俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

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26・ビータの相談

第76話 アヒージョの伝説

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 さて、ビータから大きなインスピレーションを受け取ったが、それだけでは足りない。
 僕は料理を閃きだけで作れるような天才ではないからだ。
 しっかりとしたレシピが必要なのと、できれば料理人による実践を見学させてもらいたい。

 ということで、僕はビータを連れて商業地区を歩き回ることにした。

「師匠、油をそのまま食べさせる料理って、ぼくが言っててなんですけど、どんなものなんでしょうか……」

 聞けば、ビータの家は比較的保守的で、新しい料理を食べないのだそうだ。
 市場に出回り始めている魚醤も、まだ口にしたことがないとか。

 では、百聞は一見に如かずとも、一口に及ばずとも言う気がするので。
 僕は彼を連れて新しいものを出している食堂に入った。

「茹で肉の魚醤掛けをお願い。二人前」

「へい! お客さん耳が早いね。最新のメニューですよ」

「ふふふ……。さる事情から僕は情報通でね……」

 店の主人と怪しい会話をした。
 その後、主人のお嬢さんらしき人がお盆を持ってきた。

「お待たせでーす。茹で肉の魚醤掛けです! 召し上がれ! あ、こちらの漬物は当店のサービスでーす」

「ありがたい!」

「この……褐色でどろっとしたのが魚醤……!!」

 漬物に快哉をあげる僕と、魚醤を前に身構えるビータ。
 まだ若いのに、保守的過ぎるのは良くないぞ。

「まあ食べてみるんだ。独特の匂いと風味があるが、慣れてくると実に美味しい」

「なるほどです! じゃ、じゃあ……んっ」

 茹で肉はちょうどいい大きさにカットされていたので、これを摘んでパクっと食べるビータ。
 そして、難しい顔をした。

「んー……。塩やハーブとは全く違う風味がしますけど……なんていうか、独特の臭みみたいなのが気になります」

「子どもの味覚は繊細だなあ」

 どうやら魚醤はお気に召さないようだった。
 だが、それは当たり前だ。
 今までアーランに存在していたのは、塩とハーブ。
 シンプルな味付けに、香り付けだけなのだ。

 そこへ出現した魚醤は、独特の香りに強い塩気、そして発酵した食物特有のコク、旨味みたいなのがぎっしり詰まっている。
 味の爆弾みたいなもんだ。
 慣れないと戸惑うだろう。

「無理はしなくていいよ。僕はこいつを仕入れるために随分苦労した。感慨深いよ……」

 パクパク食べる。
 うむ、美味い。
 そして僕の言葉を聞いて、ビータの目の色が変わった。

「師匠が苦労して仕入れられたものだったのですか! それは……無駄にはできないです!」

 彼は意を決して、魚醤の掛かった肉を次々に食べた。
 おおっ、食べるようになってるなあ。
 以前の、線の細い美少年がかなりたくましくなったものだ。

「うっ、お、おいしいです……!」

「無理すんな無理すんな」

 僕が残りを食べてやった。
 うんうん、美味しい。
 これ、酒が進む味だな。

「茹で肉は魚醤の味がもろに出るからな。少年にはきつかったかもしれない。口直しのジュースを奢ろう」

「あ、ありがとうございます……!」

 果実の種類が少ないアーランにおいて、ジュースというのはなかなか高級品なのだが……。
 僕のために無理をした弟子である。
 その心意気に応じるためにお金を出そうじゃないか。

「美味しいです!!」

「今度は明るい感じの声になった。本当に美味しいんだな」

「スミマセン……」

 しょんぼりしないでよろしい。
 さて、魚醤に関しては、ちょっと割高だが珍しい調味料ということで、あちこちのテーブルで食べられているようだ。
 彼らの言葉から、新しい料理のヒントが得られぬものか。

 僕は耳を澄ませることにした。

「なんと不思議な味なのだ。色々なものに掛けて試してみたい」

「これだけ舐めても酒が進みそうだ……」

 それは体に悪いから止めたほうがいいと思うな。

「油煮に加えてみたいな。ここでは食べられる油が無いから試せないが」

 いたああーっ!
 いたぞ、食材としての油を知る人物が。
 どうやら、外国からやって来た行商人のようだ。

「もし、旅のお方……」

「はい……。おや、あなたも外国の方?」

「はっ、生まれは今はもう無い遺跡の村でして……そんなことより、油煮という言葉を耳にしましたが」

「ああ、はい!」

 その人は、中年くらいの男性だった。
 口ひげを撫でながら、にっこり笑う。

「私の地元の油煮はですね。そりゃあもう絶品なんですよ。体が温まりますから」

「ほうほうほう……」

「砂漠の中にある国なんですが、夜はとても冷えましてね。ですが、我が国に生えている乾燥に強い植物のオブリーというのが潰すと油が出るのです。こちらでは、油は獣の脂肪を主に使うのですよね。あるいは花を絞って取る油だとか」

「ええ。癖がある油が多くて、それ単体で食用にはあまりしないんですよ」

 食料に乏しい地域では、獣脂をそのまま食べてカロリー補給したりするらしいが……。
 アーランは食材に満ちているからね。

「なるほど。オブリーからできたオブリーオイルは……それはもう素晴らしい風味なんですよ……」

「なんですって!!」

「ちょっとした食べ物を入れて、油で煮てですね。油ごと食べるんですが、もう……。寒い砂漠の夜も、これがあれば本当にハッピーです!」

 それはつまり……アヒージョってこと……!?
 僕は今、アヒージョの手がかりを手にしたのである。


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