俺は異世界の潤滑油!~油使いに転生した俺は、冒険者ギルドの人間関係だってヌルッヌルに改善しちゃいます~

あけちともあき

文字の大きさ
178 / 337
60・北の国へ

第178話 突入、魔法使いのバー

しおりを挟む
「こんにちはー」

「どうもどうもー」

 僕とシズマで挨拶をしながらバーに入っていく。
 ぼそぼそと談笑などが聞こえていたのがピタッと止まった。

 やや薄暗い店内は間接照明オンリー。
 大変に雰囲気がある。

 だが、もしかして僕らが雰囲気をぶち壊してしまったかな!?

 視線を感じる……。

「ここは魔法使い専門のバーだよ。観光客かい? 冷やかしなら帰ってくれ」

 バーのマスターはビシッとマスターっぽい格好を決めた紳士なのだが、彼が鋭い目で僕らを値踏みしている。
 なるほど、この場への参加は実力を見せる必要があるようだ。

「安心して下さい、魔法使いですよ……」

 僕が器に油をドロドローっと出すと、マスターが「ウワーッ、無詠唱で無から油を!!」と驚愕した。
 他の魔法使いたちも興味津々で集まってきて、「オー」「油を作る魔法」「ユニーク」とか口々に言っている。
 そして僕に向けられる視線がリスペクトを帯びたものになった。

 実力を見せつけておいてよかった。
 次はシズマだ。

「俺はあらゆるものを沈めることができる。例えばこのテーブルに、グラスを沈める……」

 シズマが指さしたグラスは、ずぶずぶとテーブルの中に沈み込んでいった。

「ウワーッ! テーブルがまるで液体のように!!」「オー」「物を沈める魔法」「ユニーク」

 ということでシズマも受け入れられた。
 実力が全てなんだな。
 しばらく魔法使いたちに囲まれて、インタビューされた。

「実は僕らはギフト持ちで」

「どういう原理で発動しているかはわからないが、これを活用して冒険者として活動しているんだ」

「なるほどー。ギフトも広義の魔法。受け入れましょう。何を飲みます?」

 さてどうしよう。

「うちの小さいのが、お酒臭くなると嫌がるのでノンアルで」

「お子さんがいらっしゃいましたか。では海藻フレーバーに柑橘類を加えたもの……。海神のランデヴーです」

「オシャレなのでてきたなあ。うおっ、昆布の香りとコクがあるのに後味がサッパリしたレモンだ! こりゃあ美味い」

「俺は地元の酒をくれ。蒸留酒を薄めたやつだったよな? 炭酸水があればハイボールになるのになあ……」

 おつまみは、小魚の干物とかナッツ類。
 ちゃんとした食べ物は出ないのね。

 えっ、このナッツ、魔力を回復させる効果があるの!?
 あー、魔力の味がする~。

「おいナザル! 新しい味覚を堪能してる場合じゃないぞ! 本来の目的! 目的!」

「あ、そうだった! 魔法使いの方、ちょっと聞いてもいいですか?」

「なんだい?」

 ほどよく酔った客の魔法使いが、トロンとした目で僕を見てきた。

「冷凍魔法をマスターしたいんだが、どこに行ったら覚えられる?」

「冷凍魔法……!?」

 魔法使いは酔いが醒めたようだった。

「ナザル、あまりにも直接的では?」

「僕はこっち方面の搦め手は全く分からなくてな。それでどうなんだ」

「冷凍……冷凍魔法……!!」

 魔法使いがわなわな震えだした。

「ナザル、ヤバい予感がするぞ」

「僕もしてきた」

 ちょっと腰を浮かせる僕とシズマ。
 魔法使いはついにガクガク震えだし……。

「飲み過ぎですよ」

 とマスターから水を差し出された。

「す、すまない」

 魔法使い、水をガブガブ飲んだ。

「驚かせてしまったな。私は酔いが回ると震えが止まらなくなるんだ」

 なんて紛らわしい。

「それで、冷凍魔法か。そんなありふれたものを何に使うと言うんだ? そもそも夏でも地下は冷涼なこの国で、冷凍魔法など何の役にも立つまい」

「国外で役立つんですよ」

「ほーん」

 全然興味なさそうだ。
 だが、もっと驚くべきことは、このワンダバーにおいて冷凍魔法はかなり無価値寄りの魔法だったということである。
 多くの魔法使いを抱え込み、最北端にある都市国家ということで、周囲が特別視し過ぎていたのかも知れない。

「多分、魔導書がどこかにあると思うんだが、あまりにも使えない魔法なんで書庫のどこかに埋もれている……」

「そんなー」

 探すことになりそうだ!
 絶対にめんどくさいぞ。

「明日、それじゃあ探しに伺っても」

「いいよ。私が話を通しておいてやる。面白いギフトの使い手が二人来たって言えば、魔法使いたちが野次馬に集まってくるだろうし」

 見世物になるのか!
 いや、だが見せて減るものでもないし。

 では冷凍魔法を手に入れるため、書庫を探させてもらう約束をし、僕らは帰ることにした。

「恐ろしくトントン拍子に話が進んだな……。だが考えてみれば当たり前かもなあ。寒い国で冷凍魔法なんか役にたたないもんな」

「冬になれば自動的に冷凍されるもんな……」

 ツーテイカーのベンクマンが特別視していた冷凍魔法とは、実際は冷遇されている魔法だったのだ。

「よし、じゃあどうする? モツ煮食べて帰るか?」

「コゲタを連れてこよう。そろそろ目が醒めてお腹をすかせてる頃だろうし」

「ナザルは本当にあのコボルドの親父みたいだなあ」

 シズマが呆れ半分で笑った。
 こうして宿に戻った僕らは、目覚めていたコゲタを連れて再び飲み屋街に繰り出した。

 モツ煮は優しいお味で、コゲタも大満足。

「コゲタこれすき! おいしー!」

「うんうん。たんと食えよ。あ、僕のは調味料ちょっと多めに入れてもらって……」

 こうしてワンダバー初日の夜は更けていくのだった。





しおりを挟む
感想 77

あなたにおすすめの小説

素材ガチャで【合成マスター】スキルを獲得したので、世界最強の探索者を目指します。

名無し
ファンタジー
学園『ホライズン』でいじめられっ子の生徒、G級探索者の白石優也。いつものように不良たちに虐げられていたが、勇気を出してやり返すことに成功する。その勢いで、近隣に出没したモンスター討伐に立候補した優也。その選択が彼の運命を大きく変えていくことになるのであった。

異世界転生、防御特化能力で彼女たちを英雄にしようと思ったが、そんな彼女たちには俺が英雄のようだ。

Mです。
ファンタジー
異世界学園バトル。 現世で惨めなサラリーマンをしていた…… そんな会社からの帰り道、「転生屋」という見慣れない怪しげな店を見つける。 その転生屋で新たな世界で生きる為の能力を受け取る。 それを自由イメージして良いと言われた為、せめて、新しい世界では苦しまないようにと防御に突出した能力をイメージする。 目を覚ますと見知らぬ世界に居て……学生くらいの年齢に若返っていて…… 現実か夢かわからなくて……そんな世界で出会うヒロイン達に…… 特殊な能力が当然のように存在するその世界で…… 自分の存在も、手に入れた能力も……異世界に来たって俺の人生はそんなもん。 俺は俺の出来ること…… 彼女たちを守り……そして俺はその能力を駆使して彼女たちを英雄にする。 だけど、そんな彼女たちにとっては俺が英雄のようだ……。 ※※多少意識はしていますが、主人公最強で無双はなく、普通に苦戦します……流行ではないのは承知ですが、登場人物の個性を持たせるためそのキャラの物語(エピソード)や回想のような場面が多いです……後一応理由はありますが、主人公の年上に対する態度がなってません……、後、私(さくしゃ)の変な癖で「……」が凄く多いです。その変ご了承の上で楽しんで頂けると……Mです。の本望です(どうでもいいですよね…)※※ ※※楽しかった……続きが気になると思って頂けた場合、お気に入り登録……このエピソード好みだなとか思ったらコメントを貰えたりすると軽い絶頂を覚えるくらいには喜びます……メンタル弱めなので、誹謗中傷てきなものには怯えていますが、気軽に頂けると嬉しいです。※※

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

異世界帰りの俺、現代日本にダンジョンが出現したので異世界経験を売ったり配信してみます

内田ヨシキ
ファンタジー
「あの魔物の倒し方なら、30万円で売るよ!」  ――これは、現代日本にダンジョンが出現して間もない頃の物語。  カクヨムにて先行連載中です! (https://kakuyomu.jp/works/16818023211703153243)  異世界で名を馳せた英雄「一条 拓斗(いちじょう たくと)」は、現代日本に帰還したはいいが、異世界で鍛えた魔力も身体能力も失われていた。  残ったのは魔物退治の経験や、魔法に関する知識、異世界言語能力など現代日本で役に立たないものばかり。  一般人として生活するようになった拓斗だったが、持てる能力を一切活かせない日々は苦痛だった。  そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。  そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。  異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。  やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。  さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。  そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。

最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~

津ヶ谷
ファンタジー
 綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。 ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。  目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。 その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。  その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。  そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。  これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

処理中です...