熟成している頃合いらしい。

 カナンさんは今日は会社に泊まって、明日に向けて最終調整を行っていくらしい。
 私は一人で帰宅することにした。

 途中でぼたんちゃんとすれ違い、「ま、ま、またはづきちゃんとすれ違った……! 最近こんなのばっかり! 悔しい悔しい!」とか地団駄を踏まれてしまったが町中だぞ落ち着いて欲しい。
 私が落ち着け落ち着け、と彼女の顔をぺたぺた触ったら落ち着いたらしく、大人しく会社に向かっていった。
 頑張ってほしい。

 帰宅したら、母とビクトリアがお茶の間のテレビを見ている。
 お茶菓子が盛られており、母がもりもり食べていた。

「おかえりなさい。なんだか大変なことになってきてるみたいよ」

「なになに?」

 テレビに注目。
 ほうほう、瀬戸内海から飛び出してきたと思われる魔将が、自らの周りをダンジョン化しながら北上してきていると。
 三重県沖からゆっくりとゆっくりと……。

 夏の半ば過ぎには関東地方に差し掛かるとある。

『魔将の目的は東京湾でしょう! この国の首都を落とすつもりなのです! これは異世界からの侵略ですよ!』

 コメンテーターの人が口から泡を飛ばしながらなんか言ってた。
 で、ここで迷宮省の長官が中継で繋がった。

 大京さんという体格の良い若作りなおじさんだ。

『大京長官。今回の件に関して迷宮省は……』

『叩き潰します』

 即答した!

『た、たたきつ……!? あの、それは具体的にどう……』

『迷宮省が提携する配信者全員の力を借り、魔将を東京湾で迎え撃ちます。状況によっては私も出ます』

 この言葉に、ニュースを流してるスタジオが騒然となっていた。

「ねえお母さん、この大京っていう人は強いの?」

「あら、本物に会ったことあるんでしょ? この人、一つの街をダンジョン化した当時最強の怨霊を単身で突撃して粉砕したのよ。それから英雄って呼ばれてたわねえ」

「へえー、それは凄く同接集まっただろうねえ」

「その頃は同接数集めるっていう考えが無かったわねえ」

 ひえー、それってつまり、同接ゼロ人で大怨霊をやっつけたってこと?
 世の中、すごい人は幾らでもいるもんだなあ。

 私は感心してしまった。
 で、そんな私のAフォンに、迷宮省から協力要請が届くのだった。
 あー、提携してる配信者って私かあ!

 そしてそして。
 この協力する日ってどう見ても私の誕生日なんですが……?

 まあ、まだちょっと先の話だし、その時に考えればいいや。
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