召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき

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スリッピー帝国編

第48話 世界の謎解きは食堂から

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 教授はドンデーンという人である。
 魔法使いの教授というと、ローブに長い白髪とヒゲを想像しそうなものだ。
 だが、彼は髪もヒゲもよく手入れされており、どちらかというと世界一有名なフライドチキン屋のあのオジサンにそっくりだ。

 なお、魔法使いだというのにガチムチな体型で、身につけたスーツがパツパツだ。
 上質なパンツをサスペンダーで吊るしている。

「魔導工学は体力と筋力だよ君」

「さいですか」

 俺を偽学生だと分かっていながら、なんか色々語ってくる。

「最近の学生は、友愛団が広めた妙な活動にばかり精を出していてね。あれでは手遅れになるぞ、私の講義や自慢話を聞くんだと言っても耳を貸さない」

「他人の自慢話はつまらんもんですからね」

「言うなあ君は。だが、君は聞いてくれるじゃないか」

「そりゃあもう、役立ちそうなことは聞いておいて損が無いですからね。俺もタクルと同じ異世界召喚者だし」

「君も!? なるほど……。道理で魔力が無いというのに堂々と都市を歩けるわけだ。異世界召喚者は誰も、魔法使いが真似することのできない能力を持っているからね」

 ドンデーン氏は実に話が分かる。

「カオルンは秘密なのだ。ワンザブロー帝国の機密なのだー」

「ハハハ、そうなのかい。若い人はそういう特別感みたいなものに憧れるところはあるからね」

「嘘じゃないのだ! 特別なのだー!!」

 完璧に女子学生に化けているカオルンだから、言葉が全く信用されないな。
 こうして、学生食堂という名前の普通の食堂ではない、本当に学内にある学生食堂に到着。

 席について飯を食うのだ。
 定食やすーい。

「やっとご飯ですよー!!」

 ルミイが歓声をあげて、スリッピーちゃんの頭をカポッと外した。

「あっ!!」

 ドンデーン教授が驚きの声をあげる。

「エ、エルフ!! スリッピーちゃんがあちこち練り歩いていると思っていたが、なるほど、中身はエルフだったのか……」

「いや、そうではなくて俺の仲間なんだ。そらルミイ、たんと食え……」

 ルミイが選んだのは、山盛りのEX定食である。
 ハンバーグとスパゲッティとミックスフライとガーリックライスみたいなのがワンプレートに乗っている。
 2000kcalくらいあるでしょこれ。

「異世界召喚者マナビくん。君はこの国が召喚した人間ではないな?」

「そうですそうです。俺はワンザブロー帝国に召喚されて、ひどい目に遭わされたんであの国をぶっ壊して来たんだ」

「なん……だと……」

 驚愕するドンデーン氏。

「スリッピー帝国にも敵対するのかね?」

「最初、軍隊を一つやっつけたけど。あいつら感じ悪かったんでこりゃあまた国を落とさないといけないかーと」

「済まなかった! ワンザブロー帝国となると、我が国の軍人は頭に血が上ってしまうんだ! スリッピー帝国を滅ぼさないでくれ! この国が、魔法文明時代の終焉の後、人が生きるための礎となる国なんだ!」

「そうなのか」

「そうなんだよ。そのための魔法工学だ。これを用いて、魔力を失った、あるいは持たない人間でも魔力を集められる仕組みを作る。そして便利な機械を用いることで、人間の力とすることができるんだ」

 おお、世界から魔力が失われることを理解してらっしゃる。
 帝国全体がその対策を行っており、魔導アーミーみたいなのはまさにそれだったんだな。

「んじゃあ、タクルがシクスゼクス帝国からこの状況を妨害するために来てるのはなんでですかね」

「シクスゼクス!? かの国は、かつて魔法文明の統一皇帝が世界から追放したという魔族と繋がっている事を疑われているんだ」

「魔族?」

「高度な知能と魔法能力を持つモンスターどもだよ。この世界を旅して、ほとんどモンスターがいないとは思わなかったかい?」

「いなかったかも知れない……」

「あれは、魔法文明の外へモンスターが追放されていたからだ。こうして、我々人間は自分たちの世界を作り上げることができた。だが愚かな人間は、魔力の有無で人の地位を決めつけた」

 この人、魔力があってもなくてもいらん区別をしないんだな。
 魔力がないと俺を侮ったヤツは全員地獄のような目に遭ったからなあ。

「魔族って魔神とは違う?」

「違うのだ!」

 カオルンから否定が飛んできた。

「魔神は異世界の住人なのだなー。魔族はもともとこの世界の存在なのだー」

「次々に新情報が出てきて俺の頭がパンクしそうだぞ。飯を食って脳に糖分を補給しよう」

 学生食堂のカレーライスを食う。
 うわあ、見た目がカレーなのに甘じょっぱいぞ!!

 まあ、これはこれで全然いける。
 煮込まれたじゃがいもみたいなのに、サクサクした野菜とか、煮込まれた人参なのに口の中でドロリと溶けて形を失う野菜とかを食べた。

 脳が糖分を得て、俺の思考が冴えてきた。

「あっ、つまりシクスゼクスが魔族と手を結んでいたら、タクルを使って魔法工学を邪魔することで……魔力が失われた瞬間に人間を攻撃できるわけか」

「そうだ! まさしくそうだ!」

 ドンデーン教授が大興奮した。
 鼻息が荒い。

「なんということだ。これは、ただの講義の妨害などではなかった! 軍のサボタージュという問題ですら無かったのだ! とんでもない陰謀が裏でうごめいていた……」

「まあ、そこはほら、裏取りがないんで。ヘルプ機能、シクスゼクス帝国・魔族で検索」

『シクスゼクス帝国皇帝は母に魔族を持つ、半魔の存在です』

 うおードンピシャ。

「裏取りとれたよ」

「なんだって!?」

「それも俺の能力でな……」

 カレーライスもどきを食いながら、キーワードさえ手に入れれば世界の裏に迫る情報だって手に入る。
 NTR野郎を追いかけて侵入した大学内で、世界を揺るがす陰謀の存在を知ってしまった。

 だがそれは全て、NTR野郎をぶち殺せば解決するのである。

「ん? 騒がしくなってきたのだ。なんか人が増えてきたのだー」

「おう。ルミイが着ぐるみ脱いだからな。スリーズシティにいるハーフエルフの美少女なんかルミイくらいのもんだろ。絶対釣られてあいつが来る」

 俺はカレーライスを食べ終わり、水をグッと飲んだ。

 食堂の入り口にたくさんの人影がある。
 友愛団の男子学生たちだ。

 誰もが目を血走らせ、俺を睨んでいるのだ。
 これから一騒動あるな。
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