召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき

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シクスゼクス帝国編

第82話 無限回廊とヌルゲースタート

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 邪神オクタゴンを封印した三人の異世界召喚者。
 その一人である、無限の距離を操る人物はイースマスの中にいるらしい。

 いい度胸過ぎる。
 俺は彼を見に行ってその場でやっつけることにした。

「お気をつけを! ヤツに察知されたら、即座に無限の牢獄に閉じ込められてどこにも行けなくなって死にますぞ!」

「忠告ありがとうディゴ老人。まあ任せてくれ。相手の守りが盤石ということは、即ちあいつは油断してる可能性が高い」

 今回の敵も、どうやらとんでもないっぽい。
 概念を操ってくるような相手には、カオルンの直接武力では相性が悪いのだ。

 シクスゼクスめ、とんでもないのを何人も抱えてるな。
 だが、これは大地を毒の沼地に変えながら召喚したらしい。
 代償は払っているのだ。

 そして、わざわざ召喚した連中を、オクタゴンを抑え込むために使っている。
 もったいない使い方である。

「俺だったら、オクタゴンと交渉してあいつにそこの支配を許して、自分は全戦力で近場を征服するな」

「あんなとんでもないのが懐の中にいるのに、平気なのはマナビさんくらいですよう」

「そう?」

 ルミイに突っ込まれて首を傾げるのだ。
 さて、遠巻きに眺めたら、いたいた。

 なんかパンクな格好をした男が、ピザを食ってる。
 アンチョビピザだ。

 髪の毛を立てて、紫と黒のメッシュにしており、イヤリングとか指輪とか腕輪とかネックレスがジャラジャラだ。
 額に黒いバンダナを巻いており、全体的に細い感じ。

 俺は女子三名を従えて正面から入店した。

「ちょ、ちょっとマナビさん! 正面から行くんですか!? オクタゴンにもヤバいって言われてた相手じゃないんですか!」

「正面からまじまじ見たほうが色々分かるだろ?」

「むむむ! カオルン、あいつを見てると背筋が寒くなるのだ! この街に来てから、カオルンは自信が折られるような事ばかりでお腹が痛いのだ……!」

「異世界召喚者は物理法則を無視してきますからね。相手が悪いです。気づかれないように席につきましょう、マスター……あっ、どこに行くんですかマスター。えっ、隣の席!?」

 ボックス席が2つ並んでいるうちの、一つをヤツが占拠している。
 その真隣に俺たちは陣取った。

 当然、ヤツが気付く。

「人間のツラだな。何者だ? 俺チャンの仕事を邪魔するなって、バフォメスさんには言ってるんだけどな」

「安心しろ。部外者だぞ。ヘルプ機能」

『異世界召喚者“無限回廊”ジュリアス。空間を捻じ曲げ、あらゆる干渉を不可能にする無限距離に隔絶した場所へ相手を放逐します。なお、空間が歪曲されているため、相手の姿を見、声を聞くことができます』

「ははあ。見えて聞こえるなら攻略できるな」

『攻略可能です』

「おい、お前。俺チャンの前で何をぶつぶつ言って……ま、いいか。お前も無限の中にふっ飛ばしてやる。吹っ飛べ」

「チュートリアル」

 相手の能力発動の瞬間、俺はチュートリアルモードに飛んだ。
 これで、実戦形式で攻略を試せるぞ。
 チュートリアルが終わったら、即座に成果を実行できるから安心だ。

 まずは素直に喰らってみる。
 ほうほう、なんか周囲の風景が歪んだ。
 そして歩いてみる。

 おお、一歩も進まない。
 回りには壁も何もない。
 チュートリアルモード特有の、解像度が荒い視界ではあるが、ちゃんと周りも見えている。

「この状況からの攻略は……おっと、表示があるじゃん」

 俺が攻略の言葉を口にした瞬間、視界に表示が生まれた。
 まるで、この状況の弱点を思い出したかのようだ。

『魔力か物理的な波動を特定のパターンで打ち込むことで、この状況を一部無効化できるようになります』

「どれどれ? うわー、こりゃあハードなリズムゲームじゃないか」

 とりあえず、ゲイルハンマーを振り回して踊ってみる。
 汗だくになって一時間踊ったら、無限の牢獄みたいな状況を破壊できた。

 行けた行けた。
 だけどこれでは、元の空間でルミイたちが無防備過ぎる。

 クリアはできるけど却下だな。

「時間のシークバー戻して」

 チュートリアルモードが、まるで動画の画面みたいに時間を戻していく。
 最初の、攻撃を食らう瞬間へ移動した。

「パッと見、不可視の攻撃だよな。こっちは何の異常もない」

 俺は腕組みして考える。

「つまり、攻撃はされてない? されてないのか。そう言えばこいつの攻撃射程ってどれくらいだ?」

『彼が認識できる範囲において無限です』

「認識できなければ攻撃できないってわけか。なんだ、穴だらけの能力じゃないか」

『“無限回廊”ジュリアスの周囲には、常に無限距離の障壁が張り巡らされています』

「一応守りは固めてるのね。で、無限距離なのにどうやってこいつはピザ食ってるの?」

『その瞬間だけ障壁を解きます』

「穴だらけの能力じゃないか」

 俺は拳を固めると、ジュリアスの手が差し出された辺りにあてがった。

「時間経過開始」

 ジュリアスの能力が発動する。
 俺はそれに合わせて、空間を叩く仕草をした。

 手応えあり。
 周囲の風景は歪まず、無限の能力が発動しない。

「ああ、これ、なんとなく予想してたんだが……使った瞬間はごく狭い範囲のみで、そこから無限に広がっていくんだな。時間経過とともにヤバくなるやつか。ぶっ放された瞬間なら、オクタゴンは脱出できただろうな。様子見してたから罠にハマったんだ」

 完全に理解した。
 当座はこれだけでいいだろう。

「よし、チュートリアル終了」

『元の時間に戻ります』

 俺は、さきほどのジュリアスの能力が放たれた瞬間へと帰還した。
 すでに、俺の拳は掲げられている。

「吹っ飛べ」

「お前の能力がな」

 放たれた無限が広がる前に、物理的なノックを打ち込むことで霧散させる。
 なんというのかな。
 空間を音ゲーというか、リズムゲームの感覚で叩くというのか。

 エクセレントな一撃を叩き込めば、この能力は無効化できるのだ。

 一瞬、ジュリアスが固まった。
 俺をバカにしたような表情のまま、ピクリとも動かない。

 その目が、徐々に見開かれる。

「お前……何をやった」

「あんたの能力を攻略するということをやったのだ。“無限回廊”のジュリアス」

「バカな……!! お前、お前もまさか、異世界召喚者……」

「おう、申し遅れたな。俺はワンザブロー帝国に召喚され、ワンザブロー帝国を滅ぼした異世界召喚者、“ヌルゲー”のマナビだ。お前との対戦はもはやヌルゲーだぜ」

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