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1・とあるカップル冒険者の依頼
第2話 油使いはこういうお仕事
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宿に保管してある、野宿セットを用意。
我らが冒険者の街、アーラン西方に広がる密林へ向かうことにする。
密林の入口には林業に従事する職人さんたちの拠点がある。
ここで聞き込みだ。
「どうも、こんにちは」
「おお、ナザルじゃないか。今日もまた密林に入り込んだやつを連れ戻すのかい?」
「ええ、この季節は新しい冒険者が加入するね。風物詩みたいなもんだよ。それで、見覚えのない男性が密林に単独で入ったと思うんだけど」
「ああ。ありゃあ前衛職のやつだな。金属鎧に長い剣を持ってた。全く、密林は遺跡と違うぞ。声を掛けてやったが、余計なお世話だったようで無視されちまった」
「いやあ、それはよくない。挨拶は人間関係の潤滑油だというのに」
僕は天を仰いだ。
一見して無駄にしか思えないことでも、それが行われている理由があるものだ。
挨拶なんかは、知らない人間同士がお互いを敵ではない、と自己申告するための一番簡易な手段と言えるだろう。
「ところでどうだい、景気は。お化けムササビが悪さをしていないかい?」
「困ったもんだよ! あいつら、ずっと西から移り住んで来やがった。あの前歯で木をかじり倒すから、商品が傷物になっちまう」
「そりゃあ困りものだ。では、行きがけの駄賃で一匹か二匹減らしてくるよ」
「本当か! そりゃあ助かる!」
僕が親方たちと談笑しているので、焦った顔のメリアが袖を引っ張ってきた。
「ちょっと! そんな無駄話してる暇があるの!?」
「無駄じゃないですよ。ああ、親方! みんな、また!」
手を振って別れる。
そして森に入りながら、
「ああして普段から彼らと交流を持っておけば、何かあった時に情報をもらえたりするもんです。今だって、お化けムササビは一匹じゃないという情報を得た! そして実害だってある。同時に、彼らはこれから材木にするであろう樹木を傷物にしている……」
「それがなんだっていうの!?」
「つまり、構えが立派で、建材として使いやすい樹木に彼らは集まるということです。そしてエレクさんの狙いはそのお化けムササビだ。目的地が絞られた」
「あっ、そういう……」
ご納得いただけたらしい。
こういう時、理解を得るための言葉を惜しんではいけない。
多少の時間を費やすことで信頼が得られるなら、安いものだ。
少し進んだだけで、辺りは下草に覆われて容易に進めなくなった。
これも好都合。
「密林は広いから、どこに行ったらいいか分からなくなるわ……。無事でいて、エレク……!」
メリアさんは不安げだ。
エレクさんを見つけられるか、心配でならないんだろう。
お気持ちは大変分かる。
「一つ伺いたいんですが、エレクさんは無鉄砲なタイプでしたか? こう、計算無しでどこまでも突っ込む蛮勇の持ち主というか」
「いいえ。そうだったら彼は遺跡で命を落としてると思うわ。できることを堅実にヤろうとするタイプよ。今回一人で突っ込んだのは……その……私がカッとなってひどいことを言ったからで」
「なるほど」
深くは聞かないでおこう。
色恋沙汰だ。
そういうのは、僕の専門外である。
「なるほど、なるほど。では彼は一時的に正気を失っていたものの、その大本は冷静なプロであると。なるほど」
僕は下草の多い場所から、踏み固められた林道へ移動する。
「では、この林道をたどればいいでしょう。彼は、自分がこういう自然環境のプロではないことを知っている。こういう場所ではあなたが頼りだったでしょう?」
「ああ、うん、そう。あたしはレンジャーだから。今もちゃんと襲ってくるモンスターを警戒してるから安心して」
「はい、それは安心です。僕も僕らのちょっと外側に油を噴霧して警戒してましてね」
「油を!? 噴霧!?」
「詳しい説明は省きますね」
ややこしい話になるし、話に集中されたらメリアさんの警戒が薄れそうだから。
「あっ、何か来る!」
メリアさんが弓を構える。
レンジャーという職業には、危険感知能力が備わっている。
第六感みたいなものだ。
こういう屋外環境では実に頼りになる。
……遺跡をタッグで攻略していたエレクさんは、どうして屋外専門家のメリアさんと一緒に……?
愛かな? 愛だな……。
口にしないでおこう。
僕はメリアさんが警戒する方向に向けて、手をかざす。
「じゃあ、お見せしましょう。これが油使いです」
『ギギィッ!!』
甲高い叫び声が響いた。
木々の合間を縫って、猛スピードでこちらに突っ込んでくる大きな影がある。
お化けムササビだ。
そこに、僕は腕全体を油を打ち出す砲口に見立てる。
「発射」
ヌポンッと音がして、油の玉が飛び出していく。
木々の合間から差し込む光を受けて、キラキラ黄金に輝く美しい油だ。
そこに、お化けムササビは自ら突っ込んでいった。
『イギィーッ!? ギギギギギィーッ!!!』
頭から毛並みまで油まみれだねえ。
ヌットヌトになった体が風を受けられなくなり、ポトッと落ちた。
「チャ、チャンス!! えいっ!!」
頭を狙って矢を打ち込むメリアさん。
僕も小走りで寄っていって、のたうち回るお化けムササビの口目掛けて、油の玉を打ち込んだ。
過剰な量の油が流し込まれ、お化けムササビが窒息する。
あとは見ているだけ。
少ししたら、お化けムササビは動かなくなった。
「え……えっぐい……」
「これが油使いの実力の一端です。ああ、油は僕の魔力と等価交換なんで、また魔力に戻しますね」
油が消える。
お化けムササビは、まるで地上で溺れ死んだような有り様だった。
「ちなみにこの油、飲めるんですよ。お料理の時にはぜひ活用して下さい」
「い、いや、遠慮しておきます」
なぜかドン引きで断ってくるメリアさんなのだった。
我らが冒険者の街、アーラン西方に広がる密林へ向かうことにする。
密林の入口には林業に従事する職人さんたちの拠点がある。
ここで聞き込みだ。
「どうも、こんにちは」
「おお、ナザルじゃないか。今日もまた密林に入り込んだやつを連れ戻すのかい?」
「ええ、この季節は新しい冒険者が加入するね。風物詩みたいなもんだよ。それで、見覚えのない男性が密林に単独で入ったと思うんだけど」
「ああ。ありゃあ前衛職のやつだな。金属鎧に長い剣を持ってた。全く、密林は遺跡と違うぞ。声を掛けてやったが、余計なお世話だったようで無視されちまった」
「いやあ、それはよくない。挨拶は人間関係の潤滑油だというのに」
僕は天を仰いだ。
一見して無駄にしか思えないことでも、それが行われている理由があるものだ。
挨拶なんかは、知らない人間同士がお互いを敵ではない、と自己申告するための一番簡易な手段と言えるだろう。
「ところでどうだい、景気は。お化けムササビが悪さをしていないかい?」
「困ったもんだよ! あいつら、ずっと西から移り住んで来やがった。あの前歯で木をかじり倒すから、商品が傷物になっちまう」
「そりゃあ困りものだ。では、行きがけの駄賃で一匹か二匹減らしてくるよ」
「本当か! そりゃあ助かる!」
僕が親方たちと談笑しているので、焦った顔のメリアが袖を引っ張ってきた。
「ちょっと! そんな無駄話してる暇があるの!?」
「無駄じゃないですよ。ああ、親方! みんな、また!」
手を振って別れる。
そして森に入りながら、
「ああして普段から彼らと交流を持っておけば、何かあった時に情報をもらえたりするもんです。今だって、お化けムササビは一匹じゃないという情報を得た! そして実害だってある。同時に、彼らはこれから材木にするであろう樹木を傷物にしている……」
「それがなんだっていうの!?」
「つまり、構えが立派で、建材として使いやすい樹木に彼らは集まるということです。そしてエレクさんの狙いはそのお化けムササビだ。目的地が絞られた」
「あっ、そういう……」
ご納得いただけたらしい。
こういう時、理解を得るための言葉を惜しんではいけない。
多少の時間を費やすことで信頼が得られるなら、安いものだ。
少し進んだだけで、辺りは下草に覆われて容易に進めなくなった。
これも好都合。
「密林は広いから、どこに行ったらいいか分からなくなるわ……。無事でいて、エレク……!」
メリアさんは不安げだ。
エレクさんを見つけられるか、心配でならないんだろう。
お気持ちは大変分かる。
「一つ伺いたいんですが、エレクさんは無鉄砲なタイプでしたか? こう、計算無しでどこまでも突っ込む蛮勇の持ち主というか」
「いいえ。そうだったら彼は遺跡で命を落としてると思うわ。できることを堅実にヤろうとするタイプよ。今回一人で突っ込んだのは……その……私がカッとなってひどいことを言ったからで」
「なるほど」
深くは聞かないでおこう。
色恋沙汰だ。
そういうのは、僕の専門外である。
「なるほど、なるほど。では彼は一時的に正気を失っていたものの、その大本は冷静なプロであると。なるほど」
僕は下草の多い場所から、踏み固められた林道へ移動する。
「では、この林道をたどればいいでしょう。彼は、自分がこういう自然環境のプロではないことを知っている。こういう場所ではあなたが頼りだったでしょう?」
「ああ、うん、そう。あたしはレンジャーだから。今もちゃんと襲ってくるモンスターを警戒してるから安心して」
「はい、それは安心です。僕も僕らのちょっと外側に油を噴霧して警戒してましてね」
「油を!? 噴霧!?」
「詳しい説明は省きますね」
ややこしい話になるし、話に集中されたらメリアさんの警戒が薄れそうだから。
「あっ、何か来る!」
メリアさんが弓を構える。
レンジャーという職業には、危険感知能力が備わっている。
第六感みたいなものだ。
こういう屋外環境では実に頼りになる。
……遺跡をタッグで攻略していたエレクさんは、どうして屋外専門家のメリアさんと一緒に……?
愛かな? 愛だな……。
口にしないでおこう。
僕はメリアさんが警戒する方向に向けて、手をかざす。
「じゃあ、お見せしましょう。これが油使いです」
『ギギィッ!!』
甲高い叫び声が響いた。
木々の合間を縫って、猛スピードでこちらに突っ込んでくる大きな影がある。
お化けムササビだ。
そこに、僕は腕全体を油を打ち出す砲口に見立てる。
「発射」
ヌポンッと音がして、油の玉が飛び出していく。
木々の合間から差し込む光を受けて、キラキラ黄金に輝く美しい油だ。
そこに、お化けムササビは自ら突っ込んでいった。
『イギィーッ!? ギギギギギィーッ!!!』
頭から毛並みまで油まみれだねえ。
ヌットヌトになった体が風を受けられなくなり、ポトッと落ちた。
「チャ、チャンス!! えいっ!!」
頭を狙って矢を打ち込むメリアさん。
僕も小走りで寄っていって、のたうち回るお化けムササビの口目掛けて、油の玉を打ち込んだ。
過剰な量の油が流し込まれ、お化けムササビが窒息する。
あとは見ているだけ。
少ししたら、お化けムササビは動かなくなった。
「え……えっぐい……」
「これが油使いの実力の一端です。ああ、油は僕の魔力と等価交換なんで、また魔力に戻しますね」
油が消える。
お化けムササビは、まるで地上で溺れ死んだような有り様だった。
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