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60・北の国へ
第176話 ワンダバー入国
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「見えてきたぞ。夏だというのに白い雪を被った山々。そして明らかにこのあたりから涼しい。秋くらいの気温だ」
「ああ。本当に夏に来て良かったなあ……」
しみじみ僕が呟く。
そう、ワンダバー到着なのである。
この大陸最北端にある都市国家。
「すずしーい」
「ぶるるー」
コゲタとポーターは毛が生えているからな。
寒さに強いのだ。
いや、コゲタはすすすっと移動して、ポーターのお腹辺りにぺたっとひっついた。
ちょっと寒いらしい。
厚着させてあげるかあ。
「コゲタに着させながらでいいから聞いてくれ。この国の主な産業は漁業だ。あとは地下で作物栽培が行われている」
「また地下か!」
「地上は寒いからだろうなあ。この間はワンダバーを流氷の化け物が襲っていたので、俺達でそいつを仕留めた。この見返りにニンニクをもらったってわけだ。だが、今回はそうは行くまい」
「行かないのか」
「そうだ。冷凍魔法はワンダバーにとって秘匿すべき最大の禁忌か何かだと思われるぞ。だって俺たちは滞在していた間、一度だって冷凍魔法の話を聞いていなかったんだからな」
ツーテイカーが喉から手が出るほど欲しがっているという冷凍魔法。
だが、あの盗賊国家みたいなところがその情報を入手できないでいる。
なるほど、これは難物そうだ……。
ワンダバーの入口には大きな木製の門が存在しており、テントが張られていた。
近寄ると、テントの中からちらっと覗く者がいる。
門番だ。
寒い国だと門番も大変だなあ。
彼らは億劫そうに外に出てくると、僕らを誰何(すいか)した。
「なにもんだー」
「アーランからはるばる遊びに来たんだ」
「アーランから!? 物好きな……。だが、今はワンダバーの夏だ。見るべきものは特に無いが、一番安全な季節だと言えるぜ。ようこそ、何も盗むもののない清貧なる王国ワンダバーへ」
招き入れられてしまった。
「いや、ナザル。俺たちは今、魔法によって全身をチェックされたぞ。それでろくな武器も魔法の道具持っていないと分かったから通してくれたんだ」
「なんだって!? 案外凄腕の魔法使いがいる国なのかもなあ……」
「魔法の腕だけならファイブスターズのトップだな。漁業の国であり、同時に魔法の国でもある……。なぜなら魚をよく食べるので、脳にいいDHCが豊富だからだ」
「えぇ……そういう理論なの……?」
「しらんけど……」
適当言ったな、シズマ!
ともかく、僕らは危険性なしと判断され、入国を許されたようだった。
後で聞いた話だが、ワンダバーは各国からの魔法使いの亡命を積極的に受け入れているということだった。
アーランやファイブスターを除く小国では、魔法使いそのものを国家転覆の力があるとして毛嫌いしているところも多い。
迫害されて逃げてくる魔法使いにとって、ワンダバーは聖地みたいなものなのだ。
魚食べ放題の聖地。
立ち並ぶ家並みは、木材を組み合わせて作られたログハウスみたいなものが多い。
そこに、土を盛ったり毛皮を貼ったりなどしているではないか。
「ワンダバーの建物は、夏は涼しく、冬は温かいんだ。一定の温度になるようになってるんだな」
「なるほどなあ……。さすがシズマは詳しい」
「まあな。だが、モンスター退治ができた前回と違い、今回はあれだ。この国の夏はとことん平和らしくて、事件らしい事件が起きないそうなんだ」
「なんだって」
「魚も大変よく穫れるので、人もモンスターもみんな魚を食うから」
な、なるほど~!!
納得してしまった。
では作戦会議をせねばなるまい。
僕らはワンダバーで宿を取ることにした。
こんな北の果ての王国に、客などあまりやって来ないらしく……。
宿を訪れたら無人だった。
小一時間ほど時間を潰していたら、外から宿の主人らしき人が鼻歌をうたいながら入ってきた。
僕らを見てギョッとする。
「うわーっ! 泥棒!!」
「客だよ客!!」
「えっ、客ぅ!? こんな夏に? 魚以外なにもない季節に客?」
なんといぶかしそうな顔をするのだ。
客が来ないことに慣れきっている!
「僕らはアーランからワンダバーを見に来たんだ。しばらく滞在するので大部屋を頼む……」
「しばらく!? へっへっへ、そいつを早く言ってくださいよ」
長居する客で儲かるぞと見た瞬間、宿の主人がへこへこし始めた。
うーん、分かりやすい。
彼は普段、漁に使う網の手入れなどをして暮らしているらしい。
なんなら網職人が本業で、宿は片手間なんだとか。
だが、土地が比較的潤沢にあるワンダバーなので、宿の建物だけは大きいものを作ったと。
平屋で大変広々している。
そしてこの国では、風呂ではなくサウナに入る。
「サウナかあ! 楽しみだなあ!」
「だろ? そして風呂上がりに、キンキンに冷えた水割りが出る……」
「なんだって!!」
この国のお酒は、薬草酒だ。
甘みのある薬草を発酵させて酒にしたもので、やや薬臭いが、慣れるとたまらないらしい。
これをしっかりと冷やしてから水割りにして飲むと、飛ぶ。
経験者シズマ曰くだ。
「あれ? あんた、冬にアイスデーモンを倒してくれた冒険者じゃないか!? 早く言ってくれよ……。あんたがいたならもっと歓迎したのに!」
おっと、シズマの顔見知りでもあった。
「ほいよ、ウェルカム干物。今、酒と……ちっちゃいのもいるのか、じゃあ茶を用意してあるから、こいつでも食いながらゆっくりしてくれ!」
こうして僕らは大部屋に通される。
十二畳はあるなかなか広い部屋で、床に敷かれた毛皮の上で寝るのだ。
これはいいなあ……。
ワンダバーでしか味わえない感じ。
そして部屋の片隅には長机が用意されており、これを運んできて適当なところに設置できるようになっている。
馬のポーターは馬小屋だ。
どうせ僕の金ではないので飼い葉代を弾んだら、宿の主人が喜んでとびきりいい葉っぱを馬に食べさせてくれるということだった。
あまり贅沢を覚えると、帰りにごねたりしないだろうな……?
「ああ。本当に夏に来て良かったなあ……」
しみじみ僕が呟く。
そう、ワンダバー到着なのである。
この大陸最北端にある都市国家。
「すずしーい」
「ぶるるー」
コゲタとポーターは毛が生えているからな。
寒さに強いのだ。
いや、コゲタはすすすっと移動して、ポーターのお腹辺りにぺたっとひっついた。
ちょっと寒いらしい。
厚着させてあげるかあ。
「コゲタに着させながらでいいから聞いてくれ。この国の主な産業は漁業だ。あとは地下で作物栽培が行われている」
「また地下か!」
「地上は寒いからだろうなあ。この間はワンダバーを流氷の化け物が襲っていたので、俺達でそいつを仕留めた。この見返りにニンニクをもらったってわけだ。だが、今回はそうは行くまい」
「行かないのか」
「そうだ。冷凍魔法はワンダバーにとって秘匿すべき最大の禁忌か何かだと思われるぞ。だって俺たちは滞在していた間、一度だって冷凍魔法の話を聞いていなかったんだからな」
ツーテイカーが喉から手が出るほど欲しがっているという冷凍魔法。
だが、あの盗賊国家みたいなところがその情報を入手できないでいる。
なるほど、これは難物そうだ……。
ワンダバーの入口には大きな木製の門が存在しており、テントが張られていた。
近寄ると、テントの中からちらっと覗く者がいる。
門番だ。
寒い国だと門番も大変だなあ。
彼らは億劫そうに外に出てくると、僕らを誰何(すいか)した。
「なにもんだー」
「アーランからはるばる遊びに来たんだ」
「アーランから!? 物好きな……。だが、今はワンダバーの夏だ。見るべきものは特に無いが、一番安全な季節だと言えるぜ。ようこそ、何も盗むもののない清貧なる王国ワンダバーへ」
招き入れられてしまった。
「いや、ナザル。俺たちは今、魔法によって全身をチェックされたぞ。それでろくな武器も魔法の道具持っていないと分かったから通してくれたんだ」
「なんだって!? 案外凄腕の魔法使いがいる国なのかもなあ……」
「魔法の腕だけならファイブスターズのトップだな。漁業の国であり、同時に魔法の国でもある……。なぜなら魚をよく食べるので、脳にいいDHCが豊富だからだ」
「えぇ……そういう理論なの……?」
「しらんけど……」
適当言ったな、シズマ!
ともかく、僕らは危険性なしと判断され、入国を許されたようだった。
後で聞いた話だが、ワンダバーは各国からの魔法使いの亡命を積極的に受け入れているということだった。
アーランやファイブスターを除く小国では、魔法使いそのものを国家転覆の力があるとして毛嫌いしているところも多い。
迫害されて逃げてくる魔法使いにとって、ワンダバーは聖地みたいなものなのだ。
魚食べ放題の聖地。
立ち並ぶ家並みは、木材を組み合わせて作られたログハウスみたいなものが多い。
そこに、土を盛ったり毛皮を貼ったりなどしているではないか。
「ワンダバーの建物は、夏は涼しく、冬は温かいんだ。一定の温度になるようになってるんだな」
「なるほどなあ……。さすがシズマは詳しい」
「まあな。だが、モンスター退治ができた前回と違い、今回はあれだ。この国の夏はとことん平和らしくて、事件らしい事件が起きないそうなんだ」
「なんだって」
「魚も大変よく穫れるので、人もモンスターもみんな魚を食うから」
な、なるほど~!!
納得してしまった。
では作戦会議をせねばなるまい。
僕らはワンダバーで宿を取ることにした。
こんな北の果ての王国に、客などあまりやって来ないらしく……。
宿を訪れたら無人だった。
小一時間ほど時間を潰していたら、外から宿の主人らしき人が鼻歌をうたいながら入ってきた。
僕らを見てギョッとする。
「うわーっ! 泥棒!!」
「客だよ客!!」
「えっ、客ぅ!? こんな夏に? 魚以外なにもない季節に客?」
なんといぶかしそうな顔をするのだ。
客が来ないことに慣れきっている!
「僕らはアーランからワンダバーを見に来たんだ。しばらく滞在するので大部屋を頼む……」
「しばらく!? へっへっへ、そいつを早く言ってくださいよ」
長居する客で儲かるぞと見た瞬間、宿の主人がへこへこし始めた。
うーん、分かりやすい。
彼は普段、漁に使う網の手入れなどをして暮らしているらしい。
なんなら網職人が本業で、宿は片手間なんだとか。
だが、土地が比較的潤沢にあるワンダバーなので、宿の建物だけは大きいものを作ったと。
平屋で大変広々している。
そしてこの国では、風呂ではなくサウナに入る。
「サウナかあ! 楽しみだなあ!」
「だろ? そして風呂上がりに、キンキンに冷えた水割りが出る……」
「なんだって!!」
この国のお酒は、薬草酒だ。
甘みのある薬草を発酵させて酒にしたもので、やや薬臭いが、慣れるとたまらないらしい。
これをしっかりと冷やしてから水割りにして飲むと、飛ぶ。
経験者シズマ曰くだ。
「あれ? あんた、冬にアイスデーモンを倒してくれた冒険者じゃないか!? 早く言ってくれよ……。あんたがいたならもっと歓迎したのに!」
おっと、シズマの顔見知りでもあった。
「ほいよ、ウェルカム干物。今、酒と……ちっちゃいのもいるのか、じゃあ茶を用意してあるから、こいつでも食いながらゆっくりしてくれ!」
こうして僕らは大部屋に通される。
十二畳はあるなかなか広い部屋で、床に敷かれた毛皮の上で寝るのだ。
これはいいなあ……。
ワンダバーでしか味わえない感じ。
そして部屋の片隅には長机が用意されており、これを運んできて適当なところに設置できるようになっている。
馬のポーターは馬小屋だ。
どうせ僕の金ではないので飼い葉代を弾んだら、宿の主人が喜んでとびきりいい葉っぱを馬に食べさせてくれるということだった。
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