召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき

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スリッピー帝国編

第50話 三人称視点・イージー→ナイトメア

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 東雲タクルは、ガチ恋営業をしていた時、本気になった客に腹を刺され、死ぬところだった。
 ギリギリのところで召喚され、タクルは九死に一生を得たと安堵したものである。

「はあはあ、俺の能力は、女を惚れさせる力ってわけね。こいつがあれば、元の世界でも楽勝だったじゃん。あっという間に売上一位になれたわ」

 世の中はままならぬものである。
 東雲タクルはそれをよく知っていた。

 彼を召喚した帝国は、シクスゼクス。
 謁見した皇帝は、ヤギのような捻くれた角が生えており、青紫色の肌で3mほどの身長があった。

「マジかよ」

「お前の力は間諜に向いている。各国に侵入し、来たる滅びの日を彼奴らが回避しようとする手立てを邪魔するのだ」

「かしこまり」

 人間の半分は女である。
 タクルは、その全てに勝つことができる。

「限定チャーム能力か。こいつは百人斬りどころじゃないな。ま、百人斬りならあっちでもできたけどさ。じゃあ、ミリオン斬りってことで」

 どんな場所にでも、女性さえいればタクルは侵入できる。
 女性さえいれば、手駒を増やし続けられる。
 女性さえいれば、どんな強い相手だろうが倒すことができる。

 彼は正しく、女の敵であり、男の敵でもあった。

 無敵のスパイは、悠然とセブンセンス帝国に侵入した。
 この、魔法文明時代に神を崇める風変わりな国は、厳格な戒律に支配されていた。

 神と繋がった神学者によって戒律が定められ、神官たちが国の運営を行う。
 人々は戒律に従い、清廉に生きることを義務付けられていた。

 そこにタクルが現れ、操られた女たちの手によって戒律は破られた。
 セブンセンス帝国の風紀は乱れに乱れた。

 魔法文明の終わりを予期し、対策を立てている国々はいくつもある。
 その中でセブンセンス帝国は、清らかな人間に神を下ろし、その力で人を導く計画を立てていた。

 純粋無垢な人間を作り出すという実験が行われ、神の降臨は実現可能なところまで来ていたのだ。
 だが、それはタクルの妨害によって瓦解した。

 生み出された純粋無垢な人間は女だった。
 これをタクルが落とした。

 全ては終わりだ。
 セブンセンス帝国の計画は白紙に戻された。
 そして国内の風俗は、神を奉じる帝国にふさわしくない、淫蕩にまみれたものとなってしまった。

 ミッションコンプリートである。

「素晴らしい仕事だ。お前の働きを邪魔する者などおるまい。無知なままお前の接触を許せば、そこでお前の勝利は確定する」

 シクスゼクス皇帝、バフォメス三世はそう言って笑った。

「次なる仕事を授ける。神の降臨は阻止した。では次は、人が人の力で救済を行うことを妨げる必要がある」

「はあはあ、そいつは一体なんなんですか」

「機械だ」

「機械ぃ!? こんなファンタジー世界に機械があるって言うんですか」

「お前と同じ、異世界召喚者がもたらしたものだ。そもそも、我らの祖先たる魔族を追放したのは、異世界召喚された初代魔法王だ」

「そいつはびっくり」

 過去の話に、タクルは興味など無い。
 己の能力は、女さえいれば絶対に勝てるものなのだ。

 負けるはずがない。
 だから、皇帝が口にした単語を意識することもなかった。

 無知なままタクルと触れたなら、その時点で勝負が決する。
 知られていたなら、どうなる?
 そんなあり得ない話に備えるのは、時間の無駄だ。

 それでもタクルは怠慢ではなかった。
 接触のみという能力は使い勝手が悪い。
 これを飛び道具化すべく工夫を行った。

 結果、投げキッスによって飛ばせることが判明する。

「しょーもな。だけどくっそつええじゃん」

 飛び道具化した限定チャームに敵は無い。
 相手が全身を何かで覆っていない限り、接触や投げキッスで女性を無力化できる。

「次はスリッピー帝国? 楽勝でしょ」

 帝国の中でも重要な、魔力電池を生産しているスリーズシティ。
 まずはここを落とすことにした。

 都市に向かう軍隊に女性を発見し、即座に虜にした。
 そしてやすやすと侵入。

 そこで、平和運動をしている学生たちを発見した。

「なんだ、楽勝じゃん。こいつらを隠れ蓑にして幾らでも勢力を広げられるわ」

 タクルはすぐさま、平和運動に参加している女子学生全員を虜にした。
 そして女子を使って男子学生を手下にした。

 さらに、虜にした女性軍人を使ってスリーズシティ内の軍部の半分を掌握した。
 ここまで、ほんの一週間ほど。

 あと数日もあれば、スリーズシティは機能不全に陥る。
 住民たちは気付かない。
 この都市が本来持っている能力が、今まさに毀損されそうになっているということに。

 スリッピー帝国に生きる全ての民が、やがてやってくる絶望に抗うための術が、失われようとしていることに。

「楽勝、楽勝じゃん」

 タクルは笑った。
 今回の仕事も簡単だった。
 世界はまさに、ヌルゲー。

 イージーモード過ぎた。
 
「異世界、チョロすぎるだろ。現実よりいいじゃん。だけどまあ、ちょっとつまんなくなるよね。多少は歯ごたえがある相手が出てくればさあ……」

 タクルは世界を舐めきっていた。
 そんな彼の前に、運命が現れる。

 それは……ハーフエルフの超絶美少女の姿をして現れた。
 タクルは、一目惚れした。

 まずは、近くにいるもう一人の女……これもかなり可愛い。異世界で出会った中では最高レベルの一人だ……を虜にして……。

 そこで、タクルの手を握り返した者がいた。
 スパゲッティのケチャップがたっぷり付いた手でだ。

 そいつは、田舎では奥さんがたくさんいると言っていた男だった。
 羨ましい、と思った。
 異世界に来て初めてだ。

 だから、この男の妻を二人とも奪おうと思った。

 だが、まるでこの男はタクルの行動が分かっていたかのように……。
 手を握り返し、ケチャップまみれにした。

「ウグワーッ!! ケ、ケチャップ!!」

「グフフフフ……。田舎には厳しい決まりがあってな……。見知らぬ異性と接触してはならんのだ。ここは代わりに俺が熱烈な握手をしてあげようじゃないか、タクルくん……」

「ウグワーッ!! ねっちょりとした握手を!! そして何故俺の名を……!?」

「俺の名はマナビ。よく覚えておくがいい。今後もせいぜい仲良くしたいものだな」

「こ……こいつ……!!」

 タクルは、男を睨みつけた、
 この世界に来て初めて、タクルは余裕を失った。

 腹の底から、怒りが湧き上がるのを感じた。

 こいつは……こいつは、俺の敵だ!
 そう確信する。

 だが、少しだけ違った。

 コトマエ・マナビ。
 タクルの前に現れた彼こそが……タクルが望んだ歯ごたえのある敵。

 東雲タクルにとっての、ナイトメアモードだった。
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