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1・とあるカップル冒険者の依頼
第3話 討伐は本来の仕事にあらず!
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「解体しないの!? もったいない……」
「それこそ仕事の本筋じゃないですよ。一見して美味しい作業が目の前にあっても、本来やるべきことに時間制限があるわけですから、こういう美味しい仕事は罠みたいなもんです。先を急ぎましょう」
「そうだった……。エレクのこと一瞬忘れてた。レンジャーのサガだあ……」
あうううう、と唸る彼女を見て、俺は頷く。
ちゃんとお二人の間には信頼関係というか、愛がある。
これは二人を再会させるだけで状況は終了だろう。
野外に慣れていない前衛職が、一人で踏み込める範囲の限界は……と。
「あっ、血痕が……!」
メリアさんが悲鳴に似た声をあげる。
「ああ、怪我をした可能性がありますね」
「血が染み込んでるから、どれくらいの量かはわからないけど……」
「じゃ、油で浮かせましょう。ほいっ」
油を地面に浸透させ、染み込んでいた血を浮かび上がらせる。
これは、そこまで大した量ではないか。
「油、そんなこともできるんだ……」
「ええ、しかも調理用の油としても使えるんですよ」
「その話はもういいから」
飲めるのに。
僕たちはそのまま進行した。
林道は踏み固められているから、足跡は分からない。
それに、職人たちの足跡も入り混じっているだろう。
だから、ひたすらこの道を先に進むしか無い。
日差しが暗くなってくる。
恐らく、この辺りがまともな判断力のある戦士なら限界というところだろう。
「音がする……! 何かがもみ合ってる音!」
「ああ、それですね! 音の方向を教えて下さい。全力移動します!」
「……こっち!」
メリアさんが指差しが方向に向けて、僕は走る。
そして急ブレーキ。
同時に、足元に油を発生させた。
踏み固められた林道ならではの、高速スリップ走法だ。
「うわっ、物凄い速度で滑ってく! 気持ち悪い!」
「体に悪いものは使ってないんですよ!」
僕は自分の能力の名誉のためにも言っておく。
この移動は、とにかく速いから便利なんだ。
ほら、すぐに見えてきた。
エレクさんと思われる戦士が、飛びかかるお化けムササビを必死に凌いでいる。
まだ一匹も倒せていない。
モンスターの数は三体か。
攻撃しては、別の木に飛び移る。
そこから幹を駆け上がって、また攻撃してくる。
密林の中でお化けムササビとやり合うのは、ただの戦士には自殺行為だ。
「くそっ、くそぉっ!! 降りてこい! 卑怯だぞ!!」
エレクさんが叫んでいる。
この声が聞こえたのか、後ろから走ってきたメリアさんが「エレク!」と恋人の名前を呼んだ。
あー、この状況で意識を散らす呼びかけは……。
「メリア!? 追ってきたのか! 見てろ、俺はこいつらを倒して有名に……」
その決定的な隙を、お化けムササビが見逃すはずがない。
彼らは木々の半ばで身をたわませ、一斉にエレクさんへ飛びかかろうとした。
いやあ、僕がいなかったら危ないところだった!
既に、足元を覆っていた油は消えている。
同量の油が地面を走り、樹木を遡っているところなのだ。
それはついに、お化けムササビの足裏に到達していた。
『ギッ……ギギィッ!?』
高いところから滑空しようとしたお化けムササビが、ずるりと滑った。
摩擦を失い、木を蹴って飛ぶことができなくなったのだ。
つるつるつる、巨体の四肢が滑る。
気が動転しているのか、爪を幹に突き立てることすらできない。
すぐに、三体はどさどさと地面に落ちてきた。
『ギギィーッ!?』
理解できないご様子。
「お化けムササビくん、僕の前で飛び立とうとするのは自殺行為だよ。いわゆる、天敵というやつだ」
お化けムササビの毛皮は油にまみれている。
落下の勢いで飛ぶことすらできなかっただろう。
そこにエレクさんが近づき、一匹の頭に剣を突き立てた。
『ギッ!!』
お化けムササビの一匹が絶命する。
これを見て、他のムササビたちが慌てて起き上がった。
彼らはきびすを返して逃げ出す。
「くそっ、待て! 待て、モンスターめ!!」
「エレクさん、そこまで! 先は獣道です! 間違いなく死にます!」
「うぅっ!」
立ち止まるエレクさん。
彼は振り返ると、僕をじっと見た。
「こんにちは、エレクさん。あなたを探して欲しいという依頼を受けてやって来ました。油使い兼何でも屋のナザルです」
「あ、ああ。エレクだ。もしかしてあんた、メリアから頼まれて……」
僕は頷くだけにした。
なぜなら……。
「エレクー!!」
飛び出してきたメリアさんが、エレクさんを抱きしめたからだ。
もう言葉はいらないだろう。
「もう、エレクのバカ! バカ! 一人で飛び出して……。私一人だけ残して死ぬところだったじゃない!」
「メリア……! 俺は……一旗あげて、稼いで、それで俺たちの家をアーランに建てようと思って……」
「エレク……!」
「メリア……!」
気が済むまで、お二人の時間を過ごしてもらおう。
独り身には毒というものだ。
しばらく、死んだお化けムササビの頭を、四苦八苦しながら切り落とす。
ついた血しぶきは油で洗い流せる。
よし、落ちた。
これを証拠品として持っていけばいいだろう。
討伐したということで、エレクさんたちにもちょっとした実入りになるに違いない。
「あ、あの、ナザル……さん! ありがとう!」
「どういたしまして! じゃあ帰りましょうかお二人とも! もうすぐ日が暮れます。そうなれば、僕らは揃って全滅です! 無事にアーランまで戻れて、仕事は成功というものですから!」
僕は彼らに今後の予定についてを含めて話す。
欲をかいてここでムササビを解体したら、日が暮れて密林が危険になる。そうなったら死ぬよ! まで言葉の中に入っている。
お分かりいただけただろうか?
「分かった! 余計な欲はかかない。あんたに従うよ! 命を救われたんだ。ここでは、あんたが正しい!」
「うん、ちょっと気持ち悪い能力を使うひとだけど、凄く頼りになるよ! 油使いナザル、また何かあったらよろしくね!」
「お任せください! 今後ともご贔屓に……! それはそうと、イチャイチャはその辺にして帰りましょう。別にカップルがいちゃついているのがムカつくっていうんじゃなくてですね、お二人が無事に戻らないとギルドでの僕の覚えが悪くなるっていうか、すぐに動いて欲しいというか、もう、全然イチャイチャが苛つくとかじゃなくてですね」
こうして、カップル冒険者を巡る仕事は終わり。
冒険者ギルド絡みでお困りの際は、油使いナザルをご指名ください。
「それこそ仕事の本筋じゃないですよ。一見して美味しい作業が目の前にあっても、本来やるべきことに時間制限があるわけですから、こういう美味しい仕事は罠みたいなもんです。先を急ぎましょう」
「そうだった……。エレクのこと一瞬忘れてた。レンジャーのサガだあ……」
あうううう、と唸る彼女を見て、俺は頷く。
ちゃんとお二人の間には信頼関係というか、愛がある。
これは二人を再会させるだけで状況は終了だろう。
野外に慣れていない前衛職が、一人で踏み込める範囲の限界は……と。
「あっ、血痕が……!」
メリアさんが悲鳴に似た声をあげる。
「ああ、怪我をした可能性がありますね」
「血が染み込んでるから、どれくらいの量かはわからないけど……」
「じゃ、油で浮かせましょう。ほいっ」
油を地面に浸透させ、染み込んでいた血を浮かび上がらせる。
これは、そこまで大した量ではないか。
「油、そんなこともできるんだ……」
「ええ、しかも調理用の油としても使えるんですよ」
「その話はもういいから」
飲めるのに。
僕たちはそのまま進行した。
林道は踏み固められているから、足跡は分からない。
それに、職人たちの足跡も入り混じっているだろう。
だから、ひたすらこの道を先に進むしか無い。
日差しが暗くなってくる。
恐らく、この辺りがまともな判断力のある戦士なら限界というところだろう。
「音がする……! 何かがもみ合ってる音!」
「ああ、それですね! 音の方向を教えて下さい。全力移動します!」
「……こっち!」
メリアさんが指差しが方向に向けて、僕は走る。
そして急ブレーキ。
同時に、足元に油を発生させた。
踏み固められた林道ならではの、高速スリップ走法だ。
「うわっ、物凄い速度で滑ってく! 気持ち悪い!」
「体に悪いものは使ってないんですよ!」
僕は自分の能力の名誉のためにも言っておく。
この移動は、とにかく速いから便利なんだ。
ほら、すぐに見えてきた。
エレクさんと思われる戦士が、飛びかかるお化けムササビを必死に凌いでいる。
まだ一匹も倒せていない。
モンスターの数は三体か。
攻撃しては、別の木に飛び移る。
そこから幹を駆け上がって、また攻撃してくる。
密林の中でお化けムササビとやり合うのは、ただの戦士には自殺行為だ。
「くそっ、くそぉっ!! 降りてこい! 卑怯だぞ!!」
エレクさんが叫んでいる。
この声が聞こえたのか、後ろから走ってきたメリアさんが「エレク!」と恋人の名前を呼んだ。
あー、この状況で意識を散らす呼びかけは……。
「メリア!? 追ってきたのか! 見てろ、俺はこいつらを倒して有名に……」
その決定的な隙を、お化けムササビが見逃すはずがない。
彼らは木々の半ばで身をたわませ、一斉にエレクさんへ飛びかかろうとした。
いやあ、僕がいなかったら危ないところだった!
既に、足元を覆っていた油は消えている。
同量の油が地面を走り、樹木を遡っているところなのだ。
それはついに、お化けムササビの足裏に到達していた。
『ギッ……ギギィッ!?』
高いところから滑空しようとしたお化けムササビが、ずるりと滑った。
摩擦を失い、木を蹴って飛ぶことができなくなったのだ。
つるつるつる、巨体の四肢が滑る。
気が動転しているのか、爪を幹に突き立てることすらできない。
すぐに、三体はどさどさと地面に落ちてきた。
『ギギィーッ!?』
理解できないご様子。
「お化けムササビくん、僕の前で飛び立とうとするのは自殺行為だよ。いわゆる、天敵というやつだ」
お化けムササビの毛皮は油にまみれている。
落下の勢いで飛ぶことすらできなかっただろう。
そこにエレクさんが近づき、一匹の頭に剣を突き立てた。
『ギッ!!』
お化けムササビの一匹が絶命する。
これを見て、他のムササビたちが慌てて起き上がった。
彼らはきびすを返して逃げ出す。
「くそっ、待て! 待て、モンスターめ!!」
「エレクさん、そこまで! 先は獣道です! 間違いなく死にます!」
「うぅっ!」
立ち止まるエレクさん。
彼は振り返ると、僕をじっと見た。
「こんにちは、エレクさん。あなたを探して欲しいという依頼を受けてやって来ました。油使い兼何でも屋のナザルです」
「あ、ああ。エレクだ。もしかしてあんた、メリアから頼まれて……」
僕は頷くだけにした。
なぜなら……。
「エレクー!!」
飛び出してきたメリアさんが、エレクさんを抱きしめたからだ。
もう言葉はいらないだろう。
「もう、エレクのバカ! バカ! 一人で飛び出して……。私一人だけ残して死ぬところだったじゃない!」
「メリア……! 俺は……一旗あげて、稼いで、それで俺たちの家をアーランに建てようと思って……」
「エレク……!」
「メリア……!」
気が済むまで、お二人の時間を過ごしてもらおう。
独り身には毒というものだ。
しばらく、死んだお化けムササビの頭を、四苦八苦しながら切り落とす。
ついた血しぶきは油で洗い流せる。
よし、落ちた。
これを証拠品として持っていけばいいだろう。
討伐したということで、エレクさんたちにもちょっとした実入りになるに違いない。
「あ、あの、ナザル……さん! ありがとう!」
「どういたしまして! じゃあ帰りましょうかお二人とも! もうすぐ日が暮れます。そうなれば、僕らは揃って全滅です! 無事にアーランまで戻れて、仕事は成功というものですから!」
僕は彼らに今後の予定についてを含めて話す。
欲をかいてここでムササビを解体したら、日が暮れて密林が危険になる。そうなったら死ぬよ! まで言葉の中に入っている。
お分かりいただけただろうか?
「分かった! 余計な欲はかかない。あんたに従うよ! 命を救われたんだ。ここでは、あんたが正しい!」
「うん、ちょっと気持ち悪い能力を使うひとだけど、凄く頼りになるよ! 油使いナザル、また何かあったらよろしくね!」
「お任せください! 今後ともご贔屓に……! それはそうと、イチャイチャはその辺にして帰りましょう。別にカップルがいちゃついているのがムカつくっていうんじゃなくてですね、お二人が無事に戻らないとギルドでの僕の覚えが悪くなるっていうか、すぐに動いて欲しいというか、もう、全然イチャイチャが苛つくとかじゃなくてですね」
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