召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき

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終章・始まりの王編

第193話 調印式で目の敵で帰還

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 シクスゼクスとの会談は、俺とベストールが参加した。
 なんで俺なんだ?

「スススス連合の実質的指導者であり立役者が君なんだから仕方ないだろう。世界はそう理解しているんだ」

 ベストールが不満げである。
 この男、スススス連合とか魔導王討伐を利用して、自分の存在感を世界に知らしめようとしていた可能性がある。
 皇配から首相になって、野心が芽生えたんだろう。

 ということは、俺がシクスゼクスとの和平みたいなのを結び、魔族殲滅の成果をベストールに与えなかったことは重要になるな。
 ふむふむ。

 ……って、まるでこれじゃあ、俺が政治家みたいじゃないか。
 何を細かな世界の情勢について考えているのだ。

「マスターが戦うべき場所が変わったという事でしょう。魔力の星は落ち、魔法使いは力を失い、魔導王が死んだことで魔法の権威は地に堕ちました。この世の中で信じられるのは力のみ、という時代です」

 俺の補佐役であるアカネル、含蓄が深いことを言う。
 時代が大きく変化したのだから、戦う場所も変わる。
 納得だ。

「問題はどうして俺なのだという……」

「ベストールさんが言っていた通り、マスターは成果を挙げ過ぎたんです。今や誰もが、コトマエ・マナビと聞けば魔導王討伐の英雄として名を挙げるでしょう。あるいは、スリッピーに現れ、全機能を掌握した怪人。セブンセンスに神を帰還させた救世主、フィフスエレの恐るべきドラゴンを克服した竜殺し、シクスゼクスが手を焼いていた邪神の同盟者、謎の国フォーホースを歴史の表舞台に引き上げてきた発見者、凍土の王国をバーバリアンの国から、世界に注目される国へと変えた新たなる王」

「ほうほう……俺も色々やって来たもんなあ。そりゃあ注目されるか。……ってちょっと待って。最後になんて言った? 新たな……」

『人間ども、余が到着したというのに無駄話とはいい気なものだな』

 あー。
 シクスゼクス皇帝のバフォメスが来てしまった。

 こいつは3mくらいある、ヤギの角が生えた巨人だ。
 人間をそのまま拡大した感じではなく、ヤギの後足になっている脚部が長いんだな。
 で、角もでかい。

 本体だけなら2mくらいの大男みたいな感じだ。
 肌色は青白い。
 目つきは鋭く、凄みがあった。

「バフォメス皇帝、よくお越しくださいました。私はスリッピー帝国首相のベストール」

『ふん』

 ベストールの挨拶を聞いて、バフォメスは鼻を鳴らした。
 小物め、と思っているな。

「で、俺がコトマエ・マナビだ」

『貴様がか……!』

 バフォメスの目に、強烈な怒りが宿る。
 許されるなら、今すぐにでも俺を絞め殺したい、という目である。

 まあ、こいつの陰謀を片っ端から粉砕して回ったのが俺だからな。
 世界中に間諜を放っているバフォメスは、それをよく知っていたのだろう。

『ふん……。我が神から宣託を賜っている。余は貴様の目論見に乗ってやるつもりでやって来た。早く済ませよ』

「話が早いな」

 バリオスがいい仕事をしてくれたらしい。
 それでも、腰が低いようでいて、あいつはれっきとした神だ。
 魔族の皇帝バフォメスであっても、バリオスには逆らえない。

 バリオスもバフォメスも、このままでは魔族は滅ぼされてしまうということをよく理解しているのだから。
 まあ、その状況まで世界を持っていったのも俺なんだが。

「アカネル、調印の紙持ってきて。ああそれそれ。じゃあ読み上げるぞ」

『貴様がか』

「俺はバリオスと、人間側の主神であるアクシスから任されてるんだよ。一応フェアだろ?」

『うむ……』

 バフォメスが苦虫を噛み潰した顔になった。
 ベストールも苦虫を噛み潰した顔になった。

 俺、人間側からも魔族側からも権力者に嫌われてないかね?
 俺も権力者は大嫌いだから問題ないがね。

「えー、人族と魔族の和平を行う。国家間での大規模な争いはこれを禁ずる。これは神の名の下に施行され、期間は二十年。その後、再びこの和平を継続する場合は、調印を執り行うものとする」

『二十年か。短いな』

「おもったより短い」

 バフォメスとベストールの視線がぶつかり合う。
 これは、二十年後に備えて戦力を蓄え、戦ってやろうというものだな。

 いいぞいいぞ。
 どうせ我慢できずに暗闘が始まるだろうし、そうやっていい感じで削りあってくれ。

「マスターの手のひらの上じゃないですか」

「あいつらは分かっててもそこで踊らざるを得ない。俺が人や魔族より上の方と繋がってるし、あいつらはその上で守るものがあるし、得たいものがあるからな」

「マスターはやっぱり政治家向きですよ。双子の方々がマスターを推挙した理由がよく分かります」

「やっぱりか! さっき王とかなんとか言ってたからおかしいと思ってたんだ」

 調印式は、本当に何事もなく終わった。
 暗殺どころか、ちょっとした騒ぎすらない。

 実存する神が、その名のもとに行わせた調印式だぞ。
 一部の過激派が何かをしようとしたら、神罰が下るわな。

 現に、式が終わって後、スリッピー帝国側と魔族側の戦闘員らしき死体が発見されたらしい。

 スリッピー帝国は彼らだけ集中的に天日で干されたようになっており、魔族側はきれいな切断面でバラバラにされていたとか。
 アクシス、バリオス、犯人まるわかりだろ。

 こうして世界の行く末を決める会談はサクッと終わり……。
 俺もまた、帰る時がやって来た。

 この世界の人間ではない俺が帰る場所など、一つしか無い。
 それは……。

「マナビさーん! 行きますよー!」

 バギーの運転席に座ったルミイが手を振っている。
 助手席が空いているので、そこが俺の席だろう。

 バギーは拡張されて、後部座席が二段だ。
 カオルンとアカネルが座り、さらに後ろはナルカ。さらに馬が乗せられるようになっていて、ラバーがそこでのんびりしていた。

「おう、今行くぞ。で、バルガイヤー森王国に行ったら俺が陰謀によって王にさせられるんだろう」

「ギクッ! な、な、な、なんのことでしょうかね~」

「俺は何でも知ってるんだぞールミイめえー!」

「あひー! 運転中に脇腹押さないでくださいー! くすぐったい! あひゃひゃ」

 車がジグザグ走り、カオルンが笑い、アカネルが悲鳴をあげ、ナルカが呆れるのだった。
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