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1・とあるカップル冒険者の依頼
第1話 便利屋の登場
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「ねえ、あなたがナザル? そのう……油使いのナザル……」
「あっ、はい、僕です」
豆のスープに硬いパンを漬けて食べていたら、声を掛けられた。
僕は冒険者ギルドで、カッパー級冒険者をシングルでやっているナザル。
実は転生者だ。
生前中間管理職で、職場の人間関係を色々ケアしたりしていた。
この技術が今回の人生でも活かされており、冒険者ギルドで起こる様々ないざこざの解決をしながら飯を食っている。
まあ、シングルなのは、油使いというこの世界に僕しかいないユニーク職業のせいなんだけども。
塩味しかついてない、澄み切った豆のスープに映る僕は、金髪に褐色の肌。
目の色はグリーン。
サラダ油色の髪と、ごま油色の肌と、オリーブオイル色の目と言ったほうがいいだろうか。
目立つ外見なので、こうやってギルド近くの食堂で昼食を摂っているとすぐに見つけてもらえる。
今回も、僕の容姿を目印にして声を掛けてきたに違いない。
お相手は女性。
黒髪に日焼けした肌、なめし革の鎧を肩と胸元、腕、脛に装備している。
屋外活動をするタイプで、俊敏さを失いたくない職業の人だろう。
「あなたはレンジャー職ですよね? 何か、お一人では解決できない案件の依頼ですか?」
「あっ、は、はい! 実はそうなの。最近ここのギルドに流れてきたばかりで、相方と一緒だったんだけど……。彼と喧嘩しちゃって」
「なるほど。伺いましょう」
僕は傾聴の姿勢になる。
豆のスープは塩味しかついてないので、冷めてもまあ食べられるからだ。
「あたしはメリア。北方のオザクからこのアーランに流れてきたんだけど、あっちの遺跡が枯れちゃって。で、こっちで一旗上げるつもりだったの。だけど、エレクったらこっちではもっと派手に活動しようって言って! ようやくこっちに登録して、アイアン級になったばかりなんだよ? もっとコツコツ地味な仕事からって言ったら、そんなのやってられないって」
「なるほどなるほど」
かいつまんでしまえば、お互いの仕事に対するスタンスの違いだ。
エレクさんは派手な成功を求めた。
メリアさんは地に足のついたコツコツとした仕事を求めた。
この場合、確実なのはメリアさん。
ただし、日常に重きを置いた活動は、よほどのことがなければその繰り返しで終わる。
カッパー級までは上がれるだろうけれど、シルバー級への昇格は無理だろう。
シルバー級に達しなければ、大きな仕事は得られない。
バランス問題というわけだ。
「了解しました。それでエレクさんが密林に飛び込んでいってしまったと。確か今、討伐依頼が出てますもんね。フライングスクイール・モンスター……お化けムササビの討伐」
「それ! それなの! お願い、ナザル! 彼を探して、危険な事をするのを止めて!」
「分かりました。では冒険者ギルドまで行きましょう。そこで正式な依頼として僕にお願いをしてください。いやあ、きちんとギルドの顔を立てないと、後々うるさいんですよ」
その前に、豆のスープを飲み干して、ふやけた豆を食べる。
ふやかせた硬いパンも食べて、お茶を飲み干す。
「ごちそうさまでした」
空の食器に手を合わせているのを見て、メリアさんが不思議そうな顔をした。
生前の癖なんだよね。
この世界、パルメディアは多神教の世界。
僕が食後に手を合わせる宗教を信じているのだと納得してくれたようだ。
銅貨三枚の代金を支払い、僕はメリアさんと冒険者ギルドへ向かった。
「あなた、あんな質素な食事をしてて、お金がないの? もっと売れているんだと思ったけど……。ギルドでは、他に頼れる人がいないときの頼み事ならあなたに頼めって言われて……」
「ああ。いつもギルドの片隅にいる、あのハーフエルフのお姉様でしょう? 安楽椅子冒険者様は何度も仕事を紹介してくれて、本当にありがたいなあ」
ギルドにて、受付嬢と話をする。
新しい仕事の受注だ。
メリアさんが規定の料金をギルドに納め、僕はそこから八割を受け取る。
「まいどあり」
「初回の依頼なんだけど」
「慣用句みたいなものですよ。それじゃあ早速行きましょうか。ああ、僕が質素な食事をしてる理由ですが、常にこういう依頼が来ることを考えて、多めに保存食を携帯してるんですよね。保存食ってやつは本当に高くて……。不味いくせに」
日本人生まれなので、とにかく不味い食事は悲しくなる。
だが、僕には美味しい料理を作るスキルがないので、現状に甘んじるしかないのだ。
「じゃあ早速行きましょうかメリアさん。一分一秒の遅れが、エレクさんの生存確率を下げていきます。お化けムササビは、アイアン級の冒険者がたった一人でやり合える相手じゃない」
「そうなの……!? 急がなくちゃ! でも……あなたならできるってわけ? それも、支払ったのは一日分のお金だし、あたしにはそれ以上の持ち合わせが無いし……」
「もちろん。僕がカッパー級冒険者に留まっているのは……。パーティを組まないと受けられない仕事、規定回数やらないと昇格できないからなんですよ」
世の中は世知辛い。
メリアさんも苦笑するしかなかった。
さあ、道すがら、このカップル冒険者の悩みを聞いていくとしよう。
「あっ、はい、僕です」
豆のスープに硬いパンを漬けて食べていたら、声を掛けられた。
僕は冒険者ギルドで、カッパー級冒険者をシングルでやっているナザル。
実は転生者だ。
生前中間管理職で、職場の人間関係を色々ケアしたりしていた。
この技術が今回の人生でも活かされており、冒険者ギルドで起こる様々ないざこざの解決をしながら飯を食っている。
まあ、シングルなのは、油使いというこの世界に僕しかいないユニーク職業のせいなんだけども。
塩味しかついてない、澄み切った豆のスープに映る僕は、金髪に褐色の肌。
目の色はグリーン。
サラダ油色の髪と、ごま油色の肌と、オリーブオイル色の目と言ったほうがいいだろうか。
目立つ外見なので、こうやってギルド近くの食堂で昼食を摂っているとすぐに見つけてもらえる。
今回も、僕の容姿を目印にして声を掛けてきたに違いない。
お相手は女性。
黒髪に日焼けした肌、なめし革の鎧を肩と胸元、腕、脛に装備している。
屋外活動をするタイプで、俊敏さを失いたくない職業の人だろう。
「あなたはレンジャー職ですよね? 何か、お一人では解決できない案件の依頼ですか?」
「あっ、は、はい! 実はそうなの。最近ここのギルドに流れてきたばかりで、相方と一緒だったんだけど……。彼と喧嘩しちゃって」
「なるほど。伺いましょう」
僕は傾聴の姿勢になる。
豆のスープは塩味しかついてないので、冷めてもまあ食べられるからだ。
「あたしはメリア。北方のオザクからこのアーランに流れてきたんだけど、あっちの遺跡が枯れちゃって。で、こっちで一旗上げるつもりだったの。だけど、エレクったらこっちではもっと派手に活動しようって言って! ようやくこっちに登録して、アイアン級になったばかりなんだよ? もっとコツコツ地味な仕事からって言ったら、そんなのやってられないって」
「なるほどなるほど」
かいつまんでしまえば、お互いの仕事に対するスタンスの違いだ。
エレクさんは派手な成功を求めた。
メリアさんは地に足のついたコツコツとした仕事を求めた。
この場合、確実なのはメリアさん。
ただし、日常に重きを置いた活動は、よほどのことがなければその繰り返しで終わる。
カッパー級までは上がれるだろうけれど、シルバー級への昇格は無理だろう。
シルバー級に達しなければ、大きな仕事は得られない。
バランス問題というわけだ。
「了解しました。それでエレクさんが密林に飛び込んでいってしまったと。確か今、討伐依頼が出てますもんね。フライングスクイール・モンスター……お化けムササビの討伐」
「それ! それなの! お願い、ナザル! 彼を探して、危険な事をするのを止めて!」
「分かりました。では冒険者ギルドまで行きましょう。そこで正式な依頼として僕にお願いをしてください。いやあ、きちんとギルドの顔を立てないと、後々うるさいんですよ」
その前に、豆のスープを飲み干して、ふやけた豆を食べる。
ふやかせた硬いパンも食べて、お茶を飲み干す。
「ごちそうさまでした」
空の食器に手を合わせているのを見て、メリアさんが不思議そうな顔をした。
生前の癖なんだよね。
この世界、パルメディアは多神教の世界。
僕が食後に手を合わせる宗教を信じているのだと納得してくれたようだ。
銅貨三枚の代金を支払い、僕はメリアさんと冒険者ギルドへ向かった。
「あなた、あんな質素な食事をしてて、お金がないの? もっと売れているんだと思ったけど……。ギルドでは、他に頼れる人がいないときの頼み事ならあなたに頼めって言われて……」
「ああ。いつもギルドの片隅にいる、あのハーフエルフのお姉様でしょう? 安楽椅子冒険者様は何度も仕事を紹介してくれて、本当にありがたいなあ」
ギルドにて、受付嬢と話をする。
新しい仕事の受注だ。
メリアさんが規定の料金をギルドに納め、僕はそこから八割を受け取る。
「まいどあり」
「初回の依頼なんだけど」
「慣用句みたいなものですよ。それじゃあ早速行きましょうか。ああ、僕が質素な食事をしてる理由ですが、常にこういう依頼が来ることを考えて、多めに保存食を携帯してるんですよね。保存食ってやつは本当に高くて……。不味いくせに」
日本人生まれなので、とにかく不味い食事は悲しくなる。
だが、僕には美味しい料理を作るスキルがないので、現状に甘んじるしかないのだ。
「じゃあ早速行きましょうかメリアさん。一分一秒の遅れが、エレクさんの生存確率を下げていきます。お化けムササビは、アイアン級の冒険者がたった一人でやり合える相手じゃない」
「そうなの……!? 急がなくちゃ! でも……あなたならできるってわけ? それも、支払ったのは一日分のお金だし、あたしにはそれ以上の持ち合わせが無いし……」
「もちろん。僕がカッパー級冒険者に留まっているのは……。パーティを組まないと受けられない仕事、規定回数やらないと昇格できないからなんですよ」
世の中は世知辛い。
メリアさんも苦笑するしかなかった。
さあ、道すがら、このカップル冒険者の悩みを聞いていくとしよう。
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