46 / 196
スリッピー帝国編
第46話 魔法大学潜入は変装から
しおりを挟む
変装するとなると、どうする?
朝食を摂りながら考えた。
ルミイは水色の髪も、ハーフエルフの耳も、ふわっふわローブも、ぼんきゅっぼん!という体型もとても目立つ。
カオルンは紫色のくるくるヘアと尻尾が目立つが、体の凹凸が少ないのでかなり変装はしやすそうだ。
俺は着替えるだけであの学生たちに埋没できる自信がある。
「問題はルミイだな」
「なのだなー」
「なんですなんです? わたしですか?」
分厚いパンにハムエッグを乗せて、むしゃむしゃっと食べきってしまったルミイ。
口元をふきふき、話に加わってきた。
「この国いいですねえ。ずっといたいですよう。ご飯が美味しいですし、お風呂もありますし」
「ルミイ、それは今、金があるから出来ているだけだ。この金は明日尽きるから旅立たねばならない……」
「がーん」
口でそう言ってるけど、本当にショックそうなルミイ。
「実家に帰ったらそっちで風呂を作ってみような……」
「そうです! そうしましょう!!」
力強く答えるルミイを、カオルンが目を細めながらじーっと見つめている。
「なんですか? あっ、分かりました! ギュッとして欲しいんですね! ぎゅーっ」
「違うのだ!? うわーっ、ふかふかに拘束されたのだーっ! マナビ、これはまずいのだ。ルミイは服の下にみっちりふかふかふわふわしたものが詰まっているのだ! これは変装がとっても限られるのだー」
「羨ましいなあ……じゃない、やっぱりか。昨日見た友愛団女子たちは、ルミイが変装するのが無理そうな外見だった。あんなキツキツの服では無理だろう」
ではどうするか?
ルミイの全身を隠すことができて、怪しまれないもの……。
「ヘルプ機能。ルミイが変装可能なもので、この条件を満たすものがあるか?」
『スリーズ友愛団のマスコットキャラクター、着ぐるみのスリッピーくんです』
映像まで出てきた!
スリッピーくんは、機械化されたネズミの姿をしていた。
カワイイか……?
『公式設定では、軍に改造されて機械化され、戦場で地獄を経験して戻ってきてから反戦派に転向したとなっています』
「戦場帰りの兵士じゃん。このリアル設定でマスコットは無理でしょ」
『PTSDを発症しており、時折手にした魔導銃を構えて暴れます』
「もっとだめでしょ」
考えたやつは誰だ。
責任者出てこい。
その後、宿を後にした俺たち。
スリッピーくんを探すことにした。
帝国の名前をつけて、軍に反対するマスコットにするとは……。
よくよく考えると、姿も名前も設定も、全部がこの国へのアンチテーゼなのだな。
活動に参加してる連中は、半分は真剣なのがいるんだろう。
だが、それはそうとしてタクルは殺す。
そのためには多少の犠牲はやむを得まい。
「いたのだ! ビラを配ってるのだ!」
「いいぞカオルン! ここからチュートリアルだ」
俺たちは、チュートリアル空間に移動する。
人前にいるスリッピーくんを、いかに怪しまれず物陰に引きずり込み、中身を高速で交換するか。
それを練習せねばならない。
ルミイには壁際をそーっと移動してもらう。
彼女はハチャメチャに目立つからだ。
アポカリプスワールド全開なワンザブロー帝国では気付かなかったが、普通に人が生活しているスリーズにおいて、ルミイの姿はめちゃくちゃに目立つ。
ひと目見たら忘れられないくらいだ。
なるべく目につかないようにせねば……。
ふむ、物陰から物陰に移動してもらうと、周囲の人々の視線がこっちを向かないな。
そしてカオルンが高速で飛び出して、対面にあるゴミ箱を蹴り上げる。
素晴らしいバランス感覚で蹴るので、凄まじい音を立てて飛び上がったゴミ箱は、吹き出したゴミを全部回収しながらちょっと離れた場所に着地するのだ。
通行人もスリッピーくんも、これに注目。
完璧だ。
俺はこの隙を狙って、スリッピーくんにカニバサミを仕掛けて転ばせ、頭を外して中にいる人を高速で引きずり出した。
そしてルミイを呼び寄せて中に入れる。
「あーん、くさいですー」
「我慢してくれー! 精霊の力で消臭するとか涼しくするとかしといて」
後は、中に入ってた人をふんじばってゴミ箱に突っ込んで終了。
よし。
「チュートリアル終わり!」
カオルンが増えてから、チュートリアルで取れる戦術の幅が広がった。
実にありがたい。
今回も、チュートリアル通りに物事が運んだ。
俺たちはあっという間に、冴えない男子学生と、小柄でコケティッシュな女子学生と、スリッピーくんの三人に変身したのである。
「カオルンがちょっと背丈とか体型変えられるのはびっくりしたな」
「こう見えても魔神の端くれなのだ。ホムンクルスのボディで能力は制限されてるけど、これくらいは朝飯前なのだー」
得意げなカオルン。
なるほど、これはスパイ活動が得意なはずだ。
ひとりきりなら、どんなところにでも入り込んで諜報員として動けるだろう。
「諜報活動なら任せるのだ! カオルンに続くのだ。こういうのは堂々としてるのがいいのだー」
魔法で髪の色まで変えているから、誰もカオルンだと気づかない。
俺に関しては、そもそも服を着替えただけなのに誰も気付かない。
そしてスリッピーくんに疑問を抱く者はいない。
「あひー、歩きにくいです~」
「がんばれがんばれ」
ルミイを励ましながら、俺たちは魔法大学へと入り込んだのだった。
朝食を摂りながら考えた。
ルミイは水色の髪も、ハーフエルフの耳も、ふわっふわローブも、ぼんきゅっぼん!という体型もとても目立つ。
カオルンは紫色のくるくるヘアと尻尾が目立つが、体の凹凸が少ないのでかなり変装はしやすそうだ。
俺は着替えるだけであの学生たちに埋没できる自信がある。
「問題はルミイだな」
「なのだなー」
「なんですなんです? わたしですか?」
分厚いパンにハムエッグを乗せて、むしゃむしゃっと食べきってしまったルミイ。
口元をふきふき、話に加わってきた。
「この国いいですねえ。ずっといたいですよう。ご飯が美味しいですし、お風呂もありますし」
「ルミイ、それは今、金があるから出来ているだけだ。この金は明日尽きるから旅立たねばならない……」
「がーん」
口でそう言ってるけど、本当にショックそうなルミイ。
「実家に帰ったらそっちで風呂を作ってみような……」
「そうです! そうしましょう!!」
力強く答えるルミイを、カオルンが目を細めながらじーっと見つめている。
「なんですか? あっ、分かりました! ギュッとして欲しいんですね! ぎゅーっ」
「違うのだ!? うわーっ、ふかふかに拘束されたのだーっ! マナビ、これはまずいのだ。ルミイは服の下にみっちりふかふかふわふわしたものが詰まっているのだ! これは変装がとっても限られるのだー」
「羨ましいなあ……じゃない、やっぱりか。昨日見た友愛団女子たちは、ルミイが変装するのが無理そうな外見だった。あんなキツキツの服では無理だろう」
ではどうするか?
ルミイの全身を隠すことができて、怪しまれないもの……。
「ヘルプ機能。ルミイが変装可能なもので、この条件を満たすものがあるか?」
『スリーズ友愛団のマスコットキャラクター、着ぐるみのスリッピーくんです』
映像まで出てきた!
スリッピーくんは、機械化されたネズミの姿をしていた。
カワイイか……?
『公式設定では、軍に改造されて機械化され、戦場で地獄を経験して戻ってきてから反戦派に転向したとなっています』
「戦場帰りの兵士じゃん。このリアル設定でマスコットは無理でしょ」
『PTSDを発症しており、時折手にした魔導銃を構えて暴れます』
「もっとだめでしょ」
考えたやつは誰だ。
責任者出てこい。
その後、宿を後にした俺たち。
スリッピーくんを探すことにした。
帝国の名前をつけて、軍に反対するマスコットにするとは……。
よくよく考えると、姿も名前も設定も、全部がこの国へのアンチテーゼなのだな。
活動に参加してる連中は、半分は真剣なのがいるんだろう。
だが、それはそうとしてタクルは殺す。
そのためには多少の犠牲はやむを得まい。
「いたのだ! ビラを配ってるのだ!」
「いいぞカオルン! ここからチュートリアルだ」
俺たちは、チュートリアル空間に移動する。
人前にいるスリッピーくんを、いかに怪しまれず物陰に引きずり込み、中身を高速で交換するか。
それを練習せねばならない。
ルミイには壁際をそーっと移動してもらう。
彼女はハチャメチャに目立つからだ。
アポカリプスワールド全開なワンザブロー帝国では気付かなかったが、普通に人が生活しているスリーズにおいて、ルミイの姿はめちゃくちゃに目立つ。
ひと目見たら忘れられないくらいだ。
なるべく目につかないようにせねば……。
ふむ、物陰から物陰に移動してもらうと、周囲の人々の視線がこっちを向かないな。
そしてカオルンが高速で飛び出して、対面にあるゴミ箱を蹴り上げる。
素晴らしいバランス感覚で蹴るので、凄まじい音を立てて飛び上がったゴミ箱は、吹き出したゴミを全部回収しながらちょっと離れた場所に着地するのだ。
通行人もスリッピーくんも、これに注目。
完璧だ。
俺はこの隙を狙って、スリッピーくんにカニバサミを仕掛けて転ばせ、頭を外して中にいる人を高速で引きずり出した。
そしてルミイを呼び寄せて中に入れる。
「あーん、くさいですー」
「我慢してくれー! 精霊の力で消臭するとか涼しくするとかしといて」
後は、中に入ってた人をふんじばってゴミ箱に突っ込んで終了。
よし。
「チュートリアル終わり!」
カオルンが増えてから、チュートリアルで取れる戦術の幅が広がった。
実にありがたい。
今回も、チュートリアル通りに物事が運んだ。
俺たちはあっという間に、冴えない男子学生と、小柄でコケティッシュな女子学生と、スリッピーくんの三人に変身したのである。
「カオルンがちょっと背丈とか体型変えられるのはびっくりしたな」
「こう見えても魔神の端くれなのだ。ホムンクルスのボディで能力は制限されてるけど、これくらいは朝飯前なのだー」
得意げなカオルン。
なるほど、これはスパイ活動が得意なはずだ。
ひとりきりなら、どんなところにでも入り込んで諜報員として動けるだろう。
「諜報活動なら任せるのだ! カオルンに続くのだ。こういうのは堂々としてるのがいいのだー」
魔法で髪の色まで変えているから、誰もカオルンだと気づかない。
俺に関しては、そもそも服を着替えただけなのに誰も気付かない。
そしてスリッピーくんに疑問を抱く者はいない。
「あひー、歩きにくいです~」
「がんばれがんばれ」
ルミイを励ましながら、俺たちは魔法大学へと入り込んだのだった。
11
あなたにおすすめの小説
無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから――
※ 他サイトでも投稿中
剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!
月芝
ファンタジー
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。
不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。
いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、
実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。
父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。
ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。
森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!!
って、剣の母って何?
世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。
それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。
役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。
うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、
孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。
なんてこったい!
チヨコの明日はどっちだ!
【完結】腹ペコ貴族のスキルは「種」でした
シマセイ
ファンタジー
スキルが全てを決める世界。
下級貴族の少年アレンが授かったのは、植物の種しか生み出せない、役立たずの『種』スキルだった。
『種クズ』と周りから嘲笑されても、超がつくほど呑気で食いしん坊なアレンはどこ吹く風。
今日もスキルで出した木の実をおやつに、マイペースな学院生活を送る。
これは、誰もがクズスキルと笑うその力に、世界の常識を覆すほどの秘密が隠されているとは露ほども知らない、一人の少年が繰り広げる面白おかしい学院ファンタジー!
ざまぁされた馬鹿勇者様に転生してしまいましたが、国外追放後、ある事情を抱える女性たちの救世主となっていました。
越路遼介
ファンタジー
65歳で消防士を定年退職した高野健司、彼は『ざまぁ』系のネット小説を好み、特に『不細工で太っている補助魔法士の華麗な成り上がり』と云う作品を愛読していた。主人公アランの痛快な逆転劇、哀れ『ざまぁ』された元勇者のグレンは絶望のあまり…。そして、85歳で天寿を全うした健司は…死後知らない世界へと。やがて自身が、あのグレンとなっていることに気付いた。国外追放を受けている彼は名を変えて、違う大陸を目指して旅立ち、最初に寄った国の冒険者ギルドにて女性職員から「貴方に、ある事情を抱えている女性たちの救世主になってもらいたいのです」という依頼を受けるのであった。そして、そのある事情こそ、消防士である高野健司が唯一現場で泣いた事案そのものだったのである。
長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~
灰色サレナ
ファンタジー
とある片田舎で貧困の末に殺された3きょうだい。
その3人が目覚めた先は日本語が通じてしまうのに魔物はいるわ魔法はあるわのファンタジー世界……そこで出会った首が取れるおねーさん事、アンドロイドのエキドナ・アルカーノと共に大陸で一番大きい鍛冶国家ウェイランドへ向かう。
魔物が生息する世界で生き抜こうと弥生は真司と文香を護るためギルドへと就職、エキドナもまた家族を探すという目的のために弥生と生活を共にしていた。
首尾よく仕事と家、仲間を得た弥生は別世界での生活に慣れていく、そんな中ウェイランド王城での見学イベントで不思議な男性に狙われてしまう。
訳も分からぬまま再び死ぬかと思われた時、新たな来訪者『神楽洞爺』に命を救われた。
そしてひょんなことからこの世界に実の両親が生存していることを知り、弥生は妹と弟を守りつつ、生活向上に全力で遊んでみたり、合流するために路銀稼ぎや体力づくり、なし崩し的に侵略者の撃退に奮闘する。
座敷童や女郎蜘蛛、古代の優しき竜。
全ての家族と仲間が集まる時、物語の始まりである弥生が選んだ道がこの世界の始まりでもあった。
ほのぼののんびり、時たまハードな弥生の家族探しの物語
能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました
御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。
でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ!
これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
継母の嫌がらせで冷酷な辺境伯の元に嫁がされましたが、噂と違って優しい彼から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアーティアは、継母に冷酷無慈悲と噂されるフレイグ・メーカム辺境伯の元に嫁ぐように言い渡された。
継母は、アーティアが苦しい生活を送ると思い、そんな辺境伯の元に嫁がせることに決めたようだ。
しかし、そんな彼女の意図とは裏腹にアーティアは楽しい毎日を送っていた。辺境伯のフレイグは、噂のような人物ではなかったのである。
彼は、多少無口で不愛想な所はあるが優しい人物だった。そんな彼とアーティアは不思議と気が合い、やがてお互いに惹かれるようになっていく。
2022/03/04 改題しました。(旧題:不器用な辺境伯の不器用な愛し方 ~継母の嫌がらせで冷酷無慈悲な辺境伯の元に嫁がされましたが、溺愛されています~)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる