召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき

文字の大きさ
31 / 196
ワンザブロー帝国編

第31話 三人称視点・なのだなー

しおりを挟む
 さて、ワンザブロー帝国がいかんことになっているのは間違いの無いところである。
 それに彼らが気付かないか?
 気付いてないはずは無いのだ。

 大多数が現実逃避をして、異世界召喚者を使った戦争ごっこにかまけているだけで、一部の良識ある魔法使いは気付いていた。

「アイナが倒されたというのに……。魔力の減少が止まらない……。やっぱり、アイナは原因じゃなかったか」

 メガネを掛けた細身の男が、顔をしかめた。
 彼の目の前にあるのは、魔法装置。

 魔法にはセンスマジックという、魔力の存在や量を測定するものがあるのだが、この魔法装置はセンスマジックを世界規模に拡大するものなのだ。
 地域ごとの精度は曖昧になるが、大雑把な魔力量が把握できる。
 それが毎年顕著に減少している。

「つまりどういうことなのだ」

 男の脇で、軽装の少女が首を傾げた。
 紫色の髪をくるくるカールにしていて、仕草に合わせてそれがふわふわ揺れる。

「魔法使いではない君には分かりづらいだろうね。僕ら魔法使いは、とっくの昔に自分が持っている魔力では魔法を使えなくなっているんだ」

「そうなのだ? カオルンには分からないのだ」

「君は魔神とのミックスだ。人間以上の生来の魔力を持つだろう? だが、僕ら魔法使いは、有限の力であることを無視して、魔法文明を発達させ過ぎた。空にエーテリアを浮かべ、異界から魔力を無限に引き出すことに成功した。これによって、僕らの魔力もまた理論上は無限になった」

「そうだったのだー。それであの程度だったのだ?」

 メガネの男性は苦笑した。

「君に言われたら、その程度だったんだよと言う他ないな。でも、昔はもっと凄かったんだよ。だけど、エーテリアは所詮、神ならぬ人が作り上げたものだった。それでも神がかり的な作りだったんだけどね。当時の魔法王があれを作り上げた。それ以来、誰もあれに触れられなかった。理解できなかったんだ。魔法王は突然現れ、圧倒的な魔法の才能を見せ、人々を救うためにエーテリアを作った……」

「それは知ってるのだ! 繋がった異界から魔神が来たのだ! カオルンはその魔神の心臓とホムンクルスを合体させた存在なのだ!」

「よくできました。とんでもない生まれなのに、君は常識的だよ。うちの帝国の馬鹿どもに、爪の垢を煎じて飲ませたいくらいだ。いいかい。エーテリアは限界を迎えている。あるいは、向こうにある異界が滅びた。どんどん魔力が来なくなる。そしてエーテリアが落ちる」

「ひょえーっ、そうなのだー!?」

「そうなんだよ。だけどね、この間の異世界召喚で、帝国はこれまでで最大量の魔力を消費して異世界召喚者を呼んだ。挙げ句、その彼を滅びの塔に放り込んでしまった」

「ひょわーっ、バカなのだー!」

「そうなんだよ、バカなんだよ。魔力と闘気がゼロだったって報告にはあったけれどさ。そもそも、そんな能力が無い者が国を傾けるほど魔力を食うわけがないんだ」

「そうなのだなー。それで、お前はどうするのだ、皇帝?」

「そうだねえ……。困った困った。僕はお飾りの皇帝だから、こうして研究だけしていられるけど。いや、だからこそ世界の真実に向き合える。まあ、あれだよ。滅びの塔は彼によって破壊された。伝説の魔法王が作った、まさに伝説の建造物がだよ? あれを娯楽装置に魔改造したのは、ろくでもない僕の祖先だけど」

「うむうむ、見事に壊されたのだなー。あれはカオルンも外側から壊すのはちょっと骨が折れるのだ」

「君であれば、もしかすると破壊できるかもしれないけどね。でも、魔力と闘気を持たない男が、内側からたった一日で滅びの塔を破壊した。これは事実だよ。そして帝国が手を付けられなかった怪物、アイナをも倒した。スローゲインの能力を利用してはいたけどね」

「ツーブロッカー帝国の強い召喚者なのだなー。カオルンも何度か戦ったのだ! 強かったのだ。近づけば一発だけど、近づけないのだ」

「彼の使う魔法の刃は厄介だからねえ。それでね、そのスローゲインなんだけど」

「うむうむ」

「今、例の彼に引っ張られて、帝都の目と鼻の先までやって来ているんだよ」

「な、なんとなのだー!!」

「これは……今日でワンザブロー帝国はおしまいかなあ……」

 十七代皇帝、ストライアスは遠い目をして呟くのだった。



 帝都は大騒ぎだった。
 まず、突然、門の向こうに魔導カーがやって来た。
 独立愚連隊の乗り物である。

 何か報告でもあるのかと、帝国の魔法兵が外に出てくると……。
 彼はたちまちのうちに、空飛ぶ刃で串刺しにされた。

 現れるのは、ツーブロッカー帝国が誇る異世界召喚者スローゲイン。
 エアバイクに乗り、凄まじい形相でやって来たのだ。

 スローゲインの視界に映るのは、愚連隊のトゲ付き魔導カー。
 そのサイドカーの上に立ち上がり、不思議な踊りを踊る男だ。

「イエーイ! スローゲインくん見てるー?」

「うおおおお!! 追い詰めたぞふざけた男! 俺に向かってそんなふざけた事ができるのはお前だけだ! 死ね! 今すぐ死ね! 死なない!? どうして死なない!! 俺のソード・ヴァルキュリアがなぜ当たらん!!」

「安全地帯ですからー」

「ありえねええええ!! ふざけるなてめえ! ふざけるなあああああ!!」

 絶叫するスローゲインを連れて、魔導カーは帝都に突入する。
 本来ならば、敵対的な意志を持つものを阻む機構、絶対魔法障壁が帝都には存在する。

 これが故に、強力な異世界召喚者であろうと帝都を落とすことは容易では無かったのである。
 だが……。

「ここも音ゲーで突破できるんだな」

 腰から二本のワンドを抜いた男が、絶対魔法障壁をカンカン叩いた。
 すると、まるで嘘のように魔法障壁が一瞬だけ消滅したのである。

 守りに回っていた魔法兵は数多存在するが、彼らが揃って目を剥いた。

「行くぞルミイ! ヤッフー!」

「うわー! やけくそですよー!!」

 ふわふわしたハーフエルフの娘が運転する魔導カーが、堂々と帝都に侵入する。
 そして、スローゲインのまたがるバイクまでも侵入してしまった。

 こうして、ワンザブロー帝国最後の日が始まるわけである。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!

月芝
ファンタジー
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。 不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。 いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、 実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。 父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。 ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。 森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!! って、剣の母って何? 世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。 役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。 うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、 孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。 なんてこったい! チヨコの明日はどっちだ!

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ
ファンタジー
とある片田舎で貧困の末に殺された3きょうだい。 その3人が目覚めた先は日本語が通じてしまうのに魔物はいるわ魔法はあるわのファンタジー世界……そこで出会った首が取れるおねーさん事、アンドロイドのエキドナ・アルカーノと共に大陸で一番大きい鍛冶国家ウェイランドへ向かう。 魔物が生息する世界で生き抜こうと弥生は真司と文香を護るためギルドへと就職、エキドナもまた家族を探すという目的のために弥生と生活を共にしていた。 首尾よく仕事と家、仲間を得た弥生は別世界での生活に慣れていく、そんな中ウェイランド王城での見学イベントで不思議な男性に狙われてしまう。 訳も分からぬまま再び死ぬかと思われた時、新たな来訪者『神楽洞爺』に命を救われた。 そしてひょんなことからこの世界に実の両親が生存していることを知り、弥生は妹と弟を守りつつ、生活向上に全力で遊んでみたり、合流するために路銀稼ぎや体力づくり、なし崩し的に侵略者の撃退に奮闘する。 座敷童や女郎蜘蛛、古代の優しき竜。 全ての家族と仲間が集まる時、物語の始まりである弥生が選んだ道がこの世界の始まりでもあった。 ほのぼののんびり、時たまハードな弥生の家族探しの物語

【完結】婚約破棄された令嬢が冒険者になったら超レア職業:聖女でした!勧誘されまくって困っています

如月ぐるぐる
ファンタジー
公爵令嬢フランチェスカは、誕生日に婚約破棄された。 「王太子様、理由をお聞かせくださいませ」 理由はフランチェスカの先見(さきみ)の力だった。 どうやら王太子は先見の力を『魔の物』と契約したからだと思っている。 何とか信用を取り戻そうとするも、なんと王太子はフランチェスカの処刑を決定する。 両親にその報を受け、その日のうちに国を脱出する事になってしまった。 しかし当てもなく国を出たため、何をするかも決まっていない。 「丁度いいですわね、冒険者になる事としましょう」

ざまぁされた馬鹿勇者様に転生してしまいましたが、国外追放後、ある事情を抱える女性たちの救世主となっていました。

越路遼介
ファンタジー
65歳で消防士を定年退職した高野健司、彼は『ざまぁ』系のネット小説を好み、特に『不細工で太っている補助魔法士の華麗な成り上がり』と云う作品を愛読していた。主人公アランの痛快な逆転劇、哀れ『ざまぁ』された元勇者のグレンは絶望のあまり…。そして、85歳で天寿を全うした健司は…死後知らない世界へと。やがて自身が、あのグレンとなっていることに気付いた。国外追放を受けている彼は名を変えて、違う大陸を目指して旅立ち、最初に寄った国の冒険者ギルドにて女性職員から「貴方に、ある事情を抱えている女性たちの救世主になってもらいたいのです」という依頼を受けるのであった。そして、そのある事情こそ、消防士である高野健司が唯一現場で泣いた事案そのものだったのである。

継母の嫌がらせで冷酷な辺境伯の元に嫁がされましたが、噂と違って優しい彼から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアーティアは、継母に冷酷無慈悲と噂されるフレイグ・メーカム辺境伯の元に嫁ぐように言い渡された。 継母は、アーティアが苦しい生活を送ると思い、そんな辺境伯の元に嫁がせることに決めたようだ。 しかし、そんな彼女の意図とは裏腹にアーティアは楽しい毎日を送っていた。辺境伯のフレイグは、噂のような人物ではなかったのである。 彼は、多少無口で不愛想な所はあるが優しい人物だった。そんな彼とアーティアは不思議と気が合い、やがてお互いに惹かれるようになっていく。 2022/03/04 改題しました。(旧題:不器用な辺境伯の不器用な愛し方 ~継母の嫌がらせで冷酷無慈悲な辺境伯の元に嫁がされましたが、溺愛されています~)

勇者パーティーを追い出された大魔法導士、辺境の地でスローライフを満喫します ~特Aランクの最強魔法使い~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
クロード・ディスタンスは最強の魔法使い。しかしある日勇者パーティーを追放されてしまう。 勇者パーティーの一員として魔王退治をしてくると大口叩いて故郷を出てきた手前帰ることも出来ない俺は自分のことを誰も知らない辺境の地でひっそりと生きていくことを決めたのだった。

【完結】腹ペコ貴族のスキルは「種」でした

シマセイ
ファンタジー
スキルが全てを決める世界。 下級貴族の少年アレンが授かったのは、植物の種しか生み出せない、役立たずの『種』スキルだった。 『種クズ』と周りから嘲笑されても、超がつくほど呑気で食いしん坊なアレンはどこ吹く風。 今日もスキルで出した木の実をおやつに、マイペースな学院生活を送る。 これは、誰もがクズスキルと笑うその力に、世界の常識を覆すほどの秘密が隠されているとは露ほども知らない、一人の少年が繰り広げる面白おかしい学院ファンタジー!

処理中です...