召喚されたら無能力だと追放されたが、俺の力はヘルプ機能とチュートリアルモードだった。世界の全てを事前に予習してイージーモードで活躍します

あけちともあき

文字の大きさ
196 / 196
終章・始まりの王編

最終話 そして、新しい時代へ

しおりを挟む
 バルクと教授は伝説に残りそうなバトルを繰り広げた後、クロスカウンターで双方ともに大地に沈んだ。
 大盛りあがりである。
 この戦いは語り草になり、夜になっても男たちは、ああなりたいものだと話し合った。

 翌日。

 ガガンが来た。
 アリスティアも来た。

 俺が王になると言うので、ガガンが納得の面持ちだった。

「オレに勝ったんだ! 王にくらいなってもらわないと困る! だが、そのうちまた手合わせしようぜ。オレは神聖魔法を賜って強くなった。昔のオレじゃないぞ」

「おう、いいぞいいぞ」

「マナビが安請け合いしてるのだ!」

「マスター、もう侮られることは無いから、正面から戦うしかありませんからねえ」

「正面から戦ってもマナビをどうにかできる自信はないねえ」

 ガガンと奥さんたちとで、やいのやいの騒いだ。
 その横で、ルミイとアリスティアが奥様トークをしている。
 ナルカとではないんだな。

 ……ということは……。

「そんなに早くできたの、どうしてなんですか? 何かコツが……」

「ご飯をたくさん食べて、体温を高く保つことですね!」

 おお、ルミイがもっともらしいアドバイスをしている。
 ガガンであれば、アリスティア一筋だし、体力は有り余っていそうだし、何より愛が深そうだし色々出るものも濃そうなので時間の問題であろう。

 なお、ガガンは次に俺と戦う時、どうやれば勝てるかを語るのに夢中で、アリスティアがチラチラ目配せするのに気付いていないのである。
 男の子だからなあ!

 セブンセンスの使節団を賓客に迎え、宴は盛り上がった。
 夜頃に、アビサルワンズとルサルカ教団が挨拶に来た。

 ドミニク司祭が棺から現れたので、周囲の人々がギョッとしていた。

「マナビ王、御即位おめでとうございます。王と肩を並べて戦った日々のことは、どうやら伝説に語られる物語になりそうです」

 柔和な微笑みとともに、手を差し出す司祭なのだった。
 俺は彼と握手を交わしつつ、談笑した。
 ナルカについて色々聞かれたが、今の彼女が概ね幸せそうである話をすると、司祭はうんうん頷き、実に嬉しそうな顔をするのである。

「そう言えば、オクタゴンは来ないのか」

「オクタゴン様は我が神とともに、星の外とやらに出かけておいでです。遥か遠方におられるようで、私の夢枕に立って、マナビ王の戴冠式に参列するよう言われました」

「あいつが外に出たのか。珍しいなあ。何かやろうとしてるんだろうか」

 この星の外がエーテルに包まれており、その気になれば泳いで移動できる空間であることを俺は知っている。
 だからあの二柱の神は、近くの星に遊びにいったのではないかと考えたりするのである。

 そして戴冠式最後の辺りで、ユーリンが来た。

『マナビ王、即位おめでとう。君を野放しにしておくことは、人類にとって大変危険だからね。こうして収まるべきところに収まってくれたことはありがたい……』

「俺に対する正しい評価だなあ」

 感心してしまった。

『ところでマナビ王。フォーホース帝国は解散することにした』

「ほう! そりゃまたどうして」

 いきなりの衝撃的ニュースである。
 せっかく平和になったのにな。

『フォーフォースは魔導王に対抗するための存在だった。その魔導王もいなくなった。残ったのは、魔法を使う力を有したままの、古い時代の魔法使いたちだけだ。これを一箇所に集めておけば、いつか良からぬ考えを持つ者が現れる』

「だろうな。場合によっては俺が討伐に行くかもしれない」

『ああ。我々が第二の魔導王になったなら、そうなるだろう。だからこそ、ここで魔法使いたちをバラバラに解き放ち、世界に散らせる。古代から受け継がれた魔法を使える者は、我々だけになってしまったからな。それを各地で、めいめい勝手に広めるなり錆びつかせるなりさせるつもりだ』

「そうかー。いよいよ魔法の時代の終わりだな。魔法使いはそれ単体で国を作る、なんてこともしなくなるわけだ」

 そういうことになったのである。
 俺が玉座の感触にちょっと慣れてきた頃、フォーホース帝国は各国に別れの手紙みたいなものを送ってきた。
 そして、かの最も古い帝国は解散した。

 最も古い魔法使い、ユーリンは己の意識を世界へ拡散させ、魔力そのものとなった。
 魔法使いたちはユーリンによって束ねられていた共有意志を失い、めいめい勝手に動き出した。

 どこかの国の食客になる者もいれば、ならず者を組織する者もいる。
 バーバリアンと喧嘩していたり、あるいはバーバリアンそのものになったり。
 山奥で隠遁する者もいたり、町中で私塾など開く者もいる。

 なんというか、俺が知っているファンタジーの世界に、パルメディアはどんどん近づいていっているようだ。
 始まりがおかしかったもんな。

 いきなり異世界召喚して、戦う相手がいるわけでもなくて、処刑のためだけの塔に送り込んで死ぬさまを眺めるゲームに参加とか。
 終わりかけの世界だった。

 そいつが一旦終わって、また始まったという事だろう。

 王様としての生活は大変忙しく、日々は瞬く間に過ぎていく。

 いや、別に王をやるだけなら忙しいことは無いのだ。
 些事はマスキュラーに任せて、俺は大きな決断ごとだけを行う。
 後は祭事、儀式の類が仕事だな。

 だが、問題は裏の仕事だ。

 散り散りになっていた北方のバーバリアンと交流を持ち、スリッピー帝国……もとい、スリッピー共和国と戦えるよう支援する。
 戦い方を教え、農耕を教え、奪うスタイルから育み、数を増やしていくスタイルへ……。

 魔族と交渉を持つ。
 相変わらずバフォメスは不満げだが、俺の助けがなければ魔族の立場が危ういことは理解している。

 跳ね返り者は国外へ放逐し、シクスゼクスは国としての体を保っている。
 各地で、追放された魔族は暴れる。
 そいつらは人族のならず者と結びついて、山賊団みたいになる。

 何のことはない。
 人も魔族も変わらない。

 各地から討伐隊が出て、山賊団とは激しく争っているそうだ。
 結構結構。

 すぐに山賊団は潰されるだろうが、雨後の筍のようにあちこちにまた出現することだろう。

 世界が安定しないための種まきは大変だ。
 常に少しずつ、世界を揺り動かして行かねばな。

 様々な報告を受けながら、俺は王宮を歩き回る。
 王としての生活は運動不足になりやすく、すぐ太るのだ。
 常に動いて、カロリーを消費せねば。

「陛下!」

「なんだ」

「ルミイ様が産気付かれまして」

「産まれるか! 大安産だろ」

「その通りで」

 俺が向かったら、オギャアと泣き声が聞こえてきた。
 はやいはやい。
 俺がルミイの産気付いた話聞いたばかりじゃないの。

 スポンと産まれたな。

 新時代の産声を聞きながら、俺はそれを腕の中に抱くべく、小走りになるのだった。
 王が尻で移動するわけにもいかないからな。


(おわり)

 ◆


 後に、動乱の始まりと呼ばれ、今に続く戦国の世界を形作った、歴史のターニングポイント。
 人と魔は争い続け、人と人もまた争い続けている。

 国が興り、滅び、大帝国が生まれれば、それは打ち倒されて瞬く間に散り散りになる。

 パルメディアは一時も留まらぬ世界と言う者がいる。
 平和な安寧の時など遥か遠く、常に血と鉄と魔法に満ちている。

 パルメディアは歩み続ける世界と言う者がいる。
 停滞せず、常に揺り動かされ続け、惰眠をむさぼる者などいない。

「こんなクソな世の中を誰が作ったのか。あ、初代の王か。そりゃあクソだろう」

 二百年近く続く、古き王国バルガイヤー。
 その玉座で、若き王が呟いた。

 この土地の人間としては珍しく、髪色が黒い。
 耳の先が尖っているのは、エルフの血が混じっているのだろう。

「あー、ほんの僅かな間でいい。平和にならんものか。いや、平和にするしかないのか。だとしたらどうする」

 王はブツブツと玉座で呟く。
 家臣たちは口出しすることはない。
 王のいつものルーティーンなのだ。

 だが、今日の王は違った。
 突然、目を見開いたのである。

「ほう、ヘルプ機能よ。二百年ぶりの異世界からの来訪者だと? そいつがこの世界を、ちょっとマシにできる可能性がある? いいじゃないか、いいじゃないか。初代もまた、異世界からの来訪者だったと言う。そういう変な物の手を借りないと、世界はなかなか動かせぬものな」

 王は何もない空間に手をかざし、すいすいと動かした。

「あ、いや、正確には記憶を取り戻した、か。まあいい。おい、聞いたかお前たち。我らが神バルガイヤーのお告げだ」

 家臣たちは、王に向き直る。
 突飛な事をする王だが、彼の指示が誤りだったことはない。
 代々のバルガイヤー王は、変人でこそあれ、無能ではないのだ。

 誰もが、ヘルプ機能という謎の言葉を口にはするが。

「世界を動かすぞ。探せ。軍師なぞという肩書を名乗る、しょぼくれた男だ。そいつが世界を動かすぞ。初代が始めたこの混乱を、ちょっとはマシにしてくれそうな男だ。我が国はこいつに手を貸すことにする!」

 異世界パルメディアに秩序も安定も訪れない。
 王が招くのは、異なる混乱である。

 混乱には混乱をぶつけて相殺すればいいのだ。

 ヘルプ機能はあれど、チュートリアルなし。
 世界はやり直しの効かない、新たな段階へと進んでいくのである。
しおりを挟む
感想 12

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(12件)

mk
2023.02.06 mk

100話、ルミイ、察して
コジンテキニキモチワルイダケナノデアレナノデスガ
ルミイが、察して
が良いじゃないかなぁ、と。

2023.02.06 あけちともあき

割と、マナビの思考を垂れ流してる感じなので、乱れてる文がちょいちょいありますな

解除
mk
2023.02.06 mk

100話、ルミイ、察して
コジンテキニキモチワルイダケナノデアレナノデスガ
ルミイが、察して
が良いじゃないかなぁ、と。

解除
mk
2023.02.05 mk

98話最初のルミィの発言が、97話の最後と合わない気がします。

2023.02.06 あけちともあき

おお、二度マナビから降りてるw!
変更を掛けました!

解除

あなたにおすすめの小説

竹取物語異聞〜30歳まで独身でいたら赤ん坊になって竹の中にいたけど、絶対に帰りません〜

二階堂吉乃
ファンタジー
21XX年。出生率が0.5を切った日本では、異次元の少子化対策として「独身禁止法」が施行された。月出輝夜(30)は、違反者の再教育VRビデオを視聴中、意識を失う。目覚めると竹の中で赤子になっていた。見つけたのは赤髪赤目の鬼で、その妻は金髪碧眼のエルフだった。少し変わった夫婦に愛情深く育てられ、輝夜は健やかに成長する。15歳の時にケガレと呼ばれる化け物に襲われたところを、ライオン頭の男に救われたが、彼は“呪われた王子”と呼ばれていた。獅子頭のアスラン王子に惹かれていく輝夜。しかし平穏な日々は続かず、輝夜を迎えに魔王が来る。『竹取物語』+『美女と野獣』のSFファンタジー昔話です。全27話。

剣の母は十一歳。求む英傑。うちの子(剣)いりませんか?ただいまお相手募集中です!

月芝
ファンタジー
国の端っこのきわきわにある辺境の里にて。 不自由なりにも快適にすみっこ暮らしをしていたチヨコ。 いずれは都会に出て……なんてことはまるで考えておらず、 実家の畑と趣味の園芸の二刀流で、第一次産業の星を目指す所存。 父母妹、クセの強い里の仲間たち、その他いろいろ。 ちょっぴり変わった環境に囲まれて、すくすく育ち迎えた十一歳。 森で行き倒れの老人を助けたら、なぜだか剣の母に任命されちゃった!! って、剣の母って何? 世に邪悪があふれ災いがはびこるとき、地上へと神がつかわす天剣(アマノツルギ)。 それを産み出す母体に選ばれてしまった少女。 役に立ちそうで微妙なチカラを授かるも、使命を果たさないと恐ろしい呪いが……。 うかうかしていたら、あっという間に灰色の青春が過ぎて、 孤高の人生の果てに、寂しい老後が待っている。 なんてこったい! チヨコの明日はどっちだ!

【完結】腹ペコ貴族のスキルは「種」でした

シマセイ
ファンタジー
スキルが全てを決める世界。 下級貴族の少年アレンが授かったのは、植物の種しか生み出せない、役立たずの『種』スキルだった。 『種クズ』と周りから嘲笑されても、超がつくほど呑気で食いしん坊なアレンはどこ吹く風。 今日もスキルで出した木の実をおやつに、マイペースな学院生活を送る。 これは、誰もがクズスキルと笑うその力に、世界の常識を覆すほどの秘密が隠されているとは露ほども知らない、一人の少年が繰り広げる面白おかしい学院ファンタジー!

ざまぁされた馬鹿勇者様に転生してしまいましたが、国外追放後、ある事情を抱える女性たちの救世主となっていました。

越路遼介
ファンタジー
65歳で消防士を定年退職した高野健司、彼は『ざまぁ』系のネット小説を好み、特に『不細工で太っている補助魔法士の華麗な成り上がり』と云う作品を愛読していた。主人公アランの痛快な逆転劇、哀れ『ざまぁ』された元勇者のグレンは絶望のあまり…。そして、85歳で天寿を全うした健司は…死後知らない世界へと。やがて自身が、あのグレンとなっていることに気付いた。国外追放を受けている彼は名を変えて、違う大陸を目指して旅立ち、最初に寄った国の冒険者ギルドにて女性職員から「貴方に、ある事情を抱えている女性たちの救世主になってもらいたいのです」という依頼を受けるのであった。そして、そのある事情こそ、消防士である高野健司が唯一現場で泣いた事案そのものだったのである。

長女は家族を養いたい! ~凍死から始まるお仕事冒険記~

灰色サレナ
ファンタジー
とある片田舎で貧困の末に殺された3きょうだい。 その3人が目覚めた先は日本語が通じてしまうのに魔物はいるわ魔法はあるわのファンタジー世界……そこで出会った首が取れるおねーさん事、アンドロイドのエキドナ・アルカーノと共に大陸で一番大きい鍛冶国家ウェイランドへ向かう。 魔物が生息する世界で生き抜こうと弥生は真司と文香を護るためギルドへと就職、エキドナもまた家族を探すという目的のために弥生と生活を共にしていた。 首尾よく仕事と家、仲間を得た弥生は別世界での生活に慣れていく、そんな中ウェイランド王城での見学イベントで不思議な男性に狙われてしまう。 訳も分からぬまま再び死ぬかと思われた時、新たな来訪者『神楽洞爺』に命を救われた。 そしてひょんなことからこの世界に実の両親が生存していることを知り、弥生は妹と弟を守りつつ、生活向上に全力で遊んでみたり、合流するために路銀稼ぎや体力づくり、なし崩し的に侵略者の撃退に奮闘する。 座敷童や女郎蜘蛛、古代の優しき竜。 全ての家族と仲間が集まる時、物語の始まりである弥生が選んだ道がこの世界の始まりでもあった。 ほのぼののんびり、時たまハードな弥生の家族探しの物語

能力『ゴミ箱』と言われ追放された僕はゴミ捨て町から自由に暮らすことにしました

御峰。
ファンタジー
十歳の時、貰えるギフトで能力『ゴミ箱』を授かったので、名門ハイリンス家から追放された僕は、ゴミの集まる町、ヴァレンに捨てられる。 でも本当に良かった!毎日勉強ばっかだった家より、このヴァレン町で僕は自由に生きるんだ! これは、ゴミ扱いされる能力を授かった僕が、ゴミ捨て町から幸せを掴む為、成り上がる物語だ――――。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。