ピコーン!と技を閃く無双の旅!〜クラス転移したけど、システム的に俺だけハブられてます〜

あけちともあき

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第四部:送還編

136・俺、南に進路を取る

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 凍れる城は、混沌の裁定者が門を消してしまったことで、すべての機能を失った。
 ただの城になってしまい、冷気に侵食されてどんどん凍りついていく。

 俺達も氷に閉じ込められないうちに、おさらばすることにした。
 うちの両親が普段着なので、これはいかんということでダミアンGの中から防寒具を取り出した。

『コンナ事モアロウカト防寒具ヲ入レテオイタノデスゾー』

 なんでどっちも赤いモーフルの防寒具なんだ。
 三つも買い込んだのか。
 ということで、赤いモーフルが三人誕生した。

 ダミアンと並んで歩く光景を見ると、実にシュールである。

「あのー! あたしも普段着なんだけど!?」

「明良川は炎を出せるからいいじゃないか。魔人化して周囲を温めながら進んでくれ」

「かーっ、これだから異世界に来るのいやなのよー! 日本にいたら自宅でゴロゴロしてられるのにー! それにあたしの一千万ー!!」

 ぶつくさいいながら、明良川が魔人化した。
 体のあちこちが炎になった女の姿だと思ったが、よくよく見ると、炎の巨大な羽があるんだな。
 これ、炎でできた蛾だ。

 周囲がかなり暖かくなる。
 日向とルリアはこれで大丈夫だろう。

 しかしこうして明良川を見ていると、デュエリスト達は七勇者のなりかけ、あるいは成り損ないという俺のイメージは正しかったのだと思う。
 デュエリストと比べて、変身した明良川の存在感は桁違いだ。

 どうやら五花の手勢で最強の一人だったようだからな。
 ひょっとすると、あのカオストーナメントも明良川一人で総なめにできた可能性が高い。
 デュエリストは技も呪法も使えない。
 炎の呪法のエキスパートである明良川にはなすすべも無いだろう。

 ……と俺が内心でこいつを再評価しているのだが、当人は全然気付いてない。

「あー、もう、歩くのだるい! タクシーないの? ないわよねえ。せめてさ、自転車くらい……ないだろうなあ」

「ないなー。ほれ、隣をフタマタが行くからもふりながら歩け」

「あーん、あたしの苦悩を理解してくれるのはあんただけよー」

 明良川は、フタマタをもふもふしてつつ前進だ。
 このオルトロスに火の粉がかからないように気遣う辺りは、動物が好きなのかも知れん。

 ということで、明良川を盾にしながら俺達は進軍した。
 そしてバイキングの里が見えてくる。

 ここで何日か休憩した後、いよいよ五花を追って旅立つかという話になるのだ。




 本日は、ミッタクパパおすすめの海獣の睾丸なるものを出されたのだ。
 めっちゃ精力が付くらしい。

「ミッタクをもらってくださるそうで……。ありがたい……!! ところで、何人か子どもを作って、一人でもこの里に連れてきてもらえないかね」

「おう、分かった」

 俺は安請け合いした。
 毒を喰らわば皿までである。
 ミッタクに複数人産んでもらわなければならないということなだ。かなりハードな任務だ。

 何しろ、当の本人は、里の男達とガハガハ笑いながら飯を食って酒を飲んでいる。
 女子としての自覚は極めて薄い。
 その辺りの教育はうちの女子達にお任せしよう。

「やだ、これなんだか食べると、顔が熱くなってくる……」

 俺の横では、ラムハが顔を真赤にしている。
 食べたのか……!

「鼻血出そう」

「そこまで即効性の精力剤!?」

「これを乾燥したものをお分けしよう。ミッタクを抱く時に口にできるように……」

 ミッタクパパ、甲斐甲斐しく色々用意してくれるのだ。
 本当なら、今夜は俺とミッタクを同じ部屋にしてと目論んでいたようだが。

「ローテーションがあってですね」

 うちの母がミッタクパパと話を始めた。

「あっ、オクノ団長のご母堂? わしの娘をよろしくお願いします」

「こちらこそ、お嬢さんをお預かりします。うちの奥野なら、お嬢さんをきっと立派なお母さんにしてくれることでしょう」

「ありがたい……ありがたい……」

 そこ! 勝手に安請け合いしてるんじゃない!



 その夜のこと。
 ローテーションというやつが今日から始まるらしく、俺とラムハが同じ部屋に泊まることに……!

「ラムハちゃん頑張ってね! 奥野、ラムハちゃん大事にしなさいよ!」

「うるさいよ母! 早く寝ちまえ!」

 母を追い出した後、ベッドで緊張した様子で腰掛けるラムハを見る。
 うーむ、緊張でガチガチだ……!

 俺も一度経験したとは言うものの、ゼロ回が一回になった程度である。

「ではラムハさん……よろしくお願いします!」

「こ、こ、こちらこそ!」

 というわけで、ついにというか何というか。
 その夜はラムハと励む事になったのだった。




 目覚めると、快晴だった。

「うう……体が動かない……」

 ラムハが呻いている。
 昨夜は大変でしたからね……!

「私は動けるようになってから行くから、先に朝ごはん食べてて……。シーマとこれからの相談とか、あるでしょ」

「おう。お大事にな……」

「ううー。なんでルリアは平気そうな顔してるのよ、これ……」

 前衛職と後衛職の体力的な差ではないだろうか。

 途中で会ったアミラに、相談する。

「実は昨夜めちゃめちゃハッスルしてしまって、ラムハの腰が抜けて」

「あー。なるほどねえ。夫婦の体力差の問題があったわね」

 経験者のお姉さん、うんうんと頷く。

「そこは癒やしの水と毒消しの水のあわせ技で直ると思うわ。あと、今夜はお姉さんだけど、お手柔らかにね……なんて言わないから、全力でどーんとぶつかってきてね!!」

「なんと心強い!」

 ラムハはアミラに任せた……!!
 そして今夜は経験者の胸を借りるつもりで行こう。

 食堂に到着すると、ふくれっ面のルリアがおり、そのほっぺたをつついているカリナがいた。

「ぶー。昨夜はお楽しみでしたねー」

「順番だろ順番。俺の体は一つしかないのだ……」

「だってー。あのままあっちにいたら、あたしの独り占めだったのにー」

「ルリア、独り占めはいけません。そんな事をしたらわたしが冥府のそこまで追い詰めます」

 膨らんだルリアの頬に、カリナの指先がずぶぶっとめり込んだ。

「いた、あいたた、カリナ、ちょっと痛いんですけれど」

「冥府のそこまで追い詰めます」

「分かりました独り占めしません」

 カリナの目がマジだ。

 さあ、朝飯にしようと、俺は厨房に盛られた肉の塊とスープをどっさり持ってきた。
 昨夜消費したエネルギーを補充しないとな。

 芋を主食に、もりもり肉を食っていたら、難しい顔をしたシーマがやって来た。
 明らかに下着姿だったので、食堂の男達がギョッとする。
 本来のシーマはちんちくりんのお子様だが、今のあいつは西府アオイの体を使っているのだ。

「シーマ、その姿は男どもの目の毒では?」

「なんじゃと? 今はそれどころではないぞ!」

 シーマは憤然としながら言い、俺の隣に腰掛けた。

「ぶー!」

 お向かいのルリアが抗議の声を上げる。
 シーマは聞いちゃいない。俺の盛った芋や肉を勝手に食べつつ、

「良いか。王国にあった神官、キー・ジョージの反応がなくなった。あやつは我ら三神官の中枢を担当する頭脳個体。戦闘力では劣っても、そう簡単にやられる者ではないはずじゃ。じゃが、反応が無いということはキー・ジョージが殺されたのじゃろう」

「なんだと? いきなりだな」

「そうじゃ。いきなりじゃ。つまり、五花は既に万全の態勢になり、何か悪さを働けるようになったと見るべきじゃろう」

「そうか。カオストーナメントの優勝者二人が、五花のところに送り込まれてるはずだもんな。そいつらと合流して、戦力が充実したってわけか」

「うむ。事は一刻を争うぞオクノ。唯一の救いは、わしらが恐るべき速さでこちらに戻ってこれたことじゃ。すぐさま出発するぞ」

「よし、仲間達を集める。あと、ラムハも多分回復したと思うけど、無理っぽかったらおぶって行く」

「……お前、あやつに何をしたんじゃ」

「昨夜大変にハッスルしまして……。まあいい。じゃあ、目的地はキョーダリアス大陸のユート王国。即、出港準備だ!」

 気を取り直し、俺は号令を発する。

 地球から戻ってきてすぐに、のんびりする間も無く新たな戦いが待っているのである。
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