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第四部:送還編

135・俺、近況報告する

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 しがみついて離れないラムハをくっつけたまま、仲間達から現状報告を受ける。

「なんかさ、オクノとそいつらが消えてから半日くらいして、そしたらまた出てきたんだよ」

「ミッタクの説明はわかりやすいなあ」

 単純明快だ。
 俺達は、地球へと飛ばされた当日に戻ってくることができたのだ。
 ちなみに、混沌の裁定者は逃げてしまった。
 既に、奴が現れた扉もない。

 いよいよ、混沌の裁定者の手がかりは五花ということになるな。

「ラムハー、離れてよー! オクノくんはあたしんだからね! お父さんとお母さん公認なんだからねー」

「おっ、ルリアの爆弾発言」

 俺はやばいなーと思いつつ、静観することにした。
 女の戦いが勃発しそうだ。

「オクノくん、あなたが連れてきたお二人は?」

 ここは、比較的大人であるアミラが冷静に尋ねてくる。

「うちの父親と母親だぞ」

「奥野の父です」

「母でーす」

 すると、オクタマ戦団がどよめいた。

「戦い慣れしてるようには見えねえな。冴えないおっさんって感じだ」

「私にもそう見えます。いえ、失礼。戦闘行為の第一線とは違った職場についておられるように見えます」

 オルカとグルムル、なかなか的確な判断だ。

「なあオクノ。そいつらは何ができるんだ?」

「うーん、親父は俺にプロレスを教え込んだ張本人だな。今は会計士してるから、金勘定は得意だと思う」

「お金のことなら任せてくれたまえ!」

 親父がバーンと胸を叩いた。
 すると、イーサワが目を輝かせる。

「なんとーっ!! 金銭面のプロですか! これは心強い! この団の財政を担当しておりますイーサワと申します」

「あ、これはどうもご丁寧に……。つまりあなたが私の次の上司ということに……」

 親父がイーサワと仕事の話を始めてしまった。
 ところで、異世界に戻ってきたら、うちの両親って普通に言葉が通じてるのな。

「そこはわしがやっておいた。呪法陣を媒介にしてこちらに来たじゃろう? その時に、言葉を翻訳できるようにいじっておいたのじゃ。お前らを召喚した時と同じよ」

 仕事のできる女、シーマである。
 気配りが行き届いている。

「シーマちゃんは本当にいい子ねえ。奥野、シーマちゃんはお嫁さん候補じゃないの?」

「冗談でもよすんだ」

 なんてとんでもない事を言う母親だ!
 ちなみに、アミラとカリナがスススっと母に近寄ってきて、

「はじめまして。私はアミラと申します。オクノくんとは清いお付き合いをさせていただいていて……」

「オクノさんはわたしの婿になるんです! あっ、わたし、カリナです!」

 ここで、俺にしがみついていたラムハがハッとする。

「わ、私はラムハです!!」

「あらまあー! 奥野のお嫁さんが増えちゃったわねえ」

 母が大変嬉しそうである。

「あなたそういう性格でしょ? 変わった男の人が好きな女の子がいなきゃ、ずっと独身だろうなって悩んでたのよ……」

「悩んでたのか」

「でもその悩みも晴れたわ! 異世界に来てよかったー! 後は孫の顔を見るだけね! 皆さん、がんばってね! ルリアちゃんはもう孫ができるの確定だと思うけど!」

「えっ」

「えっ」

「えっ」

 女子三人の目が、ルリアに向いた。

「ヒェッ」

 ルリアが跳び上がる。

「ああああ、あたしは悪くないもーん!? 男と女が二人きりならそりゃあやることはやってしまうわけで……」

 ルリアの言い訳が垂れ流される中、ラムハが俺から降りた。
 そして、ちょっと鼻をすする音がして、目をごしごしこすっている。
 もしかして泣いてました、ラムハさん?

 すると、母がスススっと寄ってきて、俺にハンカチを握らせた。
 あっ、こういう時はハンカチを差し出すものなのね!

「ラムハ、これで涙を拭こう」

「うん、ありがとうオクノ。お母様」

 母からの入れ知恵がバレている……!!
 だが、顔をハンカチでゴシゴシ拭いたラムハ。
 それをポケットにしまった。

「みんな。淑女協定はここに破られたわ。この泥棒猫にはどんな罰がお似合いかしら?」

「水責め」

「百叩き!」

「ヒェ~」

 ルリアが震え上がっている。
 圧倒的に抜け駆けしたもんなあルリア。

「待ってみんな! オクノくんだって情熱的に受け入れてくれたんだから! これは二人の愛の勝利だよー!」

「オクノはエッチな誘惑に物凄く弱いに決まってるでしょ!! 私達のうち誰か一人でも二人きりになったら絶対に落とせるんだから!」

 ラムハが怒った。
 そして俺への判断力が的確過ぎる!!
 フタマタがいなければ、俺はずるずると流されていたことであろう……!

「ありがとうなフタマタ」

「わんわん、わふん」

 いやいやどういたしまして、とフタマタが目を細めた。
 こいつは俺の自制心も司っているようだ。
 思えば、最初の晩を過ごした朝、俺はよくぞルリアに襲いかからずにいられたものだ。

 こっちの世界の三人が怖かったので自制した気もする……。

 ということで、ルリアの処遇は一週間の船員ぐらしとなった。
 リザードマン達に混じって仕事をするのである。
 その間はパーティメンバーではないので、俺に接近できない。

「うわーん、そんなあー」

 さめざめと嘆くルリアだが、あれは嘘泣きである。

 するとここで、助けの手が差し出された。

「では俺が預かろう」

「イクサ!」

 今まで、ずっと無言で俺達を見守っていたイクサが口を開いた!

「ルリアは強くなったらしいな。では、俺の練習相手になってもらうのはどうだ? せいぜい一日十時間程度のスパーリングだが、武器を使って実戦形式で行う」

「やめてくださいしんでしまいます」

 ルリアが文字通り真っ青になった。
 ということで、円満に船員暮らしを選択するルリアなのだった。

 ここでラムハからの提案。

「淑女協定が破られてしまったので、ここからは淑女協定Ⅱを提案するわ」

「Ⅱって、どこが違うのかしら」

 アミラが首を傾げる。

「関係を持ってもいいということよ。その代わり、ローテーションをちゃんと決めるの」

「いいわね!」

 アミラの目がきらきら輝いた。
 女子陣の中で一番の経験者アミラ……!
 いよいよ本領発揮というわけだ。年頃の男子として、恐ろしくもあり、ちょっと楽しみでもある……!

「?」

 カリナは全然分かっていない。
 そもそもまだ子どもだもんなー。

「カリナは成人してからね」

「そうねえ、カリナにはまだ早いわねえ」

 ラムハとアミラが、優しい声で言った。
 何やら子ども扱いされていると気付いたカリナが、「むきー!」と怒った。
 だが、何を子ども扱いされているのか分かってないようなので、子ども扱いは正しいのだ。

「それじゃあ、私と、アミラと、ミッタクの三人で決まりね」

「へ? うち? うちがなんかするの? 関係って……ああ、訓練だな!!」

「ミッタク、流石の脳筋だ」

 俺は感心した。
 こいつ、そっち方面の知識ゼロだな?
 むしろありがたい。

 いきなりローテーションなんて夢のような状況になっても、俺の頭が理解できずにパンクしてしまう。
 ここはお手柔らかにお願いしたい……。

「じゃあ二人とも、計画表を作らないとね。奥野のお嫁さんはみんなで何人いるのかしら? カリナちゃんを入れて五人? ルリアちゃんが戻ってくるまでは二人で交代だから、ええと」

 ラムハとアミラとうちの母が、何やら相談を始めてしまった。
 恐ろしいことだ。

 ちなみに向こうでは、頭だけ毛皮を脱いだダミアンに日向が腰掛け、フロントとお喋りをしている。
 日向の頬がちょっと赤くなっており、彼女は地球に来たことでフロントへの気持ちを完全に自覚したようだ。
 恋をされましたな……。

 ああいうシチュエーションについて、視聴者みたいなポジションから判断するのは慣れている俺である。
 ラブコメ系のアニメでよくあるからな。
 日向とフロントを見て想像を豊かにする俺に、手持ち無沙汰なイクサが声を掛けてきた。

「オクノ、暇か。暇ならまた外で手合わせでもしよう」

「おっ、いいね!」

「お前の世界はどうだったんだ?」

「実は七勇者のなりかけみたいなのが結構いてな。日向とコンビで戦ったりした」

「なんと羨ましい」

 イクサが心底羨ましそうな顔をした。

「なんだよ! 二人とも訓練やるのか? うちも混ぜろ!!」

「ふむ、では受け訳として我も手伝うのである」

 ミッタクとジェーダイが加わり、向こうでは日向を載せたままダミアンが怒り始める。

『ワタシハ椅子デハナイノデスゾー!』

 うーん、この騒々しさ。
 戻ってきたな、キョーダリアスに。
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