召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき

文字の大きさ
38 / 196
スリッピー帝国編

第38話 三人称視点・一般人or最精鋭兵士

しおりを挟む
 スリッピー帝国は、魔導軍事国家である。
 魔導兵器設計の異能を持つ異世界召喚者を迎えた彼らは、ワンザブロー帝国を滅ぼすべく力を貯めていた。

 そして今。
 強大な軍事国家と思われていたワンザブロー帝国が、お粗末な魔力しか無い破綻国家であることが明らかになった。

 スリッピー帝国は即座に、侵略を決定したのである。

 放ったのは、グリフォン部隊。
 帝国が誇る部隊、魔導アーミーの筆頭である、空陸をカバーする最強の部隊だ。

 例えヘカトンケイルが出てきても、撃破して見せるという自負が彼らにはあった。
 意気揚々と帝都を出発し、ワンザブロー帝国との国境線に到着。

 ここから先は敵地。
 目につく全ては破壊していいし、都市からは略奪し放題だし、人民は蹂躙し放題だ。

 グリフォン部隊の士気はまさに最高潮だった。

 そこに、一台の魔導カーが走ってきたのである。
 側面と前方に、ワンザブロー帝国の紋章!

 グリフォン部隊を率いる魔導将軍、デオーチスはニヤリと笑った。

「ちょうどいい! あの魔導カーを最初の獲物とし、魔力の星を不当に占有せしめる悪徳国家ワンザブロー帝国粉砕始まりの一手としてくれよう!! 全軍、攻撃開始!!」

 魔導カーに乗っているのが、明らかに非武装な連中で、それぞれバラバラの服装をしている。
 一人は魔力皆無の一般人で、一人はふわふわローブのハーフエルフ娘、そして唯一強い魔力を感じられるのが尻尾の生えた少女である。
 この不自然な組み合わせについて、デオーチス将軍は無視することにした。

 粉砕してしまえば変わらないからである。

 その考えの無さが、デオーチス将軍とグリフォン部隊の命運を決めることとなった。

「将軍! 当たりません! 攻撃が当たりません! 突っ込んできます!! 魔導カーが正面から突っ込んできて……あーっ! 戦車が! 我が軍のファイアボール級戦車の側面に穴を! あっ、ファイアボール級戦車が友軍を無差別に攻撃し始めました! 乗っ取りです! 乗っ取られました!!」

「な、な、な、なんだとぉーっ!?」

 デオーチス将軍は目を剥いた。
 敵帝国の魔導カーを攻撃すると決定してから、ほんの数分のことである。

 敵は最短ルートを最速でたどった。
 まさに神速。あっという間に戦車を奪われ、グリフォン部隊に馬鹿にならない被害が出ていた。

「ええい、ヘリを出せ! スプリットファイアボール級ヘリで、戦車ごと焼き尽くしてやれ!」

「し、しかし友軍がまだ周りに! あの戦車、友軍にまとわりついて他からの攻撃を許しません!!」

「歴戦の兵士が乗りこんだのだろう! だが少数では限界があるということを教えてやる! 構わんぞ、焼き尽くさせろ!!」

 確認した限り、敵には一般人とハーフエルフと少女しかいなかった、という事実はデオーチス将軍の頭から都合よく抜け落ちている。

「了解!!」

 命令を受けた魔導ヘリは、上空から爆撃を開始する。
 複数の範囲魔法を圧縮して放つ、凄まじい破壊魔法である。

 その名はヘリに冠されている。
 スプリットファイアボール。

 爆裂火球と呼ばれる魔法を、魔導ヘリサイズに拡大したものなのだ。

 放たれた爆撃魔法は、乗っ取られた戦車と、その周辺の友軍を焼き払った。
 なお、爆撃の直前、ギリギリ被害を一切受けないタイミングで敵の二名は外に飛び出している。

「逃げました!」

「ウグワーッ!? な、な、なんだとぉーっ!?」

 乗っ取られた戦車を、友軍ごと焼き払った攻撃。
 乗っ取って暴れた連中は無事に脱出。被害はグリフォン部隊のみ。
 完全な自爆である。

 脱出した敵一般人が、魔導カーに乗ってから笑顔で手を振ってきた。
 ここでデオーチスは頭に血が上った。

「ええい!! グリフォン部隊の全軍を用いて、あの魔導カーを撃滅せよ! 魔導ヘリ動け! 大地を爆撃魔法で焼き尽くせ!」

「了解! 全魔導ヘリ、ワンザブロー帝国魔導カーを撃破せよ! どんな犠牲を払っても構わない! これはデオーチス将軍命令である!」

 魔導ヘリが動き出した。
 スリッピー帝国最強兵器とも言える魔導ヘリは、たかが魔導カー一台を破壊するために、全機がその場に集結したのである。

『こちら、魔導ヘリ一号機。これより爆撃を開始する! 爆撃を開……しぃーっ!?』

 魔導ヘリからの報告が、何かが粉砕される音と打撃音で途切れた。
 そして、魔導ヘリの一機が明らかに異常な動きをし始める。

 くるくる回ったかと思うと、周囲の魔導ヘリに射撃魔法をぶっ放したのだ。
 そして、戦車部隊や歩兵部隊が密集しているところに爆撃魔法を的確にぶっ放す。

「「「「「「「「「「ウグワーッ!!」」」」」」」」」

 大地は地獄と化した!
 炎が、煙が上がり、グリフォン部隊のうちの四割が損耗。

「ウグワーッ!? な、な、なんだとぉーっ!?」

 デオーチス将軍は腰が抜けるほど驚き、実際に腰が抜けた。

「何が……何が起こっているのだ! ま、まさかこれは」

「魔導ヘリを乗っ取られました! 恐らくさっきと同じやつです!」

「なんだとぉーっ!? ま、まさかワンザブロー帝国の最精鋭だとでも言うのか! 恐ろしい……恐ろしい奴らだ! まさかこれほど強力な人材を抱えていたとは……!! だが! 空の上では逃げ場があるまい!! 落とせ! ヘリを落とせ!!」

「了解! 全魔導ヘリ! 一号機を撃墜せよ! 一号機は乗っ取られた! 一号機を撃墜せよ!」

 指揮車両からの命令は迅速に実行された。
 ふわふわっと移動する一号機ヘリを、残る魔導ヘリが包囲する。
 そして放たれる、射撃魔法。

 一号機ヘリは一瞬で炎に包まれ、落下を始めた。

 そこから、ぴょいっと飛び降りる影がある。
 地上から上がってきた、光る翼の影がそれをキャッチした。

「あ、あれは……。逃げられ……?」

「な、な、なんだとぉーっ!? 許すな! 追撃! 追撃だ!!」

 逃走した敵軍兵士と思わしき一般人。
 明らかに非武装で、軍事的訓練を経験したとは思えないが、しかしワンザブロー帝国最精鋭兵士とでも思わなければ、納得しがたいほどの凄まじい戦果を挙げた男。
 グリフォン部隊に大打撃を与えた、その男を逃がすわけにはいかない!

 怒りに燃え、デオーチスと指揮車両全乗組員が、彼に注目した。
 故に、上空から錐揉み回転しつつ落下してくる、炎上した魔導ヘリに気づくのが遅れた。

「あ」

 誰かが気付いたときには、指揮車両の目の前にそれがあった。

 大質量同士が衝突し、魔導ヘリに残されていた爆撃魔法が起爆する。

 大爆発だ。

「ウグワーッ!?」

 デオーチス将軍は爆発に呑まれ、戦場に散った。






「いけたいけた。いやあ、三人でも一部隊を壊滅させられるもんだな。やってみるもんだ」

「マナビさん、カオルンが増えてから明らかにむちゃくちゃやるようになってますよね? まあ、元からむちゃくちゃでしたけど」

「うひゃー。魔力のない男がたった一人でやっていい活躍じゃないのだ。マナビはおかしいのだー! 変なのが世界にはいるのだ! 世界は広いのだー!」

「おかしいのはマナビさんだけですからね!」

 わいわいと賑やかな魔導カーは、機能不全に陥ったグリフォン部隊の横を、ゆうゆうと駆け抜けていくのだった。
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました

御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。 でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ! これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!

月芝
ファンタジー
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。 不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。 いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、 実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。 父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。 ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。 森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!! って、剣の母って何? 世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。 役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。 うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、 孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。 なんてこったい! チヨコの明日はどっちだ!

ざまぁされた馬鹿勇者様に転生してしまいましたが、国外追放後、ある事情を抱える女性たちの救世主となっていました。

越路遼介
ファンタジー
65歳で消防士を定年退職した高野健司、彼は『ざまぁ』系のネット小説を好み、特に『不細工で太っている補助魔法士の華麗な成り上がり』と云う作品を愛読していた。主人公アランの痛快な逆転劇、哀れ『ざまぁ』された元勇者のグレンは絶望のあまり…。そして、85歳で天寿を全うした健司は…死後知らない世界へと。やがて自身が、あのグレンとなっていることに気付いた。国外追放を受けている彼は名を変えて、違う大陸を目指して旅立ち、最初に寄った国の冒険者ギルドにて女性職員から「貴方に、ある事情を抱えている女性たちの救世主になってもらいたいのです」という依頼を受けるのであった。そして、そのある事情こそ、消防士である高野健司が唯一現場で泣いた事案そのものだったのである。

長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ
ファンタジー
とある片田舎で貧困の末に殺された3きょうだい。 その3人が目覚めた先は日本語が通じてしまうのに魔物はいるわ魔法はあるわのファンタジー世界……そこで出会った首が取れるおねーさん事、アンドロイドのエキドナ・アルカーノと共に大陸で一番大きい鍛冶国家ウェイランドへ向かう。 魔物が生息する世界で生き抜こうと弥生は真司と文香を護るためギルドへと就職、エキドナもまた家族を探すという目的のために弥生と生活を共にしていた。 首尾よく仕事と家、仲間を得た弥生は別世界での生活に慣れていく、そんな中ウェイランド王城での見学イベントで不思議な男性に狙われてしまう。 訳も分からぬまま再び死ぬかと思われた時、新たな来訪者『神楽洞爺』に命を救われた。 そしてひょんなことからこの世界に実の両親が生存していることを知り、弥生は妹と弟を守りつつ、生活向上に全力で遊んでみたり、合流するために路銀稼ぎや体力づくり、なし崩し的に侵略者の撃退に奮闘する。 座敷童や女郎蜘蛛、古代の優しき竜。 全ての家族と仲間が集まる時、物語の始まりである弥生が選んだ道がこの世界の始まりでもあった。 ほのぼののんびり、時たまハードな弥生の家族探しの物語

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

勇者パーティーを追い出された大魔法導士、辺境の地でスローライフを満喫します ~特Aランクの最強魔法使い~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
クロード・ディスタンスは最強の魔法使い。しかしある日勇者パーティーを追放されてしまう。 勇者パーティーの一員として魔王退治をしてくると大口叩いて故郷を出てきた手前帰ることも出来ない俺は自分のことを誰も知らない辺境の地でひっそりと生きていくことを決めたのだった。

幼馴染パーティーから追放された冒険者~所持していたユニークスキルは限界突破でした~レベル1から始まる成り上がりストーリー

すもも太郎
ファンタジー
 この世界は個人ごとにレベルの上限が決まっていて、それが本人の資質として死ぬまで変えられません。(伝説の勇者でレベル65)  主人公テイジンは能力を封印されて生まれた。それはレベルキャップ1という特大のハンデだったが、それ故に幼馴染パーティーとの冒険によって莫大な経験値を積み上げる事が出来ていた。(ギャップボーナス最大化状態)  しかし、レベルは1から一切上がらないまま、免許の更新期限が過ぎてギルドを首になり絶望する。  命を投げ出す決意で訪れた死と再生の洞窟でテイジンの封印が解け、ユニークスキル”限界突破”を手にする。その後、自分の力を知らず知らずに発揮していき、周囲を驚かせながらも一人旅をつづけようとするが‥‥ ※1話1500文字くらいで書いております

処理中です...