召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき

文字の大きさ
17 / 196
ワンザブロー帝国編

第17話 ドライな人とは当然な

しおりを挟む
 広場から離れると、追手はやってこなくなったぞ。
 あいつらは、アイナの周りに異分子がいる時に動くらしい。

 俺とルミイがファンらしくない動きをしただけで察知された。
 勘が尖すぎる。

「どうしたもんだろうな」

「どうしましょうか」

 追手を撒いた後、民家の影でコソコソ相談していたら、広場の方で大きな爆発音がした。
 なんだなんだ。

「誰かアイナの命を狙ったんでしょうかね?」

「そうかも知れない。ほら、周りの奴らがみんな広場に集まっていくぞ。……もしかして、どこかで大騒ぎを起こせばアイナの守りを手薄にできたりするか?」

 俺は考えるのだ。
 チュートリアル機能の何が不便かと言うと、こういう選択肢が無数にある状況だと、何を目的にチュートリアルするのかこちらが明確に定める必要がある。
 そしてヘルプ機能はあくまでヘルプなので、漠然とした疑問に回答を与えてくれることはない。

 どれも、俺が明確な意志で決断しないと機能しない。
 なので、今回は俺がきちんと、やるべきことを調べねばならないのだ。

「それにしても、マナビさん凄いモチベーションです。なんでですか? ずーっとやる気なさそうだったのに」

「そうだなあ。アイナってあれ、どう考えても世界を侵食する毒みたいなやつなんだよ。そういうのを描いたエンタメとかに縁がないとピンと来ないだろうけど」

「はあ」

 ルミイは要領を得ない感じだ。
 ということで、俺たちはその辺のベンチに腰掛ける。

 時間はあるので、ちゃんと話をしておこう。

「アイナの能力は無限チャームみたいなのだろ? それは分かってるよね」

「はい。そこはわかりますね。男女関係なく魅了するのは、ドライアドのチャームでは考えられないほどの異常な威力です!」

 植物の精霊ドライアド。
 森の乙女とも言われる存在らしいと、ヘルプ機能で知る。
 それがチャームを司る精霊なのだが、あくまで個人対象の能力らしい。

 なるほど、アイナのチャームは異常だ。

「あのチャームは、世界の魔力を吸い上げて常時展開されてるんだ。つまりアイナがいるだけで世界中の魔力が減ってく」

「ふんふん。でも、魔力は無限なのでは?」

「無限じゃないから、魔法文明の連中は空に浮かぶ魔力の星、エーテリアを作ったんだろう。で、あれから照射される魔力をさらに受け取って栄華を極めたと」

「あ、そうなんですね! ……マナビさん、異世界人なのにどうしてわたしよりも詳しいんですか」

「そりゃあ、ヘルプ機能というカンニングができるからな……。あと、ルミイは辺境で暮らしてたんだろ? 伝聞以外でこの辺りの事情とか知らなそうじゃないか」

「確かにそうでした! わたしの故郷はいいですよー。涼しいトコで、冬は凍えるような寒さですけど、サウナとか釣りとか狩りとか、夏は水浴びが……」

「いいなあいいなあ」

 ルミイと行く、アウトドア!
 魅力的ではないか。
 あわよくば、彼女のもこもこローブを脱いでもらい、またその下の姿を拝みたいものである。

 俺の行動モチベーションは、下心もかなりの割合を占めている……!
 具体的には八割くらい。

「話を戻すけど、アイナが魔力を吸い尽くしたら世界はおかしくなるんじゃないか? それにワンザブロー帝国がアイナの手に落ちたら、今度はルミイのところをチャームしに来るかもしれないだろ。それじゃあ、アウトドアレジャーどころじゃなくなる」

「アウトドアとかいうのがなんだか知らないですけど、確かに困ります! それでマナビさんは頑張ろうとしてるんですね! ……えっ、わたしのために!?」

「そう、ルミイのために……!」

「あのマナビさんが!! じーん」

 あのってなんだ、あのって。
 だが感動してくれているようだから、まあいい。

「とりあえず闇雲にチュートリアルしてみようか。チュートリアルモード! アイナを倒すぞ」

 こうして、チュートリアルが展開された。
 何度も試して実感したんだが、チュートリアル中は時間が経過しない。
 チュートリアルしている俺とルミイもまた、疲労度や空腹度はチュートリアルごとにリセットされる。

 つまり、これは完全にチュートリアル専用の時空なのだ。
 現実には一切関わりがない。
 まあ、精神的にはちょっと疲れるが。

 そしてチュートリアルを何度もやってみた感想だが……。

「あー、こりゃ現状だと無理だね!」

「わたしが一発でチャームされたり、マナビさんがチャームされたりしましたね! 直接触れちゃうと、わたしもマナビさんもダメなんですねえ」

「うむ。今までで最強の敵だな」

 チュートリアルを振り返って、感想を交わす俺たちなのだ。

「ところでマナビさん、チュートリアルを繰り返して気になったことがあるんですけど」

「なんだい」

「アイナがですね。毎回ちょっとずつ違うこと言うじゃないですか。『私だけを愛して!』とか『この世界ならみんな私を見てくれる!』とか『今度は絶対逃さない!』とか」

「おうおう。怖いよねー。なんかサイコって感じがする」

「マナビさんがスーパーにドライなだけだと思うんですけど、あの人、本当は愛情が欲しかったりするのかも知れません」

「そうなの……?」

「ほらー! マナビさんキョトンとするー! ドライすぎるんですよー!」

 ルミイにポコポコ叩かれた。
 はっはっは、こういうのはイチャイチャしているようでとてもいいなあ。

「でもまあ、愛が欲しかろうと、ああいう相手を支配する能力を無制限にばらまくようになっちゃったんだから、無理だろ。俺たちもどうやってやっつけるかに集中した方がいい。あれはもう助からないでしょ」

「ドラーイ!」

 疲労度も空腹度もそれほどではないが、チュートリアルしまくって気持ち的にお腹いっぱいになった俺たち。
 宿泊施設に戻り、休憩しようということになったのだった。

 すると……。
 宿泊施設にやって来ようとする、コソコソとした一団と鉢合わせた。

 それは、ワンザブロー帝国からアイナシティへの使節団だったのである。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!

月芝
ファンタジー
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。 不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。 いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、 実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。 父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。 ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。 森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!! って、剣の母って何? 世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。 役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。 うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、 孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。 なんてこったい! チヨコの明日はどっちだ!

能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました

御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。 でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ! これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。

長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ
ファンタジー
とある片田舎で貧困の末に殺された3きょうだい。 その3人が目覚めた先は日本語が通じてしまうのに魔物はいるわ魔法はあるわのファンタジー世界……そこで出会った首が取れるおねーさん事、アンドロイドのエキドナ・アルカーノと共に大陸で一番大きい鍛冶国家ウェイランドへ向かう。 魔物が生息する世界で生き抜こうと弥生は真司と文香を護るためギルドへと就職、エキドナもまた家族を探すという目的のために弥生と生活を共にしていた。 首尾よく仕事と家、仲間を得た弥生は別世界での生活に慣れていく、そんな中ウェイランド王城での見学イベントで不思議な男性に狙われてしまう。 訳も分からぬまま再び死ぬかと思われた時、新たな来訪者『神楽洞爺』に命を救われた。 そしてひょんなことからこの世界に実の両親が生存していることを知り、弥生は妹と弟を守りつつ、生活向上に全力で遊んでみたり、合流するために路銀稼ぎや体力づくり、なし崩し的に侵略者の撃退に奮闘する。 座敷童や女郎蜘蛛、古代の優しき竜。 全ての家族と仲間が集まる時、物語の始まりである弥生が選んだ道がこの世界の始まりでもあった。 ほのぼののんびり、時たまハードな弥生の家族探しの物語

ざまぁされた馬鹿勇者様に転生してしまいましたが、国外追放後、ある事情を抱える女性たちの救世主となっていました。

越路遼介
ファンタジー
65歳で消防士を定年退職した高野健司、彼は『ざまぁ』系のネット小説を好み、特に『不細工で太っている補助魔法士の華麗な成り上がり』と云う作品を愛読していた。主人公アランの痛快な逆転劇、哀れ『ざまぁ』された元勇者のグレンは絶望のあまり…。そして、85歳で天寿を全うした健司は…死後知らない世界へと。やがて自身が、あのグレンとなっていることに気付いた。国外追放を受けている彼は名を変えて、違う大陸を目指して旅立ち、最初に寄った国の冒険者ギルドにて女性職員から「貴方に、ある事情を抱えている女性たちの救世主になってもらいたいのです」という依頼を受けるのであった。そして、そのある事情こそ、消防士である高野健司が唯一現場で泣いた事案そのものだったのである。

勇者パーティーを追い出された大魔法導士、辺境の地でスローライフを満喫します ~特Aランクの最強魔法使い~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
クロード・ディスタンスは最強の魔法使い。しかしある日勇者パーティーを追放されてしまう。 勇者パーティーの一員として魔王退治をしてくると大口叩いて故郷を出てきた手前帰ることも出来ない俺は自分のことを誰も知らない辺境の地でひっそりと生きていくことを決めたのだった。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー

すもも太郎
ファンタジー
 この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)  主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)  しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。  命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥ ※1話1500文字くらいで書いております

ヒロインに躱されて落ちていく途中で悪役令嬢に転生したのを思い出しました。時遅く断罪・追放されて、冒険者になろうとしたら護衛騎士に馬鹿にされ

古里@3巻電子書籍化『王子に婚約破棄され
恋愛
第二回ドリコムメディア大賞一次選考通過作品。 ドジな公爵令嬢キャサリンは憎き聖女を王宮の大階段から突き落とそうとして、躱されて、死のダイブをしてしまった。そして、その瞬間、前世の記憶を取り戻したのだ。 そして、黒服の神様にこの異世界小説の世界の中に悪役令嬢として転移させられたことを思い出したのだ。でも、こんな時に思いしてもどうするのよ! しかし、キャサリンは何とか、チートスキルを見つけ出して命だけはなんとか助かるのだ。しかし、それから断罪が始まってはかない抵抗をするも隣国に追放させられてしまう。 「でも、良いわ。私はこのチートスキルで隣国で冒険者として生きて行くのよ」そのキャサリンを白い目で見る護衛騎士との冒険者生活が今始まる。 冒険者がどんなものか全く知らない公爵令嬢とそれに仕方なしに付き合わされる最強騎士の恋愛物語になるはずです。でも、その騎士も訳アリで…。ハッピーエンドはお約束。毎日更新目指して頑張ります。 皆様のお陰でHOTランキング第4位になりました。有難うございます。 小説家になろう、カクヨムでも連載中です。

処理中です...