俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

文字の大きさ
176 / 337
60・北の国へ

第176話 ワンダバー入国

しおりを挟む
「見えてきたぞ。夏だというのに白い雪を被った山々。そして明らかにこのあたりから涼しい。秋くらいの気温だ」

「ああ。本当に夏に来て良かったなあ……」

 しみじみ僕が呟く。
 そう、ワンダバー到着なのである。
 この大陸最北端にある都市国家。

「すずしーい」

「ぶるるー」

 コゲタとポーターは毛が生えているからな。
 寒さに強いのだ。
 いや、コゲタはすすすっと移動して、ポーターのお腹辺りにぺたっとひっついた。
 ちょっと寒いらしい。

 厚着させてあげるかあ。

「コゲタに着させながらでいいから聞いてくれ。この国の主な産業は漁業だ。あとは地下で作物栽培が行われている」

「また地下か!」

「地上は寒いからだろうなあ。この間はワンダバーを流氷の化け物が襲っていたので、俺達でそいつを仕留めた。この見返りにニンニクをもらったってわけだ。だが、今回はそうは行くまい」

「行かないのか」

「そうだ。冷凍魔法はワンダバーにとって秘匿すべき最大の禁忌か何かだと思われるぞ。だって俺たちは滞在していた間、一度だって冷凍魔法の話を聞いていなかったんだからな」

 ツーテイカーが喉から手が出るほど欲しがっているという冷凍魔法。
 だが、あの盗賊国家みたいなところがその情報を入手できないでいる。

 なるほど、これは難物そうだ……。

 ワンダバーの入口には大きな木製の門が存在しており、テントが張られていた。
 近寄ると、テントの中からちらっと覗く者がいる。
 門番だ。

 寒い国だと門番も大変だなあ。
 彼らは億劫そうに外に出てくると、僕らを誰何(すいか)した。

「なにもんだー」

「アーランからはるばる遊びに来たんだ」

「アーランから!? 物好きな……。だが、今はワンダバーの夏だ。見るべきものは特に無いが、一番安全な季節だと言えるぜ。ようこそ、何も盗むもののない清貧なる王国ワンダバーへ」

 招き入れられてしまった。

「いや、ナザル。俺たちは今、魔法によって全身をチェックされたぞ。それでろくな武器も魔法の道具持っていないと分かったから通してくれたんだ」

「なんだって!? 案外凄腕の魔法使いがいる国なのかもなあ……」

「魔法の腕だけならファイブスターズのトップだな。漁業の国であり、同時に魔法の国でもある……。なぜなら魚をよく食べるので、脳にいいDHCが豊富だからだ」

「えぇ……そういう理論なの……?」

「しらんけど……」

 適当言ったな、シズマ!
 ともかく、僕らは危険性なしと判断され、入国を許されたようだった。

 後で聞いた話だが、ワンダバーは各国からの魔法使いの亡命を積極的に受け入れているということだった。
 アーランやファイブスターを除く小国では、魔法使いそのものを国家転覆の力があるとして毛嫌いしているところも多い。
 迫害されて逃げてくる魔法使いにとって、ワンダバーは聖地みたいなものなのだ。

 魚食べ放題の聖地。

 立ち並ぶ家並みは、木材を組み合わせて作られたログハウスみたいなものが多い。
 そこに、土を盛ったり毛皮を貼ったりなどしているではないか。

「ワンダバーの建物は、夏は涼しく、冬は温かいんだ。一定の温度になるようになってるんだな」

「なるほどなあ……。さすがシズマは詳しい」

「まあな。だが、モンスター退治ができた前回と違い、今回はあれだ。この国の夏はとことん平和らしくて、事件らしい事件が起きないそうなんだ」

「なんだって」

「魚も大変よく穫れるので、人もモンスターもみんな魚を食うから」

 な、なるほど~!!
 納得してしまった。
 では作戦会議をせねばなるまい。

 僕らはワンダバーで宿を取ることにした。
 こんな北の果ての王国に、客などあまりやって来ないらしく……。

 宿を訪れたら無人だった。
 小一時間ほど時間を潰していたら、外から宿の主人らしき人が鼻歌をうたいながら入ってきた。
 僕らを見てギョッとする。

「うわーっ! 泥棒!!」

「客だよ客!!」

「えっ、客ぅ!? こんな夏に? 魚以外なにもない季節に客?」

 なんといぶかしそうな顔をするのだ。
 客が来ないことに慣れきっている!

「僕らはアーランからワンダバーを見に来たんだ。しばらく滞在するので大部屋を頼む……」

「しばらく!? へっへっへ、そいつを早く言ってくださいよ」

 長居する客で儲かるぞと見た瞬間、宿の主人がへこへこし始めた。
 うーん、分かりやすい。

 彼は普段、漁に使う網の手入れなどをして暮らしているらしい。
 なんなら網職人が本業で、宿は片手間なんだとか。
 だが、土地が比較的潤沢にあるワンダバーなので、宿の建物だけは大きいものを作ったと。

 平屋で大変広々している。
 そしてこの国では、風呂ではなくサウナに入る。

「サウナかあ! 楽しみだなあ!」

「だろ? そして風呂上がりに、キンキンに冷えた水割りが出る……」

「なんだって!!」

 この国のお酒は、薬草酒だ。
 甘みのある薬草を発酵させて酒にしたもので、やや薬臭いが、慣れるとたまらないらしい。
 これをしっかりと冷やしてから水割りにして飲むと、飛ぶ。
 経験者シズマ曰くだ。

「あれ? あんた、冬にアイスデーモンを倒してくれた冒険者じゃないか!? 早く言ってくれよ……。あんたがいたならもっと歓迎したのに!」

 おっと、シズマの顔見知りでもあった。

「ほいよ、ウェルカム干物。今、酒と……ちっちゃいのもいるのか、じゃあ茶を用意してあるから、こいつでも食いながらゆっくりしてくれ!」

 こうして僕らは大部屋に通される。
 十二畳はあるなかなか広い部屋で、床に敷かれた毛皮の上で寝るのだ。
 これはいいなあ……。
 ワンダバーでしか味わえない感じ。

 そして部屋の片隅には長机が用意されており、これを運んできて適当なところに設置できるようになっている。
 馬のポーターは馬小屋だ。

 どうせ僕の金ではないので飼い葉代を弾んだら、宿の主人が喜んでとびきりいい葉っぱを馬に食べさせてくれるということだった。
 あまり贅沢を覚えると、帰りにごねたりしないだろうな……?


しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」  ――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。  カクヨムにて先行連載中です! (https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)  異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。  残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。  一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。  そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。  そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。  異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。  やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。  さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。  そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

処理中です...