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終章・始まりの王編
最終話 そして、新しい時代へ
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バルクと教授は伝説に残りそうなバトルを繰り広げた後、クロスカウンターで双方ともに大地に沈んだ。
大盛りあがりである。
この戦いは語り草になり、夜になっても男たちは、ああなりたいものだと話し合った。
翌日。
ガガンが来た。
アリスティアも来た。
俺が王になると言うので、ガガンが納得の面持ちだった。
「オレに勝ったんだ! 王にくらいなってもらわないと困る! だが、そのうちまた手合わせしようぜ。オレは神聖魔法を賜って強くなった。昔のオレじゃないぞ」
「おう、いいぞいいぞ」
「マナビが安請け合いしてるのだ!」
「マスター、もう侮られることは無いから、正面から戦うしかありませんからねえ」
「正面から戦ってもマナビをどうにかできる自信はないねえ」
ガガンと奥さんたちとで、やいのやいの騒いだ。
その横で、ルミイとアリスティアが奥様トークをしている。
ナルカとではないんだな。
……ということは……。
「そんなに早くできたの、どうしてなんですか? 何かコツが……」
「ご飯をたくさん食べて、体温を高く保つことですね!」
おお、ルミイがもっともらしいアドバイスをしている。
ガガンであれば、アリスティア一筋だし、体力は有り余っていそうだし、何より愛が深そうだし色々出るものも濃そうなので時間の問題であろう。
なお、ガガンは次に俺と戦う時、どうやれば勝てるかを語るのに夢中で、アリスティアがチラチラ目配せするのに気付いていないのである。
男の子だからなあ!
セブンセンスの使節団を賓客に迎え、宴は盛り上がった。
夜頃に、アビサルワンズとルサルカ教団が挨拶に来た。
ドミニク司祭が棺から現れたので、周囲の人々がギョッとしていた。
「マナビ王、御即位おめでとうございます。王と肩を並べて戦った日々のことは、どうやら伝説に語られる物語になりそうです」
柔和な微笑みとともに、手を差し出す司祭なのだった。
俺は彼と握手を交わしつつ、談笑した。
ナルカについて色々聞かれたが、今の彼女が概ね幸せそうである話をすると、司祭はうんうん頷き、実に嬉しそうな顔をするのである。
「そう言えば、オクタゴンは来ないのか」
「オクタゴン様は我が神とともに、星の外とやらに出かけておいでです。遥か遠方におられるようで、私の夢枕に立って、マナビ王の戴冠式に参列するよう言われました」
「あいつが外に出たのか。珍しいなあ。何かやろうとしてるんだろうか」
この星の外がエーテルに包まれており、その気になれば泳いで移動できる空間であることを俺は知っている。
だからあの二柱の神は、近くの星に遊びにいったのではないかと考えたりするのである。
そして戴冠式最後の辺りで、ユーリンが来た。
『マナビ王、即位おめでとう。君を野放しにしておくことは、人類にとって大変危険だからね。こうして収まるべきところに収まってくれたことはありがたい……』
「俺に対する正しい評価だなあ」
感心してしまった。
『ところでマナビ王。フォーホース帝国は解散することにした』
「ほう! そりゃまたどうして」
いきなりの衝撃的ニュースである。
せっかく平和になったのにな。
『フォーフォースは魔導王に対抗するための存在だった。その魔導王もいなくなった。残ったのは、魔法を使う力を有したままの、古い時代の魔法使いたちだけだ。これを一箇所に集めておけば、いつか良からぬ考えを持つ者が現れる』
「だろうな。場合によっては俺が討伐に行くかもしれない」
『ああ。我々が第二の魔導王になったなら、そうなるだろう。だからこそ、ここで魔法使いたちをバラバラに解き放ち、世界に散らせる。古代から受け継がれた魔法を使える者は、我々だけになってしまったからな。それを各地で、めいめい勝手に広めるなり錆びつかせるなりさせるつもりだ』
「そうかー。いよいよ魔法の時代の終わりだな。魔法使いはそれ単体で国を作る、なんてこともしなくなるわけだ」
そういうことになったのである。
俺が玉座の感触にちょっと慣れてきた頃、フォーホース帝国は各国に別れの手紙みたいなものを送ってきた。
そして、かの最も古い帝国は解散した。
最も古い魔法使い、ユーリンは己の意識を世界へ拡散させ、魔力そのものとなった。
魔法使いたちはユーリンによって束ねられていた共有意志を失い、めいめい勝手に動き出した。
どこかの国の食客になる者もいれば、ならず者を組織する者もいる。
バーバリアンと喧嘩していたり、あるいはバーバリアンそのものになったり。
山奥で隠遁する者もいたり、町中で私塾など開く者もいる。
なんというか、俺が知っているファンタジーの世界に、パルメディアはどんどん近づいていっているようだ。
始まりがおかしかったもんな。
いきなり異世界召喚して、戦う相手がいるわけでもなくて、処刑のためだけの塔に送り込んで死ぬさまを眺めるゲームに参加とか。
終わりかけの世界だった。
そいつが一旦終わって、また始まったという事だろう。
王様としての生活は大変忙しく、日々は瞬く間に過ぎていく。
いや、別に王をやるだけなら忙しいことは無いのだ。
些事はマスキュラーに任せて、俺は大きな決断ごとだけを行う。
後は祭事、儀式の類が仕事だな。
だが、問題は裏の仕事だ。
散り散りになっていた北方のバーバリアンと交流を持ち、スリッピー帝国……もとい、スリッピー共和国と戦えるよう支援する。
戦い方を教え、農耕を教え、奪うスタイルから育み、数を増やしていくスタイルへ……。
魔族と交渉を持つ。
相変わらずバフォメスは不満げだが、俺の助けがなければ魔族の立場が危ういことは理解している。
跳ね返り者は国外へ放逐し、シクスゼクスは国としての体を保っている。
各地で、追放された魔族は暴れる。
そいつらは人族のならず者と結びついて、山賊団みたいになる。
何のことはない。
人も魔族も変わらない。
各地から討伐隊が出て、山賊団とは激しく争っているそうだ。
結構結構。
すぐに山賊団は潰されるだろうが、雨後の筍のようにあちこちにまた出現することだろう。
世界が安定しないための種まきは大変だ。
常に少しずつ、世界を揺り動かして行かねばな。
様々な報告を受けながら、俺は王宮を歩き回る。
王としての生活は運動不足になりやすく、すぐ太るのだ。
常に動いて、カロリーを消費せねば。
「陛下!」
「なんだ」
「ルミイ様が産気付かれまして」
「産まれるか! 大安産だろ」
「その通りで」
俺が向かったら、オギャアと泣き声が聞こえてきた。
はやいはやい。
俺がルミイの産気付いた話聞いたばかりじゃないの。
スポンと産まれたな。
新時代の産声を聞きながら、俺はそれを腕の中に抱くべく、小走りになるのだった。
王が尻で移動するわけにもいかないからな。
(おわり)
◆
後に、動乱の始まりと呼ばれ、今に続く戦国の世界を形作った、歴史のターニングポイント。
人と魔は争い続け、人と人もまた争い続けている。
国が興り、滅び、大帝国が生まれれば、それは打ち倒されて瞬く間に散り散りになる。
パルメディアは一時も留まらぬ世界と言う者がいる。
平和な安寧の時など遥か遠く、常に血と鉄と魔法に満ちている。
パルメディアは歩み続ける世界と言う者がいる。
停滞せず、常に揺り動かされ続け、惰眠をむさぼる者などいない。
「こんなクソな世の中を誰が作ったのか。あ、初代の王か。そりゃあクソだろう」
二百年近く続く、古き王国バルガイヤー。
その玉座で、若き王が呟いた。
この土地の人間としては珍しく、髪色が黒い。
耳の先が尖っているのは、エルフの血が混じっているのだろう。
「あー、ほんの僅かな間でいい。平和にならんものか。いや、平和にするしかないのか。だとしたらどうする」
王はブツブツと玉座で呟く。
家臣たちは口出しすることはない。
王のいつものルーティーンなのだ。
だが、今日の王は違った。
突然、目を見開いたのである。
「ほう、ヘルプ機能よ。二百年ぶりの異世界からの来訪者だと? そいつがこの世界を、ちょっとマシにできる可能性がある? いいじゃないか、いいじゃないか。初代もまた、異世界からの来訪者だったと言う。そういう変な物の手を借りないと、世界はなかなか動かせぬものな」
王は何もない空間に手をかざし、すいすいと動かした。
「あ、いや、正確には記憶を取り戻した、か。まあいい。おい、聞いたかお前たち。我らが神バルガイヤーのお告げだ」
家臣たちは、王に向き直る。
突飛な事をする王だが、彼の指示が誤りだったことはない。
代々のバルガイヤー王は、変人でこそあれ、無能ではないのだ。
誰もが、ヘルプ機能という謎の言葉を口にはするが。
「世界を動かすぞ。探せ。軍師なぞという肩書を名乗る、しょぼくれた男だ。そいつが世界を動かすぞ。初代が始めたこの混乱を、ちょっとはマシにしてくれそうな男だ。我が国はこいつに手を貸すことにする!」
異世界パルメディアに秩序も安定も訪れない。
王が招くのは、異なる混乱である。
混乱には混乱をぶつけて相殺すればいいのだ。
ヘルプ機能はあれど、チュートリアルなし。
世界はやり直しの効かない、新たな段階へと進んでいくのである。
大盛りあがりである。
この戦いは語り草になり、夜になっても男たちは、ああなりたいものだと話し合った。
翌日。
ガガンが来た。
アリスティアも来た。
俺が王になると言うので、ガガンが納得の面持ちだった。
「オレに勝ったんだ! 王にくらいなってもらわないと困る! だが、そのうちまた手合わせしようぜ。オレは神聖魔法を賜って強くなった。昔のオレじゃないぞ」
「おう、いいぞいいぞ」
「マナビが安請け合いしてるのだ!」
「マスター、もう侮られることは無いから、正面から戦うしかありませんからねえ」
「正面から戦ってもマナビをどうにかできる自信はないねえ」
ガガンと奥さんたちとで、やいのやいの騒いだ。
その横で、ルミイとアリスティアが奥様トークをしている。
ナルカとではないんだな。
……ということは……。
「そんなに早くできたの、どうしてなんですか? 何かコツが……」
「ご飯をたくさん食べて、体温を高く保つことですね!」
おお、ルミイがもっともらしいアドバイスをしている。
ガガンであれば、アリスティア一筋だし、体力は有り余っていそうだし、何より愛が深そうだし色々出るものも濃そうなので時間の問題であろう。
なお、ガガンは次に俺と戦う時、どうやれば勝てるかを語るのに夢中で、アリスティアがチラチラ目配せするのに気付いていないのである。
男の子だからなあ!
セブンセンスの使節団を賓客に迎え、宴は盛り上がった。
夜頃に、アビサルワンズとルサルカ教団が挨拶に来た。
ドミニク司祭が棺から現れたので、周囲の人々がギョッとしていた。
「マナビ王、御即位おめでとうございます。王と肩を並べて戦った日々のことは、どうやら伝説に語られる物語になりそうです」
柔和な微笑みとともに、手を差し出す司祭なのだった。
俺は彼と握手を交わしつつ、談笑した。
ナルカについて色々聞かれたが、今の彼女が概ね幸せそうである話をすると、司祭はうんうん頷き、実に嬉しそうな顔をするのである。
「そう言えば、オクタゴンは来ないのか」
「オクタゴン様は我が神とともに、星の外とやらに出かけておいでです。遥か遠方におられるようで、私の夢枕に立って、マナビ王の戴冠式に参列するよう言われました」
「あいつが外に出たのか。珍しいなあ。何かやろうとしてるんだろうか」
この星の外がエーテルに包まれており、その気になれば泳いで移動できる空間であることを俺は知っている。
だからあの二柱の神は、近くの星に遊びにいったのではないかと考えたりするのである。
そして戴冠式最後の辺りで、ユーリンが来た。
『マナビ王、即位おめでとう。君を野放しにしておくことは、人類にとって大変危険だからね。こうして収まるべきところに収まってくれたことはありがたい……』
「俺に対する正しい評価だなあ」
感心してしまった。
『ところでマナビ王。フォーホース帝国は解散することにした』
「ほう! そりゃまたどうして」
いきなりの衝撃的ニュースである。
せっかく平和になったのにな。
『フォーフォースは魔導王に対抗するための存在だった。その魔導王もいなくなった。残ったのは、魔法を使う力を有したままの、古い時代の魔法使いたちだけだ。これを一箇所に集めておけば、いつか良からぬ考えを持つ者が現れる』
「だろうな。場合によっては俺が討伐に行くかもしれない」
『ああ。我々が第二の魔導王になったなら、そうなるだろう。だからこそ、ここで魔法使いたちをバラバラに解き放ち、世界に散らせる。古代から受け継がれた魔法を使える者は、我々だけになってしまったからな。それを各地で、めいめい勝手に広めるなり錆びつかせるなりさせるつもりだ』
「そうかー。いよいよ魔法の時代の終わりだな。魔法使いはそれ単体で国を作る、なんてこともしなくなるわけだ」
そういうことになったのである。
俺が玉座の感触にちょっと慣れてきた頃、フォーホース帝国は各国に別れの手紙みたいなものを送ってきた。
そして、かの最も古い帝国は解散した。
最も古い魔法使い、ユーリンは己の意識を世界へ拡散させ、魔力そのものとなった。
魔法使いたちはユーリンによって束ねられていた共有意志を失い、めいめい勝手に動き出した。
どこかの国の食客になる者もいれば、ならず者を組織する者もいる。
バーバリアンと喧嘩していたり、あるいはバーバリアンそのものになったり。
山奥で隠遁する者もいたり、町中で私塾など開く者もいる。
なんというか、俺が知っているファンタジーの世界に、パルメディアはどんどん近づいていっているようだ。
始まりがおかしかったもんな。
いきなり異世界召喚して、戦う相手がいるわけでもなくて、処刑のためだけの塔に送り込んで死ぬさまを眺めるゲームに参加とか。
終わりかけの世界だった。
そいつが一旦終わって、また始まったという事だろう。
王様としての生活は大変忙しく、日々は瞬く間に過ぎていく。
いや、別に王をやるだけなら忙しいことは無いのだ。
些事はマスキュラーに任せて、俺は大きな決断ごとだけを行う。
後は祭事、儀式の類が仕事だな。
だが、問題は裏の仕事だ。
散り散りになっていた北方のバーバリアンと交流を持ち、スリッピー帝国……もとい、スリッピー共和国と戦えるよう支援する。
戦い方を教え、農耕を教え、奪うスタイルから育み、数を増やしていくスタイルへ……。
魔族と交渉を持つ。
相変わらずバフォメスは不満げだが、俺の助けがなければ魔族の立場が危ういことは理解している。
跳ね返り者は国外へ放逐し、シクスゼクスは国としての体を保っている。
各地で、追放された魔族は暴れる。
そいつらは人族のならず者と結びついて、山賊団みたいになる。
何のことはない。
人も魔族も変わらない。
各地から討伐隊が出て、山賊団とは激しく争っているそうだ。
結構結構。
すぐに山賊団は潰されるだろうが、雨後の筍のようにあちこちにまた出現することだろう。
世界が安定しないための種まきは大変だ。
常に少しずつ、世界を揺り動かして行かねばな。
様々な報告を受けながら、俺は王宮を歩き回る。
王としての生活は運動不足になりやすく、すぐ太るのだ。
常に動いて、カロリーを消費せねば。
「陛下!」
「なんだ」
「ルミイ様が産気付かれまして」
「産まれるか! 大安産だろ」
「その通りで」
俺が向かったら、オギャアと泣き声が聞こえてきた。
はやいはやい。
俺がルミイの産気付いた話聞いたばかりじゃないの。
スポンと産まれたな。
新時代の産声を聞きながら、俺はそれを腕の中に抱くべく、小走りになるのだった。
王が尻で移動するわけにもいかないからな。
(おわり)
◆
後に、動乱の始まりと呼ばれ、今に続く戦国の世界を形作った、歴史のターニングポイント。
人と魔は争い続け、人と人もまた争い続けている。
国が興り、滅び、大帝国が生まれれば、それは打ち倒されて瞬く間に散り散りになる。
パルメディアは一時も留まらぬ世界と言う者がいる。
平和な安寧の時など遥か遠く、常に血と鉄と魔法に満ちている。
パルメディアは歩み続ける世界と言う者がいる。
停滞せず、常に揺り動かされ続け、惰眠をむさぼる者などいない。
「こんなクソな世の中を誰が作ったのか。あ、初代の王か。そりゃあクソだろう」
二百年近く続く、古き王国バルガイヤー。
その玉座で、若き王が呟いた。
この土地の人間としては珍しく、髪色が黒い。
耳の先が尖っているのは、エルフの血が混じっているのだろう。
「あー、ほんの僅かな間でいい。平和にならんものか。いや、平和にするしかないのか。だとしたらどうする」
王はブツブツと玉座で呟く。
家臣たちは口出しすることはない。
王のいつものルーティーンなのだ。
だが、今日の王は違った。
突然、目を見開いたのである。
「ほう、ヘルプ機能よ。二百年ぶりの異世界からの来訪者だと? そいつがこの世界を、ちょっとマシにできる可能性がある? いいじゃないか、いいじゃないか。初代もまた、異世界からの来訪者だったと言う。そういう変な物の手を借りないと、世界はなかなか動かせぬものな」
王は何もない空間に手をかざし、すいすいと動かした。
「あ、いや、正確には記憶を取り戻した、か。まあいい。おい、聞いたかお前たち。我らが神バルガイヤーのお告げだ」
家臣たちは、王に向き直る。
突飛な事をする王だが、彼の指示が誤りだったことはない。
代々のバルガイヤー王は、変人でこそあれ、無能ではないのだ。
誰もが、ヘルプ機能という謎の言葉を口にはするが。
「世界を動かすぞ。探せ。軍師なぞという肩書を名乗る、しょぼくれた男だ。そいつが世界を動かすぞ。初代が始めたこの混乱を、ちょっとはマシにしてくれそうな男だ。我が国はこいつに手を貸すことにする!」
異世界パルメディアに秩序も安定も訪れない。
王が招くのは、異なる混乱である。
混乱には混乱をぶつけて相殺すればいいのだ。
ヘルプ機能はあれど、チュートリアルなし。
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