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42・アララの飼い主の正体
第126話 飼い主の正体
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随分長い間、僕と同じ宿に連泊している人物がいる。
見た目は紳士的な人物で、アララという名前のコボルドを連れている。
アララはコゲタの友達で、よく遊んでいる。
年格好が近いから、気が合うのかもしれない。
僕がよくコゲタに留守番をしてもらうので、そんな時はアララの存在に助けられているのだ……。
さて、この飼い主である紳士は何者だろうか。
他人の仕事を詮索するタイプではない僕だが、気にならないといえば嘘になる。
冒険者でも無いらしいのに、随分長いこと宿に住み着いているしな……。
「おい、油使い」
「おや、アーガイルさん。窓から来るのは止めてください」
「悪い悪い。ようやく奴の正体が掴めてな」
「奴といいますと」
「お前の他の長期滞在者だ。入るぞ」
「表から入ってほしいんですけどね」
「階段を登るよりも壁を飛び越えるほうが早い」
アーガイルさんはゴールド級冒険者であり、盗賊ギルドの幹部。
ここ最近見ていたゴールド級の化け物みたいな人達と比べると、大変人間的な能力であるように見える……。
絶対隠し玉があるだろうな。盗賊として極めて高い完成度の能力だけで、シルバー級だとしても飛び抜けてトップだろうし。
「仕事を引き受けてくれ。そうしたらそいつの正体を教えてやる」
「内容も聞かないのに仕事を!?」
「お前にとっても損にはならんだろう。いいか? お前のコボルドが困るような状況にはならん」
「あ、そうですか。それなら別に受けても構いませんが」
「これはな、内々で処理しても良かったんだが、この間のうちのバカどもが無様な仕事をしただろう」
「ああ、港の」
「そう、それだ。あいつらは一旦地下労働に回した。一年みっちり農作業やって、ほとぼりが冷めてから出てくる予定だ」
「遺跡の農場をまるで監獄みたいに……」
あ、いや、意外とそんな感じで労役に励んでいる人が多いんだった。
そして居心地がいいもので、本当に農夫になってしまったりもするんだよな。
あそこは更正施設でもあるのだ。
ちなみにオブリー栽培のアシスタントで働いている農夫は、元犯罪者で、今は完全に農業にハマっている。
規則正しい生活と、自分の仕事がきちんと実りという形で可視化されること、そしてアーラン国民の皆さんから感謝されること。
この味を知ってしまうともう戻れないよね……。
「結論から言うと、奴はツーテイカーの工作員だ。スパイとして潜り込んでいたのだが、あまりにもアーランの食関連の動きが激しすぎて、ずっと食の調査をしているらしい」
「なんとまあ」
その食の変化には僕が大いに関わっているのだ。
「取り込め。というか、その工作員を通じて、アーランの美食がツーテイカーに流れているらしい。半端な麻薬を凌駕する中毒性で、向こうのトップは次々と陥落している。もうすぐ冷戦が終わるぞ」
「なんですって」
「それは工作員も知っているはずだ。だから、お前がやつを取り込め。味方につけろ。それが仕事内容だ。報酬には色を付けておいてやるからな」
なかなかの金額を提示された。
一応、建前上ギルドを通す形にはなるが、その手数料を差し引いても大した金額だ。
「やりましょうやりましょう。僕にお任せあれ」
「頼むぞ」
そう告げて、アーガイルさんはその体勢のまま背後にジャンプした。
窓の向こうに消えていく。
身体能力だけならずば抜けてるよなあ。
もう姿が見えなくなっている。
さて、では仕事だ。
井戸の周りで、コゲタとアララがキャッチボールをして遊んでいる。
お互い捕球が下手なのだが、どこかに飛んでいってしまった球を取りに行くのも楽しいらしい。
ちなみに球は何かにぶつかってもいいように、木の枝を編んで作られた中空のものだ。
二人のキャッキャ言う声が聞こえてくるな。
飼い主氏はいないようだ。
僕はしばらく、二人のコボルドの遊ぶさまを眺めながら飼い主氏を待つことにした。
夕方に差し掛かる頃、彼は戻ってきた。
僕が立ち上がり手を上げると、会釈してくる。
「やあ、どうです。たまには一緒に夕食でも。コゲタがアララちゃんにいつもお世話になっていますし」
「ああいいですね。何を食べるんです?」
飼い主氏はアルカイックスマイルを浮かべた。
目が笑っていない。
彼の中の工作員は、常に相手や状況を品定めしているのだ。
「……実は、少量ですがゴマ油が手に入りまして」
「ゴマ油……!?」
食いついた!
彼が所属するツーテイカーが、アーランの美食によって侵食され始めている今。
食材の名前には興味津々だろう。
「ピーカラをゴマ油と合わせることで、ラー油が」
「ラー油!? そ、そんなものはアーランの市場には存在しなかったはず……」
「僕が今日、この世界に生み出す調味料です」
「なんですって……!? ま、まさかアーランの最近の凄まじい速度で進行する美食文化の発展は……」
「僕です」
「な、な、なんだってーっ!!」
本気で驚いている。
ははは、まさか同じ宿に長居している僕が、アーラン美食化計画の黒幕だとは思わなかったようだな。
「そんな……こんな近くにいたなんて……」
「最近、アーランに広まっている餃子はご存知でしょう」
「え、ええ。特別な素材を使っていないのに、様々な料理方法ができる恐るべき美食……」
「そのうち、焼餃子と呼ばれる料理が今夜完成します」
「なにぃーっ!!」
素で凄いリアクションをしてくれる人だな!
今までアーランに潜伏し、美食を中心に調査してきたんだ。
僕が彼を、その最先端に招くという意味を分からぬわけではあるまい。
「行きましょうか」
「ええ。ちなみにラー油とやらはコボルドは」
「コボルドには刺激が強いので、普通に犬用を用意します」
「良かった」
ということで、ご主人ご主人、とついてくるコゲタとアララを伴い、僕らは完成形焼き餃子を食べに行くのだ。
見た目は紳士的な人物で、アララという名前のコボルドを連れている。
アララはコゲタの友達で、よく遊んでいる。
年格好が近いから、気が合うのかもしれない。
僕がよくコゲタに留守番をしてもらうので、そんな時はアララの存在に助けられているのだ……。
さて、この飼い主である紳士は何者だろうか。
他人の仕事を詮索するタイプではない僕だが、気にならないといえば嘘になる。
冒険者でも無いらしいのに、随分長いこと宿に住み着いているしな……。
「おい、油使い」
「おや、アーガイルさん。窓から来るのは止めてください」
「悪い悪い。ようやく奴の正体が掴めてな」
「奴といいますと」
「お前の他の長期滞在者だ。入るぞ」
「表から入ってほしいんですけどね」
「階段を登るよりも壁を飛び越えるほうが早い」
アーガイルさんはゴールド級冒険者であり、盗賊ギルドの幹部。
ここ最近見ていたゴールド級の化け物みたいな人達と比べると、大変人間的な能力であるように見える……。
絶対隠し玉があるだろうな。盗賊として極めて高い完成度の能力だけで、シルバー級だとしても飛び抜けてトップだろうし。
「仕事を引き受けてくれ。そうしたらそいつの正体を教えてやる」
「内容も聞かないのに仕事を!?」
「お前にとっても損にはならんだろう。いいか? お前のコボルドが困るような状況にはならん」
「あ、そうですか。それなら別に受けても構いませんが」
「これはな、内々で処理しても良かったんだが、この間のうちのバカどもが無様な仕事をしただろう」
「ああ、港の」
「そう、それだ。あいつらは一旦地下労働に回した。一年みっちり農作業やって、ほとぼりが冷めてから出てくる予定だ」
「遺跡の農場をまるで監獄みたいに……」
あ、いや、意外とそんな感じで労役に励んでいる人が多いんだった。
そして居心地がいいもので、本当に農夫になってしまったりもするんだよな。
あそこは更正施設でもあるのだ。
ちなみにオブリー栽培のアシスタントで働いている農夫は、元犯罪者で、今は完全に農業にハマっている。
規則正しい生活と、自分の仕事がきちんと実りという形で可視化されること、そしてアーラン国民の皆さんから感謝されること。
この味を知ってしまうともう戻れないよね……。
「結論から言うと、奴はツーテイカーの工作員だ。スパイとして潜り込んでいたのだが、あまりにもアーランの食関連の動きが激しすぎて、ずっと食の調査をしているらしい」
「なんとまあ」
その食の変化には僕が大いに関わっているのだ。
「取り込め。というか、その工作員を通じて、アーランの美食がツーテイカーに流れているらしい。半端な麻薬を凌駕する中毒性で、向こうのトップは次々と陥落している。もうすぐ冷戦が終わるぞ」
「なんですって」
「それは工作員も知っているはずだ。だから、お前がやつを取り込め。味方につけろ。それが仕事内容だ。報酬には色を付けておいてやるからな」
なかなかの金額を提示された。
一応、建前上ギルドを通す形にはなるが、その手数料を差し引いても大した金額だ。
「やりましょうやりましょう。僕にお任せあれ」
「頼むぞ」
そう告げて、アーガイルさんはその体勢のまま背後にジャンプした。
窓の向こうに消えていく。
身体能力だけならずば抜けてるよなあ。
もう姿が見えなくなっている。
さて、では仕事だ。
井戸の周りで、コゲタとアララがキャッチボールをして遊んでいる。
お互い捕球が下手なのだが、どこかに飛んでいってしまった球を取りに行くのも楽しいらしい。
ちなみに球は何かにぶつかってもいいように、木の枝を編んで作られた中空のものだ。
二人のキャッキャ言う声が聞こえてくるな。
飼い主氏はいないようだ。
僕はしばらく、二人のコボルドの遊ぶさまを眺めながら飼い主氏を待つことにした。
夕方に差し掛かる頃、彼は戻ってきた。
僕が立ち上がり手を上げると、会釈してくる。
「やあ、どうです。たまには一緒に夕食でも。コゲタがアララちゃんにいつもお世話になっていますし」
「ああいいですね。何を食べるんです?」
飼い主氏はアルカイックスマイルを浮かべた。
目が笑っていない。
彼の中の工作員は、常に相手や状況を品定めしているのだ。
「……実は、少量ですがゴマ油が手に入りまして」
「ゴマ油……!?」
食いついた!
彼が所属するツーテイカーが、アーランの美食によって侵食され始めている今。
食材の名前には興味津々だろう。
「ピーカラをゴマ油と合わせることで、ラー油が」
「ラー油!? そ、そんなものはアーランの市場には存在しなかったはず……」
「僕が今日、この世界に生み出す調味料です」
「なんですって……!? ま、まさかアーランの最近の凄まじい速度で進行する美食文化の発展は……」
「僕です」
「な、な、なんだってーっ!!」
本気で驚いている。
ははは、まさか同じ宿に長居している僕が、アーラン美食化計画の黒幕だとは思わなかったようだな。
「そんな……こんな近くにいたなんて……」
「最近、アーランに広まっている餃子はご存知でしょう」
「え、ええ。特別な素材を使っていないのに、様々な料理方法ができる恐るべき美食……」
「そのうち、焼餃子と呼ばれる料理が今夜完成します」
「なにぃーっ!!」
素で凄いリアクションをしてくれる人だな!
今までアーランに潜伏し、美食を中心に調査してきたんだ。
僕が彼を、その最先端に招くという意味を分からぬわけではあるまい。
「行きましょうか」
「ええ。ちなみにラー油とやらはコボルドは」
「コボルドには刺激が強いので、普通に犬用を用意します」
「良かった」
ということで、ご主人ご主人、とついてくるコゲタとアララを伴い、僕らは完成形焼き餃子を食べに行くのだ。
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